《異世界冒険EX》魔王④
「<<炎剣覚醒>>」
アルフはいきなり剣を炎化すると、そのまま斬り掛かる。
振り下ろす度に、振り下ろした先に火炎が襲いかかるが、アロードは既に別の位置にいる。
やはりエリアテレポートは厄介だ。魔力切れを狙うしかないが……。
「あれ?」
そういえば何でアロードがカードを出しているのにアルフは剣を振れてるんだ?
チラリと周囲を伺うが、誰一人疑問には思っていないようで、剣を振るアルフとそれを躱すアロードを真剣な目で見ている。
……ただ一人スフィリアは寢ているようだが。
「アロード! お前も知っている通り、この炎剣は防不能だ! 潔く罰をけろ!」
「ふむふむ。ちょっとの間にだいぶ剣の腕前も上がったみたいだね。……まあユウトと居たんだから當然か」
余裕しゃくしゃくといった様子で今度はエリアテレポートすら使わずに避け、こちらにじろりと視線を向けてくるアロード。
意外とけるようだ。
だが、今はそんな二人のバトルよりも何故アルフは剣をれるのかが知りたい。
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仕方ない。あまり頼りたくはなかったが……。
(アッサム)
(え? なに?)
(何でアルフは相手がカードを出しているのに剣を振れているんだ?)
(……え? そんなこと考えてる場合じゃないだろ。ちゃんと二人の戦いを見屆けろよ)
(いや気になってそれどころじゃないんだって)
(……仕方ない。教えてやる。アルフが剣を振れているその理由はだな……)
アッサムはそこで一度黙り、溜めてくる。まるで懐かしのクイズ番組のCM前のようだ。
(……頑固な汚れには神の力! しつこい油汚れも……)
(って、マジでるんじゃねーよ! 早く教えろよ!)
困ったように焦った口調でCMを始めたアッサム。
ど忘れか何かわからないが、時間を稼ぎたいようだ。まさか今調べているのか?
(時間がない忙しい朝には……あ)
(あ?)
三分程度経過した時點で何やらアッサムの素の呟きが混じる。
テレビのCMよりも長かった気がするが、ようやくCMが明けそうだ。
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(……アルフが剣を振れているその理由はだな……)
(何をちょっと戻ってるんだよ! そんなとこまでテレビに似せなくていいだろ!)
(あの剣はアルフ自のカードを変化させたものだからだ!)
「……カードを変化?」
俺の突っ込みをスルーして答えられた疑問の答えは、いまいち要領を得ない答えだった。
思わず口に出てしまうぐらいに。
「…………え」
「……ふーん」
その瞬間、アルフとアロードのきが停止する。
アルフは驚いた表を浮かべ、アロードは何とも言えない微妙な表を浮かべている。
「これだからユウトは侮れないなぁ」
「え? え?」
「面白いものを見せてあげるよ。アルフ、それにユウト」
アロードはそう言うと一枚のカードに手をかざし、魔力を注ぎ込む。
「ある程度自由にかせるのは知っていたけれど、まさか形まで変えれるなんてね」
「そんな……まさか」
「<<炎剣覚醒>>……なんてね」
アロードの手元のカードが歪み、ぐにゃぐにゃと変形したかと思うと、一瞬のの後、剣の姿へと変化する。
アルフと同じ炎の剣に。
「いやぁ、君のお父さんは死んでも教えない。なんて言って、僕の前では使わなかったからあの時は結局わからなかったんだよねぇ」
「…………あ」
「いやあ、やっぱり子供には教えてたんだね。だから呆気なく殺されたんだろうけど。ありがとね、アルフ。君が何度も僕の前で実演してくれたから、こうして使えるようになったよ」
「……だからなんだって言うんだ! そんな紛い!」
「おっと……」
アルフは勢いよく斬りかかる。アロードも今度は避ける素振りは見せていない。どうやらけて立つようだ。
だがどちらも防不能の炎剣である以上、お互いに斬られるだけ。のはずだが……。
「……ふーん。なるほどね」
「くそっ! 仕留め損なった!」
二つの炎剣が差した瞬間、アロードの剣が激しく燃えだし、消える。
それを確認した後でアロードはあっさりとアルフの剣を躱す。これは別の要素がないとアルフは勝てないな……。
「魔力の制が難しいな……だけどアルフは出來ている……僕がアルフに魔力の制能力で劣っているはずは無いし……」
