《スキルイータ》第五十九話
/*** カスパル=アラリコ・ミュルダ・メーリヒ Side ***/
息子エンリコが、ツクモ殿を襲撃してから、一ヶ月が経過した。
昨日、ビックスロープに向かっていた、流隊が帰ってきた。何やら興していた。
今回は、流というよりも、視察の意味合いが強いのは、誰もが解っていた事だ。ツクモ殿を通して、先方にも伝わっているのだろう。視察は功した。予定よりも、帰ってくるのが遅かったのが気になったので、長老衆を通して聞いてみた。
思っていた以上に、大きな街になっているという。
行政區として、中央に施設がまとめられていて、壁と堀で囲まれていて、その周りに、商売ができるような建の建築が始まっている。そして、門は全部で三ヶ所あり、ミュルダ方面、アンクラム方面、サラトガ方面となっている。ブルーフォレスト側にも門が有るようだが、こちらは視察できなかったらしい。森の中にり込む形の場所があり、その場所が、ブルーフォレストからの口になっている。
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流という名前の取引が正式に決まった。
儂も、荷をまとめて、ビックスロープ商業街に移する事になる。
二人の孫と一緒だ。儂と一緒に移するのは、孫だけではない。護衛でノービスを雇うことになっている。冒険者見習いの分で、ツクモ殿も一緒に向かう事になっている。最初は、竜族が迎えに來る事になっていたのだが、ツクモ殿が、どのくらい時間がかかるのかをするために、馬車での移になった。
街が作られた場所は、ミュルダのサイレントヒル側から出て、ヒルマウンテンの頂上を目指して一直線に移すれば到著できるようだ。ツクモ殿の計畫では、わかりやすい道標を作ることになっている。
「クリス。準備はできたのか?」
「はい。お祖父様。僕の準備はできました。リーリアお姉ちゃんが全部持っていってくれます」
「そっそうか?アーモスはどうしている?」
「え?知りません。僕は、リーリアお姉ちゃんとカイお兄ちゃんとウミお姉ちゃんと、すぐに使いそうなを分けていました。イサークさんやピムさんが、アーモスの様子を見てくれていると思いますよ」
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クリスは、完全に割り切っているように思える。違うな、父親を切り捨てたのだ。
エンリコ達は、すぐにツクモ殿の眷屬だろうか?魔蟲に縛られて、連れて行かれた。その後の事は、儂も聞かされていない。クリスはなにか知っているかも知れないが、話に出さないようにしているようだ。
「お祖父様!」
「あぁすまん。それで、ツクモ殿はどうされている?」
「今日は、カイお兄ちゃんと、ウミお姉ちゃんと、ミュルダの街を散歩するって言っていたよ」
「そうか、クリスには、リーリア殿が付いているのか?」
「そうだよ?ナーシャお姉ちゃんも最初は來るって言っていたけど、イサークさんに連れて行かれたよ」
あれから、ツクモ殿と膝を突き合わせて、話をした。
エンリコの件は、ツクモ殿から、建設的な意見にならないうえに既に謝罪を頂いたから、これ以上の謝罪は必要ないと言われた。
「そうか、クリスは、ビックスロープでの生活でいいのか?」
「うん。まだ早いよ。カズトお兄ちゃんが、來ていいよっていうまで我慢する」
「そうか、すまんな。クリス」
「ううん。お祖父様のおかげで、僕は、カズトお兄ちゃんに會えた。それは間違いないよ。それに、僕、今すごく楽しいよ。なんでも、自分で決めていいのでしょ?」
「あぁそうだ。クリス。お前の人生だ、好きに過ごせ」
「本當?お祖父様。僕、學園街に行きたい!」
學園街。
確かに、前のクリスなら無理だったが、ツクモ殿から、スキルの隠蔽を施されたクリスなら可能かも知れない。
人前の子供に勉學を教える場所で、16歳になるまで通う事ができる。エンリコも通わせた。ただ、今にして思えば、もしかしたら、學園街で、アトフィア教にれて、信者になったのかも知れない。
「わかった。でも、クリス。お前の分は、ツクモ殿預かりになっている。ツクモ殿が承諾する事が條件だがよいか?」
「もちろん。カズトお兄ちゃんがダメって言ったら諦める」
「儂から、ツクモ殿に打診しよう」
「お祖父様。おねがい。でも、無理しなくていいからね」
