《異世界冒険EX》魔王③

「なっ!?」

「……相手の魔法を覚えたのはお前たちだけだと思ったか?」

「くそっ! よりによって……」

スレイの返事をけ、斬り掛かった俺の刀をけ止めたのは、槍を構えたノードだった。

いくつか火傷や裂傷を負っているが、戦闘に支障がある程でもないようで、相変わらずの無表も健在だ。

他にも勇者を囲むようにカーラ、スフィリア、アロードが立っている。

どうやらメアリーと同じエリアテレポートを使い戻ってきた後、今の今まで明化で隠れていたようだ。

「……何でスレイが転移先で待ちけていた事を知っているのかと思ったけど……」

「僕たちが教えたからに決まってるじゃん。この裏切り者」

「ユウト、メイド服を著てお姉さまと呼びなさい。そうしたら許してあげるから」

アロードは顔を顰めてこちらを睨みつける。カーラはいつも通り何かほざいている。

それにしても裏切り者、か……。

「まあ、待ち構えていたのが分とは思わなかったけどね」

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「スフィリアからの報でな、気づいた」

「でも、魔王が分だって気づけたのは僕のおかげだよね」

そう言って自分の服をアピールするアロード。あれだけのを浴びたというのに今は染み一つない。

水で誤魔化したつもりだったが、バレてしまったか。

「さてと、こうして僕たちが揃った以上君たちに勝ち目はないわけだけど?」

「それはどうかな?」

確かに狀況はこの前の勇闘會と同じに思える。だが、

「今回は私が萬全なのよ? 負けるのはあなた達の方よ!」

ってきたフロリアが、を張りながら指差す。

更に、

「今回は私も戦えますしね」

「僕達もね」

「…………」

メアリーやアルフ、エレナも堂々とした態度で俺の近くへと歩いてくる。

が、

「……俺は戦わないぞ。もともと協力はここまでだったはずだ」

「私達もね」

「……うん」

フロリアの元仲間の三人は部屋にはらず、しかし帰ることもせず、立っている。

勝ち馬にでも乗るつもりだろうか。

「おい! 私を無視するな! 私は魔王だぞ! それにお前らはユウトの側から離れろ!」

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上空からの一撃以降、空気だった魔王が慌てて俺の後ろへと降り立つ。

