《不良の俺、異世界で召喚獣になる》1章8話

「……う……ぐぅ……?」

「おォ、目ェ覚めたかァ」

キョーガの部屋の中、眠っていたリリアナの父親が目を覚ました。

を起こし―――キョーガと目が合った瞬間、父親が立ち上がろうとするが―――

「い……ッ?!づぅ……ッ!」

「無理すんじゃァねェよォ……めっっっちゃ軽く毆ったつもりだがァ、俺の一撃を食らったんだァ……」

アルマを毆った時は、もっと強く毆っていたのだが……と考えると、やはりアルマはスゴいのだろう。

「んじゃァ、リリアナを呼ぶかァ……ちょっと待ってろォ」

言い殘し、キョーガが部屋を出る。

「リリアナァ、目ェ覚ましたぞォ」

「本當ですか?!」

リリアナがキョーガの部屋に突っ込み―――父親の姿を見て、目を細めた。

「……リリアナ……すまない。お前を守る事ができなかった……だが『シャーロット』が來るはず―――」

「バカーーーっ!」

「へぶうっ?!」

父親の腹部に、リリアナの中段突きが炸裂した。

しかも……キョーガが毆った所に。

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「うっ……ぐぉぉぉぉぉ……ッ!」

「あー……リリアナァ、後は任せっぞォ」

「任せてください!お父様には言いたい事がたくさんあるんですから!」

プンプンと怒り、リリアナが父親の前に立つ。

申し訳なさそうに正座する父親を橫目で見ながら、キョーガが部屋の扉を閉めた。

「よしィ……アルマァ、買い出し行ってくるからァ、留守番頼んだぞォ」

「あ、キョーガ……ボクも行きたいんですけどぉ……」

「あァ?なァんでだよォ?」

「ボク、こっちに召喚されてから命懸けで……ゆっくり歩く時間が無くてですね……」

確かに。

アルマはこの世界に召喚されて―――いきなり捨てられた。

空腹と孤獨で頭がおかしくなりそうになるも……どうにか食料キョーガと住む場所を確保できたのは、本當に運が良かったのだろう。

それに、ここ1週間は、キョーガのお金(スマホ)のおかげで、特に外に出ることなく過ごしていたから、アルマも外に行きたいんだろうな。

「だから一緒に行きたいんですけど……ダメです?」

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「……俺ァ知らん……ただァ、付いてくるんなら手伝ってもらうぜェ」

