《不良の俺、異世界で召喚獣になる》1章7話

―――『吸鬼ヴァンパイア』のアルマが一緒に暮らすようになってから、1週間が経った。

「キョーガ……」

「……アルマァ」

部屋の中で、上半のキョーガと、熱っぽい視線を向けるアルマが見つめ合っている。

そして……アルマがキョーガに抱きつき、キョーガの首元に顔を埋めた。

「……それじゃあ……失禮します」

「あァ……」

ダルそうに返事をするキョーガ……と、アルマが口を大きく開き、鋭い牙をキョーガの首元に突き刺した。

日課となりつつある、吸タイムである。

「あふ、あふぅ……キョーガ……味しいですぅ……」

「そォかよォ……」

漆黒の翼が、尾を振るようにバッサバッサとき、アルマが恍惚こうこつとした表を見せる。

狀況を知らない人が見れば、『の子が男の首元に顔を埋め、幸せそうにしている』と、あらぬ誤解を生みそうな狀況だ。

アルマ曰いわく、キョーガの味らしい。

味が濃厚で、いくら吸っても痛そうにしないキョーガが相手だから、アルマも嬉々として吸を行おこなえるのだ。

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「……おい……吸い過ぎじゃねェかァ?」

「はふっ……も、もうしだけ吸わせてくださぃ……」

チューチューと遠慮なくを吸うアルマを見て、キョーガが深いため息を吐いた。

―――本當に、元の世界じゃ考えられないことだ。

キョーガが誰かのために、を差し出すなど。

「……ふぅ……ご馳走さまでしたぁ」

「チッ……毎回毎回遠慮なく吸いやがってェ……しは遠慮しろよなァ」

「だって……キョーガは痛そうにしませんし……」

「はっ……こんなのォ、実・験・に比べりゃァなんてこたァねェからなァ」

「実験……です?」

首を傾げるアルマを見て、口がったと顔を背けた。

「……キョーガ?」

「なんもねェ……今聞いた事は忘れなァ」

「?……?……はい、です……?」

よくわからないまま、アルマが頷いた。

―――この1週間で、わかった事が2つある。

1つは、今の吸の後―――キョーガの首元には、牙の跡が殘るはずなのに……今はもう、完全に治っているのだ。

リリアナが言うには、『『反逆霊鬼リベリオン』には再生能力がある』との事なので、おそらくそれが原因だろうとキョーガは考えている。

「にしてもォ……飯の代わりにを吸うってのはどうなんだァ?」

「うぅ……ボクたち『吸鬼ヴァンパイア』は、ご飯を食べるより吸する方が効率がいいんですよぉ……確かに、キョーガの作るご飯は味しいですけど、キョーガのの方が味しいですし……」

「……俺が作った飯より、俺のの方が味いってのはァ、なァんか複雑な気分だなァ」

2つは、アルマはさえ吸っていれば、ご飯が必要ないという事だ。

ちなみにアルマ曰いわく、ご飯を食べた後のキョーガのが一番味しいとの事。

「……キョーガ、もうし吸っていいですか?」

「もうやめとけェ、俺のが無くなるゥ」

「もうしだけですよぉ……ダメです?」

「ダメだァ」

服を著直し、キョーガが立ち上がる―――

「―――おはようございます!キョーガさん、アルマさん!」

「リリアナかァ……おはよォ」

「おはようございますご主人様!」

と、元気なリリアナがキョーガの部屋にってきた。

その手には―――何か、紙切れのようなが握られている。

「……手紙かァ?」

「はい!先日、実家に手紙を送ったんで、その返事だと思います!」

「へェ……なんて書いてあんだァ?」

「今から読みますね!」

嬉しそうに手紙を開くリリアナを、優しい眼で見るキョーガ……と、2人を見たアルマが嬉しそうに笑った。

「ご主人様は不思議ですね……ボクたち『死霊族アンデッド』にも普通に接してくれますし……」

「こいつは俺らを『人種が違うだけの友だち』としか思ってねェしなァ」

「……確かに、言われてみればそんなじですね」

ニコニコと手紙に目を通すリリアナ―――その顔が、凍りついた。

「……ご主人様?どうかしましたか?」

「そんな……お父様……?!」

驚きに目を見開くリリアナ……それを見たアルマが、リリアナの隣に立ち、手紙に目を通す。

何が書いてあるのかと、キョーガがリリアナに近づこうとして―――

「……なんだァ……?この気配はァ……?」

眼を細くするキョーガが、何かをじ取った。

―――殺気。

凄い殺気を放つ何かが、高速でここに向かっている―――?

