められていた僕はクラスごと転移した異世界で最強の能力を手にれたので復讐することにした》79・お任せください

溫かい……

それはまるで雲の上にでも寢ているようだった。

沈むようなが背中に伝わり、日の中を溫かく包み込む。

そんな覚が、倦怠が殘るを癒していた。

――――る――。

聲がした。

――――おる―――――。

耳に馴染む聲がした。

「――おる――――かおる……薫……目、覚めた?」

「ちぃ……ちゃん?」

薫の手をの繊手が握りしめる。

黒目勝ちな瞳を涙眼へと変えて、まだ意識が朧げな薫に呼びかけた。

「薫……もう、心配したんだから」

馴染は優しく薫を抱きしめた。

そんな彼を見た薫は心配かけちゃったなと自責の念にかられた。

「ごめんちーちゃん。それで、ここはどこ?」

薫は今、純白のベッドにを包んでいる。

窓からは気持ちよい風が頬をでて髪を揺らした。

「病院です。カオル様は失で倒れたから急いで運んだんですよ」

馴染が座る反対側。

鈴を転がすような聲がした。

でるその聲に反応した薫は、その聲の主を見た。

窓から吹き抜ける風に桃の髪が揺らされて、優しい微笑を浮かべる婉転の

「姫様……そうですか。僕は倒れたんですね……」

「そうですよ。傷は恵で塞いでいますがを流しすぎたようで。昨日はそれから一向に目が覚める様子が無かったので、わたくしも心配しておりました」

「それはご心配をおかけしました。じゃあもう一日中僕は寢てたんですね……一日中……一日中ッ!?」

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薫は勢いよく起き上がり、クラリスの顔を見た。

そんな薫に茅原も立ち上がって薫のを支えて聲を上げた。

「ちょっと薫。傷は塞がってると言ってもまだ無茶はダメ。安靜にしてて」

「ごめんちーちゃん。それより、一日中ってことは今建國祭の最中では? どうして姫様がここに?」

「ぁあ……抜け出してきました☆」

テヘペロと言わんばかりの表に、流石の薫も苦笑いが零れた。

「姫様って結構お転婆ですよね」

「そうですか? ですが、わたくしが國民の皆様に挨拶するのは晝時ですので、多抜け出しても問題ありません。それにわたくしのせいでカオル様はお怪我をなさったのに、顔も出さずに祝典になど參加できません――ぁッ」

微笑から一変、驚いた表を浮かべたと思った途端、り口から見えないようにベッドを盾に隠れた。

の行に首を傾げた薫だが、その理由はすぐに判明した。

「失禮させていただきます。ああ、カオル様お目覚めだったんですね」

ドアを勢いよく開いたのは、銀髪を揺らした王宮廷メイド長メリィだ。

は目を覚ました薫に一禮し、病室を見渡した。

「あの……何か?」

茅原がメリィに聞いてみると、彼はコホンと咳払いをして自分を落ち著けると、いつもの落ち著いたメイド長に戻った。

「お見苦しい所をお見せしました。ところで姫を見ませんでしたか。宮廷でパーティーが行われていたのですが、姫の姿は何処にも見當たりませんでしたので、ここに來ているのではないかと……」

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メリィの話を聞いて、薫は隠れているクラアリスに言いたげな目を向けた。

