《異世界冒険EX》悠斗と茜④

「……ところで弘君は宿題終わったの?」

基地へ向かう途中で、茜が中島に尋ねる。

「ああ。あとは今日と明日の絵日記だけだ」

「……へー。流石だね。悠斗くんなんかまだ半分ぐらい殘ってたよ」

「いや四割ぐらいだって」

「約半分じゃん」

「神木は最終日しか頑張らないからな。むしろ今年は終わってる方じゃない?」

「うん。今年は頑張った」

うんうん、と頷いていると隣の茜がジト目で睨んでくる。

「……昨日ボクがほとんどやった気がするんだけど」

謝してます。茜さん」

実際、茜がいなかったらまだまだ終わる目処すらたっていなかっただろう。

「ボク?」

中島が茜の一人稱に食いつく。

しまった……と、茜が顔をしかめて言い訳を考えている。

……ふむ。

「何かキャラ付けらしいよ」

「キャラ付け?」

あっさりとバラしてみる。どうせ大した理由じゃないし。

「や、止めてよ悠斗くん。子供の頃から言ってたら戻せなくなったんだよぉ……」

「今も子供だろ」

珍しい茜のボケに思わず突っ込んでしまう。だいぶ揺しているようだ。

「……そういえば、何かの漫畫で自分が子供だと自覚してる奴は子供じゃないって言ってたな」

空気の読める中島が話題を変える。

「……あー悠斗くんとか子供らしくないよね。言葉使いとか」

頭の良い茜もそのチャンスを逃さず、話題をシフトする。

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……まあいいか。

「いや、子供らしいって何なのさ」

「……ほら今も。普通は、大人っぽいかなあ、えへへ。みたいなじなのが子供じゃん?」

「それは園児だろ……」

でも、ちょっと可い。とか考えていると中島が何かを思い出した様に口を開く。

「確かに神木の言ってることってたまにわからないんだよな」

「そうか?」

「ほら、二年生の時に読書想文につまらんって一言だけで提出してたじゃん」

「つまらんって……」

茜が呆れたような表を浮かべるが、仕方ないじゃないか。実際につまらなかったんだから。

「案の定ブチ切れた擔任から再提出求められて、ルールという枠組みがどうの、自由な発想がどうの、言ってた時とかマジ意味わかんなかったわ。正直、友達になりたくねーなって思った」

「いや、その読んだ本にそんな事が書いてあって、ちゃんと読んだんだよってアピールとして言っただけだよ。結局めちゃくちゃ怒られて、居殘りで書かされたけど」

「おで擔任からめちゃくちゃ嫌われてたな」

「え!? それが原因だったのかよ?」

「それ以外ないだろ? それまでむしろ贔屓されてたじゃん」

言われてみると確かに……。それまでは悠斗君、悠斗君と下の名前で呼んできたのに、あの時から神木に変わってたな……。

「一年越しの真実だな」

「……弘君も変な言葉使いだね」

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茜は中島をじろりと見る。まるで、コイツもか。とでも言いたげな視線だ。

「えー……。神木のせいだ」

「なんでだよ! っと著いたな」

話しながらも歩いていた俺達の目の前にはホームレスがいそうな小屋……もとい、基地があった。

やっと到著だ。

もともとは誰かが建てたボロ小屋だった様だが、壊れたら危ないので、中島と二人で屋を壊した。

そして、その代わりにビニールシートをかぶせ、飛ばないように結んだり、中に々持ち込んだりして作った俺達の基地だ。

「……うわぁ……暑そう……」

「「……正解」」

俺と中島は茜の想に口を揃えて答える。

そう。今回はこの基地の最大の欠點である暑さ対策を行うのだ。

「と、いう訳で。俺達が考えたのは……そう、プールだ」

「……プール?」

「ああ。ビニールシートを敷いて、その周りにコンクリートブロックで壁を作り、それを大きいラップでぐるぐる巻いて、そこに水をれたら完。まあ、裏に來てくれ」

茜を連れて、基地の裏側へ行くと先程、説明したが置いている。

三分クッキングと同じ短技だ。ただし、水はっていないが。

「正直、めちゃくちゃ大変だった。コンクリートブロックめちゃくちゃ重いし」

中島か遠い目をしながら呟く。本當良くわかる。

「しかも、地面がボコボコしてるから下までしか臺車使えないからね。そこからは一個ずつ運んで、降りて、また運んでってもう何の拷問だよってね。ピラミッド建設かよってね」

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「ああ。正直、もう二度としたくないな」

中島と二人、頷きあう。猛暑と呼ばれたこの夏にそれをやったのだ。よく死ななかったものだ。

そしてそれを聞いた茜は顔をしかめながら口を開く。

「……悠斗くんたちってさ……」

馬鹿?

