この世界を、レオーネというらしかった。そして、ここはゼルン王國というそうだ。

セルン王國は封建國家制によって、各都市を領主が治めているとのことだった。そして、ベルのいた村が、ケルネ村というそうだ。

尋ねれば、ベルは何でも教えてくれた。

何故そんなことを尋ねるのか――どうしてそんなことも知らないのか――といったことは、イッサイ言われなかった。おかげで、気軽に質問することが出來た。

村からびている街道を歩いていた。さすがに村から出ると石畳ではなかった。けれど、地面はキレイにならされていた。

街道の左右は森になっていた。森には木造の柵が張られていた。クロエイが、森から出てこれないようにするための、バリケードかもしれない。

「ところで、ベルはどうして毆られてたんだ？　その……さっきのことだけど」

３人の男に囲まれて、殺されそうになるぐらい毆られていた。

それも、夜明け前に。

「私、逃げようとした。それで見つかった」

「走しようとしたのか？」

「そう」

こんな傷だらけになるような生活を強いられていたんなら、その気持もわからなくはない。

「じゃあ、やっぱりあの家に、居たくはなかったんだな？」

「うん」

なら、良かった。

嫌がっているのに無理やり、龍一郎がベルを引き連れてきたわけではないということだ。

「だったら、どうしてあの家に殘ろうとしたんだ」

「私が、あなたについて行くと、迷になる」

「そんなことはない」

むしろ、知識面ではかなり助かっている。

「私のは劣等だから、クロエイを招く」

「大丈夫。オレなら倒せるんだろ？」

強がってそう言った。

「ありがとう」

ベルには、何を考えているのかわからないところがある。表があまり変わらないのも理由の１つだ。

だが、それ以上にまだ龍一郎にたいして心の壁を築いているようにじるのだ。簡単には、他人を信用できないのかもしれない。それも仕方のないことだ。

「すごいカラダ中ケガしてるみたいだけど、病院とか行くべきか？」

古傷も多いようだから、病院ですべて治すのは難しいだろうが、痛々しいものをじる。しかし、この世界に病院という概念があるのかも、龍一郎にはわからなかった。

「心配ない。切り傷とかり傷しかない。大きなケガは全部、古いものだけだから」

「ベルが良いんなら、別に良いけど。ムリしてるんなら言えよ」

「うん」

しばし歩く。

ようやく森を抜けた。

眼前には、丘陵が広がっていた。

一面緑だ。異世界ものでは良く見る景だが、実際に見てみるとがあった。

森の出口あたりに、木造の小屋があった。小屋と言っても壁は大きく開け放たれている。車庫のようだ。

妙な機械が置かれていた。四のついた箱だ。トラクターによく似ている。

「車、か？」

「《車》」

「わかった。でくんだろう？」

「そう」

「なんでもかんでも、、だな」

ベルはコホンと咳払いをしてから、長く語った。

「このレオーネという世界では、かつて龍がいたとされてる。龍たちは誰がイチバン強いのか最後の１匹になるまで闘爭して、そして絶滅した。龍の死骸は、この世界を埋め盡くした。その龍の怨念がクロエイとなり、この世に出現するようになった。でも、龍の管はまだ生きていて、を流せばふたたび活力を蘇らせるとされてる」

ベルの聲はひどくしわがれており、老婆のおとぎ話でも聞いている気分になる。

「じゃあ何か？　龍の管のおかげで、を流したら電気が點燈するわけか？」

「そう言われている」

「でも、この《影銃》はどうなんだ？」

地面の龍の死骸が埋まっていて、その管を利用して電線にしているというのは、理屈として納得がいく。

地球の常識的には考えられないが、科學を取っ払ってしまえば、理解できなくもない。

けれど、銃は地面につながっていない。持ち歩いているものだ。カンテラだってそうだ。

「そのチューブが、龍の管」

「これが？」

たしかに銃からは、管がびている。

管にしては頑丈すぎる。

さすがは龍といったところか。

「そう。その龍の管を採掘するために、多くの鉱山奴隷が働かされている」

また、奴隷か。

ヘキエキする。

「クロエイを生んでるなら迷な存在だけど、管っていう文明を生んでくれたのなら、それは有りがたいのかもな」

一長一短といったところか。