《《完結》待されてる奴隷を救った、異世界最強の龍騎士》第60話「ロッツェオ」

口は土間になっていた。板張りの廊下を抜けると、木造の居間にたどりついた。家などもほとんど木造だった。

村の建造は、都市のものよりも貧民街の建築に似ている。鉄筋コンクリートよりも、木々の方が簡単に手にはいるのだろう。

ロッツェオは、マチス侯爵のような人ではないようだ。部屋の照明を燈すのにも、みずからのを用いていた。

「どうぞ。シュバルツ茶です」

と、陶の湯飲みを出してくれた。

真っ黒なお茶だった。

口にれるのに抵抗をじたが、意外とおいしかった。甘い葉の香りが口の中にひろがった。

基本的には地球と同じ食文化だが、こういうレオーネ獨自の食品もあるようだ。

ベルは飲んでも良いのか迷っているようで、龍一郎の顔をうかがっていた。龍一郎がうなずくと、ようやくベルもお茶に口をつけた。

味いでしょう? このシュバルツの土地でしかならん木の実なんですよ。この私が栽培を推進しましてね」

と、ロッツェオは得意気に語った。

どうやらそのスキンヘッドを叩くのが癖のようで、ペチペチとやっている。

「奴隷は使わないんですね」

と、龍一郎のほうから問うた。

貴族の部屋に奴隷がいないということに、違和をおぼえた。

「私は奴隷を買ったりはせんのですよ。私は幸いにも質値が50もありますからね。まぁ、自分でやったほうが効率が良いでしょう。それにこうして村番をやっておりますからな、奴隷を使うとあんまり評判がよろしくない」

「最近、ケルゥ侯爵がやたらとを集めていることについては、何かご存知でしょうか」

と、今度はエムールのほうから尋ねた。

うーん、とロッツェオは首をひねった。

「自分のを使いたがらない貴族も多いですからな。ケルゥ侯爵はほら、〝純派〟とやらですから」

とのことだ。

特別何か知っているというわけではなさそうだ。

(それにしても――)

と、龍一郎はロッツェオを見た。

今まで出會ったことのないタイプの人だな、とじたのだ。

奴隷は力として使うべきだと言うわけでもない。逆に、助けなければいけないと思っているわけでもなさそうだ。

村の人たちと一緒にクワを振るって、木の実を育てたりしているのだ。悪人ではないだろう。

今晩の護衛を頼みますとか、黒騎士の武勇伝と聞きたがった。純粋な年のような人だという印象をけた。

「すみません。ちょっと便所に。いやぁ、年を取ると、便所が近くなっていきませんな」

はははは――と笑い聲とともに、ロッツェオは奧の部屋へと消えて行った。

「変わった貴族ですね」

と、龍一郎はつぶやいた。

「貴族の中にもロッツェオのような人は、なからずおりますよ」

と、エムールが応じた。

「そうなんですか?」

「このレオーネという世界は、當たり前のように奴隷を使ってますからね。それが常識になっているんですよ。だから、カワイソウぐらいには思うかもしれませんが、奴隷にたいして無関心な人もいます」

「なるほど」

すこし合點がいく。

龍一郎はもともと地球人だ。地球では奴隷がダメだと教えられてきた。日本では、奴隷制度がそもそもなかった。だから、奴隷にたいして否定的な意見を持つ。

しかしもとからレオーネに住んでいる人は、これが當たり前なのだ。仕方ないことだと割り切っているのかもしれない。

「オレの覚がすこしズレてるんでしょうかね」

「レオーネではズレているのかもしれません。ですが、そういう心を持つ者だって、なくありません。私もそうですし、なによりフィルリア姫がその筆頭です」

「そうですね」

人の心というのは難しい。

『青信號で渡る。赤信號で停まる』ということも、地球ならではの話だ。異世界に行けば、それが逆転していることだってあり得るのだ。もっともレオーネには、信號機が存在していないが。

ホントウに自分の考えが正しいのか不安になる。

ベルを見た。

シュバルツ茶をすすっている。

ベルは龍一郎を信頼してくれている。この薄幸のをオレは助けたのだと思える。それが龍一郎の信念の支えになる。ベルがいてくれるからこそ、自分の存在を保っていられる。

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