《異世界冒険EX》はじめてのいらい②
「薬草取りと言うと簡単に思えるかもしれませんが當然、簡単ではありません」
「そうなの? 風魔法でガーとやれないの?」
メアリーに連れて來られた草原。確かにエツメ草とやらが大量に生えている……ようだ。
よく考えたらエツメ草とやらがどんな草なのか知らない。どれもこれも同じに見えるし。
そう言った所、呆れた表で案されたのがここだ。
だからきっとここの草がそうなのだろう。
「……はぁ。ちゃんと依頼書は読みましょうよ」
「え?」
「も必要なんですよ。だから風魔法でガーなんて不可能です」
……そうか。草刈り機みたいな真似は出來ないのか。
「ですが、風魔法を上手に使えば楽に採取可能です。ガーとはいけませんが」
「上手に?」
「ええ」
そう言うとメアリーは手を前に出し、風魔法を発する。
小さな竜巻が巻き起こり、薬草をごと引き抜き、ポトリと落とす。
「ポイントは力加減です。葉も必要なので間違っても切り裂かないように」
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ドヤ顔でそう告げるメアリー。ふむ、攻撃魔法ではないということか。
「じゃあまずはカードを使って、風を生み出す覚を摑みましょう」
「わかった」
早速無地のカードに風魔法を寫し、タッチする。
途端に小さな竜巻が巻き起こり、薬草を吹き飛ばす。
これじゃ駄目なんだよな……もっと優しくだから……。
「どうです? 出來そうですか?」
「んー……多分」
「え?」
風って考えるから難しいんだな。風ってのは要は空気のきだ。
なら魔力で空気を押してやれば……。
「風魔法……!」
途端に突風が巻き起こり、メアリーのメイド服のスカートをフワリと浮かせる。
「…………」
「…………」
狙った訳ではない。本當だ。
だが、メアリーの表から察するにこちらの言葉に耳を傾けるつもりはなさそうだ。
「……最低です」
うっ。ポツリと呟かれた言葉は思ったよりも効いた。
お腹にズシンと何かが落ちてきた。
「わざとじゃないんです!」
「どうでもいいです」
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メアリーは俺から五十メートルほど距離を取っている。
大聲を出さないと聞こえない距離だ。だと言うのにいつもと変わらない聲で喋るメアリー。
何と言ったのだろう。
「とりあえず私の方でエツメ草は採取するので、そっちも発は出來たんですから頑張ってください」
「……むう」
なんとなく聞こえたが、どうやら別々で頑張ろうと言っているようだ。
……仕方ない。落ちた評価は上げればいい。頑張って風魔法を制出來るようになろう。
「……さっきの力であれだったから、今度は方向を渦を描くようにして……」
◆◇◆
「出來た!」
「え?」
五分ほど掛かってしまったが、ようやく風魔法でエツメ草をごと取れた。
コツは摑んだからあと數回やれば、何個か同時にも出來そうだ。
あ、ていうか出來た。一つ目の竜巻を作しながら二つ目も作り出せた。
それぞれをり、二倍の速度でエツメ草を採取していく。
「……噓……ホントに出來てる……」
メアリーはこちらに近づくとポツリと呟く。よしよし。これて評価アップだな。
「しかもこんな……いくつも同時に……継続時間も…………」
うんうん。なかなか難しかったけど、こんなものだろう。
「こんなの……やはりあれは故意だったんじゃ……」
ん? 雲行きが怪しいような……。
「絶対そうだ……こんなの練習して五分で出來る筈がない……やっぱりユウトさんは元々風魔法を……最低だ……」
再び距離を取りだすメアリー。そんな馬鹿な。
「ち、違うって! 誤解だよ! ほらステータスにも表示が無いでしょ!」
そう言ってステータスを呼び出し、浮かび上がった金の板をメアリーに見せる。
名前:神木 悠斗
別:男
種族:人間
職業:小學生
レベル:153
力:18000/18000
魔力:35000/37000
