《世界にたった一人だけの職業》蓮斗・秀治 VS ザティック盜賊団 ー1

「……秀治、準備はいいか?」

蓮斗は秀治にそう問いかける。

「ああ。いつでも大丈夫だ」

秀治は蓮斗の問いかけに対し、張の欠片も無い様子で答える。

今の時刻は深夜に差し掛かろうかというくらいの所。蓮斗、秀治はザティック盜賊団の拠點であるグライシアス鉱山の近くにいる。昨日と今日で綿に計畫を立て、抜けてるところがないか確認したり、それを何回も反復したりした。抜かりはない。ただ、想定外の事態が起こることだって當然ある。そういった事にも慌てず対処出來ればこの計畫は功するはずだ……と思いたい。

というのも、そもそもこの計畫は不確定要素が多すぎる。つまり、想定外の事態が起こる確率の方が圧倒的に高いということだ。ザティック盜賊団という名前以外は何もわかっていない。無謀に近いともいえる。いわば愚行というものに近いのかもしれない。ならば何故こんなことをするのか。それは蓮斗自、ザティック盜賊団に奴隷として捉えられた人々を一刻でも早く助けたいからだ。時間が経てば経つほど奴隷として商業ギルドに送られる人々が増えてしまう。そういった人々を減らしたい。その為にこのような真似までして、グライシアス鉱山にやって來たのだ。

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「あそこが奴等の拠點か……」

蓮斗はそう呟きながら、ザティック盜賊団の拠點ーーグライシアス鉱山を秀治と共に木のから見やる。

「何か妙だな……」

秀治が訝しげな顔をしながらそう呟く。

「……どこがだ?」

「奴等の本拠地の近くだっていうのに、まるで人の気配がほとんどじられない。……もう既にもぬけの殻なのか?」

そう。何故かグライシアス鉱山の方から人の気配が全くしないのだ。一人たりとも・・・・・・だ。蓮斗がザティック盜賊団の一味から聞いた話が噓だったのか……? それとも何かしらの罠があるのか……?

「秀治。一旦確認してこないか?」

蓮斗が特に気負った様子もなく秀治にそう提案する。秀治は蓮斗のその言葉に暫く考え込んでいたが、ここで立ち止まっていても仕方がないと思い、蓮斗の提案を承諾する。

「……そうだな。そうしよう」

蓮斗はその言葉を聞くと、じゃあ行くか、と言ってグライシアス鉱山のり口に近づいていく。その後ろには當然秀治がついてきている。

「"気配察知インディケイションセンス"」

蓮斗は気配察知の魔法を使い、辺りを警戒しながら進んでいく。今、蓮斗の気配察知には數十人の気配・・・・・・が引っ掛かっている。故に秀治に警戒を促す。

「秀治。グライシアス鉱山のり口付近、それに結構奧の方にも人の気配がある。……奴隷か盜賊かはわからないけど……気を付けた方がいい」

「……了解だ」

秀治は自分の無力さを痛したが、今はそんな場合じゃないと気を引き閉め直す。相手は本気で自分達を殺しに來るのだ。気を抜いていたらあっという間にやられてしまう。まさに一瞬の油斷が命取りとなるのだ。

蓮斗と秀治はやがて、グライシアス鉱山のり口までたどり著く。するとーーー。

「…………!」

気配が複數いた。俺達を取り囲むように。

「秀治。気を付けろ。周りにいるぞ」

「分かった」

多分潛伏能力の類いだろう。周囲にはを潛めるための巖やらがたくさんある。そこに隠れているんだろう。ある意味、盜賊団の拠點としては最適な場所のように思える。だが、そんな小細工をしたところで、蓮斗には全く通用しないのだ。

通常、気配察知というのは相手の存在みたいなものしか知できない。つまり、相手の溫や息づかい、足跡までは知できない。だが、蓮斗の"気配察知インディケイションセンス"ではそれが出來てしまうのだ。これではいくら潛伏能力が優秀だったとしても無意味だ。潛伏能力は自分の存在のみ・・・・・・・・消せるのだから。

「……いるんだろ? 出てこいよ」

蓮斗は周りに潛んでいるザティック盜賊団の一味にそう聲を発する。すると観念したように、巖から姿を現す複數の男たち。やはり黒裝束にを包んでいる。人數的に6、7人くらいだろうか。

「ちっ……。ばれてたか……」

一人のがさつそうな男が忌々しげに吐き捨てるようにそう言う。

「……まあいい。お前らがここに侵するってんなら容赦はしねえ。立ち去るなら今のうちだぜ?」

がさつそうな男は蓮斗達を挑発するようにそう言う。

「……生憎とここで立ち去る気はない」

蓮斗はがさつそうな男の言葉に強い意思を持ってそう言い返す。

「……じゃあ、ここで朽ち果てろ!」

その言葉を合図に盜賊達が一気に蓮斗と秀治に襲いかかる。

「秀治! 後ろの三人は任せた!」

「了解」

蓮斗はそう言うと、腰に掛けてある鞘から短剣を抜き、襲いかかって來る盜賊達と対峙する。盜賊達が四方向から短剣で蓮斗を切りつけようとするがーー。次の瞬間、四人の盜賊達は気を失ったように倒れた。

「……隨分あっさり終わったな……。もうし苦戦するものかと思っていたが……」

何故、四人の盜賊達が一斉に気絶したのか。それは蓮斗が短剣で攻撃したからに他ならない。

まず、前方から迫ってきた盜賊の鳩尾を短剣の柄の部分で打ち付け、右から襲ってきた二人目の盜賊は蹴りで的確に鳩尾を蹴り、左から迫ってきた三人目の盜賊の短剣をいなし、短剣で腹部を切りつけ、後方から襲ってきた四人目の盜賊は短剣の柄の部分でやはり鳩尾を狙い、気絶させたのだ。これが一瞬で出來たのは一重に蓮斗のチートじみたステータスがあってこそだ。

蓮斗自、あまりを見るのが好きではない。特に、を盜賊から助け出そうとしたときに的になってやらかした時が一番やばかった。

今回はその時の反省も踏まえ、も最小限で済ませている。

「さてと……。秀治の方はどうかな……」

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