《不良の俺、異世界で召喚獣になる》1章5話

翌日の朝、キョーガとリリアナは町を歩いていた。

特に目的があって行しているわけではないが、『私、友だちができたら、一緒に町を歩きたいと思ってたんです!』とリリアナが言ったため、それにキョーガが付いてきたのだ。

「えへへ……楽しいですね!」

「楽しィかァ?」

「はい!キョーガさんと一緒に町を歩くのが楽しいんです!」

幸せそうに笑うリリアナに、キョーガは妙なむずがゆさをじて視線を逸らす。

今まで他人に必要とされなかった人間キョーガが、いきなりこんな事を言われれば、こうなるに決まっている。

「……てかよォ、なんでリリアナは『召喚士』になったんだァ?」

「えっと……なんでって言われましても……なんででしょうか?」

「おめェバカだよなァ?」

「冗談ですよ?!だからそんな冷めた眼で見ないでください!」

冷たい視線を送るキョーガを見て、リリアナが慌てたように続ける。

「……その……私、小さな伯爵の娘でして……」

「まァあんだけでけェ家に住んでるし、そんなこったろォとは思ってたけどよォ」

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「……私……あの、箱り娘と呼ばれる……じでして……」

リリアナ曰いわく、こういう事らしい。

―――リリアナの父親は、ものスゴく過保護とのこと。

だから、リリアナには歳の近い友だちがいないらしいのだ。

15歳になった時、父親に頼み込んで『召喚士學院』に通わせてもらえる事になった。友だちを作るためだ。

そして16歳になり、學院に通うことになった―――のだが。

下級召喚獣も召喚できない無能と、友だちになろうとする同級生はおらず、ずっと獨りぼっちだったのだ。

ちなみに、リリアナの両親は、この國には住んでおらず、國外の小さな町に住んでいるらしい。

「……いや、それなら別に『魔士』でも良かったんじゃねェかァ?」

「『魔士』になれるのは、『魔法の才』を持っている人だけなので……『魔法の才』を持っている人は、あんまりいないんです」

「……『騎士』はァ?」

「運は苦手で……」

この時、キョーガはスゴく失禮な事を考えてしまった。

―――何もかも、無能ってわけか。

もちろん、言葉にはしない。

そんな事を言えば、リリアナは絶対傷付くし、何よりリリアナに嫌われるからだ。

「でも、やっぱり私は『召喚士』で良かったです!」

「……無能って言われてもかァ?」

「はい!『召喚士』でないと キョーガさんに會えませんでしたから!」

「…………………………はァ……おめェはなァ……」

恥ずかしそうに頭を掻くキョーガを見て、リリアナがニコニコと笑う。

端はたから見れば、完全に人同士である。

「……そォいやァ……なァリリアナァ……これ、見たことあるかァ?」

「……?いえ、見たことないです。『魔道アーティファクト』ですか?」

「あ、あてィふァ……なんて?」

「『魔道アーティファクト』です。特殊な力を持つ道の事なんですけど……」

キョーガがポケットから取り出した四角いを見て、リリアナが首を傾げる。

「スマホはねェのかァ……なるほどなァ……」

「それ、どうやって使うんですか?」

「こォやってだァ」

『パシャッ』

「ひっ?!……今、何したんですか?」

「なんだよ『ひっ』ってェ、ビビり過ぎだろォ?」

「し、仕方ないじゃないですか!」

急な音に驚いたのが恥ずかしかったのか、し顔が赤い。

そんなリリアナをおもしろそうに見ながら、キョーガがスマホの畫面を見せた。

「……えっ……これ、私ですか?」

「あァ……寫真ってんだがァ、その様子だとォ、こっちにゃァねェみてェだなァ」

保存されている畫像や、ゲームのデータを削除しながら、キョーガは頭を回転させる。

……今のリリアナの反応だと、この世界の文明はあんまり進んでいないのか。

ならば、このスマホは高く売れるはずだ。

どうせ圏外だし、充電もできないから必要ないだろう。

「……売るか」

「え?!売るんですか?!貴重な『魔道アーティファクト』を?!」

「あァ……いくらになっかなァ?」

「……わからないですけど……絶対高いですよ!」

―――――――――――――――――――――――――

「…………これ、は……?!」

「俺の『魔道アーティファクト』だァ……いくらになりそォだァ?」

「ちょ、ちょっと待っててくれ!」