理攻撃力:12000
理防力:12000
素早さ :30000
魔法攻撃力:49000
魔法防力:30000
運 :1000
スキル 武 格闘 強化魔法 風屬魔法
固有魔法:創造魔法
「……やっぱり」
「なんでだよおおおお!」
金の板には新たに風屬魔法の文字が刻まれていた。
ちょっと使える位じゃ刻まれない筈なのに。噓だろぉ。
「本當にわざとじゃないんです」
「…………では、次は土魔法を覚えて下さい。また五分程度で覚えられたなら信じましょう」
「わかった!」
再び無地のカードに土魔法のカードを寫し、タッチし発する。まずは覚を覚えないとね。
「…………は?」
隆起した地面がメアリーのスカートを押し上げる。
今度はバッチリと白いパンツが俺の目に飛び込んでくる。
「…………」
「…………」
無言で二百メートル程離れていくメアリー。
……駄目だ。今日はどうもそういう日のようだ。
今日の十二位は魚座のあなた。何をやってもダメダメな日です、というやつだ。
「……それでも覚は摑めたけどね。土を変形させるというよりも、魔力で新たに作り上げるじか。創造魔法に近いな」
コツを摑んだ俺は土屬の魔法も五分程度で覚える事が出來た。
その間も當然風魔法での採取は続けており、既に創造魔法で作り出した袋は一杯になっている。
よし。これだけあれば充分だろう。
「メアリィィー!」
大聲で呼ぶと、メアリーは顔を上げこちらを見る。
「そろそろ終わりにしよう!」
そう告げると、メアリーはゆっくりと近づいてくる。
足元を警戒しながら。
何も仕掛けてないっての。
「ちなみにだけどさ、どこか安全に泊まる事が出來る所ってある?」
「…………ギルド直営の宿屋なら」
「あるならいいや」
長い沈黙がしだけ気になるが、あるなら魔力ギリギリまでやってもいいだろう。
「創造魔法っと」
集めた薬草がった袋をもう一つ創造する。
これで倍だ。一袋大一キロ位だから……これで二キロ。つまりは二百ポイント。
「……ズルいですね」
「しょうがないだろ。地道に採取してる時間は無いんだから」
「まあそうですね」
メアリーはもの言いたげな目で見てくる。
が真面目な気質なんだろうな。なんだかんだで俺を目視出來る位置に居たし。
「三キロ、四キロ……」
どんどん創造していくが、思ったよりも魔力の消費が大きく、創造出來たのは三十キロ分だった。
これで魔力ギリギリ。だいぶがダルい。
「……で、これどうやって運ぶんですか?」
「これでだよ」
「指?」
神の指を見せ、答える。
が、よく考えたらまたフロリアに連絡無しで収納する事になるな。
これではまた怒られてしまう。
……うーん。先に紙で連絡してみようか……。
(その必要はないぞ! 私の方で連絡しておこう!)
ん? ……誰だっけ……?
えーと……あ、そうだ。この世界の神の……確か……。
(アッサリだ!)
(……何が?)
(え?)
(まさかとは思うけど私の名前じゃないよな!?)
(…………アタリマエジャナイカー)
え? 違ったっけ。どうしよう。ていうか何で今になって……。
にしても名前……か。なんだっけ。
(……私の名を言ってみろ)
(ジャ○様!?)
……近くはあるはずなんだよなぁ。アッサリではないみたいだけど……えーと、アッサリ……アサリ……あ、そうか!
(アサミだ!)
(誰だよ!)
……違った。じゃあ……
(アサ――)
(アッサムだ!)
…………。
……いや、何か人名っぽくないんだもん。あ、人名じゃなく神名か。
(とにかく、フロリアには私の方から伝えておくから、気にせず使え)
(フロリアと俺とで直接通信は出來ないんですか?)
出來ればだいぶ楽になるんだけれど……。
(……無理だ! その為にはそれぞれの座標の位置の把握に加え、それぞれの意識の波長を同調させ、安定化させる必要がある! ……私はそういう細かいことは苦手だ!)
(脳筋か……)
あ、しまった。思わず心ではなく思考に出てしまった。
て、訂正しないと。
(……ちょっと稽古つけてやるよ!)