は口元に人差し指を當てて、片目を閉じた。

その姿はお嬢様というよりは、茶目っ気溢れる子供のようで。

「ぁぁ~……見てませんね。ね、ちーちゃん」

「う、うん。お役に立てなくてすいません」

「いえ、こちらこそ靜養中に失禮致しました。それではカオル様、姫がこちらにいらしましたらパーティーに戻るようお伝えください」

「あ、分かりました」

「あと、勝手に抜け出した罰としてメリィ式刑罰第三十二番を執行しますともお伝えください」

「め、メリィ式刑ば、何て言いました?」

「それでは失禮します」

メリィは一禮すると、その場に數秒の靜寂が訪れた。

薫はメリィが遠くに行ったことを耳を立てて確認すると、

「行ったようですよ姫様……姫様?」

そこには頭を抱えて震える子リスのような姫の姿があった。

「あわわわわわわっ、どど、どうしましょう。今から戻って最初から居たように裝う? ですが、流石にメリィの眼を欺くことは無理ですし…………」

どうやらメリィ式刑罰に相當のトラウマを抱えているようで。

メリィ式刑罰がどんなものか気になるというを隠して同の眼差しを向けた薫。

そして、今だ手を握ってくれている茅原に視線を向けると、

「ちーちゃん。僕は大丈夫だから、皆と合流してきなよ。皆祭り行ってるんでしょ?」

「あ、うん。けど……」

茅原はクラリスを一瞥した。

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その顔は何やら不安気なものを覗かせていて、

「姫様なら大丈夫。こう見えてしっかりしてるし、僕もちょっと姫様と話したいことがあるからさ」

「いやそうじゃなくて……分かった、もういい。ちゃんと安靜にしてること。いい?」

し不機嫌になったように思えるが、彼はすぐさま薫に注意をして部屋を出ていった。

扉が閉まると、すぐにまたしだけ開き、茅原が顔を覗かせて、

「二人きりだからって鼻の下ばしたり、襲っちゃダメだからね」

「襲わないよ!?」

冗談とはいえいらぬ心配をしてくる茅原にツッコミで見送って、扉が閉じられたのを確認すると、頭を抱えるクラリスを見た。

「そういえば建國祭は無事に行われてるんですか? 東區は敵の攻撃で一部壊滅狀態じゃ……」

薫が聞くと彼は現実逃避するように食い気味に答えた。

「そのことなら問題ありません。帝國中の魔導士達が協力してくれたおかげで、ほぼ復興完了しております。流石に家などの裝は再現できませんので、そこは國から手當も支給しております。まぁ反が全く無いと言えば噓になりますが……」

ゲルムの天恵によって一部の東區が消し飛んだ。

ただ、その破壊力に殘骸すら殘らず、まさしく消滅した為、魔導士の恵で元の街並みを再現するのに時間はかからなかったそうだ。

勿論、半日で復興するにはかなりの人數を必要とし、その上に住民にある程度の手當てをするとなれば、帝國も経済的にかなりの損害が出ただろう。

だが、歴史ある祭典の為に今回は多くの人が協力した。

祭りが終わった後にいろいろ言ってくる人が出てきそうで怖いものだが、時間で出來ることはやっている。

後々の事は徐々に問題解決していくだろう。

「姫様……しお話よろしいですか?」

「ええ、それは構いませんがどうしたんです? そんな改まって」

クラリスに向けた薫の眼は、とても真剣な眼差しとなっていて。

「僕は昔から人に頼られることが多かったんです。皆、僕を頼って來てくれる。それが僕は嬉しかった。でも同時に辛かったんです」

「辛……かった……」

「皆、僕を頼ってはくれるけど、僕は皆が思うほど凄い人間じゃない。失敗もするし躓くこともある」

「それはそうですよ。カオル様も人間ですから」

どんな人間でも失敗はする。それはどんな功者や偉業をし遂げた人、世間を騒がすような天才ですらも適応される事実だ。

だが、経験や実績が積み上がれば上がる程その事実は人間の中で薄れてくる。

「周りが見ている僕は失敗しない僕だ。期待されて、期待通りの結果を殘す。口で言うのは簡単だけどそれを実行するのは大変だった」

逢沢薫は失敗しない。文武両道、才兼備。サッカー部のエースで先輩後輩からの信頼も厚く、何事もそつなくこなす完璧超人。

そのブランドを作り上げたのは紛れもない薫自だ。

そして、そのブランドを信頼して薫に何かを頼めば、薫はその期待に完璧に答え、逢沢薫に任せれば大丈夫だ。問題ない。そういった期待が募っていく。

それが薫は辛かった。

周りが知っている逢沢薫は完璧でなければならない。自分はそんなに凄い存在ではないのに、周りの評価だけが上がっていく。

「失敗したらどうしよう。期待に応えられなかったらどうしよう。そんな不安が常に付きまとう毎日。失敗したら周りは僕に失する。みんなが見ている僕はそんな存在でそれ以外は求めていない。それが僕にとっては辛かった」

