エレナさんに連れられて、俺は冒険者ギルドの地下にある解場に到著した。

解場はかなり広い。

育館ぐらいの広さはあるんじゃね？

ドラゴンとかワイバーンみたいな大を捌くのに、それなりの広さがいるんだと。

やっぱその辺のもいるのね……。

しかしそんな大、どう考えても階段や通路通らねぇんだけど、って思ってたらそこはそれ、転移魔なんつー便利なものがあるわけですよ。

あれだな、ある意味元の世界よりハイテクだな、こりゃ。

奧には解された魔の素材や、解待ちの魔の死骸が積み上げられてる。

解場っつーから屠殺場みたいにまみれの汚れまみれみたいなところ想像してたんだが、意外と綺麗だった。

たぶん『浄化』のおかげだな。

やっぱ便利だよ『浄化』。

「おう、エレナちゃん。そいつが今日の生徒か？」

解場にいたのは、スキンヘッドのいかついオッサンだった。

半袖のＴシャツみたいな服の上に、ツヤのある革のエプロンをに著けている。

「ええ。Gランク冒険者のショウスケさん」

「ども、ショウスケっす」

こっちじゃみんなファーストネームで呼ぶから、俺もファーストネーム名乗るのに慣れてきたわ。

「おお、アンタが噂の薬草名人か」

「なんすか、それ？」

「ショウスケさんが採取する薬草は、狀態がいいから評価が高いのよ」

へええ、そんなことになってんのね。

「いよいよ魔退治を始めようってわけかい？」

「今日はたまたま遭遇してなんとか返り討ちに出來たんですけどね。今後もそういうことがあるかもしれないので、せっかくなら解も覚えておこうかと」

「そうかいそうかい。そりゃいい心がけだ。ああ、自己紹介が遅れたな。俺はトセマ冒険者ギルド専屬解士のクラークだ」

エレナさんがクラークさんに、俺が仕留めたジャイアントラビットを渡す。

「じゃ私はこの辺で。あとよろしくお願いしますねー」

「おう」

エレナさんを見送った後、クラークさんは俺が仕留めたジャイアントラビットを検分する。

「ふむ、上手いことを一撃で仕留めてるな。傷もないし、うまい合に抜きもできているようだ」

「まあ、偶然出した鎌にそいつが突っ込んできたので」

「そうかそうか。ではまず俺が手本を見せるからよく見ておけよ」

そう言うと、クラークさんは解用ナイフを使って手際よくジャイアントラビットを解していく。

皮を剝がし、腹を割いて蔵を取り出し、を部位ごとに切り分け、と骨をバラす。

10分とかからずジャイアントラビットの死骸は立派な素材になった。

「とまあ、こんなじだ。今はわかりやすくするためにあえてゆっくり解したが、そに気なればジャイアントラビットぐらいなら今の半分以下の時間で解できるぞ」

おお、あれでもゆっくりやってたのか。

すげーなオッサン。

「皮にはまだ脂肪や筋がこびりついてるし、細かい骨や取りきれなかった臓なんかも殘ってるんだが、それは魔や魔道でやったほうが早いからな。ここまでやれば解完了ってことで問題ない」

