《《完結》待されてる奴隷を救った、異世界最強の龍騎士》第9話「わき出るクロエイ」

息を殺して窓辺に近づいた。

外の様子をうかがった。

悲鳴をあげそうになった。クロエイが歩き回っているのだ。サッと見ただけでも10匹はいる。

燈っていたはずの外燈もすべて消えてしまっている。

「ヤバいことになってる」

「その銃――。《影銃》って言う。それあげる。だから、あなたは都市に行くと良い。あなたならきっと、歓迎してくれる」

「都市?」

「ここから南方、月が沈む方向へ進むと良い」

南に月が沈むのか――なんて言ってる場合じゃない。

「ベルはどうするんだ?」

「私はここの奴隷。ここに殘る」

「ダメだ。オレと一緒に行こう」

「どうして?」

「最初から、助け出すつもりだったんだ。後先のことぜんぜん考えてなかったけど、都市に行けば良いんだろう。そこまで案してくれよ。あんまり歩けないだっから、オレが背負うし」

「どうして?」

と、ベルがもう一度尋ねてきた。

「何が?」

「私は奴隷。劣等なを持つ者。別に助ける必要、ない」

「いや、だって――」

こんなにカラダがボロボロになるまで、暴力をけているのだ。しかも、それがなのだ。それを見捨てる男が、いったいどこにいるのか。

正義とか善意とかいう前に、を助けようとする気持は、倫理とか道徳の問題だろう。

顔は傷だらけだし、カラダもアザだらけで痩せ細っている。それでも、けっこうカワイイ。

こんなに骨にを助けようと思えるのは、ここが異世界だからかもしれない。

「だって、なに?」

と、ベルがうながしてくる。

「オレはとても遠いところから來たんだ。ここらへんの土地勘は皆無だし、しかもクロエイとかいうバケモノの中を1人で突破しろなんて、心細いだろう」

これもある意味事実だ。

役はしい。

しかも、このままベルが家にとどまっても、クロエイたちに襲われるのは目に見えている。

仮に、助かったとしても、ふたたび奴隷として生活するようなことになったら、あんまりにもカワイソウだ。

龍一郎が助け出したこともムダになる。

冗談を言ったつもりはないのだが、ベルは頬をピクピクと痙攣させていた。たぶん、笑っているのだろう。

「ホントウに私もついて行って、良い?」

「むしろ、ついて來てしいんだけど。どうしても厭だって言うんなら、無理強いはしないけどさ」

をエネルギーにするような世界なのだ。地球の常識は通用しないだろう。知りたいことは、他にもいろいろとある。知恵を授けてもらうのにも、ベルは必要だ。

ただ龍一郎が嫌われているという可能はある。その場合は、諦めてベルを見捨てるしかない。

ベルはしばらくボンヤリとしていたが、意を決したようにうなずいた。

「……わかった」

「一緒に來てくれるか?」

「準備、する」

ベルはおぼつかない足取りで、村を出る準備をはじめた。カンテラ。ナイフ。類などと手際よくまとめはじめた。

まるで前もって、旅の出ることがわかっていたかのような手際の良さだった。

ベルは奴隷として生活しながら、夢想していたのではないだろうか。どこか遠いところへ行くことを――。そうでなければ、こんなにも手際よく準備することは出來ないだろう。ベルの手際の良さが、龍一郎には哀れにぜられた。

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