「はい!任せてくださいです!」

―――――――――――――――――――――――――

―――と、元気いっぱいに返事するアルマと共に、キョーガが買い出しに來たんだが。

「……ごめんなさいですぅ……本當にごめんなさいですよぉ……」

なぜか、アルマがキョーガの背中に乗っていた。

―――『吸鬼ヴァンパイア』は、太が苦手らしい。

今は晝間なので……太が一番働いている時間。

グッタリとしたアルマが、フラフラとヤバイじになってきたので、仕方なくキョーガが背負う事にしたのだ。

「チッ……おい背中で泣くんじゃねェよォ」

「うぅ……ごめんなさいですぅ……」

「わかったわかったから泣き止めェ。周りからの視線がうぜェ」

グズグズと泣くアルマを見て、近くを通る住人が不快そうな視線を向ける。

……泣いてるの子を見るようなじの視線じゃない、とすぐに気づいた。

―――キョーガは直的に理解した。

なるほど……翼が生えてるアルマを見て、すぐに『吸鬼ヴァンパイア』だと理解したのだろう。

『死霊族アンデッド』への嫌悪が丸出しだ。

「…………キョーガぁ……」

ギュッと、アルマが不安そうにキョーガの背中を抱き締める。

「チッ……イライラする視線だなァ……ここら辺のやつらァ、まとめて殺すかァ……?」

「そっ、それはダメですよぉ……あ、キョーガ、をください……をくれたら歩けるくらいには元気に……」

「ふざけろバカがァ。1日1回の吸はもうやっただろうがァ」

そんな視線もどこ吹く風。

不快そうに舌打ちするキョーガ……アルマと話して気が紛れたのか、特に危害を加えるわけでもなく、食料を買いに向かう。

「……にしてもォ……なァんで『死霊族アンデッド』って嫌われてんだろォなァ?」

「え……キョーガは、知らないんですです?」

「知らねェってェ……アルマは知ってんのかァ?」

「まあ……それなりには知ってますよぉ。というより……知らない方が珍しいんじゃないですか?」

ちょくちょく『ですです』って付けるのは、意図的なのだろうか。

そんな事を問う前に、背負われるアルマが、ポツリポツリと思い出すように話し始める。

「えっとぉ……昔、魔王が7人の大罪人を連れて、この世界に現れたんです」

「あァ……そりゃ知ってるよォ」

「……それなら……その後の『死霊事件』は知ってます?」

「……いや、それは聞いた事ねェなァ」

「『死霊事件』……これが原因で、『死霊族アンデッド』は嫌われてしまったんですよぉ……」

―――『死霊事件』。

魔王を追い払った後……『死霊士』は姿を消したのだ。

理由は不明。生きているか死んでいるかもわからない。

だが―――『死霊士』が殘した大量の『死霊族アンデッド』が原因だった。

主を無くした『死霊族アンデッド』は―――解放と、今まで酷こくな命令ばかりした『死霊士』への腹いせに、近くの人間が暮らす國を破壊して回った。

もちろん、そんな事を『勇者』と『魔』が許すはずもなく―――『死霊族アンデッド』の群れは、全滅させられたのだ。

「……まあ、こんなじですぅ」

「はー、なるほどなァ……俺らァその偏見へんけんをけてるって事なのかァ」

「はい……あの、キョーガぁ……」

「あァ?」

「そのぉ……『死霊族アンデッド』が嫌われてる理由を教えたので……お禮にを吸わせてください……」

「……はいはいわかったわかったァ、吸っていいから大人しくしてろよォ」

「わーい!」

かぷっ、ちゅー……

キョーガのから、が抜かれる。

正直、この吸行為、キョーガはスゴく不安なのだ。

側にある筋の強靭さや、骨の頑丈さは、無敵と言って過言ではないが―――、それに痛覚は、普通の人間よりちょっと頑丈だったり、多かったり、鈍かったりしているだけで、普通に『俺、貧で死ぬんじゃないか?』とか、キョーガは心底不安だったりする。

「はぁ……おいひぃ……おいひぃれすぅ……!」

「黙って吸えやァ」

「……………」

ちゅーちゅーと、幸せそうに吸する。

―――ふと、何かが迫るような気配をじた。

バッと振り返り―――誰が投げたのか、石ころが飛んできている。

そんなに早いわけでも、複數投げられているわけでもない、ただ投げられたような石―――キョーガは右手でキャッチし、飛んできた方向に視線を向ける。

「あ、コラ!何やってるの!」

「……………」

―――い男の子だ。

その眼には……やはり、『死霊族アンデッド』への嫌悪が宿っている。

石を投げたのは、いから良いと悪いの判斷がまだ育っていない故ゆえか。

さすがにマズイと思ったのか、男の子の母親が、男の子を連れて立ち去ろうとしている。

「チッ……ガキがァ―――」

―――誰に喧嘩売ってんだァ?

辺りを、不可視の重圧が襲う。息が詰まるほどの濃厚な殺気が充満する。

ここにリリアナがいれば、事態は変わっていたのかもしれないが……ここにはキョーガとアルマしかいない。

―――最強と恐れられた『鬼神』が、子ども相手なら容赦するとでも?