「だからあの時……」

「はい……姫様が知っているのはそんな僕なんです。だから、簡単に姫様の手を取ることが出來ませんでした」

「でした?」

俯いた薫の暗かった表が、し明るく笑みを刻む。

何かに救われたようなそんな笑みが。

「僕の抱えていたもの。それは杞憂だったみたいです。僕が落ち込んで弱気になった姿を見せた時、ちーちゃんは言ったんです。嬉しいって。力になりたいって。……そう言ってくれたんですよ。その言葉に僕は救われたんです」

薫は一人ではない。失敗してもいい。そう知れた瞬間、薫の抱えていたものは無くなった。

その時、薫の考えは変わったのだ。

期待されている自分を崩さないようにするのではない。みんなが期待する薫、そんな存在に近づけるように努力したいと。

だから……

「こんな見っとも無い姿で申し訳ありません――――」

薫はベッドから出た。

重力をじ、き通る風が涼しくじる。

心臓が高鳴る。張している。だが、自然とは楽だった。

心配そうに見つめるクラリス。そんな彼の前に薫は片膝をついた。

それは忠誠を誓う騎士のようで。

「僕は覚悟を決めました。まだウィリアムに比べれば惰弱で頼りない僕ですが、姫様が選んでくださるのなら、僕は姫様の剣となり盾となります。だから……」

薫は片手をに當て、クラリスにもう片方の手を差し出す。

「もし、姫様の騎士がまだ決まっていないのなら、あの時取れなかった手を、今度はこちらから取らしてください」

斷られたのなら仕方がない。

そう思う薫に、クラリスは笑顔で返した。

「……フフッ、これからご迷をかけますが、わたくしの騎士として、よろしくお願いしますね――――カオル」

あの時取れなかった手を、薫は取ることが出來た。

繊細で綺麗な手がれた時、薫の覚悟は言葉となった。

「お任せください――――姫様」

すると、彼は薫の耳に囁く様に、

「公共の場以外では、クラリスと呼んで下さい」

「いやしかし……」

「敬語も止です。わたくしの騎士ならば壁を作ることは許しません」

こうなると強だろう。

何故か薫はそれが理解出來た。

だから薫は溜息を零しながらも了承した。

「分かったよ。これからよろしく――――クラリス」

「はい、カオル」

クラリスは満足そうに笑った。

そんな彼の笑顔に薫も笑みが零れる。

――――この笑顔を守る為、僕はもっと強くなる。

そう心に決めて。

「そうと決まれば急いで準備しましょう」

「……準備?」

「はい。カオルが良ければわたくしは今日にでも皆様に公表するつもりだったのです。あ、勿論疲れるようなことはさせませんよ。十五分程で終わりますので」

「じゃぁすぐに準備しないと。張するなぁ」

建國祭で、クラリスは薫の専屬騎士の就任式を執り行った。

多くの人がカオルを祝い、歓迎した。

今耳に聞こえる聲の數では足りない。

もっと多くの人が薫に期待している。

今までなら、この狀況に耐えられなかったのに。

今の薫には自信と安心が込み上げていた。

「――以上を十二の誓約とし、我、汝をクラリス皇の騎士に任命する。帝國の未來の為、クラリスの剣として支えてくれ」

グレゴワールの言葉に、薫は力強く答えた。

「――――承りました。逢沢薫、この命に代えてもその任、全うさせて頂きます」

歓喜が空に響く建國祭。

この日、薫はクラリスの剣騎士となった。

********************

帝國のお祭り騒ぎは何処へ行っても変わらない。

普段は落ち著きのある路地でも、今日ばかりは人聲が喧騒している。

「お、らっしゃい。一人かい?」

とある酒場。

客の來店に反応して、店主の活気溢れる聲が飛ぶ。

「待ち合わせだ。このぐらいの白髪のガキが先に來ていないか?」

客の男は活気などじない冷たい掠れ聲。

客の男は手で長を現すと、店主はその待ち人がいる席を手で示した。

「あぁ、その嬢ちゃんそこで座ってるぜ」

