《《完結》待されてる奴隷を救った、異世界最強の龍騎士》第75話「ベルとのお風呂~準備」

龍一郎が目を覚ますと、すでに夜になっていた。

しかし、夜はなかった。部屋は明るかったし、窓から見える外もこうこうとり輝いていた。その眩さによって目覚めさせられたのだ。

「これが――」

これが、地下に収容された1500人分の力の明かりなのだ。奴隷たちの明かりは確実に、このセリヌイアを夜から守っている。その明かりに龍一郎はすくなからず気圧される思いだった。

悲しい明かりだ、と思った。

「リュウイチロウ」

名前を呼ばれた。

ベルだ。

ベルは龍一郎と同じベッドにもぐりこんでいた。まるで胎児のようにを丸めている。どうやら眠っているようだ。

「リュウイチロウ」は寢言だったのだろう。ベルはいまだ悪夢にうなされる癖があった。ひとりでは眠れないのだ。よくこうして龍一郎のベッドにもぐりこんでくる。

龍一郎はやさしくベルのカラダを抱きしめた。最初に出會ったときより、ほんのしだけカラダに丸みが付與されていた。脂肪がついた。ベルの頭に鼻をくっつけた。白い穢れなき髪の生え際から花のの香りがした。

「主さま?」

「わ、悪い。起こしたか?」

ベルのことを抱きしめていたこともあり、気まずかった。

「あれ? 私、また主さまのベッドにってしまっていたのですね」

「気にすることないよ。ベルがそれで落ち著くなら、いつでも大歓迎だ」

ベルを抱きしめていると、こっちも心が落ち著く。心臓はドキドキするのだが、もっと心の奧底では安心を得られるのだ。

「ありがとうございます」

「晝寢して、そのまま夜まで寢てしまったみたいだな。風呂にでもりに行くか」

貧民街の安宿では、風呂のないところも多かった。そういうときは桶に水をためて、カラダを拭いたりしていた。

一方、都市の中は意外と風呂場が多い。地球の中世ヨーロッパでも、貴族たちは大変な風呂好きだったと世界史の授業でならった。

「私は、部屋で待っております」

「なんで? セッカク貸し切りなんだから行こうじゃないか」

「しかし……」

「もしかして、ベルは風呂にるのはじめてなんじゃないか?」

奴隷は風呂にることを許されていない。浴場は他の貴族たちも使っているので、ベルをらせるわけにもいかなかった。グランドリオンで宿泊していた安宿に風呂はついていなかった。

はじめてです、とベルは顔を赤らめた。

「ですが、カラダは清潔に保っております」

「知ってるよ。別に汚いなんて思ったことはない」

ベルはいつも桶に水をためて、カラダを洗っている。貴族の奴隷だったときは、暴に水をぶっかけられていたと聞いている。

「私、熱湯はあまり……」

遠慮してるのか、それとも、ホントウに厭がっているのか。龍一郎はベルの顔を慎重にうかがう。

ベルの心はようやく修繕されはじめてガラス玉のようなものだ。厭がることを強要することだけは、ゼッタイに避けようと思っていた。

本気で厭がっているのだと判じた。

「わかった。じゃあ、風呂はやめよう。桶でも用意してもらうか」

以前拐されたことがあったので、ベルを1人にすることには抵抗があった。

「は、はい。……あ、あの」

「どうした?」

「やっぱり私もお風呂にまいります。主さまのお背中を流させていただきます」

「え……」

ベルに背中を流してもらう。

想像しただけで、心臓が跳躍した。

非常に魅力的な申し出だ。

「良いのか?」

「主さまと一緒なら、私も一緒に行くことができますし。私も何か主さまのお役に立ちたいのです」

「じゃ、じゃあ、そうするか」

たしかにそれなら、ベルを1人にしなくとも良い。ベルの気が変わらないうちに、さっさと準備することにした。

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