《《完結》待されてる奴隷を救った、異世界最強の龍騎士》第29話「怯えるベル」
夜。
目を覚ました。
部屋の明かりは燈っていた。地球の常識で考えれば、夜は明かりを消すものだ。だが、レオーネでは逆なのだろう。クロエイが沸かないために、夜は明かりをつけておくものなのだ。
レオーネに最初に転移してきたときは夜明けだった。考えてみれば、これが最初に向かえる夜かもしれない。
明かりを燈すには力が必要だ。しかし、龍一郎にもベルにもチューブは刺さっていなかった。
おそらく部屋の宿代として、支払った際のが使われているのだろう。そう想像するのは容易なことだった。
《車》に乗ったときだって、支払ったを使っていていた。
ベッドの中に、溫かいがあった。
「ん?」
同じベッドのなかに、ベルがり込んでいたのだ。
心臓が口からとび出るかと思った。たしかにベッドで寢ろとは言った。だが、一緒に寢ろとまで言ったつもりはない。の甘い香りが鼻腔びくうをついた。
「うっ」
と、ベルがうめいた。
のぼせ上った熱はいっきに冷めた。よく見ると、ベルは小刻みに震えていたからだ。カラダを胎児のように丸めている。
小聲で、ごめんなさい……ごめんなさい……と繰り返していた。
そのにふりかかった悲劇が、ベルをここまで怯えさせているのだろう。
「大丈夫か?」
ベルの肩を揺すった。
その肩は、揺すっただけで崩れてしまいそうなほど、小さく弱弱しかった。ベルは弾かれたように起き上がった。呼気を荒げている。
「ここは……」
「宿屋だ」
「……そう」
ムリヤリを抑制するかのように、ベルはぴたりと呼気をおさえた。怯えのはたちまち流れ落ちてゆき、平然とした顔を裝っていた。
「大丈夫だ。何も心配することはない」
それぐらいしか、かけてやれる言葉が思いつかなかった。
「ごめんなさい。私、怖くなって、それでベッドに――」
ベルは、ベッドのシーツを強くつかんでいた。
そこにベルのの片りんが見けられた。
「何か怖いことあったのか?」
「寢るときはいつも、こうなる」
「そうか……」
恐怖を覚えて、龍一郎のベッドにもぐりこんできた。なら、龍一郎にたいしては心を開いてくれているのかもしれない。それがし嬉しかった。
一緒のベッドに寢ていたせいか、部屋のなかには、どことなく倦怠けんたいかんのある艶なまめめかしい雰囲気が漂っていた。
「まだ、雨――」
ベルは、そう呟いて窓のほうに顔を向けた。
午前中よりも雨音が強くなっている。
「おいッ。リュウチロウッ」
その聲とともに、トビラが勢いよく開かれた。
ってきたのはクラウスだった。
「な、なんだ?」
部屋のなかに漂う靡いんびな空気を気どられはしまいかと、心焦った。だが、そんな雰囲気を蹴散らすほどに、クラウスからは焦燥がじられた。
「町の中でクロエイが沸いてるんだ。手を貸してくれ」
「わかった」
ケルネ村から持ってきた《影銃》がある。一度クロエイを倒しているから、やり方は何となくわかる。
「ベル。1人で待っててくれるか?」
「……わかった」
ベルはベッドの上にたたずんでいた。その姿があまりにも儚げで、なんだかこれを最後にもう會えなくなるような気がした。
連れて行こうかと迷ったぐらいだ。
しかし、クロエイのいるところにベルを連れて行くのは、さすがに危険すぎる。
「すぐに戻るから」
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