/***** ピム Side *****/

巖山の麓で一晩過ごした。

ブルーフォレストの奧地だ。イサークが目指していた山だが、近づいて、その切り立った山を目の當たりにすると、ヒルマウンテンだと認識できた。ミュルダから見える山が目の前にある。ミュルダから見える山は切り立った崖の様になっていて、サラトガやアンクラムから見える山は、木々が生い茂る普通の高い山に見えるのだ。

僕ら、ミュルダで生まれ育った者たちに取ったら、ヒルマウンテンは、”悪いことしたら、ヒルマウンテンに捨てるからな”と言われて育ってきた。恐怖の対象になってしまっている。イサークやナーシャは、アンクラム側のブルーフォレストの部族だから、ヒルマウンテンに恐怖心は無いのだろう。

どれだけ離れているのかわからないくらい離れているのに、頂上を見る事ができない山。それが、ヒルマウンテンなのだ。

ヒルマウンテンを眺めていると、後ろから聲をかけられた

「冒険者の方でしょうか？」

え？いつの間に、人の気配などなかったはずなのに・・・。

「あっはい」

「わたくしは、スーンといいます。大主の所にご案いたします」

執事風の服を著ているが、人には見えない。違うな、人だと思いたくないが正解だな。

「大丈夫です。貴殿に”危害を加えないよう”と申し使っております」

「それはそれは・・・お願いします」

簡単に言えば、僕程度ならどうとでもなるといいたいのだろう。確かに、逃げる事もできないだろう。殺意を向けた瞬間に、ヴァルハラに旅立つ事になるのだろう。

「ありがとうございます。それで、々急な道を行きますが、足元にご注意ください」

確かに、巖に作った道なのだろう、急な作りになっているが、手すりが著いていたり、階段狀になった部分に切り込みがっていて、らない。ちょっとした工夫だが、ここの主がいろいろ考えているのがわかる。

１時間くらい巖を上った所で、休憩所が用意されていた。日差しが強い時でも困らないように、巖の凹みを利用しているのだろうか、日ができている。その上、巖から冷たい水が流れ出ている。

水を見ていると

「どうぞ？湧き水は綺麗です」

そう言われて、渡されたで染み出している水をけ止めて、口にれる。

確かに、普通にうまい水だ。の渇きを癒やしてくれる。

それから、２度ほどの休憩を挾んで、巖山の頂上に出た。

”はぁぁぁぁぁぁぁ”聲にならないびを上げてしまっても、誰も怒らないだろう。

「ようこそ、五稜郭へ」

僕を案した執事が一番まえで領主たちがするような禮をする。

五稜郭と言っていたが、川なのだろうか？水が流れている所に、橋がかかっている。橋の向こうが、住処なのだろう。その橋までの道は、石畳になっている両脇に、執事風の裝をしたとメイド服を著たが一列に並んで頭を下げている。

石畳を歩いて、橋を渡る。く強度もありそうだ。それを、紐？縄でささえているのか？

僕が、橋を渡りきって、執事とメイドも全員橋を渡りきった所で、両端にいた木がいた。エント？か・・・。両方のエントが、何かを巻き上げるような仕草をしていると、驚いた事に橋が、川にかかっていた橋が上がってきた。

あっそうか、壁の一部になるのか？壁の前に、１０ｍ程度の川が流れていて、そこを渡れる唯一の橋が可式で、壁の高さは、川幅に合わせて、１０ｍ以上多分、１２ｍくらいなのだろう。壁の中にも異様な景が広がっていた。

本當に、ここはブルーフォレストの奧地で、ヒルマウンテンの麓なのか？

畑らしきまである。畑だよな？綺麗に並んで植えられている。何か、山の様になった部分の頂上から生えている。

それだけではない。絶対に、栽培が不可能だと言われていた、アプルやピチの木だけじゃなくて、レモナやグレプまである。僕が知らない多分果だろうまである。そうか、エント・・・エントが育てているのか？でも、どうやって？フォレストビーナが、そんな木々の間を忙しそうに行き來している。