「アルマァ、リリアナから離れんなよォ」

「キョーガ?」

「すげェ殺気だァ……しかもこのじだとォ……かなりの手練れだなァ」

掌を開閉させるキョーガが、リビングへと向かった。

リリアナとアルマも、ようやく理解した。

―――キョーガに警戒心を持たせる何かが迫っていると。

「……やっぱりィ……まっすぐこっちに向かってやがるなァ」

「キョーガさん……その……もしかしたら―――」

「リリアナはアルマから離れんなァ……おいアルマァ、リリアナと一緒に俺の後ろにいろォ」

「はい、です!」

アルマの手の上に、『赤黒い魔法陣』が浮かび上がる。

そう―――アルマは魔法が使えるのだ。

一度だけ、アルマが魔法を使う所を見た事がある。

その際、キョーガが『おもしれェなァ。俺も魔法使えねェかなァ』と興味を示したが、キョーガには『魔法の才』が無いため、魔法が使えないとアルマに言われた。

「……來るぞォ」

キョーガの低い聲に、アルマが表を引き締める。

次の瞬間―――『スゥ―――ン』と薄っぺらい音が外から聞こえた。

直後、扉がバラバラに崩れ落ち―――

「なっ……扉がバラバラになっちゃいました……?!」

「…………へェ……」

フラリと、30代ほどの男が、剣を片手に中にって來る。

それと向かい合うキョーガの口が『ニヤー』と裂けた。

―――おもしろい……俺と、戦やろうってのか。

「……お前……か」

「あァ?誰だてめェ……まずはごめんなさいからだろォがァ。人ん家ちの扉バラバラにしておいてェ、謝罪も無しかァ?」

「………………人の娘に手を出しておいて……よくもまあそんな事が言えたな……」

剣を構える男が、狂気を含んだ視線を向ける。

……え?……娘って事は―――

「あんたァ、まさかリリアナのォ―――」

「死ねッ!貴様なんぞに娘はやらんぞッ!」

風を斬る音と共に、神速の剣が放たれる。

常人ならば、避けるのは至難の技だろう。

―――常・人・ならば、な。

「よっ―――と、まあちょっと落ち著けってよォ」

「うる、さいッ!」

軽く避けるキョーガに、リリアナの父が再び剣を振る。

それに対し、キョーガは―――最小限のきで剣撃を避ける。

首を傾け、を反らし、小さく後ろに跳ね―――まるで、剣が見えているような回避技だ。

高速の剣を避けながら、キョーガは頭を回転させる。

―――知らない相手なら、キョーガも遠慮なく毆れるのだが……相手はリリアナの父親だ。毆れるわけがない。

「よっ、ほっ」

「くそ……ッ!小賢しい……ッ!」

放たれる一撃一撃が全力。

それを簡単に避けられるなんて―――と、リリアナの父親は、怒りでおかしくなりそうだったりする。

―――ふと、キョーガの足が止まった。

これをチャンスと見た父親が、素早く剣を振り上げ―――

「殺とった―――ッ!」

一気に振り下ろした。

全霊。全重を乗せた渾の一撃。

リリアナの目にも、アルマの目にも、キョーガが2つに斬られる姿が容易に想像できた。

いくらキョーガでも、は普通の人間。だからアルマの牙が刺さる。

リリアナの父親も、勝利を確信し、口元に歪んだ笑みを浮かべた。

だが―――たかだか剣が、キョーガを斬るなんて不可能だと、全員が思い知る事になる。

「―――『完全再現リコール』」

振り下ろされる剣に対し―――キョーガは、剣先に向かって手をばした。

直後―――剣の軌道が逸れた。

まるで、剣がキョーガを避けるように、キョーガの真橫に振り下ろされる。

「悪わりィなァ―――もう飽きたァ」

「なっ―――ぐっ?!」

拳を握ったキョーガが、軽く父親を毆る。

―――と、父親の姿が消えた。

違う。飛んで行ったのだ―――キッチンに向かって。

「お、お父様ー?!」

「……あれェ……そんなに強く毆ってねェんだけどなァ」

慌てたように駆け寄るリリアナを見て、キョーガが『ヤバイ』と冷や汗を流す。

―――アルマは、ハッキリと見た。

リリアナは気づいていないが……最上級召喚獣のアルマは、確かに気づいてしまった。

今のキョーガのき……まるで、武の達人のようなきだった。

1年?10年?それ以上?

どれだけの時間を掛ければ、あんな鮮やかなきができるようになる?

いくらなんでも―――洗練さ・れ・過・ぎ・て・い・る・。

「キョーガ……」

「んァ?」

「い、今の……なんですか?」

「………………俺の地元にあった技だァ……まァ気にすんなよォ」

そう言って視線を逸らすキョーガは―――どこか、寂しそうだった。

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