アロードは顎に手を當て、ブツブツと考察を始める。
その間もアルフによる攻撃が続くが、全て簡単に躱されている。
「……そうか……父親はあの時使わなかったんじゃなくて、使えなかったのか。死んでも教えない、とか言うから騙されちゃった」
「うおおおおおお!」
「そうとわかればこんな才能の無いガキに構ってる暇はないね」
アロードは再び炎剣を作り出し、必殺の一撃を放つ。
先に攻撃したのはアルフのはずだが、このままではアロードの炎剣の方が先に到達する。それも、
「ちょっ……まっ!」
アルフの首筋へと。
不味い。油斷していた。間に合わない。このままくのと強化魔法を発してからくのではどちらが速い、いや、そんな事考えてる場合じゃ――。
「アルフ!」
アルフの首筋へと迫る炎剣が炎を巻き起こす。
攻撃で、ではない。寸前て炎剣を防ぐように現れた黒い何かとぶつかり、炎剣が発したようだ。
「…………お兄ちゃん」
「エ、エレナ」
「あールール違反だ! 一人ずつのはずでしょー!」
アロードがわざとらしくこちらを指差し、喚き散らす。
……それが狙いか。やられたなこれ。
「本當はユウトが止めに來るのが一番だったんだけどね」
ボソリとアロードは呟き、こちらにウインクする。
「……殺さないんじゃなかったの?」
「え、えー! そんな事言った? 僕は言ってないと思うけどー?」
……クソガキめ。おちょくるようなオーバーリアクションを取るアロード。
……どうしたものかね。これ。
「その辺にしておけ。アロード。悪ふざけか過ぎるぞ」
「はーい。でも、無理なんだよね、ホント。見てよ、あの二人を」
アロードの指差す先のアルフとエレナは、今にも襲い掛かりそうな目でアロードを見ている。
…………困ったな。
「人間の心はルールじゃ縛れないって訳だねぇ、ホント。殺す気で向かってくる相手を殺さずになんてなぁ、いくら天才の僕でも無理だよ」
うんうんと頷くアロード。
挑発の為にわざとやっているのだろう。このまま戦に持ち込むつもりだろうか。
確かにこのまま二人が襲い掛かれば戦が始まってしまいそうだ。どうしたものか……。
「まあでも、あんな出來損ない二人じゃ僕には勝てないだろうけど? なんたって僕は勇者パーティーだよ? 當然、剣の扱いもスレイから教わってるし、魔法は言わずもがな、だね」
早急にアロードを黙らせないと不味いな。どうする……? やるか?
…………仕方ない。
「まあでも? 君達の父親はもっと出來――」
「なっ!?」
「…………っ!」
更に挑発を続けるアロードの姿が一瞬にして消失する。
俺の仕業とバレないように、驚いた表を頑張って浮かべてみる。
「……何をした?」
「え? 何の話?」
だがスレイの目は誤魔化せず、鋭い視線でこちらを睨んでくる。
だけれども、何をしたかまでは分かっていない様子。ならこのまま押し通す。
「あ、おそらく魔力切れじゃない? 分を維持するにも魔力が必要だし、最初に分けた魔力が切れたんだと思う。もしくはエリアテレポートで逃げたとか」
それっぽい事を並べてみる。
実際、分魔法で分を生み出すには自の魔力を分ける必要がある。
そして分はその分けられた魔力しか使えない。逆に本は分けた魔力は回復しないし、使えない。
「……どちらも噓のようだが……それを証明する事は出來ない、か」
「僕以外ね」
スレイが追求を諦め、俺から視線を逸らした瞬間、アロードが現れ、こちらを見ている。
その顔には抑えきれない好奇心が浮かんでいる。
「どうやったのかな? ユウト。僕のとしてはが急速に魔――」
「…………!」
「っ! な……何? 全が震えたんだけど、何もなってない……?」
……消せない。何故だ? ……まさか。
「だいたいわかってきたよ。魔法にだけ効果かあるみたいだね。となると、スレイの能力に似てるなぁ……」
「……本のお出ましか」
不味いな。この調子だと能力がバレてしまう。この場だけならともかく、神にバレるのは……。
「可能としては……無効化、消去、解除……いや、違うな。効果はなくとも僕に対して使えたって事は魔法以外にも……」
(……ユウト。お前は私に魔法解除だと答えたはずだよな? なぜアロードに対しても使えたんだ?)
不味い。不味い。不味い。
(……アロードに掛けられていた強化魔法の類を解除しただけだ)
(そう、か……し用事が出來た。しばらく通信は繋がらないぞ)
……嫌な予がビンビンだ。どうする?
