１０００人――いや、もっといる。

大勢の人たちが、全で拘束されていた。手足を壁にり付けられて、まるでキリストみたいになっている。

しかしそれ以上に慘いのが、全をチューブでつながれているということだ。口からチューブを通されて、排泄にもチューブが通されている。手、背中、腰、足――全がチューブだらけだった。

なまぐさい臭いが充満している。

「うっ」

あまりの慘狀に、龍一郎は吐き気をおぼえた。

ついにこらえきれずに、石畳の床に嘔吐した。酸っぱい臭いが吹きつけてきた。口元についた吐しゃを、服の袖でぬぐった。

「はじめてこれを見た者は、たいていそうなるものだ。気にすることはない」

ケルゥ侯爵は言った。

多くの騎士たちが地下にいて、たちまち龍一郎の吐しゃも片付けられた。

「これはいったい？」

「私がかき集めてきて、奴隷や庶民どもだよ」

「何人いるんです？」

「１５４５人だ」

即答だった。

覚えているのだろう。

「こんなに集めて、どうしようって言うんです？」

その質問を無視して、ケルゥ侯爵は続けた。

「ここにいる者たちには自的に栄養を送り込んで生かしている。排泄などもちゃんと外に出るようにできている」

良くできてるだろう――とケルゥ侯爵は満足気だ。

「ここにいる人たちは、生きてるんですか？」

「生きている者もいるが、意識はないがだけは稼働している者がほとんどだな」

植狀態ということだ。

「これは、あまりに慘い」

張り付けられている者の中には、大人の男もいるし、ベルと同じぐらいのもいた。もだったか、気なんかじている余裕はなかった。ただただ、重苦しい狂気が立ち込めているかのようだった。

「これはある種の裝置なのだ」

「裝置？」

「そう。質値の低い者のを、力のエネルギー裝置としているのだ。ダメになったら、換えれば良い」

さきほどケルゥ侯爵は、ユートピアについて語った。

この景は楽園にはほど遠い。

「こんなにが必要ですか？」

「１０年、２０年先を見ているのではないのだ。私は１００年、２００年先のことを考えて、これを作った」

「１００年先の力まで貯蔵しておくつもりですか」

「まぁ、そんなところだ」

「もっとやり方があったはずです」

爽やかな態度にダマされていた。まさか、こんな殘をめているとは思ってもいなかった。

「たしかに別の手段もある」

そう言うとケルゥ侯爵のキラリと輝く雙眸ひとみが、龍一郎を見た。

「なんです。別の手段って」

「君のを使うことだ。リュウイチロウくんのならば、この數の代わりになるだろうからな」

龍一郎はを貫かれたかのような覚をけた。

「それは……」

たしかに、そうかもしれない。

龍一郎のは減らない。いくらでもエネルギーとして使える。ただ、これだけの量をまかなうとなったら、さすがに龍一郎でもカラダに異常をきたす可能は充分に考えられる。

が減らない――と勝手に決めつけているが、「減りにくい」というだけかもしれないのだ。

「臆するだろう？　つまり、そういうことだ」

「どういうことです？」

反抗心をかかえて、龍一郎はそう問うた。

「なににせよ、力はどこからか調達しなくてはならん。高い質を持つ者よりも、低い質値を持つ者を使ったほうが良い。力の高い君がを出す必要はない。奴隷たちに出させればいい」

それは違う――と龍一郎は否定できなかった。

この１５００人分のかわりにを出すことに、たしかに躊躇をおぼえたからだ。

「離せッ。離せって！」

新しく地下に連れ込まれるがいた。見覚えがあった。たしか奴隷売買所にいただ。インクとか言っていた。

インクは不意に龍一郎を見た。

「おい、あんたッ。あんたのはすごいんだろ。なァ、助けてくれよッ」

そう聲を投げつけられた。

ベルのときと同じように、救済の手をばしたいところだが、彼１人だけ助けるわけにもいかない。

龍一郎は耐え切れなくて、目をそらした。

――あんたはきっと逃げだすよ――

インクの言葉が、龍一郎の裏によみがえってきた。