《【新】アラフォーおっさん異世界へ!! でも時々実家に帰ります》第10話『おっさん、発進する』

先王ザラカイアがテオノーグ王國を統治していたころ、迷宮都市ザイタより溢れた魔が、ジニエム山を越えて王國領に殺到した。

集団暴走スタンピードである。

その被害をもっともけるかたちとなったのが、敏樹らが拠點としているヘイダの町だった。

とはいえ、魔の群れによって死傷者が出ることはなかった。

ザラカイアは魔師ギルドと渉し、の使用許可を得て、ひとりの魔士を派遣した。

ヘイダの町出のその魔士は、故郷を救うため闘した。

その活躍により『殲滅の大魔道』のふたつ名を得た魔士こそ、現冒険者ギルドテオノーグ王國統括ギルドマスター兼ヘイダの町支部長代理の、バイロンだった。

「え、ヌネアの森って、町のすぐ近くまであったの?」

ファランから、當時の話を聞いた敏樹が、驚きの聲を上げる。

「そりゃそうさ。林業でり立ってた町なんだから、森の近くにないと話にならないでしょ?」

現在、ヘイダの町とヌネアの森とのあいだには、広大な荒野が広がっている。

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「それが、バイロンさんのしわざ?」

「そ。指定の超級魔を、連発しまくった結果らしいよ」

迫り來る魔の群れを【炎陣】で焼き盡くし、【地陣】で埋め、【風陣】でなぎ払った。

一匹殘らず魔を撃退したあとには、だだっ広い荒野が殘ったのだった。

「人的被害は出なかったけど、産業への打撃は凄くてね。まぁそれでも、バイロンさんに文句を言う人はいなかったけど」

「命あっての種だもんなぁ」

ヌネアの森とのあいだに距離ができてしまい、ヘイダの町は主要産業である林業を、ほとんど失うことになった。

その際、王國から補助金が出たため、多くの人は町を出た。

余裕のある者から順に町を離れていったため、ヘイダの町は急速に寂れていく。

ファランの祖父もまた、町を出るべく準備をしていた。

「ただ、お祖父さんは顔が広くて、人がよかったから、殘った人の世話をしているうちに、出遅れちゃってね」

機を見るに敏な商人ほど早く町を離れたので、町で滯り始めた流通の調整を行っているうちに、町に取り殘された小さな商店のまとめ役のような立場になる。

「でもまぁ、それがよかったんだけどね」

そんななか、王都からクレイグが帰ってきた。

彼は魔集団暴走スタンピードの報を得た直後、町の有志とともに、救援を求めて王都に行っていたのだった。

そのクレイグから、迷宮都市ザイタとテオノーグ王國とのあいだで易が開始される、とうい報を得た。

「ジニエム山を越えてヌネアの森にった、魔の通り道がたくさんできててね」

「なるほど。それでこの町が中継點に」

の群れは、ヌネアの森の木々をなぎ倒しながら、王國領へと殺到していた。

そのなかで、ヘイダの町から比較的近く、かつ太い通り道が本格的に整備され、易路となった。

人がいいただの材木問屋だった先代は、取り殘された商店を組み込んでドハティ商會を立ち上げる。

遅れて報を得、戻ってきた商人や、新規に參しようとする商人もあとを絶たず、また、易と共に発展する町の流通を、小さな商店をより集めただけのドハティ商會ひとつで、まかなえるわけでもない。

多くの商人がここヘイダの町に拠點を構えたが、住民の支持が厚いドハティ商會はどんどん大きくなっていき、易の中継點として発展したこの町隨一の商會となるのだった。

「ちょっと話がそれちゃったけど、バカ王子についてはバイロンさんに任せておけばだいじょうぶだよ」

「そうみたいだな」

バイロンがその気になれば、千やそこらの軍など、一瞬で殲滅できる。

そしてこの王國に、彼の功績を知らない者はほとんどいない。

「それに、戦闘バカ王子が、冒険者との模擬戦を避けて通れるとも思えないしね」

「時間稼ぎは問題ない、か」

**********

今回の作戦で重要なのは、テオノーグ王バートランドと、第2王子ヴァルター率いる親衛隊の暴挙を、公的な記録に載せない、というところだ。

王が水人の集落を襲撃するよう命令を出したことは、王宮通者から、天網府も知るところだ。

しかし表向きは、親衛隊の行軍訓練となっている。

そして、事が起こる前に事態を収束できれば、天網府はこの件について口をつぐむという約も得ている。

「バイロンさんたちが時間を稼いでくれているあいだに、王國から作戦の中止と帰還の命令を出させ、親衛隊に伝える」

作戦の要點を敏樹が口にし、それを聞いたロロアは力強く頷いた。

ふたりはいま、ヘイダの町をし離れた、人気のない場所にいる。

敏樹はオフロードバイクにまたがり、ロロアはそれを見守っていた。

「トシキさん、気をつけて。くれぐれも無理はしないでくださいね」

「だいじょうぶ。最悪逃げればいいだけだから」

〈拠點転移〉はいつでも使える狀態なので、なにかあればヘイダの町なり実家なりに逃げればいいのだ。

「そっちこそ足止め、任せたよ」

「はい」

「……やりすぎるなよ?」

敏樹の言葉に、ロロアは曖昧な笑顔をうかべ、肩をすくめた。

(ま、ちょっとは懲らしめてやったほうがいいか)

スロットルを回し、バルンッ! とエンジンをうならせる。

「じゃあ、いってくる」

「はい、いってらっしゃい」

敏樹は王都を目指して、オートバイを発進させた。

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