翼は黒いとなって消え、目の前の勇者パーティーを睨みつけ、その後俺の隣にいたフロリアとメアリーを警戒するように唸る。

「あら? 私がどこに立とうと文句を言われる筋合いはないはずだけれど?」

「貴様……!」

だがフロリアは挑発するように、俺の左腕に自の腕を絡ませてくる。

マジでやめてしい。今は割とシリアスなシーンなのだから。何でそんなに無駄に敵を作るのか。

「…………」

更にそれを見たメアリーまでもが俺の右腕に絡んでくる。

記憶を取り戻したあとに行った模擬戦以降、メアリーの俺に対する態度がおかしい。

何かした覚えはないのだけれど。

しかも……くそう。フロリアと違って微妙に腕にじるが俺の意識を奪う。

今は目の前の事に集中せねばならぬというのに。

「……この人數で暴れては城が壊れるな」

「一対一の勝ち抜き戦にでもするか?」

「それも面白そうだがその前に……質問がある」

出來ればこっちは急造チームである以上、集団戦は避けたいのだが、流石に上手くはいかないか。

案の定、スレイは軽く流しながら魔王を指差し、口を開く。

「何故魔王と協力している? いつ魔王と知り合えたんだ?」

「…………それは」

スレイ達は魔王が半年の周期で生まれると言っていたが、それはアッサムがそうしていただけに過ぎない。

魔王との共闘計畫をアッサムに持ちかけた時點で、次の魔王を生み出してもらい、時間を作っては模擬戦や流を重ねた。

おかげで妙に懐かれてしまったが、それでも共闘する上で必要な事だったと思う。

とまぁ、別に答えてもいいのだけれど……。

「それに答えても俺に得はないんだけど?」

「ん……そうだな。じゃあ、さっきの提案を飲んでもいい」

「個人戦での勝ち抜きか?」

「ああ」

「別にあれは冗談のつもりだったんだけど……」

「噓をつけ。それに、だ」

スレイは橫に立っているアロードの頭に手を置き、ニヤリと笑う。

……ちょっと前に見た笑顔とは違う種類の、悪そうな笑顔だ。

「俺たちは逃げてもいいんだぞ? アロードのエリアテレポートでな」

やはり気づいていたか。

まさかエリアテレポートを覚えてるなんて思わなかったから、俺もつい言ってしまった。

俺がスレイを殺さないといけないことを。

「……わかった。答える。だから逃げるのはナシだ」

「約束しよう」

(いいよな? アッサム)

特にアイギスからも注意されていないし、大丈夫なはずだが、一応神に確認を取る。

報連相は大事だ。

(まあしょうがないな。逃げられるよりはマシだろうし)

(居場所のサーチが出來ればもっと簡単だったのになぁ)

(だからそういうのは苦手だって言ってるだろう。それよりさっさと片づけろ。もう気持ちの整理は済んだだろ)

(……まあ、ね)

