《不良の俺、異世界で召喚獣になる》2章11話

「それでは……俺はこれで失禮する。『プロキシニア』まで送ってくれて、ありがとう」

「はい、デントさんもお気をつけて」

「ああ、卒業式で會おう」

馬車から降りるデントが、軽く手を振りながらリリアナたちの元を離れる。

それを見屆け、キョーガは再び馬車を引っ張り始めた。

―――『ギアトニクス』を『機巧族エクスマキナ』の手から救い、すぐに『プロキシニア』へと戻ってきた。

収容されていた住民の中には……研究員と王族はいなかった。

おそらく、殺されたのだろう。

『ギアトニクス』が國として復活するかどうかはわからないが……それはもう、キョーガたちには関係のない話だ。

「サリスさん、怪我が治って良かったですね」

「あは~♪まさか捕らわれてる住民の中に、治癒魔法が使える『人類族ウィズダム』がいたとは驚きだよ~♪」

ニコニコと笑うサリス……その左腕は、すっかり元通りとなっている。

「……にしたってよォ、本當に帰ってきて良かったんかァ?」

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「何がです?」

「おめェはあの國を救ったんだァ……なのにィ、なんの見返りも求めねェなんてよォ」

「別に、見返りがしかったわけじゃないですし……それに、あれだけ謝されれば、私は満足ですよ!」

キッパリと言いきるリリアナに、キョーガは深くため息を吐いた。

―――どこまで甘々なんだ、こいつは。

1國を危機から救っておいて、なんの見返りも求めないなんて……まあ、リリアナらしいと言えば、リリアナらしいが。

「……そういやァ……あいつ、どォしたかなァ」

「誰がです?」

「……んや、なんもねェ」

キョーガの呟きを聞いたリリアナが、車両から問いかけるが……それとなく誤魔化し、キョーガは馬車を加速させる。

あいつ、というのは『指示者コマンダー』の事だ。

止とどめを刺さず、1機だけ殘して帰って來たのは……キョーガが『指示者コマンダー』の事を、自分にそっくりだと思ってしまったからだ。

殘酷非道、最強無敵のキョーガにも、相手の事を考える心はある。

―――あの『指示者コマンダー』は、リリアナと出會えなかった俺なのかも知れない。

ついそんな事を考えてしまい……出した答えは『あいつも、自分を必要としてくれるやつに出會えば変わる事ができる』だ。

俺がリリアナと出會って変われたんだ。あいつだって、変われるはず―――と、キョーガらしからぬ考えで。

「んァ……著いたぜェ」

「ありがとうございます、キョーガさん」

「……なんだか、たった1日で大冒険した気分ですよぉ……」

車両から降りてくるリリアナとアルマが、疲れた様子で家にる。

その辺に馬車を置き、キョーガも中にろうと―――

「…………?……なんだァ……?」

「……あはっ……♪キョーちゃんもじるよね……♪」

まだ馬車の中に殘っていたサリスが、遠くを見るキョーガの隣に並ぶ。

その視線は……キョーガと同じく、遠くを見ている。

「……このじってェ……」

「あは……♪うん、あたしもそう思うよ~♪」

何やら、ここを目指して接近してくる気配……それも、生ではない。

限りなく生に近いが……どこか道のような……

「―――【発見】 『反逆霊鬼リベリオン』と『地獄番犬ケルベロス』の姿を確認……ここが住居だと把握」

ふわりとキョーガたちの目の前に著地する、可―――否、の姿をした機械だ。

「……あは~……♪……なに、今度はこの國を攻め落とす気かな~♪」

「【否定】 當機はすでに負けた……戦う気はない」

「だったらてめェ、何しに來たんだよォ」

無表のまま歩み寄る『指示者コマンダー』……キョーガの前で立ち止まり、惚れ惚れするほどしいお辭儀を見せた。

「【懇願】 當機をマ・ス・タ・ー・の部下にしてほしい」

「………………いや、何言ってんだおめェ。んな事言われたって―――おい待てェ、今何つったァ」

「【懇請】 當機に居場所はない。それに、『ギアトニクス』にいては、目の敵かたきにされる事、間違いなし」

「んな事聞きてェんじゃねェよォ……いや、というか聞きてェ事しかねェんだがァ」

心底面倒くさそうに頭を掻き……大きくため息を吐いた。

「……サリスゥ、ちっとコイツと話をしてくるゥ……リリアナとアルマに言っといてくれェ」

「ん~……1人で大丈夫かな~?あたしも付いて行こっか♪」

「俺を舐めてんのかてめェはァ?」

―――――――――――――――――――――――――

「んでェ?何しに來たんだよォ?」

「【説明】 先ほど話した通り。當機をマスターの部下にしてほしい」

「そこからわかんねェんだよォ……てか何だよマスターってェ……」

リリアナの家の近くにある公園。