「あぁ解っておる」
執務室に向かった。執事に頼んでいるが、最終的な確認は、儂がしないとならない。ミュルダに置いていくと、儂の私を分けてもらっている。ミュルダのに殘していくは、次の領主に渡す資料にまとめていく。
クリスは、もう大丈夫だろう。準備もできているようだ。
問題は、アーモスだ。父親と母親を失ったのだ。両者とも、アーモスには優しかった。
母親は、エンリコの屋敷で首を絞められて殺されていた。
エンリコが殺したと考えていいだろう。アーモスの目の前で殺したと、メイドが証言している。
「お祖父様」
消えそうな聲で、儂を呼びに來た。
「アーモス。どうした?」
「お祖父様。お父様は、どうして、お母様を・・・どうして、僕を殘して・・・お姉さまは化なのですか?」
「えぇそうよ」
アーモスの後ろから、クリスが出てきた。
「アーモス。貴方のお姉さまは”化”なの。お父様にそう育てられてしまったの。だから、お父様のお考え通り、化になったわ」
「お姉さま」
「でもね。アーモス。私は、私よ。今までと何も変わらないわ」
「お姉さま。それは?」
「いい。アーモス。貴方は、私の様にならないでね。お父様は、勘違いされていたのよ」
「かんちがい?」
「そう、誰でも”化”になれるのよ。私のようにね。アーモス。お父様は、私に化になってほしかったのよ」
「え?」
「お父様にとって、私は、”化”でなければならなかったのよ。いい。アーモス。人は、何にでもなれるのよ。だから、貴方も、沢山の人を見て、沢山の事をじて、沢山の事を考えるのよ。私のようにならないためにもね」
「おねえさま?どういう」
クリスは、儂の方を向いた。
「お祖父様」
「なんじゃ?」
「僕、わがままに生きます」
「あぁ」
「カズトさんのお嫁さんになるためにがんばります」
「あぁ・・・え?ん?クリス。この短時間になにがあった?」
クリスのツクモ殿呼び方が、カズトお兄ちゃんから、カズトさんになっている。
それに、お嫁さんって何がどうしたら、短時間でそうなるのか説明してしい。ナーシャ辺りのれ知恵かと思ったが、ナーシャはイサークに連れて行かれて、アーモスの荷造りを手伝っているはずだ。
「アーモス。貴方も自由なのよ?」
「自由?」
「えぇそうよ。お父様やお母様から、言われていたでしょ?」
「はい。ミュルダの領主になるために、勉強しなさい・・・」
「もう、お祖父様もミュルダの領主ではありません。お父様も、お母様もいません。アーモス。貴方は、自分で考えて、行しなさい」
「え?」
「もう、貴方に命令する人は居ないのよ?アーモス。自由ってそういう事なのよ?」
「お姉さま。僕、自由なんていらない。お父様やお母様が」
「そうね。そう言って、なにかに縋るのもいいでしょう。アームス!」
クリスが、マーモスの肩を抑える。
「アーモス。耳を塞がない。目をそらさない。もう一度いうわ。お父様もお母様も、貴方に優しい聲をかけて、導いてくれた人は、もう居ないのよ。貴方は、1人で考えて、行しないとならない。それが嫌なら、ミュルダに殘って、死ぬまでここで、貴方に優しかったお父様とお母様の事だけ考えていればいいのよ」
クリスは、アーモスに対して、別れの言葉をいいに來たのかもしれん。
「お祖父様」
「なんじゃ?」
「カズトさんへの要請は、僕が、自分で行います。お祖父様は、アーモスとご自分の事だけを考えて下さい。お願いします」
「わかった。でも、いいのか?」
「はい。僕は、僕です。何も変わっていない事がわかっただけです」
そこには、先ほどまでとは違った、の顔をしたクリスティーネが立っていた。
/*** クリスティーネ=アラリコ・ミュルダ・マッテオ Side ***/
僕は、お祖父様の意図がわからない。
僕に、好きに過ごせといいながら、カズトお兄ちゃんに責任を押し付けるような事を言っている。
お祖父様は、もう疲れてしまったのかも知れない。
『クリス。エンリコをご主人様の実験區に送ります。どうしますか?』
『どうする?そんな人の事よりも、僕は、カズトお兄ちゃんの事を知りたい』
『そうですか?これが最後のチャンスですよ?』
そうか、お父様を殺せる最後のチャンスって事か・・・あんまり興味がないな。
ママを手にかけて殺してしまうような人だから、簡単に死なないでしいのだけど、ダメかな?
