《異世界冒険EX》平原での戦い②

「終わりだな」

そう呟くゴートの仲間であるバッドによる剣での攻撃に押されているフロリア。

バッドはこの世界では珍しい、剣も扱える魔法剣士だ。

だが、凄腕という程でもない。それこそ技量だけなら、フロリアの方が上だろう。

「っ……!」

だが、そもそもレイピアはあまり防に向いた武ではないのだ。

実戦では片方にけ流しの為の武を持つはずだが、魔法を使うこの世界では左手は空けておかないとならない。

その上、フロリアの顔も良くない。脇腹からの出のせいだろう。

「何を遊んでるんだよ! 回復魔法を使えばいいだろ!」

ゴートが魔法を発しようとしているのを見て、慌ててフロリアの所へと走る悠斗。

その悠斗に數瞬遅れて、ゴートがカードにタッチし、黒い巨大な球が放たれる。

「うえ……強そう」

悠斗が思わず呟くほどに、その球は異常な何かをじさせた。

闇屬魔法ダークリベンジャー。

込めた魔力に今までけたダメージをプラスして放つ闇屬の上級魔法だ。

一度使用するとリセットされるが、ゴートはフロリアを倒す為にここ數年使用していなかった。

數年分のダメージがプラスされ放たれたそれは、今のフロリアには到底防げるものではない。

そして足止めしていたバッドがそれを確認し、フロリアから離れる。

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「……やるしかない、か」

悠斗は何とか魔法よりも速く、フロリアの前に辿り著き、創造魔法を発する。

ちなみに固有魔法はカード化出來ない。だがその代わりカードを出されていても制限をけない。

この世界の仕組みとは別の出所の魔法だからだ。

「頼むぞ……」

創造するのはジークの盾。

魔法減退効果が付加されており、もともとの素材もドラゴンのブレスに耐えれる程のもの。

悠斗はしゃがみ込み、全を盾に隠しながら盾を斜めに構える。

その數秒後、暗黒の球が盾に衝突した。

「っぐぬぬぬ!」

凄まじい衝撃が悠斗を襲う。バラバラになりそうなを何とか堪えさせ、終わりを待つ。

強化魔法を使用していなければ、すぐに潰されていただろう。

「ぬぬぬおおおららあああ!」

「……マジかよ」

ゴートの呟きと同時に、暗黒の球は盾をり、上空へと消えていった。

普通の盾であれば簡単に破壊され、悠斗もフロリアも無事ではすまなかった。

悠斗の額に浮かんだ大粒の汗は、決して伊達ではない。

「っはあああ……手も肩も足も全が痛い。もう……何やってんのさ? フロリア」

悠斗はしだけ口を尖らせ、フロリアに言った。

あれだけ自信満々にしていたのだ、文句も言いたくもなる。それに力量的にも勝てる筈なのだ。

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しかし、

「……あんたのせいでしょうが! 戦闘中に神の指使うなら言いなさいよ! 斬り合いの中でモーニングスターやら逆刃刀やらのイメージが浮かんで來てまったく集中出來ないのよ! そのうえモーニングスターはみどろで変なものついてるし!」

怒濤の勢いで逆に怒られてしまう。

そう、フロリアの神の指と悠斗の神の指はリンクしているのだ。

「あ……ごめん。忘れてた」

「ま、いいわ! さっき助けてくれたのだからチャラにしてあげるわ!」

「でも、元々この戦い自、フロリアが原因じゃ……」

「はあ!?」

「いや、なんでもないです」

「ま、でもいいタイミングで來たわね。私一人で十分だと思っていたけれど、ちょっと手伝いなさい」

「それはいいけど……俺もカード出されちゃったからあんまり協力できないかも」

カデュがカードを出している以上、悠斗もカードを出したままだ。

その狀態での戦いは悠斗には厳しい。

一度、神の指に戻し、防魔法をすり抜け後、手に再び取り出す事で相手のガードをすり抜けるびっくり技ももう使えない。

細かいところまでは神の指の存在が知られていない以上、バレていないだろうが、防げた時と防げなかった時の違いを考えれば対策は簡単である。

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そして、そんな狀態の悠斗の遠距離での闘い方は限られている。