何とかギリギリでその言葉を飲み込んだ様子の茜の判斷は正しい。

まあ、表でわかるがね。

だけれども、馬鹿なことに価値を見出すのが男だからね。それになんだかんだ完まではもうしだし。

「後は仕上げだ。近くに川があるからそこから水を運んで來るぞ」

「三人いるし、楽勝だな」

「……いや、川があるならプール要らないんじゃ……」

「「え!?」」

「……だって別にそんなに離れてはいないんでしょ? それなら……」

「「え!?」」

「……わかった。わかったよ。手伝う。……もう何も言うまい……」

話を聞く気のない俺たちに負けした茜は、諦めたように首を左右に振る。

まさにやれやれといった様子だ。

「でも、どれぐらいかかるかな? ある程度溜まるまで」

茜がそういえばといった様子で呟く。

「三十分ぐらいじゃない?」

俺がそう答えたところ、茜は深いため息をつく。

あれ? 違うの?

「……この謎のお手製プールの大きさが大2m×2m。で、溜める水の高さを50cmとしたなら、えーと……このバケツが5リットルるから…………うん。400回だね」

「「え!?」」

「……三人で運んだとしても一人當たり約133回。川までが往復約100m、ボク達の歩く速度が約4km、いや、バケツを持つから3kmかな。つまり一回にかかる時間は二分……で、それを133回だから……うん。四時間半だね。徒歩計算で」

茜は諦めてくれないかなあ……といった表でこちらを見てくる。

……既に時刻は晝の1時過ぎ。

確かに今から四時間半後と言ったら、もう帰らないと不味い時間だ。

……徒歩計算で四時間半……そうかそうか。

「走れば間に合うな! 頑張ろう!」

「だな! いい夏の思い出になりそうだ!」

「…………はあ」

茜にはわからないようだが、俺達にとってプールは大事なのだ。

確かに近くに川がある訳だから、プールなんて作っても無駄かもしれない。

だけれども、基地にプールは男にとっては夢なのだ。ロマンなのだ。願いなのだ。

◆◇◆

「懐かしいなぁ……」

「あったねえ……」

アイギスの空間で茜と二人呟く。

結局この基地は、俺と中島で々と増築した末に、中學に上がるタイミングで後輩へと引き継がれた。

ちなみに茜も毎回ったが、その度に持病の癪が……と斷られた。癪が何かわからなかった俺はとりあえず回復魔法を掛けておいた。効果は無かった。

茜は二度と來なかったが、俺と中島は良く行っては二人で々と作ったものだ。

……中島、か……。

◆◇◆

「絶対この川で遊んだ方が楽しいよ……」

キラキラとる川から水を掬いながら、茜は呟く。

川から水をバケツで汲み、延々とプールへと運ぶ。ただただ、それを繰り返していく三人だったが、茜は既に後悔していた。

なぜボクはバケツ持って走っているのか?

真面目な茜はサボることも無く、走る。真面目じゃない、馬鹿二人も當然、走る。

「茜! 多分あと一人五回ぐらい! 頑張ろう!」

「……うん」

あと五回。

よく頑張った。ボクは本當に良く頑張った。

このとても暑い中、川からバケツで水を汲んで、走り、プールを作った小學生が他にいるだろうか? いや、いない。

茜は思わず反語を使ってしまう。疲れがピークを迎えているのだ。

「……ふう……」

「頑張れ頑張れできるできる絶対できる頑張れもっとやれるって」

「……悠斗くん?」

壊れたのかな? ブツブツと呟く悠斗を見て、茜はしだけ心配する。これ以上、馬鹿になったら流石に不味いよ。

あと四回。

「「やれるやれる気持ちの問題だ頑張れ頑張れそこだ! そこで諦めるな絶対に頑張れ積極的にポジティブに頑張る頑張る」」

……弘君も壊れている。力無いなあ……二人共。

茜は汗だくの二人を橫目に走る。もちろん、彼も汗だくだ。

「「北京だって頑張ってるんだから!」」

北京? まあいいや。何故か中國の首都が聞こえたが、茜は止まらない。真面目なのだ。

あと三回。

「「もっと熱くなれよ……熱い燃やしてけよ! 人間熱くなったときが……本當の自分に出會えるんだ! だからこそ……もっと、熱くなれよおおおおおおおおおおおお!!! 」」

