《不良の俺、異世界で召喚獣になる》1章3話

「……これがグラウンドかァ?」

「はい!」

元気な返事を聞き、キョーガは建を見回した。

……グラウンド?いや違う。これはまるで闘技場だ。

中央に試合場があり、それを囲うようにして観客席が設もうけられている。

「……行くかァ」

「あ、あの、キョーガさん」

「あァ?」

「……アバンさんは、上級召喚獣を使います……無理だけは、絶対にしないでくださいね?」

心配そうなリリアナの視線をけ、キョーガはヒラヒラと手を振った。

―――リリアナは言った。俺と仲良くなりたいと。

リリアナは言った。俺の事を友だちだと。

だから―――

「俺の友だちに手ェ出しといてェ、無事に済むと思うなよォ……」

「―――『サイクロプス』っ!」

アバンが手を前に出した―――瞬間。

辺りに凄まじい轟音が響き渡る。

さすがのキョーガも、轟音の理由がわからなかった。

だが―――それも一瞬の話。

キョーガを見下ろすようにして現れたそ・れ・を見て、理解した。

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あの轟音は、こいつが現れたからだ、と。

「……4メートルってとこかァ」

「気を付けてくださいキョーガさん!アバンさんの『巨人族ギガント』の力は、建を簡単に壊すくらい強いです!」

『巨人族ギガント』……そんなのもいるのか。

そんな呑気な事を考えられるほど、キョーガには余裕があった。

「準備はいいな?それでは―――始め!」

「『命令 そいつを潰せ』!」

「オォ、ォオオオオオオオオオオンンッ!」

アバンの命令に従い、サイクロプスが雄おたけびを上げた。

空気が震え、地面が揺れるような錯覚を覚えるほどの聲量。

……目の前に立つ獲キョーガは逃げなかった。

キョーガの実力を知らない者が見れば、誰しもこう思うだろう。

―――ああ、恐怖でけないんだろうな、と。

このサイクロプスも、そのの1匹。

かない獲を見て、余裕を持って拳を振り上げた。

「―――ォオオオオオオオオオオッッ!!」

再び雄びを上げ、兵とも言える拳を振り下ろした。

拳の大きさ、60センチ。

そんな鈍で毆られたら―――簡単に死んでしまうだろう。

だがそれは―――

『ズッ―――ゴォオオオオオオオオッッ!!』

―――普通の人間ならば、の話だが。

「……あのよォ」

が溢れる試合場に、気の抜けた聲が響いた。

亀裂のった試合場、立ち込める塵、そして拳を振り下ろしたサイクロプス。

この狀況で―――人間が立っているなんて、誰が考えるだろうか?