弓や銃などの遠距離系の武を創造し、使うしかない。

だが、それらの武は風魔法に対して相が悪すぎる。

やはり魔法を覚えないとカード戦ではどうしても不利になってしまうのだ。

「大丈夫よ。あんたの仕事は一つだけ。私に魔力を注ぎなさい」

「……え? そんな事しても無駄なんじゃないか? 俺の魔力は俺にしか使えないんだし」

「普通はそうね。ま、いいからさっさとしなさい。私のとっておきを見せてあげるから」

フロリアはそう言うと、正面に手を向ける。

「流すよー」

とりあえず言われたとおりに魔力を流してみる流されやすい悠斗。

「…………なるほど」

悠斗が魔力の流れを見ていると、彼自の魔力が徐々に変化し、フロリアの魔力と混ざっていく。

簡単に言うと悠斗の魔力がフロリアの魔力へと変換されている。

「行くわよ! 混合魔法<<CHAOS>>」

殘されていた手札の五枚、その全てを同時に発し、巨大な一つの球を作る。

混合魔法とは複數の魔法を混ぜ合わせ、放つ魔法だ。

今回は、四種の攻撃魔法や付加魔法に加え、CHAOSのカードを使うことで発する一撃だ。

それに悠斗の魔力を混ぜ合わせる事で、更にえげつない事になっている。

実はこの魔法を発すれば勝てる自信がフロリアにはあった。

だが、悠斗が來るまではいつ神の指で邪魔されるかわからない為、使えなかったのだ。

集中がれてしまえば発は出來ても、制が上手くいかず、自滅してしまう可能がある。

もしも、悠斗が來るのがもうし遅ければフロリアは死んでいたかもしれない。ある意味、カデュに謝である。

「あれはやべえぞ! おい!」

ゴート達がフロリアの魔法に気付き、バラけてこちらへと向かってくる。

その表は鬼気迫るの一言である。

彼らは初めてみる魔法だが、その練りこまれた魔力を見ればどれだけ危険なものかはわかる。

邪魔する為に攻撃魔法を発するが、悠斗の盾によって簡単に防がれてしまう。アイギスの攻撃を防ぎきった悠斗を舐めてはいけない。

當然、ほとんどの観衆は一目散に逃げ出し、殘されたのはゴート達と悠斗とフロリアだけだ。

そしてだんだんと大きくなる球を見て、悠斗もまた表を強張らせる。

こ、これ暴発したら俺達も死ぬんじゃ……。悠斗の脳裏に最悪の景が浮かぶ。

バッドが辿り著きフロリアに斬りかかるが、それも悠斗が逆刃刀を使いけ流す。

近距離での戦いで今の悠斗に勝てるのは、そうはいないだろう。

たとえ心ここにあらずの狀態だろうと。

「終わりよ。死になさい……!」

フロリアが上空へと球を放つ。

それと同時に座り込むフロリア。流石に魔力切れ寸前のようだ。

「まてまてまてまっまっままmちrにめれmれあ!」

その様子を見て悠斗は走った。力の限り走った。フロリアを抱えて。

こんな狀態で発した魔法の制ができるはずが無い。そう考えたのだ。

しかし、

「ちょっと……大丈夫よ。アンタが時間を稼いでくれたから、安定化まで終わったわ。もう制は必要ないわ。狙いは指示する必要はあるけどね」

フロリアが額の汗を手で拭きながら呟く。

確かにその言葉通り、球は空中に浮かび上がるとゴート達にだけ夥しい數の魔法の弾丸を浴びせだした。

その魔法の屬は通常のどれでもなく、複數の屬で構された新しい魔法だ。

雷を纏った巖や、水を纏った炎、通常では考えられないような魔法が次から次へとゴート達を攻撃していく。

その名の通り、混沌と言った魔法のようだ。