そこに置いてある椅子に、キョーガと『指示者コマンダー』が座っている。

「【説明】 當機は、當機より弱い者に従いたくない。よって、當機より強い者……マスターになら、従っても良いと考えている」

「……そもそもォ、なんで俺に従おうとするゥ?」

「【説明】 當機はマスターに興味がある。當機と同じく、人工的に手が加えられたというマスターに」

「んな事言われたってなァ……」

「【提案】 もちろん、ただでとは言わない……當機をマスターの部下にしてくれるのであれば、このを自由に使って構わない……當機も、頑張ってご奉仕する」

ふんすっ、と機械らしからぬ気合いのった作を見せる。

「……俺ァ別に構わねェがァ……リリアナがどう言うかだなァ」

「【質問】 リリアナとは誰か」

「俺の召喚士だァ……あいつァ正義が強つえェからなァ、おめェが『機巧族エクスマキナ』だって知ればァ、もしかしたら拒否るかもなァ」

「……【理解】 『人類族ウィズダム』は當機の事を良く思っていない」

無表のまま頷く『指示者コマンダー』。

やはり機械だなと思いながら、キョーガが気になっていた事を聞く。

「なァ、ずっと気になってたんだがァ……おめェは何のために作られたんだァ?」

「【説明】 當機は戦いの為に作られた」

「戦い……だとォ?」

「【質問】 マスターは魔王を知っているか?」

「あァ……って事ァ、おめェは対魔王用に作られたって事かァ?」

「【肯定】 魔王は生きている。そのため、再びこの世界に現れる可能が高い……當機は捨て駒として作られた」

―――なるほど。合理的と言えば合理的だ。

魔王が再來した時、『機巧族エクスマキナ』のように、生死の恐怖が無い者がいれば、なんの躊躇ためらいも無く戦えるだろうから。

「【説明続行】 しかし、いくら道と言えど、自より弱い者に従いたくはない……それを肯定してくれたのは、他ならぬマスターだ」

「……まァ、そうだなァ」

「【狀況】 當機には行く宛がない。さらに、頼れる者もいない……仲間である『機巧族エクスマキナ』は、マスターたちによって破壊された」

長い金髪を弄りながら、『指示者コマンダー』がどこか寂しそうに続ける。

「【懇願】 當機は、當機が造られた理由がほしい。誰のために造られたのか、何のために造られたのか」

―――誰のために造られたのか。何のために造られたのか。

『俺ァリリアナの召喚獣だァ。おめェのために戦ってェ、おめェの決めた事にゃァ文句言わねェ』……キョーガは最近になって、自分の存在を認められるようになった。

このも、自分と同じなのだろう。

勝手に作られて、改造されて……何故、自分は生きているのか、わからないのだろう。

だがそれは、機械の域を超えている。

に疑問を持ち、考え、行するなんて……それはまるで―――

「【懇請】 マスターのために造られて、マスターの力になるために造られた……そんな理由がほしい」

そう言ってキョーガを見上げる『指示者コマンダー』の顔は―――人間にしか見えなかった。

―――――――――――――――――――――――――

「えっと……キョーガさん、その方は?」

不思議そうに『指示者コマンダー』を見るリリアナ……その隣では、アルマが『なんでコイツがここに?!』と、口をパクパクさせている。

どこから話したものかと、キョーガが困ったように頬を掻き……ふと、思い付いたように口を開いた。

「……こいつァ『機巧族エクスマキナ』の親玉だァ」

「『機巧族エクスマキナ』の親玉……って事は、この子が最初に暴走した『機巧族エクスマキナ』なんですか?」

「あァ……また暴走しねェようにィ、俺が監視する事にしたァ」

「えっと……他の『機巧族エクスマキナ』はいないんですか?この子だけしか殘っていないんですか?」

「【肯定】 他の『機巧族エクスマキナ』は、マスターたちによって破壊された」

ジッと、『指示者コマンダー』を見つめるリリアナ。

その視線をける『指示者コマンダー』が、気圧けおされたように後退あとずさる。

「あー……リリアナァ、おめェの考えもわかるゥ。だがァ、そいつにも理由があって―――」

「……可いですね」

「「えっ」」

しずつ後退する『指示者コマンダー』の肩をガッシリ摑み、リリアナが『指示者コマンダー』の顔を正面から覗き込む。

「……スゴく可いですっ!」

「ぎっ、【疑問】 當機が怖くないのか?」

「怖い……ですか?怖くはないですよ、キョーガさんが連れて來たんですから!」

ぎゅ~っと『指示者コマンダー』を抱き締めるリリアナが、頬りを始める。

その様子を見て、キョーガが安心したように笑い、アルマとサリスが不安そうにリリアナを見つめていた。

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