《《完結》待されてる奴隷を救った、異世界最強の龍騎士》第76話「ベルとのお風呂~前編」

浴場にベルを同伴することを、いちおう宿屋の主人から許可を得た。貸し切りなので問題ないということだった。湯がサービスしてくれるということだったが、それは斷っておいた。

窟のような場所だった。中央に巖を敷き詰めた浴槽があり、周囲が洗い場になっていた。

洗い場のノズルを回すと、湯が出る仕組みになっていた。日本の水道と大差ない。を使わなくとも湯が出るということは、ここにも1500人のが使われているということだ。

ケルゥ伯爵の地下奴隷施設は、たしかに便利だ。セリヌイアという都市の細部まで、シッカリと稼働させている。

バスチェアに腰かけた。

正面には鏡が設置させている。ケムリで曇った鏡の向こうに、龍一郎の姿がモウロウと見えた。その龍一郎の後ろにベルが見える。鏡が曇っているおかげで、互いの目が合うことはなかった。

「お湯、かけさせていただきます」

「あ、うん」

溫かいお湯が、龍一郎の背中にかけられてゆく。ちょうど良い溫度だった。そしてベルの手がピタリと龍一郎の背中に當てられた。

心臓が波打っていた。

この悸が背中から、ベルの手に伝わっているような気がした。そう意識することで、さらに張をおぼえた。

一緒にるところまでは龍一郎は興していたのだが、今度は極度の張から逃げ出したくなってきた。

「洗っていきますね」

「うん」

ベルのほうも張しているのか、互いに口數がすくなくなった。龍一郎という存在の表面を、ベルの手のひらがやさしくナでていった。自分の郭を丁寧に描かれているかのような覚だった。

「主さま」

「ん?」

「主さまは、まだ1500人のを肩代わりする――ということを、考えておられるのですか?」

「まぁな」

忘れられるわけがない。

その件は、常に頭の片隅に居すわっている。インクの「助けてくれよッ」というび聲とともに。

「行かないでください」

抱きついてきた。

ベルのシルクのようになめらかなが、ピッタリと龍一郎の背中に重なっていた。その瞬間に、龍一郎はベルの魂膽に気づいた。ベルは龍一郎にこの話を切りだすために、一緒に風呂にってきたのだ。

「オレが逃げたら、クラウスやフィルリア姫に顔向けできないだろ。それに1500人の命を無視するわけにもいかない」

1500人?

あっそう――なんて軽薄でいられるほど、龍一郎の神は図太くはない。

「それでもし、主さまに何かあったらどうするのです?」

「オレは大丈夫だ」

「どうしてそう言えるのですか? 1500人のを肩代わりして、それで主さまの命にかかわりでもしたら」

ベルはぶように言う。

ベルの聲は潰れている。その必死に訴えは、心を打たれるものがある。

「そりゃオレだって、見知らぬ1500人のために命を賭けるようなことはしたくない。ベルのこともあるし、ムリそうなら見捨てるよ。たぶん大丈夫だろう――って自信があるから、助けようかどうか迷ってるんだし」

あんたはどうせ逃げ出すよ。

インクからそう言われたのだ。

それでホントウに逃げ出したら、さすがに釈然としない。

クラウスやフィルリア姫のため、そして自分自のプライドのためにも、逃げるわけにはいかなかった。一方で、ホントウに自分のに何かあったらどうしようという恐怖もある。

「いくら考えても答えなんか出ない。この話は終わりだ」

「主さまは、お人よしすぎます」

お人よしとはすこし違う。

プライドの問題なのだ。

「でも、オレがお人よしじゃなかったら、ベルはまだあのスクラトア・クェルエイの奴隷なんだぜ?」

それは歴とした事実だ。

しかし、その言葉が思ったよりも深く、ベルの心を傷つけてしまったらしい。ベルにとってそれだけ辛い過去なのだ。

「はぁ……はぁ……ッ」

と、呼気を荒げていた。

「だ、大丈夫か? 心配することはないって。ベルのことはオレが離さないから。死んでも離さない」

龍一郎はカラダをひるがえして、ベルを抱きしめた。ベルはカラダにバスタオルを巻きつけたカッコウをしている。そのため肩や鎖骨が出している。肩や鎖骨のあたりも傷だらけだった。

抱きしめていると、ベルの呼気は落ちつきをとりもどした。

「風呂。るか」

「はい」

ベルはうなずいた。

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