客の男が店主の指し示す場所を確認した。

兎の人形を抱え、ジュースを飲むが座っている。

一見すれば微笑ましい景だが、兎の人形といい、といい、服や髪が傷んでいるのは、どこか悲壯な景がじられて。

「よう、待たせたな」

「コホッ、遅い。あとガキは心外」

「悪かったな」

「悪いと思うならコホッ、ココ奢りね」

「あぁ」

客の男は席に著く。

店主が注文を確認しに行くが、男は水で良いと簡単に答え、帝國中が祭りで騒いでいるのに、この淡白な対応に首を傾げるが、店主は何も聞かず水を出す。

「それで、果はどうだ、水兎みと」

男に訊かれ、白髪の――水兎はジュースのったコップを置いた。

「コホコホッ、まず、騎士団団長ウィリアム。コホッ、彼は恵抜きでも最強……はぁ、神を抜いた途端、コホッ、別人のように人格が変わって、コホッ強くなる」

「どれくらいだ?」

「私の能力で、コホコホッ、限界までリミッターを外した男が、コホッはぁはぁ、全く相手にならなかった……」

「『ラピスラズリ』のリーダー……それも水兎の力で能力を底上げしたも関わらず相手にならないとはな。予想以上の強さだ……。逢沢薫はどうだ?」

「彼は…………多分ダメ」

「やはりか……」

「戦闘における頭のキレ、コホッ、高い能力に與えられた素質と天恵ッコホ……強さに関しては仲間にするには申し分ない能力値、はぁはぁ、でもそれ以前に…………彼はこの世界を見捨てない」

「この世界の意味を知ってもか?」

「うん。逢沢薫は見捨てない。コホコホッ、たとえここが、はぁはぁ、作られた偽の世界でも」

はコップを傾ける。

さっぱりとした果の味を口の中に染み渡らせた。

男は水兎の話を聞くと、すぐさま立ち上がり、

「なら他を當たろう。まだ候補は三人いる」

「三人? コホッ、私が聞いてるのは二人だったはずッコホ」

男は懐からニ枚の髪を取り出した。

筆寫師によって寫真並みに巧な絵。

一枚は黒髪の男。優しそうな眼には、悲痛なが籠っている。

もう一枚は白髪の男。緋の眼には悍ましい何かが宿っている。

「桜木優希……今はジークと名を偽って生活している」

「コホッ、でもなんで彼が候補に?」

「こいつは契約者だ。人格が破綻し、この世界に何の執著も持っていない。元々の能力値は低いが仲間になる可能は高い。あとは、こいつについている神さえ何とか出來れば相當な戦力になる」

「コホコホッ、今から會いに行くの?」

「あぁ。こいつは今アクアリウムにいるという報がっている。今から行けば接できるだろう。それに、こいつについている神も気になるしな」

男の発言に、水兎は首を傾げた。

「気になる? 他の神と何か違うの?」

「我々の諜報部隊に一切の報がない神だ。今まで聖域で過ごしていた可能があるが、何故このタイミングで桜木優希に目を付けたのか気になる。だから、その神にも會ってみるつもりだ」

「コホッ、危なくない?」

「問題ない。アルカトラ住人駒も連れていく。ではもう行く」

男は水を飲み切ると、出口の方へを向けるが、首だけは水兎を見て、

「あと、力は使いすぎるなよ。お前の権限・・は強力だが反が大きい。使いすぎればその死ぬぞ」

「コホコホッ、言われなくても分かってる」

「ならいい」

水兎が反抗期の子供のような眼を男に向け、男はし笑みを零した。

男は出口へを足を進めた時、後ろから水兎が聲をかけ、男は足を止めた。

なんだと思いながら振り返ると、

「勘定していってよね。コホッ、私お金持ってないから」

「ぁ、ああ…………」

こんな時だけ子供らしさを発揮する水兎に、男は複雑なを抱きながら金銭を置いた。

しお替りできるくらいのお金を。

「ありがと」

男は店から出ていった。

客の聲が喧騒としている中、彼はジュースを飲み切って、

「気を付けてね――――総悟」

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