「よし、じゃあ……」

アッサムに確認を取った俺は左を向き、告げる。

「フロリア、頼む」

「はぁ?」

「いや、その、あんまり詳しいことは俺わかんないし」

フロリアの冷たい視線に思わず言い訳してしまう。

いやだって魔王の事を説明するなら、必ず神や世界についても説明しないとならなくなるけれど、俺はその辺はちょっと自信がない。

スレイを殺さないと世界がヤバイみたいな事は覚えているけれど……。

「…………」

スレイもまたもの言いたげな視線を俺に向けてくる。

仕方ないだろ。もう二ヶ月以上前の話だし。

「ユウトってあんまり頭は良くないよね。忘れも激しいし」

「作戦とか計畫とか人を貶めることだけはそれなりに考えれるのにねぇ」

アロードとカーラがわざと聞こえるように話している。

きっと俺の神に揺さぶりをかける為だろう。うん。傷ついてなんかいない。

「……しょうがないわね」

フロリアが大きなため息をついて、説明を始める。

「……その、ユウト! 私はしアホの方が好きだぞ!」

「そっか。ありがと」

まさか魔王にめられるなんて。まあ、めつつ微妙に攻撃されてるんだけど。

流石は魔の王。

◆◇◆

「……なるほど、な」

「どれだけ罪深い存在かわかったかしら?」

改めて聞くと理不盡な話だ。人類の生存の為に頑張っているとも言えるスレイ達を殺さないといけないなんて。

それにフロリアは罪深いだの言ってるが、街での事はともかく魔王を倒すのはこの世界の人間なら當然だ。

というか、話を聞いていて一つ気づいてしまった。

「あのさ、これもしかしてスレイ達が魔王倒すのやめれば解決じゃね?」

スレイ達も自由になるし、魔王が適當に人類滅ぼしてればいい訳だし。

「駄目よ」

「駄目だな」

しかし、フロリアからだけでなくスレイからまで反対されてしまった。

「え? 特に問題ないと思うんだけど……」

「コイツは私達の両親の仇なのよ? アロードはアルフ達のご両親の仇だし」

「ま、そういう事だ。それに俺たちにも目的はある。その為には魔王は存在してはならない」

「目的……?」

「ああ。夢と言ってもいい。だが、まあお前たちにはわからないだろうから言うつもりはないがな」

「…………」

そう言われると気になるな。

魔王が存在してはならない、大人を殺す、奴らのやっていた事を考えればわかるはずだけど……。

「……それより今回俺達が勝った場合、俺を殺すのは諦めて貰うぞ。じゃないとお前たちを殺すしか無くなるからな」

「……わかった。だけど……」

「俺は殺さないといけないんだろ? 理解している」

……スレイは凄いな。自分が負ければ殺されるのに、俺達の事は殺そうとしないなんて。

それなのに何でフロリアの両親や、他にも沢山の人を殺したんだろうか? 理由がないとは考えにくいが……。

「ま、僕としてはユウトにだけは裏切りの代償は払ってもらうけどね。ほんと……信じてたのに」

「ごめん」

アロードが冷たい目で俺を睨みつけている。最初の出會いの時よりもずっと、強く敵視しているみたいだ。

…………はぁ。

「じゃあ、始めるか」

「ああ」

そう答えて俺はみんなを集める。

スレイも同じようにになり、順番を決めているようだ。

さて、と。

「じゃんけんでいいか?」

「ま、そうね。誰がどこで出てくるかわからない訳だし」

俺の提案にまずフロリアが賛し、他のみんなもそれぞれ頷いている。

出來れば手を汚さず終わらせれる可能が高い最後が良い等と考えている俺は卑怯者だろうか。

「…………なるほど」

その願いが通じたのかわからないが、じゃんけんの結果、俺は最後となった。

アルフ、エレナ、魔王、フロリア、メアリー、俺の順だ。

「アロード! 勝負だ! 今度こそ殺してやる!」

「……はぁ。僕は君に興味はないんだけれど。まあでもご指名とあらば、ね。ほんと、モテるは辛いよ」

アルフは燃える剣を片手に、アロードを挑発する。

それに面倒臭そうに答えて、立ち上がるアロード。

「……む。まあ、しょうがないか。だが、わかってるな?」

「はいはい」

そんな二人を見て、顔を顰めたスレイだったが結局は了承したようで、最初の二人が決定した。

アルフとアロード。

どちらの実力も知っている俺としてはましくない組み合わせだけど……。まあ、どちらにしても避けては通れないか。

「まったく……父親が勝てなかったのに、君が勝てる訳ないのに」

「うるさい。僕はもう父さんを超えたんだ」

「へえ? それじゃ見てあげるよ。亡き君のご両親に代わってね」

「…………」

どうやら口喧嘩のスキルはアロードの方がだいぶ上のようだ。

アルフは平靜を裝っているが、明らかに怒り心頭のご様子。

あんなに気負ってちゃ勝てるものも勝てそうにない。……仕方ないなぁ。

「頑張れよ!」

「ひゃうっ!」

聲を掛けると共にアルフのを軽くんでやる。

するとアルフは甲高い聲で悲鳴をあげ、顔を真っ赤にすると共にこちらを振り返る。

「な、何をするんですか!」

「力がりすぎだ。もっと落ち著いていけ」

「あ……ありがとうございます」

アルフは自が冷靜さを失っていた事に気づくと、すぐに頭を下げてくる。

……相変わらず素直な奴だ。同い年位のはずだけど、孫がヤバイ。

とても冒険者登録するまでの間、魔を食って暮らしていたとは思えない。

「カーラ的にはあの子どうなの?」

「……アリね。ボーイッシュなの子と思えばイケるわ」

……聞こえなかった事にしよう。

的にアルフじゃカーラには勝てないだろうなぁ……ご愁傷様。

まあ、でもアルフもある意味食系だからいい組み合わせかも知れないな。

「……まさかこんな近くにライバルが居たなんてね」

「フロリア様が仰っていたのは本當の事のようですね」

「ぬぬぬ……ユウト! 私も張してるんだが!」

何事か後ろでフロリア達三人が騒いでいるが、面倒な予しかしないのでスルー安定だ。

「じゃあ、始めようか?」

「ああ。覚悟しろ」

二人は部屋の中央へと向かい、アルフは剣を、アロードはカードを生し、構える。

……勝ち目は薄い、が無いことはない。頑張ってくれよ。アルフ。

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