ゴート達も必死にカードを発し、複數の防魔法を発しているが、そのどれもが一瞬で壊されていく。

「っぐうう!」

まずはゴートの左腕が消し飛ぶ。

これで左腕をなくしたゴートには、もうカードを発する事ができない。

次はバッドだ。

魔法剣士とはいえ、もともと魔法的な素養があまりないバッドはすぐに魔力が盡きてしまった。

「ぐああぁああ!」

バッドは両腕を消し飛ばされた。

次にファウルに集中砲火が始まる。

攻撃魔法のカードが多かった彼は、攻撃魔法による防を行っていた。

が、攻撃力が低い代わりに速度が異常に早い魔法。その魔法の速度で落ちてくる炎の巖を誰が防げるだろうか。

ファウルの左腕が千切れ飛ぶ。

最後に殘ったのはカデュだ。

「い、嫌だ! 嫌だぁ!」

彼は防魔法や回復魔法が得意な為、當然カード化している魔法もそれ系統が多い。

もしもそんな彼が、もっと要領がよくけていれば他の三人を回復させたりしながら、もうし粘れていたかもしれない。

しかし、彼は小心者だった。

とにかく、自分を守ろうと防魔法をどんどん発し、回復魔法も自分にだけ使った。

しかし、彼の魔力もいずれは盡きる。

彼もまた左腕を消し飛ばされた。

「っくそがああああ!」

「ああああああ!」

「ぐおおおぉぉ!」

「痛い! 痛いよ! やめてくれえええええええ!」

もはや誰一人防ぐ事が出來ず、それでも止まらない攻撃の中、四人の斷末魔が響き渡る。

えげつないフロリアにしだけ引いている悠斗が違和に気付く。

「あれ……あのシフォンだったっけ? いなくない?」

「あら? 本當ね」

荒れ狂う攻撃のドサクサに紛れ、いつの間にかシフォンが姿を消していた。

フロリアは次の標的である彼を探したが見つからず、やむなくそのままゴート達に集中砲火を浴びせた。

「……えげつねぇ」

悠斗が苦い顔で呟くが、フロリアは素知らぬ顔で攻撃を続ける。

そして、悠斗の方を振り向くと呆れたように口を開いた。

「もう一度言っておくけれど、勇者を倒し、人間の數が減るように仕向けるのが今回の任務よ? 間接的な大量殺人と変わらないわ」

「ぐぬ……それは……」

「それに、さっきジークもレオナも殺してなかった?」

「え? いや、あれは死んでないはずだよ。俺が創造してるのはアイギスとの修行で使った非殺傷効果のある武のはずだし」

「なっ!?」

それを聞いたフロリアは悠斗が倒したはずのジーク達のほうを見る。

「呆れた……。見なさい」

「え?」

そこには無傷のジークとレオナ。

そして魔力が切れたのか、座り込んでいるシフォンがいた。

「えええええっ! それアリかよ!」

「あんたさあ……學習しなさいよ。回復魔法があるんだから殺すしかないの。わかった?」

そう言ってCHAOSの狙いをジーク達に変えるフロリア。

ゴート達がいた場所は既にただの大となっており、ゴート達のは完全に消え去っていた。

「待った! もうシフォンも魔力切れみたいだしさ――」

悠斗が慌てて止めようとした時には、既に集中砲火が始まっていた。

容赦の無い攻撃に悠斗の顔も更にひきつってしまう。

「……元仲間だろ? しは、その、溫っていうか……」

「……わかってるわ。殺しはしない。ちゃんと見なさい」

「え?」

そう言われ良く見てみると、ジークの盾がフロリアの魔法を弾いている。

しかし、その余波や衝撃で徐々にダメージは蓄積しているようではあるが。

「あとは……」

とはいえ、盾を構えているのは人間だ。衝撃が手を痺れさせ、いずれは持っていられなくなるだろう。