噂では、ブルーフォレストのビーナが作るはちみつがあり、とてつもなく高値が付いている言われている。冒険者が、一発逆転を夢見て挑むが、取ってきた者など居ない。廃棄された巣や、ブルーベアに襲われた巣を見つけて、偶然手した者が大量のスキルを得たと聞いた事がある。

他にも、僕は見たことがないがここには溢れている。

水路の中にある、丸く水の流れで回っているは何をしているのかわからない。

五稜郭と言っていたのは、この場所の名前のようだ。

中央にある。屋敷で待っているようだ。

”ようだ”というのは、僕は、主の屋敷がある場所からし離れた場所に案された。１０人くらいは同時に座れそうなソファーがあり、石で作られたテーブルが置かれていた。僕を案した、スーン殿が言うには、控えの部屋と呼んでいた。ここで、大主の準備ができるまで、し待っていてほしいと言われた。待っている間に、出された飲みは、黒くてびっくりしたが、不思議と嫌な匂いがしなかった。

し苦味や酸味があり、思った以上に香ばしくて味しい。砂糖（こんな真っ白なが砂糖であるはずがない）をれると味しくなると言われて、しだけれてみた。他にも、スーン殿は牛（白い草原やダンジョンの草原フィールドに居る”カウ”のを絞ったに似ている）を、れるとまろやかになると言われた。本當に、甘みが出て、まろやかになった。こんなを飲んでいるとバレたら、イサークは別にして、ナーシャには殺されるかもしれない。土産にもらえないかな？

こんな立派なを飲んでいる人の前に出るにはし汗の匂いが気になるのかと思っていたら、スーン殿が、”もしよろしければ、お風呂があるのでお使いください。著替えも用意いたします。”と、言ってくれた。お風呂と言えば、熱気が充満している部屋にって汗をかいてから、水で一気に流すだ。僕はあまり好きではなかったが、確かに汗臭さをなくすにはいいかもしれない。好意に甘えることにした。

執事服を著たに案された場所は、拠點にしている場所の近くにできた、暖かい水が出ているような場所だ。

作りは全く違うが、木で作られた枠に、暖かい水が流れ込んでいる。高い所から、常時流れ出ているようだ。僕が知っているお風呂は息苦しくなって、５分もれば十分だが、ここは息苦しくない。それどころか、暖かい水に浸かる気持ちよさが勝ってしまう。る前に、渡されたタオルでをこすってくださいと言われたので、やってみた。

僕のから、ボロボロと何かがこぼれている。汚れ？なのか・・・。これ？

しばらくやっていると、が白くなっていくのがわかる。る前に言われた、白い四角が置いてあるから、それをタオルにこすりつけてから、暖かい水をしかけてからをこするようにも言われた。

なにこれ？泡？え？すごく気持ちいい。

最初は、泡がすぐに無くなってしまっていたが、なんどかやっていると、全を泡で覆えるようになってくる。なんだかいい匂いがする。

確か、中が泡で包まれたら、頭から暖かいお湯を何度か被って、泡を洗い流すとか言っていたな。

泡が流されて出てきたを見て、更にびっくりした。え？なにこれ？産まれたばかりの赤ちゃんの様なになっている。どんなスキルを使ったらこんなじになるのだろう？

もう一度、暖かいお湯に使ってから、お風呂を出た。

いだ服を探していると、メモが殘されていた。”服は洗濯しているので、代わりのを用意しました。申し訳ありません”と、書かれていた。

僕がいだ場所には、僕が著ていたのに似ているが、材質が違うが置かれていた。下著も全部一式用意してあって、全部どうみても、新品だ。手りから、魔の布だろうことはわかるが聞くのが怖いじがする。多分、聞かないほうが神衛生上いいのかもしれない。

