《【新】アラフォーおっさん異世界へ!! でも時々実家に帰ります》第1話『おっさん、選ばれる』前編

『おめでとうございます!! あなたは15億円獲得の権利を得ました!!』

「はぁ……」

くだらないメールを開いてしまったことをし後悔しつつ、PCモニタを眺めていた男は軽いため息をらした。

大下敏樹、40歳。

しがない在宅ワーカーである。

長は公稱170センチ――厳には169センチ――、重は55~60キロを行ったり來たりという、ザ・中中背で、顔は可もなく不可もなしといったごくごく平凡な容姿の持ち主だ。

敏樹はいつもの通り自宅での業務を終え、業務システムからログアウトしたあと、これまたいつものように私用のウェブメールサイトにログインし、メールチェックを行っていた。

そんな中、いつもなら一顧だにせずごみ箱行きになるであろう“厳正なる審査の結果あなたは選ばれました!!”という件名のいかにもなメールを、ついうっかり開いてしまったのであった。

◇ ◆ ◇ ◆

おめでとうございます!! あなたは15億円獲得の権利を得ました!!

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大下 様のメインバンクへの振り込み手続きを行いますので、下の『け取る』ボタンをクリックしてください。

何らかの事によりけ取りを拒否される場合は『け取らない』をクリックした上で、本メールは破棄してくださいませ。

大下 様におかれましては、ぜひ15億円を手にしていただき、充実した人生を送っていただければと思います。

世界管理局 町田

◇ ◆ ◇ ◆

「……にしても、今どき珍しくゴテゴテしたメールだな」

長時間部屋にこもってひとりで仕事をする敏樹には、獨り言の悪癖があった。

自分以外誰もいない仕事部屋で、誰に聴かせるでもなくつぶやいた言葉通り、そのメールは近年珍しくHTML形式で裝飾された派手なメールであった。

メールソフトでPCにメールを取り込んでいた頃はウィルス染などを用心する意味でテキストメールしか信していなかった敏樹であったが、數年前からウェブメールに切り替えて以來とくにそのあたりの設定を気にすることはなかった。

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そういえばネットショップなどからの広告メールには畫像が表示されていたので、HTML形式のメールも表示できる設定になっているのだろう。

しかし、敏樹の表示設定云々はともかくこの手のメールというのはできるだけ多くの人に読んでもらう必要があり、それこそ攜帯メールなどで読んでもらうにはテキスト形式のほうがましいだろう。

さらに言えば、文面もダメダメである。

こういうメールはもっと読み手を引きつける設定が必要なのだ。

例えば、“夫に先立たれて多額の産だけが殘ったが人生に張り合いがないので第二のパートナーを求めている”だとか、“表に出せない訳ありの金だが一時預かってもらえるだけで數割の手數料を払う”だとか、何かしらの理由付けは必要だろう。

“厳正な審査の結果あなたは選ばれました”だけでは、どんな馬鹿であれひっかかるはずもない。

「ったく、わかってないなぁ……」

と、どこの誰ともしれない悪質業者と思われる送信者へのダメ出しの言葉をつぶやきつつ、モニタ上でチカチカと明滅する『け取る』『け取らない』というボタンを見ながら、敏樹はひとりあきれかえっていたのだった。

「こんなもん無視だ無視」

け取る』『け取らない』のどちらをクリックしたところで、どうせ変なサイトに飛ばされるか、個人報を抜き取られるか、悪質なソフトを仕込まれるか、といったところだろう。

こういうメールに対して、真剣に向き合うのは時間の浪費である。

そう思い、敏樹がメールを削除すべくトラックボールに手をかけたところで、部屋の壁に設置している電話の子機から線著信音が鳴った。

敏樹は現在実家で母親と二人暮らしである。

在宅業務とはいえ、WEB上にある業務サーバーへの接続が必要であり、そういうシステムが組まれた部屋に、たとえ家族であっても敏樹以外の者は足を踏みれるのはセキュリティ上好ましくない。