後ろのレオナも防魔法を発しているが、無數の魔法の弾丸の前には紙のようなものだ。

カウンター系の防魔法も発していたが、そのカウンター攻撃も更なる攻撃により打ち消される。

この魔法を防ぐ手段は彼らにはなかった。

「じゃ、悠斗。あいつらを橫から毆って気絶させてきなさい」

そして、未だに抱かれたままだったフロリアはやっと自分の足で立つと、笑顔でそう言った。

「……俺に死ねと言ってるのか? 防魔法ふら持ってないんだぞ? この魔法の雨の中じゃ死んじゃうに決まってるでしょーが」

悠斗は真面目な顔で反論する。確かにその通りだが、一つだけ彼は忘れている。

「さっきジークの盾使ってたじゃない」

「あ、なるほど」

「……はあ」

呆れてため息をつくフロリアだが、良く考えてしい。

悠斗はまだ九歳なのだ。多、馬鹿でもしょうがないというものだ。

それに修行の七十年を足したとしても、今度は七十九歳だ。多、頭の回転が鈍くなっても仕方ないだろう。

「<<強化魔法 ALL  UP   LV.2 >>」

悠斗は再び強化魔法を発し、全ての能力を二段階上げる。

覚が研ぎ澄まされ、あんなに速くじたフロリアの魔法も……やっぱりまだ速い。

「うう……戦爭かよ……」

それでも、避けれないものは盾で弾きながらジークたちに近づいていく。

それをけてレオナが迎撃の魔法を発するが、単発の魔法じゃ今の悠斗には當然當たらない。

「くそっ!」

ジークも攻撃しようとするが、右手で盾を構えているため、カードを生することが出來ない。

慌てて左手に持ち替えようとした瞬間、一気に距離を詰めた悠斗がカードにタッチした。

「大人しく寢ていなよ」

神速の斬撃がジークを襲う。悠斗がタッチしたのは二枚、橫薙ぎと振り下ろしの二連撃。

「……っ!」

ジークのこめかみと後頭部に衝撃が走り、ジークは聲を出すことも無く倒れる。

「……よし」

その瞬間、フロリアは狙いを上空に変える。

しかし、當然ギリギリ打ち出された分の魔法がジークたちへと襲いかかる。

「ぐぬぬっと!」

悠斗はジークの盾でそれを防ぎつつ、カードをタッチする。

ナイフで襲いかかろうとしたレオナに、悠斗の後ろ回し蹴りがヒットする。

「くっ!」

「何で邪魔するかなぁ」

何とか堪えたレオナだが、フロリアの魔法を防ぎ終わった悠斗の続く攻撃にあえなく沈められた。

「………ふう」

二人が倒れ、殘りの一人も魔力切れでけない。

「私の勝ちね!」

フロリアが勝利の聲と共に祝砲とでも言いたげに、派手な攻撃を上空に打ち上げる。

と炎と雷か。花火みたいだ。

……茜に會いたいな。

「ごめんね」

仕方ないことだが、の腹部を三度も攻撃してしまった悠斗は、しだけ罪悪じ謝罪する。

そして三人を創造魔法で創造したロープで縛りあげ、強化魔法を解除し、座り込んだ。

悠斗の魔力もギリギリだった。

「はあ……疲れた。これもっと強いはずの勇者なんて倒せるのかねえ」

でも、倒さないとな。悠斗はそう考えながら大の字に倒れこみ、空を見上げた。

「……いつまで続くんだアレ」

未だに続いてるフロリアの魔法を見て、なるべくフロリアとは敵対しないようにしようと誓った悠斗。

「………」

そして、それと同時にフロリアと一緒なら倒せるかもしれない。そんな風にも思っていた。

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