「それェ……本気かァ?」

そこには、サイクロプスの拳を片手でけ止め、心底退屈そうに聲を出すキョーガが立っていた。

「―――っ?!『命令 潰せ』!」

「ルォ、オオオオオオオオオ……ッ!」

反対側の手がキョーガを握り潰さんと迫る。

それに合わせて、キョーガも反対の手をサイクロプスに向けた。

手四つの形になり、サイクロプスがさらに力を込める。

どんどんサイクロプスが前のめりになり―――キョーガが劣勢のように見え始めた。

「―――キョーガさんっ!」

切羽詰せっぱつまったようなリリアナの聲に、キョーガは苦笑した。

―――けない『召喚士』だ。考えも甘々で、頼りにならない。

だが―――それが良い。それで良い。

『…………メキッ……ミシミシッ……』

「……?なんの音だ……?」

突然、辺りに奇妙な音が聞こえ始めた。

……まるで、何かを握・り・潰・す・ような鈍い音が―――

「……はははっ……やっぱり、サイクロプスの力には勝てないみたいだね」

ニヤリと、アバンが邪悪に笑った。

それを見たリリアナの顔が、泣きそうに歪む。

多くの生徒を見てきたであろう教師でさえ、これから訪れる殘酷な未來を想像し、眼を閉じた。

……全員、1つ大きな勘違いをしている。

それは―――『被害者がキョーガである』という事だ。

『メキメキメキッ―――パキッ!』

決定的な音が響いた。

鉛筆の芯が折れるような軽い音。

それを聞いたリリアナが、キョーガの絶を聞きたくないと耳を塞ぎ―――

「ル―――ォオオオオォオオオオオオオッ?!」

を上げたのは、サイクロプスだった。

『メキメキメキメキメキメキッ……』

「ルガァ!オオォルルルガァアアアアアッ!」

「うるせェデカブツだなァ……その頭潰せばァ、絶は止やむのかねェ?」

誰もが、眼前の景に目を疑った。

痛みに膝を突くサイクロプス……その大きさ、およそ4メートル。

対するキョーガの長、170センチ。

長差、約2メートル30センチ。

―――そのサイクロプスが膝を突き、己より小さいキョーガを見上げているのだ。

「……さっきから聞いてりゃァ、てめェは上から目線にペラペラペラペラとォ……なァ?」

「ひっ……!『命令 早くそいつを殺せ』!」

「ルルゥ、ルガァァァァァァァァ……ッ!」

怒りを込めた視線に、アバンは焦る。

―――どうにかしないと、僕が殺される。

そんな気持ちを踏み躙にじるように、キョーガが兇悪に笑った。

「安心しなァ……俺ァ『喧嘩は1発で終わらせる』主義でなァ、2発も3発もれる気はねェ……てめェもしっかり1発で終わらせてやるよォ」

『兇』悪に歪む口から、のように鋭い『牙』が現れる。

―――その姿。まさに『兇牙』。

「―――おらァッ!」

グッと、キョーガが力をれた―――瞬間。

―――あの大きな巨人の姿が消えた。

「ほらァ、てめェの召喚獣だろォ?しっかりけ止めてやれよォ!」

違う、消えたのではない。

浮いていたのだ。あの巨が、年の片腕に持ち上げられていたのだ。

そのまま勢いを付け、サイクロプスが地面に接近し―――

「や、やめ―――」

何かを言いかけたアバンを押し潰し、サイクロプスが地面に沈んだ。

シン……と、試合場が靜まり返る。

「……おい、俺の勝ちだろォ?」

「キョーガさん……!」

ダルそうに振り向くキョーガ……それを見たリリアナが嬉しそうに笑った。

―――――――――――――――――――――――――

「上位召喚獣……『巨人族ギガント』のサイクロプス……思ったより大した事なかったなァ」

「スゴいですよ!だってキョーガさんは、あのアバンさんに勝ったんですよ!はぁぁ……!いまだに信じられません!」

わたわたと先ほどから落ち著かないリリアナを見て、キョーガは本日何度目になるかわからないため息を吐いた。

―――これでリリアナは學院を卒業できる。

『もう學院には行かねェのかァ?』とキョーガが聞くと、『はい!出席日數とテストの點數は足りてますから!あとは來月の卒業式に出るだけです!』と喜んでいた。

「……んでェ?今どこに向かってんだァ?」

「私の家です!そこそこ大きな家なので、キョーガさんもバッチリ住めますよ!」

テンションが高いまま、グッと親指を立ててくる。

―――心配したり泣きそうになったり、嬉しがってテンションが高くなったり。こいつは忙しいやつだ。

心の中で苦笑し、楽し気なリリアナの後を、ゆっくりとキョーガが追いかける。

「……現実、なんだよなァ」

後を追うキョーガが、どこか寂しさを含んだ聲をらした。

ふと、リリアナがキョーガを見ている事に気づく。

首を傾げ、キョーガを待つリリアナ……再びキョーガが苦笑を浮かべる。

「どうかしましたか?」

「んやァ……なんもねェよォ」

キョーガが異世界から來たと言った所で、別に狀況が変わるわけではない。

そもそも、あの世界にキョーガの居場所はない。

キョーガと友だちになろうとする好きもいない。

なら―――この優しいのために、力を貸すのも悪くない。

「……はっ……柄がらにもねェなァ」

「キョーガさん?」

「……なんもねェ」

そう言って、リリアナを見るキョーガの眼は―――今まで見たことないほど、優しさに満ちていた。

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