『リーリアお姉ちゃん。お父様だけど、簡単に死なないようにしてほしいけど、大丈夫かな?』
『大丈夫だと思いますよ。ご主人様は、隷屬スキルの実験をされるようですからね』
『隷屬?って、奴隷にする時に使う奴?』
『そうですよ?』
『ごめん。僕、隷屬スキルの使い方で他に何があるのかわからない』
し、笑いながら、説明してくれた。
別の人間に隷屬している狀態で、さらに別の人間に隷屬のスキルを使う事ができるのか?
誰かを隷屬している狀態で、隷屬スキルをけたら、先に隷屬している者はどうなるのか?
そんな実験を行うという話だ。
確かに、聞いた事が無い。そもそも、スキルの実験するという発想が今まで生まれてきていなかった。隷屬化のスキルカードは、レベル5だ。1枚で宿に連泊できると聞いた事がある。今聞いた実験だけでも、10枚近い枚數の隷屬化のスキルカードが必要になる。
その上、僕に固定したように、治療のスキルカードをそれぞれに固定して、死ににくい狀況を作るらしい。
魔にはできる魔核の吸収が、人族にはできないようだ。魔核に付けたスキルカードを発する事ができるので、それを代用をしているとの事だ。僕なら、魔核の吸収ができるのかな?今度、カズトお兄ちゃんにお願いしようかな?
そうしたら、僕を眷屬にしてくれるかな?僕程度じゃ、カズトお兄ちゃんの役に立たないからダメなのかな?
『クリスはこれからどうするのですか?』
『僕?學園街にでも行こうかと思う。勉強して、カズトお兄ちゃんの役に立ちたい』
『そうですか、解りました。クリスは、私やエリンとは違う道を行くのですね』
『え?どういう事?』
『私とエリンは、ご主人様の子を生そうと思っています』
『え?お嫁さんになるの?』
『違います。ご主人様のおけを貰って、私はドリュアスやエントのために、エリンは竜族のために、ご主人様との繋がりを頂きたいと思っています』
『え?でも、眷屬だよね?』
『そうですよ。ご主人様のために、私たちは存在しています。だからこそ、ご主人様のためになんでもします』
うーん
リーリアお姉ちゃんが言っている事がよくわからない。なんで、子供を作る事が、ご主人様のためになるの?
でも解った事もある。なんかヤダ!リーリアお姉ちゃんも、エリンお姉ちゃんも好き。でも、僕はカズトお兄ちゃんの事が好き・・・だと思う。まだ、僕は子供だけど、カズトお兄ちゃんと一緒に居たい!
『僕は、カズトお兄ちゃん・・・ううん。カズトさんと一緒に居たい』
『それなら、伴になるか、眷屬になるかですよ』
眷屬になる・・・それも魅力的だけど・・・。僕は、カズトさんの伴になる。眷屬ではなく、一緒に居るために、カズトさんのお嫁さんになる。
『僕は、カズトさんのお嫁さんになる。今は、まだ子供だけど、いろんな事を覚えて、カズトさんと一緒に居る』
/*** ??? Side ***/
「奴はどうした?」
「奴?あぁあいつなら、昨日、獣人族の二人と同衾した狀態で、死んでいたぞ」
「そうか、奴も最後に、獣人族を救済できたのなら本だろう」
「あぁハーフの獣人のだから、余計に良かったのかも知れないな」
「そうか・・・それで?アンクラムとミュルダはどうなっている?」
「まだだ。後10日程度で報告が上がってくる。それまで待っていろ」
「そうか、なにか解ったら教えてくれ、どうやら、上層部では何かきが有るようだ」
「ほぉそうなのか?」
「あぁ教皇のご調がよろしくないようだ」
「それはまた・・・この時期に・・・いや、この時期だからか?」
「あぁ我ら本部の司祭の中から、欠員になっている樞機卿の選出が噂されている」
「・・・そうか、貴様!」
「お互い様だろう?お前も、アンクラムとミュルダの偵察隊の中に、毒婦を忍ばせているではないか?」
「・・・」
「・・・」
男は睨み合ったまま別れの言葉を口にしないままその場を立ち去った。
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