著るものがそれしかないので、恐る恐る袖を通すが、びっくりするくらい僕のにフィットする。軽い。そして、暖かいのに、風通しがいい。レベル６が數枚必要になるくらいのなのかもしれない。

お風呂場を出ると、今度はメイド服のが待っていてくれて、個室に案された。大主がもうすぐ用意できると思うので、待っていてしいと言われた。その間、の渇きを潤してしいと、飲みを持ってきてくれた。

一口飲んで驚いた。アプルの味がした。アプルのを集めた飲み？そんな事をする人が居るとは思えない。でも、そうとしか思えない、冷えた飲みを一気に飲んでしまった。空になったを見ていたら、メイドさんがもう一杯飲みを持ってきてくれた。

「ありがとう。よかったら教えてほしいのだけど、これはアプルなのですか？」

「そうです。カズト様が、お客人がお風呂にった後で、が乾くだろうから、アプルを絞ってお持ちいたしました」

やはり、アプルのだったのか・・・これだけのをだけにするのに、どのくらいのアプルが必要なのだろう？

「あっ高価なをありがとうございます。冷たいのは、どこかで冷やされているのですか？」

「いえ、大丈夫でございます。五稜郭になっているですから、ご遠慮なさらないでください。冷たいのは、スキルを使っております」

え？スキル？冷やすスキル？僕は、なくても知らない。レベル５氷弾とかなら冷たいけど・・・。どうやって？

「あっそうだ。カズト様が、ここの主様のお名前なのですか？」

「そうでございました。申し訳ありません。々お待ち下さい」

メイドさんが慌てて部屋から出ていって、案してくれた執事のスーン殿が戻ってきた。

「失禮致しました。我らの大主は、カズト・ツクモといいます。客人様のお名前もお聞きしませんと、大変申し訳ありません」

「いえ、こちらこそ、圧倒されて、一番大事な事を失念しておりました。申し訳ありません。私は、ミュルダ所屬のピムといいます」

「ピム様ですね。我が大主のカズトの準備ができまして、”ログハウス”にて待っております」

「あっありがとうございます。案お願いいたします」

「かしこまりました」

スーン殿は一禮してから、扉を空けた。

控えの館から出て、”ログハウス”と呼ばれていた、館までは石畳を移する様だ。新しく用意された服を、のの下で見て唖然とした。これ、フォレストスパイダー・・・いや、もしかしたら、デススパイダーの糸で作られて服？レベル６じゃない。レベル８でも・・・それも上下？下著まで？駄目だ、考えては駄目だ。

よく見ると、執事やメイドが著ている服も全部同じものだ。

もう何も考えない。殺される事は無いだろうけど、僕は帰られないかもしれない。

周りの狀況を観察する余裕もなく、”ログハウス”の中にった。

領主の屋敷よりも、作りがしっかりしているように思える。殘念な事に、僕は建には詳しくない。ガーラント辺りが居れば違ったかもしれない。壁に飾っている花や置もなんだか高そうな印象を持つ。

扉を開けてった場所はし地面からし上がっていた。

スーン殿に、ここで靴をいで、履き替えてしいと言われた。もしかしたら、靴に暗を仕込んだ暗殺者を警戒しているのかもしれないが、言われた通りにする。武は取り上げられなかった。かかとがない、し変わったに履き替えて、スーンを先頭にして、廊下を進む。

大きな扉の前でスーン殿が止まった。

スーン殿が、扉の奧に聞かせるように

「ミュルダ所屬のピム様がお越しになられました」

しばらくすると、いと言ってもいいような聲で

「って頂いてくれ」

はっきりと聲が聞こえた。

これで、ここの主は、レヴィラン語が話せる者である事が確定した。

今までの報では読み書きはできるだろうとは思っていたが、スーン殿が出てきて、代筆である可能があった。しかし、今の聲が主人だとしたら、主人と會話ができる事を意味する。

一つの懸案事項が消えた。あとは、主の人となりが解れば、そして、俺たちをどうしたいのか・・・それだけ解ればいい。