いや、それより今は……。
「アルフ! エレナ! このアロードは本だ。やるなら今だぞ!」
「ユウト!?」
「…………」
最低だ。俺は。
でも俺は死ぬ訳にはいかないんだ。あの能力を知られれば神がどんな反応を見せるかわからない。
それがどうしようもなく怖い。
「エレナ!」
「うん!」
俺の聲に反応して、アルフとエレナがき出す。
「無駄だって。もう君たちには興味ないし、今はそれどころじゃないんだからさ……空気読めよ」
アロードは冷ややかな視線で二人を眺め、両手に炎剣を作り出す。
しかし、
「<<暗剣覚醒>>」
「……なにそれ」
迎撃しようとしたアロードの目に、アルフの左手に握られた漆黒の剣が映る。
一瞬。
興味を惹かれてしまったアロードのきが停止する。
「デッドエンドダーク!」
「黒炎舞!」
「う、うわあああ!」
戦いが始まって以降、初めて焦りの表を浮かべるアロード。
そんな彼に野球ボール程の大きさの無數の黒い玉が降り注ぎ、とどめとばかりにアルフの振り下ろした二本の剣が混ざり合い、黒い炎の発を巻き起こす。
「ちっ……!」
「…………」
見ていた俺達にもその黒炎は広がり、慌てて俺は魔法解除を、スレイは魔力無効化を使用する。
「……ち、ちょっと油斷しちゃったな。」
「分相手に本気を出す訳がないだろ。あの世で父さん達に謝れ」
「くっ……」
片腕を無くしながらも生きていたアロードは、何とか回復魔法を使おうとしているが、アルフによる攻撃を捌くのに一杯だ。
一本の剣を使っていた時のきとは明らかに違うアルフの攻撃に加え、エレナによる魔法の追撃。
じわりじわりとアロードは追い詰められていく。
「ひ、卑怯じゃないかな? 二人がかりなんてさ!」
「そっちだって一度転移して逃げたりしてるじゃん」
「ユ、ユウトオオオ! この噓つき! 卑怯者!」
……おかしいな。慌てているように見えるが、俺の言葉もしっかり聞いて、こうして俺に文句を返している。……どこか余裕が見える。
実際に増えている傷も、問題のないかすり傷ばかりだ。
まさか……。
「…………と、ここが限界みたいだね」
俺に向けて舌を出したアロードは、アルフに向き直り、そう告げる。
嗜的な笑みを浮かべて。
「なんだとっ!?」
「殘念だけど、僕は天才なんだ。基本が同じである以上、僕にも出來るに決まってるだろ?」
「っ! ま、まさか!?」
驚きにきを止めるアルフ。馬鹿野郎が。
「<<回復剣、石化剣、覚醒>>」
その隙を逃すはずもなく、アロードはり輝く剣と、灰の粒の集合が集まり出來た剣を用に片手で握る。
そして、そのうちの一本。り輝く剣を自に突き刺す。
「君たちにチャンスがあったとすれば、初めて暗剣覚醒させた時だね。油斷していたのは本當だから」
「まだ終わってはいない!」
「終わりなんだよ。君の剣も、彼の魔法も僕にとっては本當は驚異でもなんでもないんだから<<ALL UP Lv.3>>」
…………え? なんなのこのラスボス。
妹と兄、ぷらすあるふぁ
目の前には白と黒のしましま。空の方に頭をあげると赤い背景に“立ち止まっている”人が描かれた機械があります。 あたしは今お兄ちゃんと信號待ちです。 「ねぇ、あーにぃ」 ふと気になることがあってお兄ちゃんに尋ねます。お兄ちゃんは少し面倒臭そうに眠たそうな顔を此方に向け 「ん? どうした妹よ」 と、あたしに話しかけます。 「どうして車がきてないのに、赤信號だと止まらないといけないの?」 先ほどから車が通らないしましまを見ながらあたしは頭を捻ります。 「世間體の為だな」 お兄ちゃんは迷わずそう答えました。 「じゃああーにぃ、誰もみていなかったらわたっていいの?」 あたしはもう一度お兄ちゃんに問いかけます。お兄ちゃんは右手を顎の下にもって行って考えます。 「何故赤信號で止まらないといけないのか、ただ誰かのつくったルールに縛られているだけじゃないか、しっかり考えた上で渡っていいと思えばわたればいい」 ……お兄ちゃんは偶に難しい事を言います。そうしている間に信號が青に変わりました。歩き出そうとするお兄ちゃんを引き止めて尋ねます。 「青信號で止まったりはしないの?」 「しないな」 お兄ちゃんは直ぐに答えてくれました。 「どうして?」 「偉い人が青信號の時は渡っていいって言ってたからな」 「そっかー」 いつの間にか信號は赤に戻っていました。 こんな感じのショートストーリー集。 冬童話2013に出していたものをそのまま流用してます。 2016年3月14日 完結 自身Facebookにも投稿します。が、恐らく向こうは二年遅れとかになります。 ストリエさんでも投稿してみます。
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