バタバタと、研究員のような男が、奧の部屋へと消えていく。

今の反応を見る限り、やはりスマホは文明が進んでいるらしい。

年!」

年ってェ……まァいいやァ、なんだァ?」

「……これを、『ギアトニクス』の研究機関に持って行っていいだろうか?」

「『ギアトニクス』だァ……?」

「『魔道アーティファクト』の研究が進んでいる國の事ですよ」

首を傾げるキョーガに、こっそり耳打ちした。

「そりゃァ別にいいがァ……俺が知りてェのはァ、それがいくらになるかって事だァ」

「……聖金貨10枚でどうだ?」

「じゅっ……!10枚ですか?!」

驚くリリアナ、首を傾げるキョーガ。

―――キョーガはこの世界の事については、無知だ。

今、研究員が言った聖金貨10枚が、高いかどうかがサッパリわからないのだが……リリアナの反応を見る限り、かなり高額だとわかる。

だが―――

「……もォし高くならねェかァ?」

「キョーガさん?!」

「ふ、む……もうしか……13枚は?」

「……………」

「ぐっ……!14枚!」

「せっかくだからァ、キリ良くしよォぜェ?」

「……15枚……これ以上は……」

「あァ、立だァ……その『魔道アーティファクト』は好きにしてもらっていいぜェ」

研究員から袋をけ取り、キョーガが中を確認する。

きっかり15枚、確かにっていた。

「……ちなみによォ、それを何に使うか聞いてもいいかァ?」

「すまない……それは極なのだ」

「そォかァ……んじゃ、帰るわァ」

「あ、お、お邪魔しました!」

ヒラヒラと雑に手を振るキョーガと、深々と頭を下げるリリアナが研究施設を出ていく。

「なァ、聖金貨ってェどんぐらいの価値があるんだァ?」

「えっと……まず、貨の種類について説明しますね」

―――この世界の通貨。

この世界の通貨は、銅貨、銀貨、金貨、魔金貨、そして聖金貨の5種類だ。

銀貨は1枚で、銅貨10枚分の価値がある。

金貨は1枚で銀貨10枚分……となっており、キョーガが貰った聖金貨15枚は、魔金貨150枚と考えられる。

「……待て待てェ……服はァ?服はいくらぐらいするんだァ?」

「私の著ている服で……銀貨4枚でした」

「……もしかしてェ、聖金貨15枚ってェ、かなり高いのかァ?」

「……ちょっとしたお金持ちですね」

ジャラジャラと音を立てる袋を見て……キョーガがリリアナに、袋を差し出した。

「……え?」

「持ってろォ……俺に金は必要ねェ」

「いやいやいや!これ、キョーガさんの『魔道アーティファクト』から出たお金ですよ?!なんで私が持つんですか?!」

「おめェが持ってた方がいいだろォ……俺ァしいもんなんてねェしなァ」

ぶっきらぼうに言い放ち、リリアナに袋を渡す。

―――本音だ。

キョーガは、特にしいがあるわけではない。

服も制服のままで構わないし、飯だって食材を買うお金だけくれれば問題ない。

「うーん……でも、こんなに貰っても……あ、そうだ、実家に仕送りを……」

と、かなり現実的な事を考えるリリアナだった。

―――――――――――――――――――――――――

―――時はし進み、2日後。

「研究長!『オルバ研究長』!」

「……なんだ……用件があるなら早く言え」

「『プロキシニア』の研究員が、スゴい『魔道アーティファクト』を持ってきました!」

若い男が出した四角いを見て、研究長と呼ばれる男が眉まゆを寄せた。

「……これは?」

「見知らぬ年が持ってきた『魔道アーティファクト』らしいのですが……とにかく、これを見てください!」

一通り、スマホの作を行おこなった男……最初は退屈そうに見ていた研究長も、しずつ表を変え、最終的にはを乗り出して作を見ていた。

「……なんだ……誰がこんなを……」

「……研究長……これは使えますか?」

「わからん……一度解しなければ」

そう言うと、研究長がスマホをバラバラにし始めた。

見たことのない配線、質……それら1つ1つを見ながら、研究長が黒い笑みを浮かべた。

「……使えるぞ……実際に組み合わせてみないとわからないが、間違いなく使える」

「では……いよいよ、計畫を?」

「ああ……始めよう……『人工召喚獣作計畫』を」

「いよいよ『機巧族エクスマキナ』を作るのですね……!」

設計図を広げる研究長を見て、若い男が嬉しそうに笑ったのだった。

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