「…………」

あと二回。

「「諦めんなよ、諦めんなよお前! どうしてそこでやめるんだそこで! もうし頑張ってみろよ! ダメダメダメダメ諦めたら。周りの事思えよ、応援してくれる人達の事思ってみろって。あともうちょっとのところなんだから。俺だってこの-10℃のところ、しじみが取れるって頑張ってんだよ! 絶対やってみろ! 必ず目標を達できる! だから! Never give up!! 」」

「…………!」

あと一回。

「一番になるって言ったよね? ナンバーワンになるって言ったよね!? 先ずは形からってみなよ! 今日から君は…一番だッ!! 」

……あれ? ボクは何を……。

呆然と何かを呟いてしまった茜が橫を見ると、こちらも呆然としている悠斗と中島。

「……茜って意外と熱いね」

「えーと……茜ちゃんが一番頑張ってたし、うん。一番だよ……」

「ちがっ……これは……ていうか悠斗くん達が先に……」

茜はしどろもどろになりながらも反論するが、二人は取り合わない。

「いやこの太の暑さにも負けてないよな、茜の熱さは」

「だな。茜ちゃんの熱さで地球がヤバイ!」

「……ぐぬぬ……こいつら……」

意外とノリやすいんだな、とは二人の想だ。

乗せられた茜は汗だくのまま、汗だくの二人を睨みつける。

「まあとにかくお疲れさん。これで最後だし一緒にれようぜ」

悠斗と中島とプール前で合流しそれぞれ、最後の一杯をれる。

バチャン、とバケツから放たれた水がプールへと落ちる。

「…………」

「…………」

「…………」

三人は思わず黙り込み、日のに照らされてきらきらとる水面を見つめていた。

三人のからこみ上げて來るのは達

いつの間にか三人の顔には汗に混じって、しだけ涙が浮かんでいる。

「遂に……やったな!」

「……うん!」

「ああ!」

いつも格好つけている悠斗、最初は冷めていた茜、公園で悠斗を助けなかった中島、バラバラの三人が一つになって作り上げたプール。

だからだろうか?

