奴隷の売買所にった。

カウンターテーブルがあり、面長の男がつまらなさそうに、雑誌を読んでいた。

レオーネという世界は――いや、ゼルン王國だけかもしれないが――すくなくとも龍一郎の見てきたかぎりでは、かなり地球の文化と似ているものがある。雑誌や新聞も配られているようだ。

「いらっしゃい、奴隷が用ですか？」

面長の男はおもむろに雑誌から面をあげた。

どうやらこの男が店の人間らしい。

「この店で売られている奴隷は、表の５人だけですか？」

「いえ。もう１人いますよ。連れてきましょう」

店の奧からがひとり引っ張り出されてきた。年のような面立ちをしただった。すこしエムールに雰囲気が似ている。

ただ気品あるエムールの面立ちよりかは、やや野味を帯びていた。髪は黒く暴にくくりつけている。

カラダのあちこちに傷跡が見けられた。酷い扱いをけたのだろう。

黒々とした瞳には猛禽のような荒々しさがあった。今にもトびかかってきそうな勢いだ。

首をはめられて、リードをつけられている。

「全員で６人ですか？」

「そうですよ」

「なら、全員買い取らせてください」

「は？」

面長の男はキョトンとした顔をしてみせた。

「だから、全員、オレが買い取らせていただきます」

奴隷のほうが助けを求めてるわけではないし、ベルのときのように切迫はしてない。平時ならば無視していたかもしれない。

だが今は、「げられている者たちを助けてやってくれ」というフィルリア姫の使命を帯びて來ているのだ。全員、引き取ってやろうと思った。買い取った奴隷は、フィルリア姫に押し付けて置けば良い。

面長の男は嘲るような笑みを見せた。

「奴隷とはいえ人間ですから、相當ながかかりますよ。特にこの――インクは、質値が８もありますからな。奴隷にしてはなかなかですよ」

このはインクというのか、と思った。

たしかにインクをかぶったみたいに黒い髪をしている。

目が合う。

インクはあからさまにソッポを向いたので、龍一郎は苦笑した。

「オレので払います」

「お客さんひとりので支払えますかね……」

この面長の男の顔には、龍一郎のことをあなどる気持ちがあらわれていた。

「だったらをはかってみたら良いでしょう」

と、龍一郎は強気にでた。

「それじゃあ、失禮して」

質計がもちだされる。

針が龍一郎の腕に挿しこまれた。チクリとしたが走る。

すこし張した。

足りなかったらどうしようかと急に不安になったのだ。

質値２００以上だともてはやされている。だが、どうして自分がそんな特別な存在なのか判然としていない。何かの間違いで不意に質が下がるという可能もなくはない。

杞憂だった。

「質計が壊れているようですな」

と、面長の男は質計をのぞきこんだ。

「いえ。壊れてませんよ」

龍一郎の質を見ると最初はみんな、壊れている、と言う。針が急に計測の端まで振り切るので、壊れているように見えてしまうのだ。