ファンタジーものなんかで、たまに皮に付いたをせっせとこそぎ落とすシーンとかあるもんな。

便利な魔法があるもんだ。

「よし、じゃあやってみろ」

そういうと、クラークさんは解場にあったジャイアントラビットの死骸と、新品の解用ナイフを俺に手渡した。

さっき見た手順を思い出しながら、実踐してみる。

はっきり言おう。

自分でも驚くほどうまく出來た。

たぶんだが、ステータスアップによる【賢さ】や【用さ】が影響してるんだと思う。

一回見ただけなのに、クラークさんのきの意図をちゃんと理解できたし、バッチリ記憶もしていた。

いざ死骸にナイフをれてみても、驚くほどすんなりがくんだよな。

「ほう、なかなか筋が良いな。では他のもやってみるか」

その後俺は、ジャイアンドボア、レッドフォックス、グレイウルフ、ゴブリン、オーク等々、いろんな魔の解を教えてもらった。

最初は人型の魔を解するのに抵抗もあったが、すぐに慣れた。

《スキル習得》

＜解＞

10ぐらい解したところで、＜解＞スキルを覚えた。

これを覚えてからはさらに手際が良くなり、その後何度かスキルレベルアップ通知をけ、最終的には初見の魔でも手本無しで捌けるようになった。

「うーむ、ここまで筋がいいヤツは初めてだ。気が向いたら解士になることも考えておいてくれな」

「ありがとうございます！　クラークさんの教え方が上手いおですよ」

「そ、そうか？」

クラークさんの顔がし赤くなる。

オッサンが照れる姿ってのはあんまみてて楽しいもんじゃないな。

「しかしあれだな。順調すぎて時間を忘れて作業しちまったな。たぶんもう朝じゃねぇかな？」

マジかよ！

日暮れ前に始めてたから、12時間ぐらいぶっ通しでやってたんだな。

「じゃあ、これ」

そう言って俺は解用のナイフをクラークさんに返そうとする。

「ん？　それは解講座のオマケだぞ？」

「え、そうなんすか？」

エレナさん、ちょいちょい説明不足なんだよな……。

ナイフ付きで150Gなら高くはないか。

なんにせよスキル習得できたのはでかいわ。

「あー、ちょっと待て」

そういうとクラークさんは奧から別のナイフを持ってきた。

「これ持ってけ」

そのナイフは、明らかに今回渡されたものより上等で、しかも新品だった。

「これはミスリル製の解用ナイフだ。これなら腕さえあればドラゴンの解も出來るぞ！　しかも鞘には浄化魔が付與してある上に研磨機能もあるから、メンテナンスも楽だ」

おお！　ファンタジー金屬ミスリル！！　やっぱ存在すんのな！！

「いいんですか？」

「おう。久々にいい才能を見れたからな。それに講座とはいえ実用レベルで解してもらったからな。そのナイフの三割ぐらいの仕事はこなしてるよ。まあ気が向いたら今後も手伝ってくれや」

「ありがとうございます！　大事に使わせていただきます！！」

「おう！　武としてもそこそこ優れてるが、出來れば戦闘では使わんでくれよ」

「わかりました！　またお邪魔しますね！！」

「おう！！」

たぶん売ればすげー値段になるんだろうけど、オッサンの期待を裏切るような真似はよそう。

解場を出て一階に戻ると、オッサンの言うとおり夜が明けていた。

朝日を見たら一気に疲れが出てきたので、そのまま浄化設備で浄化をけた後、寢臺に直行した。

＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊

久々に、掃除のおばちゃんに起こされる。

なんやかんやでたぶん3時間ぐらいは寢れたと思う。

やっぱこの寢臺は疲労回復効果がある魔道らしく、短時間睡眠の割には疲れが取れていたよ。

疲れはもちろん、ちょっとした怪我ぐらいなら一晩で治るらしいけど、深い傷や骨折みたいな大怪我にはあんま効果ないんだと。

それでも自然治癒よりは治りが早くなるらしいけど。

大怪我に関しては『治療士ギルド』ってのがあって、そっちの院施設だとかなり早く回復するらしい。

そのうちお世話になるかもな。

例のごとく日替わりランチを食った俺は、ギルド付に向かう。

ちょっと気になることを確認しときたいんだ。

「やあ、今日も薬草採取かい？」

付は若い蜥蜴とかげ獣人の男で、確か名前はフェデーレさんだったかな。

切れ長の目が特徴のイケメンだ。

大午前中～夕方ちょいまえまではこの人が付にいることが多い。

「そうですね、薬草採取はもちろんやるんですが、そろそろ魔狩りもやりたいなと思いまして」

「お、いよいよランクアップ狙い？」

「まあ、それもあります。せっかく解技を得たのでね」

「そういえばおやっさんと徹夜で解場にこもってたらしいね。溜まってた分の仕事がほとんど片付いたって、おやっさん喜んでたよ」

ちなみにおやっさんというのは解士のクラークさんのことね。

ギルド職員や冒険者からはそう呼ばれることが多いみたい。

「で、確認したいんだけど、武の貸出なんてやってます？」

「やってるよ。はい、一覧表」

フェデーレさんはレンタル品の一覧表を出してくれた。

青銅製と鉄製、鋼鉄製の武や防がある。

１日あたりだが、青銅製だと3～5G、鉄製で5～8G、鋼鉄製だと10～15Gぐらいか。

さすがにミスリル製ってのはないらしい。

とりあえずお試しで青銅の裝備から試してみようかなぁ。

「ところで、ショウスケくんはパーティ組まないの？」

パーティーなぁ。

雑談とか食事ぐらいなら普通に出來るようになったけど、団行はまだ避けたいんだよなぁ。

「しばらくはソロでやるつもりですね」

「じゃあさ、生活魔ぐらい覚えといたほうがいいんじゃない？」

「生活魔っすか？」

「魔の素材となると、なんかはどうしても劣化が早いし、かさばるからね。冷卻魔や収納魔ぐらいは覚えといたほうがいいんじゃないかな？」

おお！　収納魔ってことはアイテムボックス的なアレか！！

「もしかして収納魔って、無限にに荷保管できたり、収納の時間止めれたりするアレですか？」

「無限に、とか収納の時間を止めるとなると、大変だよ？　普通は魔で冷凍させてから収納するっていうのが一般的かな。いや、普通はそういうのが得意な人とパーティー組むんだけど、ショウスケくんソロでやるって言うから」

そうだなぁ。

生活に一杯一杯で魔法のことなんてすっかり忘れてたけど、やっぱ異世界に來たからには覚えたいよな。

「魔法ってどこで覚えれますか？」

「そりゃもちろん魔士ギルドだよ。あと、魔法じゃなくて魔ね」