《《完結》待されてる奴隷を救った、異世界最強の龍騎士》第27話「勘違い」

頭に冷たいを覚えて目が覚めた。どうやら、龍一郎はベッドに寢かされているようだった。ベルが、ジッと龍一郎のことを見下ろしていた。

「ベルッ」

あわてて跳ね起きた。

「ダメ。寢てないと。脳震盪を起こしてた」

「良かった。あの赤髪の男と、どこかに行ってしまったのかと思った」

そう言うとベルは目をつりあげた。

「私はそんなに恩知らずじゃない」

どうやらここは、宿屋らしい。

借りた3階の部屋だろう。ベッドが2臺置かれていて、窓がついている。木製のクローゼットとテーブルが置かれていた。

「あの赤髪の男はベルのことをカワイイって言ってくれた。もしも、ベルがあの男のほうが良いって言うんなら、それはそれで良いんだ。別に、オレはベルの主人でもなんでもないわけだし」

出來ればソバにいてしい。

だが、強制はできない。

「私は、あなたに世話になった。赤髪の男が私のことをカワイイと言ったのは、ただの方便」

「方便?」

「本人から聞くべき」

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ベルはそう言うと、部屋のトビラを開けた。

ってきたのはあの赤髪の青年だった。思わず構えた。が、杞憂だった。部屋にってきたとたんに、赤髪の青年は土下座した。しかもズドンという勢いで、床に頭を叩きつけていた。

「悪かったッ」

「へ?」

赤髪の男はクラウス・ヒューリーというらしかった。

ヒューリーという言葉は、記憶に新しい。あのマチス・ヒューリーの息子だということだ。クラウスと呼んでくれれば良いとのことだ。

クラウスは床にコブシを叩きつけて、煮えたぎるように語った。

「君が宿代の支払いの際に、とんでもない高い質値を示したから、貴族なんだと勘違いしたんだ」

質値が高ければ爵位をもらえるそうだ。ムリもない勘違いだ。

「オレと同じ年ぐらいの貴族が、の子をいじめているのだと思いこんで、それで――」

挑発をしたあげくに、毆ってしまった――とのことだ。

はたから見れば、「貴族の青年」と「傷だらけの奴隷」という構図に見えてしまうのだろう。たしかにベルは一見してわかるぐらいに、傷だらけなのだ。

「は、はぁ」

その謝罪態度に、龍一郎は気圧された。

「だから、本気でナンパするつもりはなかったんだ」

申し訳ないッ――また、ズドン。頭を床に叩きつけた。

これ以上、床に頭をぶつけられたら、クラウスのほうが脳震盪を起こしてしまいそうだった。

「そんなに謝る必要はないよ。クラウスの言ってることは、理解できなくもない」

龍一郎は頬をおさえながら言った。

まだ痛む。

レオーネに來てからまだ1日も経過していないのに、毆られてばっかりだ。

「ホントウかッ。オレの言っていることに理解を示してくれるかッ」

今度は顔を、を輝かせている。

こうして見ると、かなりのイケメンだ。目は大きくて形の良い二重まぶたをしている。鼻は高く顔の郭はハッキリしている。まだ大人ではないからか、どことなくしきっていない面をしている。

それゆえに、軽薄に見えてしまうのかもしれない。人は見た目で判斷することなかれ、中は熱系だ。

「オレは、人を差別するやり方が気にくわないんだ。奴隷だとか貴族だとか、そんなふうに人を差別するべきではない。だからオレは領主館を跳びだして、こうして貧民街の宿に部屋を借りているんだ」

ずいぶん熱い男だ。

灼熱の髪が、そういう印象を後押しした。

(まぁ)

いじめられているの子がいたら、助けたくなる。その気持はわかる。

が、人を差別するやり方が気にくわないというのは、全面的には賛同しかねる。人は平等ではない。

「いくら理想論をとなえても、クロエイに効果的なを持つ人間と、クロエイの標的にされる人間の差があるのも事実だ」

龍一郎が言うと、クラウスが言い返してくる。

「たしかに奴隷はクロエイの標的になる。しかし、だからといって、無下むげに扱って良いわけではない。むしろ、弱者は守るべきだ。貴族たちは奴隷のをエネルギーとして使うことが多い。これは間違っている。質値の良い人間のほうが燃費が良いんだ。だから、力などは貴族が補うべきだ」

力とは何か。

エネルギーのことを力というのだと、ベルが補足してくれた。

明かりをつけたり、水を出したりする際にを使うから、力、なのだろう。

なんの拠もなく、熱論を唱えているわけではないようだ。暑苦しいのは苦手だ。だが、奴隷を痛めつける貴族よりも、クラウスのような人間のほうが好が持てる。

同じ宿にいる以上は、これから顔を合わせることもあるだろう。

「オレは龍一郎。これからよろしく」

と、握手を求めると、

「おうッ」

と、握り返してきた。

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