《《完結》待されてる奴隷を救った、異世界最強の龍騎士》第8話「の品質」
「あなたは貴族?」
ベルが龍一郎の表をうかがうようにして、尋ねてきた。まるで龍一郎に怯えているかのようだ。そんな態度をされると、龍一郎としては傷つく。
「いや。オレは貴族とやらじゃない。異世界から來たみたいだし」
「異世界?」
「わからないなら良いんだ」
ベルが龍一郎を召喚したわけではないらしい。最近のフィクションでは、特に深い理由もなくポンポンと異世界に招かれる。そういうパターンも考えられた。
「貴族ではない?」
「ああ。貴族じゃない」
「良かった。貴族なら、私、とても失禮なことしてたから」
「別に、オレに気をつかう必要はないよ。今まで、誰かに敬語を使われたことすらないからね」
なんの自慢にもならない。
部屋にあった木造のイスに腰かけた。くつろいでいるわけではない。他人の家で、くつろげるほど図太くはない。
クロエイを見た衝撃で、足にうまくチカラがらないのだった。ベルは龍一郎の足元に座った。まるで、龍一郎にかしずくようなカッコウだった。
「なにしてるんだ?」
「私は、イスに座ること、許されてないから」
ベルの言葉は、カタコトだ。
表を上手くかせないそうだから、それが起因してるのかもしれない。
「ここにはオレ以外いないんだから、良いじゃないか」
「この家のイスに座ったこと、ない」
それは衝撃だ。
どれだけ酷い生活をさせられていたのか、龍一郎の想像の範疇はんちゅうをこえている。
「まぁ、ムリに座れとも言わないけどさ」
しかし、これではまるで龍一郎がベルを従えているみたいで、居たたまれない。考えたすえに龍一郎も床に座ることにした。
「あなたはホントウに貴族ではない?」
「違うって。どうして疑うんだよ」
「人間のにはチカラがある。それはエネルギーにもなるし、クロエイを倒すチカラにもなる」
「クロエイって、人間のに弱いのか?」
これは愚問だったなと思った。
今しがた、そのをもってしてクロエイを倒したのだ。
「そう。人間のに弱い」――と言ってから、ベルは言葉を続けた――「でも、誰のでも良いというわけじゃない。には品質がある」
「の品質?」
「品質が良いほどエネルギーとして莫大なチカラを発揮して、クロエイに対する効果もあがる」
「それじゃあ、クロエイを一発で倒したオレのの品質は、最高級ってわけか」
なかば冗談めかしてそう言った。
ベルは深刻な顔を崩さないまま応えた。
「その通り。クロエイを一発で、倒した。それは、とても、すごいこと。王族級のだと思っても良い」
「王子さまってか?」
績は悪いし、運はできない。絵が下手で、オンチ。帰宅部で、家も決して裕福ではない。それで王子様は笑える。
「本人の自覚がなくても、王族のを引いている可能はある」
「ないない」
斷言できる。
この世界の王族がどういうものか知らない。だが、龍一郎は異世界人なのだ。まず間違いなく、一般人だ。
「ところで、オレからも尋ねたいことがあるんだけど」
「なに?」
「君は、この家の奴隷なのか?」
「そう」
ベルは諦観したようにうなずく。
「じゃあ、両親とかは?」
「いない」
「そうか。厭なことを尋ねて、ゴメン」
「かまわない」
親と引き離されて、毎日拷問のような苦痛の中に投げ込まれる。それはこのの心を砕するのに充分な出來事だろう。
不幸という現象が、の形をしているようにさえ思えてくる。
「さっき、この村で鐘が鳴ってたみたいだけど、あれは何の音だったんだ?」
その鐘が響いていたおかげで、こうして家に忍び込むことが出來たのだ。
「あれは、クロエイが攻めてきたときの合図」
「攻めてきたって、軍隊みたいにか?」
「そう。あいつらは、わき出てくるから」
「え……。それってマズイんじゃないのか?」
人の形をした影で、顔面が口でできている。そんなヤツが群がっているなんて、想像すらしたくない。
「村の人たちが撃退しているなら、大丈夫。だけど、さっき1匹ってきてたから、もしかすると――」
厭な予がした。
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