《世界にたった一人だけの職業》一方、ザティック盜賊団はーー。

時は、蓮斗がザティック盜賊団の一味を始末した後まで遡るーー。

「た、大変です! お頭!」

一人の黒い裝束をに付けた男がザティック盜賊団の頭ーーレイブン=ビザークの元へそうびながら息を切らして走ってきた。レイブンはそれを見て何事かと思い、黒裝束の男ーーコルヴス=アクイラに尋ねる。

「……何があったんだ?」

「そ、それが……」

コルヴスは、アウリガを中心とした5人組がやられたこと、その経緯、その5人組をいともあっさりと倒した旅人を名乗る青年の事などを話した。アウリガとはデブの男の名前であり、あの5人組のリーダーだった男の事だ。それを聞いたレイヴンは険しそうな顔で言葉を継ぐ。

「……そうか、アウリガ達を……。それで、他には?」

「あ、あと、アウリガが俺達の拠點をあの青年に吐きました……! 近いうちにここに攻めてこられてもおかしくない狀況です……!」

レイヴンはコルヴスの言葉を聞くと、ギリッと苛立たしげに歯ぎしりをした。この鉱山ーーグライシアス鉱山は、レイヴンが商業ギルドの一つーーヒドルス商會と何度も渉した末にようやく手にれた拠點なのだ。グライシアス鉱山を拠點とする代わりに、毎月取れた鉱石類の三割を謙譲することと、ザティック盜賊団が連れてきた奴隷の一部の謙譲の二つの條件がヒドルス商會から出された。それでザティック盜賊団の悪事を見逃してくれるのなら安いものだったのだ。だが、その青年とやらがここに攻め込んでくればザティック盜賊団など一瞬で壊滅するだろう。あくまで、策を練らなければ・・・・・・・・の話だが。

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「……コルヴス。奴隷の數は?」

「およそ70程度かと」

(……。70か……。その數の奴隷など連れて拠點を変えれば明らかに不審に思われる。第一拠點が無い上、奴隷が言うことを聞くわけが無い。一応奴隷の首は著けさせているが……。効果の無い奴も中に數人いたはず……)

レイヴンは、奴隷を連れ出して拠點を移す事を真っ先に考えたもののすぐに卻下した。各領地は商業ギルドや冒険者ギルドなどによって管理されており、そこから月に一度冒険者や調査隊が派遣される。拠點を変えたところで、それを誤魔化す事が出來ないのだ。

「……ふむ……。拠點をもう一つ確保しとけば良かったんだが……。生憎拠點は1つしかない。……コルヴス。拠點は変えずに、その青年とやらを迎え撃つ・・・・」

レイヴンがそう言うと、コルヴスは驚いたように目を見開く。

「い、いや……。あの青年を迎え撃つって言ってもどうやって……!?」

コルヴスは絶対に不可能だとでも言うように狼狽えながらそう言う。

「……奴隷を囮に使えばいい」

レイヴンのこの言葉を、コルヴスはあまり理解できず首を首を傾げる。

「……? それはどういう事ですか……?」

「つまり、奴隷の配置を変えて俺達はその近くにバレないように潛伏するんだ。その青年とやらが奴隷を解放しようとした瞬間をつけば……」

「殺れる……と?」

「そういうことだ」

レイヴンは自信ありげにそう言い放つ。レイヴンもザティック盜賊団の頭だけあって潛伏能力においてはザティック盜賊団の中では一番を誇る。レイヴンの特殊能力ユニークスキル"緻潛伏アキュレイトインキュベーション"は、そう易々と破られるものではない。例え國の騎士が相手でもこれを見破るのは難しい。"特殊能力ユニークスキル"とは、ある條件を達したりすることで得たり、生まれつき持ってたりするスキルの事だ。ただのスキルとは威力・能・効果範囲等が桁違いなのだ。

「で、ですが……。あの青年はヴァンの潛伏技も易々と見破っています……。お頭は平気かもしれませんが、我々の潛伏能力では足手まといになるだけかと……」

ヴァンはザティック盜賊団ではトップクラスの潛伏能力であり、それを見破った青年を相手に気づかれないように潛伏するのはコルヴス達のような平凡な潛伏技ではほぼ不可能である。だが、レイヴンには考えがあった。

「……そこは大丈夫だ。策はある」

「……その策というのは?」

「まず、奴隷を囮にする。そこは変わらない。その奴隷の近くにお前らが潛伏するんだ。多分その青年とやらはお前らに間違いなく気づくはずだ。その近くには當然俺も潛伏している。その青年に気づかれたらお前らは潛伏を解け。俺は潛伏を解かず、その青年の隙を狙う」

「……ということは、我々はその間青年を引き付ければいいと……?」

コルヴスがレイヴンにそう言うと、レイヴンは頷き肯定の意を示す。

「ああ。お前らに々危険が及ぶが……。いけるか?」

「……わかりました。青年を引き付ける役目、承ります。他の者もこの作戦に參加するよう呼び掛けて來ます」

「ああ、頼んだぞ」

こうして、ザティック盜賊団は青年ーー蓮斗がグライシアス鉱山を攻めてくることを予測し、作戦を立てたのだった。

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