水面がまるで輝くようにしいのは。

「じゃあ、ろうか?」

「あ……ボク水著持ってないや」

「別にこのままでもいいだろ? 夏だしさ、すぐ乾くよ」

「だな」

「……だね」

三人は走り出し、プールへと飛び込む。水しぶきが大きく上がり、三人に降り注ぐ。

「あー気持ちいい!」

「……だねえ」

「超気持ちいい!」

走り回った後なのもあって、冷たい水がとても心地良い。

三人の顔には笑顔が浮かんでいる。

「そうだ! ちょっとアレ取ってくる!」

何かを思い出した悠斗はそう言うと、プールから上がり、基地へと向かう。

そして、戻ってきた悠斗の手にはビーチボールがあった。

「また、何でそんなものを……」

「この時の為に準備しておいたのさ!」

そう言って悠斗がビーチボールを投げ込む。

「しょうがないなぁ……」

茜はそう呟きながら、中島の方へとホールを高く上げる。

その顔には未だらかな笑みが浮かんでいる。

「中島!」

「応!」

悠斗は上のTシャツをぐと、全力で走り出し、中島の所へと飛び上がる。

中島は悠斗の著水地點に手のひらを上に向けて置き、その時を待つ。

コンクリートブロックを飛び越えた悠斗の足と、中島の手が重なりあった瞬間、中島は思い切り腕を振り上げ、悠斗はそれに合わせて飛翔する。

「滅びよ……!」

高く舞い上がった悠斗はをくの字に曲げ、同じく高く上げられたビーチボールを力の限り叩きつける。

「…………」

凄い勢いで飛んでいくビーチボールはプールに大を開け……

「……三種のカウンタートリプルカウンター、羆落とし」

る事はなかった。

怒濤の勢いで水面に向かうビーチボールは、いつの間にか落下地點にった茜のしく弧を描いた右手により、見事に返されてしまう。

高く上がったビーチボールは悠斗と中島の背後へと飛んでいく。

「なにぃ!?」

「馬鹿な!?」

悠斗はそのままプールへと落下し、中島は後ろを振り向き、慌てて拾いに向かう。

しかし。

ぽちゃり。

けない音を立てながら、ビーチボールはプールを囲むブロックギリギリに著水した。

「……痛い」

「俺も……」

茜はビーチボールを打ち返した手に、悠斗は著水の際に打った腹にそれぞれ手を當て、る。

「普通にやろうぜ」

やれやれといった様子で無傷の中島がビーチボールを拾い、悠斗達の方へと高く上げる。

そのボールを見て、悠斗と茜は顔を見合わせ、深く頷く。

「悠斗くん!」

「応!」

茜は水中で飛び上がり、足を浮かせる。

逆に悠斗は水中へと潛り、その茜の足の裏を思いっきり押し上げる。

「……一人だけ無傷なんてさ、いけないねぇ、いけないよ!」

茜は悠斗の押し上げる手と、完璧にタイミングを合わせ、高く飛び上がる。

「喰らえ!」

そしてビーチボールを中島目掛けて力一杯叩きつける。

その勢いは最初に放たれた悠斗のアタックとそう大差ないものだった。

「「ど~ん」」

落下する茜と悠斗が聲を合わせて、決め臺詞を放つ。

「…………ふっ」

しかし、中島は眼鏡をくいっとやると、自信満々に微笑んだ。

そして、

「羆落と……って――」

中島もまた茜と同じ様に後ろを振り向き、腕を回し、返そうとする。

しかし、中島の目の前にはコンクリートブロック。

そう、中島が居たのはコート……もとい、プールの端だったのだ。

「うげっ!」

ビーチボールは中島の後頭部に命中し、跳ね上がる。

「「まだまだだね」」

悠斗と茜のその聲と同時に、ビーチボールと茜と、それから中島の眼鏡が著水した。

「……初めてですよ……ここまで私をコケにしたおバカさん達は……」

中島はプールに落ちた眼鏡を拾い上げ、呟く。

そして、それと同時に中島の気が大きく膨らんでいく……。スカウターがあればとうに発していることだろう。

「ぜったいに許さんぞ、蟲けらども! じわじわとなぶり殺しにしてやる!」

「「クリ○ンのことかーーーーーっ!」」

気付けば三人は、日が暮れるまで遊んでいた。

……はしゃぎ過ぎて途中でプールの水がなくなった為、主に川で。

その後は山で。

最後に基地で。

……プール作りに時間がかかった為、二時間程度だったが三人にはもっと早くじた。

そして寂しさをじさせる夕暮れの中、悠斗が言った。

「じゃあ、そろそろ帰るか」

「……そうだね」

どことなく寂しそうな顔をする茜。

……いや、それは悠斗と中島も同じのようだ。

「プールどうする?」

「まあ今度の夏休みまでは使わないし、ビニールシート持ってきてかけとくか」

「だなあ」

「えぇ……まさか今日だけの為にあんなに苦労したの……?」

「ま、まあ楽しかっただろ?」

「そ、そうだよ。無駄なことほど楽しいって言うじゃないか?」

「……やっぱ、無駄なんじゃん」

茜の辛辣な言葉に二人は思わず言葉を失う。

やはりこういうのは男にしかわからないのだろうか……。そう考える二人だったが、

「……まあ、楽しかったけどね」

茜は照れたようにそっぽを向き、小さく笑う。

夕日に照らされたその橫顔はとても綺麗で、思わず二人は魅ってしまう。

「で、でしょ!? また一緒に來ような!」

何とか我に帰り、慌てて口を開く悠斗。中島もうんうんと頷いている。

しかし、

「それは嫌」

「えーーーーっ!?」

真顔に戻った茜の殘酷な一言に、二人は大口を開けて驚く。

「あははははは!」

二人のリアクションに茜はお腹を抱えて大きな聲で笑った。

先程の儚げで、綺麗な笑顔ではなく、年相応の可い笑顔で。

◆◇◆

「……じゃあ、俺はこっちだから」

山を降りた所で中島は軽く手を振り、帰っていく。

どことなく寂しげに、そしてしだけ名殘惜しそうに。

「ああ、またな……」

「気をつけてねー」

それを見送る二人もまた、しだけ寂しげに手を振る。

そして、暫くの沈黙の後。

「……じゃ、じゃあ帰ろっか」

「うん……」

二人は夕暮れの街を歩きだし、家へと帰っていく。

「……楽しかったな」

「うん……本當に……」

夕日に負けないほどに頬を赤く染め、しっかりと手を繋いだまま。

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