◆◇◆
視界が揺らいだ一瞬後、目の前にアッサムが仁王立ちで立っている。
やべえ……。遅かったか。
「強化魔法でも何でも使っていいぞ」
「ちょっと待ってください。さっきのは――」
「問答無用だ」
あーもう。何で神は話を聞かない奴が多いんだよ! まぁ二人しか知らないけどね!
「ほう。強化魔法は使わないのか? ずいぶんと余裕だな!」
「魔力切れ寸前なんですよ!」
軽く振るわれた拳を逆に摑み取り、そのまま投げ飛ばす。
「それは無茶だろ」
しかし、當然というか何というか重い。に言う訳にはいかないけれど重い。
何これ大仏か何かかよ。
「きは悪くないな。流石アイギス様に鍛えられただけはある」
結局簡単に振りほどかれ、距離を取られてしまった。
どうしたものか……。
「次は防力だな」
「っぐ!」
一瞬にして、目の前に詰めてきたアッサムの右拳が俺の腹部にめり込む。
いや、普通に死ぬ。
骨やら臓やら筋やらが悲鳴を上げている。
「いな。もうちょい気合れないと死ぬぞ」
「気合れてても死ぬって……!」
「しょうがないな……。ほら、回復だ」
アッサムが軽く手を振ると、折れて刺さって潰れてのぐちゃぐちゃの腹部がものの見事に回復する。
…………。
「……ちょっと本気出します」
めちゃくちゃ痛かった。アイギスから拷問けてなかったら、痛みで死んでいるぐらいに。
左手にはけの為の短剣、右手には日本刀。
更に、
「……<<ALL UP LV.7>>」
「魔力切れ寸前じゃなかったっけ?」
今出來る最大限の強化を施す。當然だが、使うのはアイギスとの修行以來だ。
全魔力を持ってしても、數秒……しは長しているから十秒ってところか。
「…………!」
「あ、ちょっ!」
聲を発することもなく、瞬時にアッサムの背後に移し斬りつける。
一撃、ニ撃、三撃……。
場所を変え、角度を変え、幾度となく連撃を加える。
が、
「…………駄目、か」
斬りつけた筈の刀が空振った。何故かと刀を見ると刀が折れている。
反則だろ。あの筋。合金か何かかよ。
そして魔力切れだ。流石にこれ以上は不自然だからな、止めておこう。
「參りました」
諦め、大人しく頭を下げるがアッサムはかない。
よく見るとと間を抑え、顔を赤くして立っている。
「助平だとは聞いてたけど……まさか私まで狙ってたなんてね……!」
ほぼ全で。
微妙に殘った服はただの布切れになっていて、本來の役目を果たせていない。むしろ逆にエロい。
「ち、ちょっと待ってよ! ちがっ! 狙ってやった訳じゃないって! 大誰からそんな噓聞いたんだよ!」
慌てて目を閉じ、弁明する。何か今日こんなのばっかりだ。
「そりゃ……」
「アイギスか」
よく考えたら犯人は明白だった。
あの糞神めええええ。なんて噂広めてやがるんだ。
「他の神にも注意するよう伝えに行くって言ってたぞ。……まさかとは思ってたけど……本當だったんだな」
「だから違うって! いやほら大俺小學生だし!? 子供だよ!?」
「七十年も修行してて何が子供だ、この助平ジジイ」
アッサムがそう言うと同時に、パチンと何かの音がする。
「誰が助平ジジイだよ! 大俺は全とか直接的なエロよりも、下著とかの間接的なエロの方が興――」
と、そこまで口走った所で風の音が耳にる。
おかしい。神の空間には風は流れていないはずなのに……。
と、目を開けた俺。
その俺の前にはメアリーが立っている。
「…………………………」
しかし、メアリーは侮蔑の視線を俺に向け、無言で姿を消してしまった。
え? 瞬間移? ていうか俺はどうすれば……。
もうマジで今日はアンラッキーデイだ。
青臭い匂いのする草原で、俺は一人立ち盡くす事しか出來なかった。
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