ケルゥ侯爵は龍一郎を見つけると、非常に想良く挨拶をしてきた。領主館に來ると良いと執拗にさそった。

龍一郎はわれるがまま、ケルゥ侯爵の領主館に行った。庭園があり、石畳の通路が敷かれていた。

領主館の中にるとメイド姿のたちが、「お帰りなませ、侯爵さま」と出迎えた。すぐにお茶とお菓子の用意をしろ――とケルゥ侯爵がメイドを急き立てた。

龍一郎とベルは応接間に通された。學校の教室ぐらいの大きさだった。床には真っ赤な絨毯が敷かれており、ソファが置かれていた。龍の刺繍のったクッションが置かれていた。テーブルの縁にも龍の裝飾がほどこされていた。

「さあ、腰かけたまえ。しかし、エムールくんと知り合いだったとは、驚きだよ」

「知り合いというか、たまたま知り合ったというか……」

黒騎士として活していることは、ナイショにしてくれと言われている。その點は、曖昧にしておいた。

「フィルリア姫お墨付きの龍神族をこの私の領主館に招くことができたのは、非常に幸運だ。縁起も良い」

その言葉に裏はじられなかった。

「どうも、こちらこそ招待していただき栄です」

「そうくなる必要はない。ユッタリとくつろいでくれたまえ」

ケルゥ侯爵は青いシャツを著ていた。元を大きく開いている。率先してくつろぐかのようにソファの上によこたわっていた。

「この部屋、明かりはどうやって點いてるんです？」

マチス侯爵はガラス張りの箱のようなものに奴隷を閉じ込めて、力を供給していた。しかしこの部屋にはどこにも、チューブにつながれた人が見當たらない。

「気になるか？」

と、ケルゥ侯爵は微笑んでいた。よくぞ訊いてくれたという顔をしている。

「ええ」

「この都市の地下に、大量の奴隷を収容している。そこから力を吸い上げてエネルギーにしているのだ」

「地下に？」

「ものすごいアイデアだろ」

「……」

龍一郎は不快を隠しきれなかった。大量の人間が地下に閉じ込められているところを想像してしまったのだ。

おっと――と、ケルゥ侯爵は笑みを崩さず上を起こした。

「そう言えば君は、フィルリア姫のところから遣わされてきたのだった。つまり、〝龍の派〟というわけだ」

「なんです、それ？」

「力の高いものが、低い者を支えて、平等な世界を築いていこうと考えている貴族の派閥だ。その派閥の頂點に立っているのは、あの見目うるわしきフィルリア姫というわけだ」

「別に貴族の派閥にったつもりはないですし、思想というほど、確たる考えを持ってるわけでもないです。けど、考え方としてはフィルリア姫の派閥かもしれません」

「フィルリア姫は非常に強力なカードを手にれたな。質値２００の龍神族。ゼルン王國の貴族たちの派閥に、波を起こさせるぞ」

ケルゥ侯爵はそう言うと微笑み、紅茶をすすった。龍一郎もつられて紅茶に口をつけた。が熱くなる。