《【新】アラフォーおっさん異世界へ!! でも時々実家に帰ります》第4話『おっさん、ロロアの願いを聞く』
「へっ……?」
敏樹があまりにも平然と応じたため、ロロアは間抜けな聲を上げてしまった。
実はこのとき、ロロアが無防備に顔を上げたものだから、敏樹からフードの下の目元が見えそうになっており、彼は気を使って視線を逸らしていたのだが、ロロアはそんなことに気付かず話を続けた。
「トシキさん、なんて……?」
「ん? みんなを助けてほしいんだろ?」
「はい……」
「だったら助けようじゃないかって話だよ」
「でも……、相手は山賊なんですよ? とても大きな山賊団なんですよ?」
「らしいね」
「死んじゃうかも、しれませんよ……?」
「かもね」
「だったらなんで!?」
「おいおい、君がんだんだろう?」
「うぅ……」
確かに無理を承知で頼み込んだのはロロアであるが、こうもあっさり了承してしまわれると、なんとなく申し訳ない気持ちになってくるのであった。
「私……、トシキさんとも、お別れしたくない……」
「はは、ロロアは張りだなぁ」
そう言って敏樹はロロアの頭にポンと手を置いた。
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「むぅ……。ふざけて、ますか?」
「まさか。俺はいたって真面目だよ」
「じゃあなんで……?」
「ロロアがそれをんでいるから、かな?」
「っ!?」
その言葉にロロアは心臓がトクンと高鳴るのをじ、慌ててを押さえた。
押さえたところで鼓が収まるわけではないのだが、を押さえて敏樹を見つめることしかできなくなった。
「だいだいグロウさんたちもアホなんだよな」
「え……?」
「なんでロロアを逃がすのかって話だよ」
ロロアは敏樹を見つめたまま、首をかしげた。
「ロロアに幸せになってほしいから、みんなは君を俺に託したわけだろ?」
「そう……ですね……」
敏樹の言葉にロロアの表が曇る。
高鳴っていた鼓は別の意味で速くなっていた。
自分を逃がすために集落のみんなが犠牲になるということに、ロロアは耐えられそうにない。
「みんなを見殺しにして生き延びたところで、ロロアが幸せになれるわけないのにな」
「あ……う……」
「ん、どしたの?」
「うあぁっ……!!」
ロロアは聲を上げて敏樹に抱きついた。
「ちょ、なに……ロロア……?」
敏樹が自分の想いを理解してくれた。そのことが嬉しくてロロアは彼を思いっきり抱きしめた。
「うぅ……、トシキさん……。ありがとう……」
突然抱きつかれて戸っていた敏樹だったが、ロロアが落ち著くまではと彼の背中に腕を回し、なだめるようにトントンと叩いてやった。
「あの……ごめんなさい、私……」
しばらく抱擁を続けたふたりだったが、落ち著いて冷靜さを取り戻したロロアのほうが慌てて敏樹から離れた。
「うん。落ち著いた?」
「……はい。ありがとうございます」
敏樹から離れ、照れてうつむいていたロロアが顔を上げる。
「これから、どうするんですか?」
「とりあえず山賊団はどうにかしないとね。あれを潰して萬事オッケーってわけにはいかないんだろうけど、潰してしまわないと先に進めないからなぁ」
「山賊団を、潰す……。どうやればいいんでしょう?」
「潰すだけならどうとでもなるんだけどね……」
敏樹には〈全魔〉というスキルがある。
この世界のすべての魔を使えるというものであり、魔の中には敵を砦ごと殲滅できる戦級のものもあるのだ。
強力な魔だけに膨大な魔力を要するのだが、現在敏樹は水人から提供された魔力を有しており、殲滅魔のひとつやふたつは使用可能である。
「問題がいくつかあるんだよなぁ……。人質とか」
山賊団のアジトには、連れ去られた水人や、拐かされた一般人の存在が予想され、殲滅魔を使えばその囚われた人々ごと殺し盡くしてしまうことになる。
「助けたところでどうするか……だけど」
囚われた人々を救出したあとどうするかという課題もある。
魔で殲滅するという選択肢もそのひとつだが、いましがたひとりの山賊を殺すことにさえ躊躇した敏樹である。
大量殺戮という重荷に耐えられるだろうか?
(まぁ、〈無病息災〉があるから神がぶっ壊れることはないんだろうけど……)
神的なダメージを回復できるとはいえ、大量殺戮という事実が敏樹の人格になんの影響も與えないとは考えにくい。
できれば避けたい一手ではある。
「ま、人質を救出してから考えるか」
「トシキさん」
敏樹のつぶやきに反応するかのように、ロロアが聲をかけた。
「ん?」
「私も、行きます……!!」
「は?」
ロロアがトシキを見據える。目元はフードに隠れているが、それでもなおその視線を敏樹はじることができた。
「危険だよ」
「わかっています。でも私も力になりたいんです」
「うーん……」
悩む敏樹に、ロロアは訴え続ける。
「人質って、要は以前連れ去られた集落の人たちですよね?」
「まぁ、そうだね」
「だったら集落の住人として、私も行くべきだと思うんです。ここまで育ててもらった恩もありますっ!!」
「そうかもしれないけど……」
「それに、他にもの人が囚われてますよね……?」
ロロアの口調がし暗くなる。
山賊といえばその大半が男であろう。表社會に出られない男連中が集まっているということは、いろいろとはけ口が必要になるわけだ。
考えるだけでもくそ悪いことではあるが。
「私も、その人たちと同じようなことになるかも知れませんでした。あの人たちが話しているのを聞いて、すごく怖かったんです」
「ロロア……」
「私にはトシキさんがいたからひどいことにはなりませんでしたけど、山賊のアジトにはいまも怖い思いをしている人たちがいるんですよね?」
「たぶん、な」
「だったら私はその人たちの力になりたい! 助けられるのなら助けたいんですっ!!」
そう言ってロロアは頭を下げた。
「お願いします!! 力には自信があります。弓矢もちゃんと使えます。邪魔はしませんからお手伝いさせてください!!」
「ふむう……」
どうしたものかと困り果てる敏樹の脳に、突然著信音が響いた。
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