《《完結》待されてる奴隷を救った、異世界最強の龍騎士》第1話「異世界転移」

に浮かんでいるのは、6つの月だ。

白神龍一郎は、怪訝に思いながらボンヤリと空を見つめる。やはり月は6つある。

を起こす。

周囲を見渡した。

木造の家屋が建ち並んでいる。畑と思われる耕地が見けられた。いかにも、村、といったじだ。ただ、村の雰囲気にそぐわない外燈が、あちこちに燈っている。おかげでそんなに暗くはない。

(寢惚けてンな、オレ)

明日は期末テスト。高校二年生の中ごろという、もっとも気勢を削がれる時期の期末テスト。とはいえ、補習をくらって夏休みを潰されるのはカンベンだ。

世界でもっとも価値がある日々、「夏休み」を死守するべく、テスト勉強をしていた――はずだった。

気が付くと、龍一郎はこんな場所に、寢転んでいたのだった。

「よっこらせ」

立ち上がる。

涼をはらんだ風が、やさしく龍一郎の首筋をナでていった。自分の耳たぶに爪をたててみた。痛い。

夢ではない。

なら、考えられるのは――。

異世界転移だ。

もう一度、周囲を見渡した。

異世界転移したなら、招いた人がいても良いと思ったのだ。気品あふれるお姫さまとか、可憐な魔法使いとか。

いない。誰一人としていない。

「あー。もしもし、誰かいませんかねー」

ホラーはあんまり好きじゃない。こんな夜更けに、たった1人田舎めいた村に召喚されても困る。誰が召喚したのか知らないが、召喚するなら、日が出ているうちにしてもらいたい。

召喚じたいには、謝している。

異世界に來たのであれば、期末テストの勉強はしなくて良い。もはや學校に通うことがないのだ。赤點やら補習が、悪魔のごとく襲いかかってきて、輝かしい青春の日々を躙じゅうりんしていく心配もない。

耳を澄ましてみる。

ひゅるひゅると不気味な風の音が聞こえている。それにまじって、のすすり泣きみたいな聲が聞こえてきた。

行く當てもない。

その聲にわれてみることにした。

歩く。そのときになってはじめて、自分が足であることに気づいた。服もパジャマのままだ。

テスト勉強をしてる最中に、召喚されたからだろう。都合よく著替えなんか落ちているわけがない。何も著てないよりかはマシだ。今は、我慢しよう。

のすすり泣く聲は、村のストリートから聞こえていたようだ。この村のイチバン大きな通りなのかもしれない。石畳が敷かれていた。

そこに、が1人うずくまっていた。

3人の男が、にむかって、農と思われるものを叩きつけていた。

イジメとかそういうレベルではない。下手をすると死んでしまうのではないかと思われた。激しくを打つ音と、のすすり泣く聲が暗夜に響いているのだった。

聲をかけるべきか。

を助けてあげたいという気持はあるが、あの野蠻なる暴力に立ち向かう勇気はなかった。

こういうときフィクションの主人公たちは、當たり前のように割り込む。いったいどんな神経をしてるのかと思う。

「はぁ」

ため息。

こちとら、一介の高校生だ。

あの兇暴に立ち向かえというのは酷だ。だが、これはオレを試しているのかもしれない――と、龍一郎は思った。

龍一郎が異世界転移していることは、間違いない。

召喚主は見當たらない。

このケンカを仲裁する勇気を持ってるのかどうか、召喚主はどこかで見極めようとしているのではないか? そう思うと、見て見ぬふりもしかねる。

気合いをれるという意味で、龍一郎は自分の頬を、軽く叩いた。

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