「あ、あわ……」

「うひっ……!」

口々に小さく悲鳴を上げながら、住人たちがしずつ後ずさる―――と。

『ズドォォオオオオオオオオンッ!』

―――地面が割れた。

『ビキビキィッ!』と亀裂が走り、近くの建にまでヒビをれる。

突然の出來事と、濃厚な殺気に、住人たちはけなくなってしまった。

地面が割れた原因は―――キョーガだ。

キョーガが地面を踏み込み―――亀裂を走らせたのだ。

「……3秒以に散れェ……でねェと殺す」

そんなキョーガの聲を聞いた瞬間、住人たちは蜘蛛の子を散らすように逃げ去った。

「……ぷはぁ……キョーガ、手を出さなかったんですね?」

「……おめェはいつまで吸ってんだよォ……ってか、手ェ出すわけねェだろォが」

「何でです?」

「……俺ァリリアナの召喚獣だァ……だからァ、あいつの迷になる事はしねェ」

アルマを背負い直し、今度こそ食料を買いに行こうとして―――ふと、肩を叩かれた。

「チッ……今度は何―――あァ?」

「……その子……あなたの召喚獣?」

の髪……整った顔。

白いローブを著た……聖のようなが、キョーガの肩に手を置いていた。

「答えて。その『吸鬼ヴァンパイア』はあなたの召喚―――」

「禮儀がなってねェだなァ……まずは名乗れよォ。話はそっからだろォがァ」

言葉を遮さえぎり、肩に置かれた手を払い除のける。

―――キョーガの考えだと、このも『死霊族アンデッド』の事を良く思っていないんだろう。

「そんなの関係ない……早く答えて、でないと―――消していい『死霊族アンデッド』か、わからない」

「………………はァ……おゥこらてめェ、あんま調子乗んなよォ。今ここで死にたくねェだろォ?」

背負っていたアルマを下ろし、キョーガが威圧的に距離を詰める。

「……なるほど、消していい『死霊族アンデッド』と判斷するわ」

「さっきからごちゃごちゃうるせェな―――」

「『神の聖域サンクチュアリ』」

『ヴンッ』と、白い魔法陣がアルマの足下に出現する。

―――こいつ、『魔士』か!

「アルマ―――」

「―――うあああああああああああっ?!」

それは、神々しいの柱。

アルマの足下に現れた魔法陣から、しい柱が空に向かって一直線にび―――その中にいたアルマが絶を上げた。

「おい!アルマァ!」

「………………あ…………ぐぁ……」

ところどころ黒く―――炭のように変化してしまっている。

―――『吸鬼ヴァンパイア』のアルマが、キョーガの拳を食らっても余裕で立ち上がったアルマが……白目を向いて、フラフラとしている。

「……さすが最上級召喚獣の『吸鬼ヴァンパイア』……この程度じゃ死なないわね」

「てめェ―――ぶっ殺すッ!」

―――殺意。

キョーガのから、尋常じゃない殺気が放たれる。

その気配をじたが、慣れた様子で距離を取ろうとするが―――

「―――遅おせェんだよクソァ!」

「は―――ぇ?」

一瞬で背後に回り込んだキョーガが、の頭を摑み―――思いきり、地面に叩き付けた。

もちろん、加減はしている。顔に傷ができるかもしれない威力だったが、死ぬことはないだろう。

「アルマァ!大丈夫かァ?!」

「…………きょ……がぁ……」

ガクガクと震える足―――だが、アルマは立っていた。

膝を突く事なく、倒れる事なく、力強く立っていた。

―――しかし、大怪我なのは見ればわかる。

「おい!それァどうすりゃ治るんだァ?!」

「は……ふ……を、吸えばぁ……」

「じゃあ早く吸え!」

「で、も……今日、はぁ……もう……2回もぉ―――」

「ごちゃごちゃうるせェ!とっとと吸えって言ってんだろォがァこのアホォ!」

「ふ、ぅ……しつれ、しますぅ……」

アルマのを抱き寄せ、吸を行おこなう。

「チッ……いきなり魔法撃ってきやがってこのクソがァ……」

「はふっ……おそらく、『クラリス』の國民れふぅ」

「『クラリス』……ってなんだァ?」

「『死霊族アンデッド』の事をとても嫌ってる國れすぅ……あ、あふっ……確か、『神 クラリオン』を信仰している宗教國家ですね」

ちゅーちゅーと吸しながら、アルマが聞き慣れない國の名前を口にする。

「……なァ……さっきの魔法ってなんだァ?」

「あふっ……あれは『浄化魔法』れふぅ……普通の魔法と違って、対『死霊族アンデッド』専用に作られた魔法れすぅ……」

「はァ、なるほどなァ……だァからアルマがあんなに痛がってたのかァ」

「―――見つけましたぁあああああっ!」

キンキンと甲高い聲が聞こえた。

「リリアナァ……何しに來たんだァ?」

「お姉様が來てると聞いて、まさかと思いましたが……やっぱり『死霊族アンデッド』のキョーガさんとアルマさんに絡んでましたか……!」

「……あァ……?ちょっと待てェ、今……お姉様っつったかァ?」

キョーガの問い掛けに、リリアナが困ったように答えた。

「……『シャーロット・ベルガノート』……私のお姉様です」

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