なので敏樹が業務中この部屋は施錠され隔離されており、用があるときはこのように固定電話の線機能を使って呼びかける必要があった。

敏樹はトラックボールから手を離して立ち上ると、部屋の出り口脇の壁に設置された電話機のもとへ向かった。

「はいよ」

『あ、敏樹? 仕事終わった? 晩ご飯できてるわよ?』

「あー、うん。ありがとう、すぐいくわ」

線を切ったあと、敏樹はあいかわらず『け取る』『け取らない』のボタンが明滅しているPCモニタのほうを見た。

「……あとでいっか」

業務用のPCは5分作がなければ自でロックがかかる仕様になっており、かつこの部屋には外から施錠できるようにもなっている。

であればこのまま部屋を出ても何ら問題はなく、せっかく出り口近くまで來たのだからと、敏樹は部屋を出たあと、ポケットから鍵を取り出して施錠した。

このとき、數歩もどってトラックボールをちょいと作するだけの手間を惜しんだことが、敏樹の運命を大きく変えることになる。

彼は見落としていたが、メールには続きがあった。

◇ ◆ ◇ ◆

本メールは開封後1時間経過しますと、自的に『け取る』のほうが選択されます。

あしからずご了承くださいませ。

◇ ◆ ◇ ◆

**********

『振り込み処理が完了しました。ありがとうございました』

「…………は?」

夕食後、仕事部屋に戻ってPCのロックを解除したあと、モニタに映し出された文言に思わず敏樹は絶句した。

あのあと夕食を終えた敏樹は、ダイニングルームのテレビから流れていたバラエティ番組を見るともなく眺めながらぼんやりと過ごし、1時間半ほどでここへ戻ってきていた。

「ちょ、え? うそだろ?」

敏樹は混しつつも、該當メールを削除し、ブラウザを閉じたあと、PC本からLANケーブルを抜き、慌ててウィルス対策ソフトを立ち上げてPCの詳細なスキャンを開始した。

「ありえないだろ……」

咄嗟にウィンドウを閉じてしまったので細かい部分までは思い出せないが、たしかメール本文畫面の文言が変わっていたはずだ。

本來こういった場合、処理完了を知らせず新著メールが屆くはずである。

メール文中のリンクからウェブページに飛んでいるのならともかく、信後のメール本文が切り替わるなどということは通常考えられない。

「なんか仕込まれたか?」

慌てて閉じたので見間違いということもあるかもしれないが、再確認しようにもあのメールは削除してしまったし、なにより今の狀況でPCスキャンが終わるまでネットにつなぐなど、無謀であろう。

「くそっ……!!」

敏樹はイライラしながらも、遅々として進まないスキャンの進捗畫面をにらみつけた。

自宅で業務を行う以上、セキュリティにはそれなりの注意を払っている。

日々の業務開始前に必ずウィルス対策ソフトを最新の狀態に更新した上でクイックスキャンをかけており、週に一度は詳細スキャンをかけているのだ。

その上でメールの閲覧もPCにデータを取り込むメールソフトではなく、インターネット上で作業を行えるウェブメールを使うようにしていたのである。

悪質なソフトを仕込まれるリスクはかなり低いはずなのだが……。

「そういや……振り込み処理完了とか書いてたよな?」

敏樹はスマートフォンを立ち上げると、自宅回線につながるWi-Fiを無効にし、キャリア回線接続し直した上でネットバンクアプリを立ち上げた。

専用アプリから自の口座へとアクセスし――、

「ぶほっ!!」

思わず吹き出してしまった。

1500012072

「これ……殘高、だよなぁ……?」

敏樹が使っているネットバンクの畫面は、ログイン後に預金殘高が表示されるようになっていた。

各種支払いを終えたあと、小遣い程度の額が殘っていたのは覚えている。

しかし、こんな額の預金がっている覚えはない。

というか、過去一度もこれほどの額の金額を口座にれたことがない。

「……マジか?」

しばらく呆然としていた敏樹だったが、1分程度で気を取り直し、まずはPCモニタを見た。

スキャンの進捗度が5割程度で、まだかかりそうだと判斷した敏樹は、財布をひっつかんで部屋を出た。

そのまま歩き出しそうなるのをなんとか踏みとどまり、仕事部屋に施錠したあと急いで家を出る。

ガレージまで歩いたところで車のキーを持っていないことに気づいた敏樹は、舌打ちしつつ奧から自転車を引っ張り出して番號式のワイヤーロックを外す。

サドルのほこりを払ってまたがり、自宅から最も近いコンビニエンスストアを目指して走り出した。

目的地まで徒歩5分強。

都會で暮らしていた頃には考えられないことだが、こちらではこの程度距離で車を出すのは當たり前であり、家を出る前に玄関でキーを手に取っていれば、敏樹はこのときも車を出していたであろう。

ただ、自転車を引っ張り出して番號錠を外す時間があれば玄関に戻ってキーを取ってきたほうがおそらく早いのだが、“戻る”という行為を選択したくないので、敏樹は自転車でコンビニエンスストアへ向かうことを選択したのである。

歩く? 論外である。田舎者は犬の散歩などの理由がない限り公道を歩かない。

高卒後十數年過ごした都會からUターンして5年足らず。敏樹の行原理はすでに田舎者のそれに戻っていた。

街燈のない暗い田舎道を抜けて県道へ、そしてさらに國道を目指し、結果2分々で目當てのコンビニへとたどり著いた。

「ぜぇ……ぜぇ……」

日頃の運不足のせいもあり、3分に満たない有酸素運で息を切らせながら、敏樹は店にってすぐのところにある銀行ATMの前に立った。

そして財布からキャッシュカードを取り出しATMへ投

『殘高照會』を選択し、暗証番號を力した。

「……マジか」

やはり殘高は15億円としだった。

ATMの畫面上に表示された『続けて取引を行う』というボタンをしばらく見つめたあと、敏樹は『取引を終了する』をタップした。この15億円という金の出所がはっきりしない以上、手を出すのは危険と判斷したからだ。

仮に銀行側のミスで殘高に異常が発生した場合であっても、突然増えた金を引き出したりすると何らかの罪に問われると聞いたことがある。

敏樹はスイーツコーナーでシュークリームを手に取り、レジでホットコーヒーを購した。

レジ袋にったシュークリームを手に提げつつ、コーヒーを飲みながら帰路に著く。

通常であれば最寄りの銀行支店を訪れて確認する必要があるのだが、敏樹のメインバンクは現実に支店を持たないネットバンク専用の銀行なので、PCスキャンが終わるのを待って銀行に問い合わせるか、明日改めてサポートデスクに電話する必要があるな、などと考えながら、とぼとぼと暗い夜道を歩き続けた。

「あ……自転車」

そして家に著いたあと、自転車をコンビニに置いたまま歩いて帰ってしまったことに気づいたのであった。

『死に戻りと長チートで~』を改稿し、新しく作品ページを立ち上げました。

いまだに想やレビューをいただくので、後日談でも書こうと思って読み返していたら、がっつり改稿してしまいました。

本作に引き継がれている魔などの設定もかなり詳しく書いてますので、ちょっとした設定資料にもなるんじゃないかなぁ、と。

一人稱でサクサク読める作品なので、お読みいただけると嬉しいです。

作者ページからどうぞ!

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