《異世界冒険EX》悠斗と茜⑦
「「ごめんなさい!」」
俺と茜は二人揃って茜の家の玄関で頭を下げる。
茜のお姉さんと俺のお母さん、それから帰って來ていたお父さんに。
「……悠斗、アンタね……人様の娘さんを……無事に戻って來れたからいいものを……」
「悠斗君、ボイスレコーダーの中は聞いたわ。確かに私達もちょっと茜には酷な事をしたかもしれない……でも……」
二人の説教を聞きながら、ふとお父さんを見るとニヤニヤと笑いながら口をパクパクさせている。
なんだろう?
えーと……き、す、し、た、の、か……。
してないよ! 何か出來なかったよ! チャンスではあったんだろうけれど……。
「で、ボイスレコーダーに理由は俺が聞いとくってあったけど……」
おっと、馬鹿なお父さんの相手をしてる場合じゃない。
「うん。何か言わなかったんじゃなくて一瞬だったし、大丈夫だと思ったんだって。それに俺が平気だったからもう力も消えたんじゃないかって考えてて……」
俺は慌てて説明するが、二人の顔はよろしくない。
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「それじゃ済まないのよ……茜。アンタの力は強力過ぎるの……一瞬だろうと私に言って貰わないと……」
「…………」
お姉さんが茜に諭すように注意し、一方でお母さんは黙っている。
二人がかりは良くないって俺が殘してたからだろう。
「……それで、茜ちゃんには申し訳ないのだけれど、うちの悠斗には近寄らないで貰いたいの」
黙っていたお母さんが、一段落ついた所でとんでもない事を言った。
「何言ってるのさ! お母さん! それに茜じゃなくて俺の方が近づいてるんだし――」
「アンタは黙ってなさい! ……その、悠斗の力に関して調べるのは構いませんが、これ以上接するのは……」
一喝され、思わず怯んでしまった。相変わらず怖い。
でも。
「俺は平気だって言ってるじゃん! もし、茜と遊べないなら俺は……!」
「それは今は平気ってだけでしょ!? もしかしたら急に死んじゃうかも知れないのよ? 次もられても平気って保証はあるの?」
「そうかも知れないけど、そうかも知れないけどさ……俺は……とにかく……」
駄目だ。反論が思いつかない。
……何で俺が平気かわからない以上、お母さんは怖いんだ。
今度、られた時は死んでしまうかも知れないから。
どうしよう……どうにかお母さんを説得しないといけないのに……! ああ、もう! 頭が悪いなぁ! 俺は!
「俺は……その――」
「……ボクも嫌だ……悠斗くんにはらないようにするから! 友達でいさせてよ! お願いします!」
隣で黙っていた茜が俺の言葉を遮り、大きな聲でお母さんにぶ。
くそう……また泣かせてしまった。でも、そうだ。ここはカッコつけてる場合じゃない。
「お姉さん、お母さん! お願い! 俺は、俺はその……茜のことが……と、とにかくっ! 茜と離れたくないんだ! お願いだから今まで通り遊ばせてよ! それから明日の夏祭りも二人で行かせてよ! ついでに學校が始まったら一緒に登校したいです! もちろん下校も! お願い!」
「要求多いわね……」
土下座する俺に、ボソリとお母さんが突っ込んでくる。
「とにかく駄目よ。特にお祭りなんて……他の人も危険に曬しちゃうんだから……」
「じゃあ能力の調査なんて協力しないよ? だって茜と関われないなら無駄だもん」
子供らしく拗ねてみるが、お母さんはため息をつくだけだ。ぐぬぬ。
「……アンタがそうしたいんならそうしなさい。……ごめんなさいね、森羅さん」
「え、それはちょっと、あの、困ります……」
案の定、お母さんには効果は無く、お姉さんに頭を下げている。
……どうやら俺の能力を調べたいのはお姉さんの方で、お母さんはそうでもないようだ。
「…………」
呆気なく卻下された俺は、仕方がないので明日の夜までに茜を攫う計畫を考え始める。
しかし、
「まあまあ、落ち著こう。二人共」
お父さんが俺とお母さんの間に割ってる。
「とりあえず、こんな玄関で言い合っててもしょうがないし、さ」
「あ、そうですね。こちらへどうぞ」
お父さんが片目でウインクすると、お姉さんはリビングへと向かい、俺達にも続くように促す。
図々しいなあ、お父さんは。
それにお母さんの下ろした髪のの先がし逆立っている。
余計に怒らせやがって。
「じゃあ、冷靜に今の狀況とお互いの要求をまとめよう」
そう言ってお父さんは鞄からメモ帳とペンを取り出し、テーブルに置いた。
テーブルを挾んで置かれたソファーには、俺と茜が隣同士に座り、お母さんとお姉さんが対面に座っている。
お父さんは間に立っている。
「今の所、わかっていることは……茜ちゃんにはれた相手を殺す力があり、お姉さんには癒やす力がある。茜ちゃんの力は悠斗には効果はないが、何故そうなのかは謎、と」
お父さんはそこまで書くとお姉さんを見る。
「で、森羅さんとしては今後どうしたいですか?」
「私は悠斗くんの能力を調べ、その効果を知りたいです。茜に関してはこれまで通り、人通りの多いところへは行かない、他人にらない、ってしまったらすぐに私に報告する、以上を守って貰えれば……」
「なるほど、なるほど……」
うーん……あれ? 學校も人の數多いと思うけど……どうするつもりなんだろ……。
まあ今はいいか。學校には通わせてくれるようだし、ヤブヘビは勘弁だ。
「じゃあ、次はするエリちゃん。君はどうしたい?」
ここぞとばかりにヨイショするお父さん。まったく。
……母親がちゃん付けで呼ばれるのは流石に鳥が立った。お母さんも満更じゃない顔してるし。
「……私としては、茜ちゃんには部屋に閉じこもって貰いたいわ。もしくは悠斗だけには近寄らないで貰いたいの」
「お母さん!」
「悠斗。靜かに」
お母さんのあまりの言い草に聲を荒げてしまったが、お父さんに止められてしまった。
そりゃ、お母さんの気持ちはわかるけどさ……そんな……。
「じゃあ、悠斗は?」
「俺は……今まで通り茜と遊びたい。明日の夏祭りも行きたい」
後、出來れば付き合いたいし、デートもしたい。それにキスもしたい。結婚もしたいし、子供もしい。そして最後は一緒に子供と孫に囲まれて、老衰で死にたい。
まあ、言わないけれど。流石に言えないけれど。言える空気じゃないけれど。
「なるほど……茜ちゃんは?」
「ボクも悠斗くんと同じです……」
……その後も同じだったらなぁ。いいんだけどなぁ……。
「ふむふむ……」
お父さんはそれぞれの要求を紙に書き出し、何か考えている。
「……よし! まず悠斗、お前は自分の能力を調べてもらえ。そして、間違いなく自分は茜ちゃんと居ても平気だって証明しろ。それまでは手を繋いだり、キスしたりは止だ」
「まだキスはしてないよ!」
「ほー……まだ、ねえ」
お父さんがニヤけた笑みを浮かべる。このクソ親父め。
隣で茜が真っ赤な顔で下を向いている。くそう、やっぱり基地でどうにか……。
「まあ、俺とエリにとっては悠斗が何で平気なのかわからない、って點が一番問題なんだよ。それさえわかればエリだってある程度は譲歩出來るだろ?」
「まあ、そうね」
「森羅さんだって悠斗の能力がわかればいいですよね?」
「はい。ただ、夏祭りは……」
「エリとあなたも行って注意しておけば大丈夫でしょう。もちろん、私も行きますし」
お姉さんはあくまで夏祭りには反対のようだが、そこは折れて貰わないと困る。俺が。
ただ、それでも保護者同伴になるのかよ……。それじゃあ、俺のプランが……。
まあ花火のタイミングまでに、こっそり逃げればいいか。
「わかりました……」
渋々と言った様子だが、お姉さんは折れてくれた。
……そんなに俺の能力が気になるんだろうか?
「じゃあ、そういう訳で今日の所は解散でいいですね?」
「はい。ご迷お掛けしてすみません」
「いえいえ。うちの息子の事でもありますし」
結局、お父さんのおかげでそれなりに良い形にまとまった。
「……ありがと」
「ま、頑張れよ」
小聲で謝の言葉を伝えると、お父さんは俺の頭にポンと手を置き、でる。
茜の前でしだけ恥ずかしいな。
「あの、明日はよろしくお願いします」
「あ、うん。こちらこそよろしくね」
明日は朝からお姉さんの所に向かう予定だ。そして、出來れば夜までに俺の能力が何かハッキリさせたいところだ。
「じゃあ、また明日ね」
「うん。また」
茜と別れるのは名殘惜しいけれど、家族三人で家を出る。
そして、その帰り道。
お母さんが俺の手を握り、呟く。
「あのね、悠斗。……お母さんの事、嫌いにならないでね」
「……うん。わかってるから」
はぁ。
わかってるから辛いんだよなぁ。どっちの気持ちもわかるから。
くそ。何であんな優しい茜にあんな能力があるんだ……。理不盡だよ……。
「俺は……お母さんも、茜も……ついでにお父さんも、皆好きだよ」
「おいおい、ついでかよ」
お母さんとは逆の手で、お父さんの手を握り、俺は家へと帰った。
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