巖を敷き詰めた浴槽に、湯が張られている。ベルは牡丹雪みたいに白い足を、慎重に湯につけていた。

そのまま溶けてしまうんじゃないかと思う程、ベルのは白い。

「熱くないか？」

「はい」

「傷に染みたりとかは？」

「大丈夫だと思います」

「そうか、そうか」

湯にベルが浸かる。水力でカラダを隠しているバスタオルが浮き上がろうとする。ベルは必死にそれを隠していた。直視すると申し訳ないと思いつつも、その白いに目が吸い寄せられる。

ベルのカラダは傷だらけだ。

どこもかしこもアザだらけだ。

そのさまざまな傷が、ベルの儚いしさを際立たせているようにも見える。

溫泉にタオルをつけてるのはマナー違反だが、２人しかいないのだし、別にかまわないだろう。

「なんでオレ、龍神族なんだろうなぁ」

と、つぶやいた。

「それはどういう意味ですか？」

「いや、もしもふつうの質値だったらなぁ、って思ってさ」

もしも普通の質値ならば、周囲から頼られることもなかっただろう。１５００人のを肩代わりしろ――なんて話にもならなかったはずだし、そもそもフィルリア姫の指示でセリヌイアに來させられることもなかったはずだ。

「ふつうの質値が良かったのですか？」

「でも、オレがふつうの質値だったら、ベルを幸せにするチカラもないわけだしなぁ」

「わ、私は、主さまの質値がどうであれ幸せです」

ベルはそう言うと、ブクブクと口元まで湯をつけていた。その言葉は龍一郎に充分に幸福をあたえた。

「あ、あのさ……」

ずっと言えなかったセリフを、今ここで言うしかない。

２人で風呂にっているという特殊な狀況が、龍一郎に勇気を芽吹かせていた。意を決して切り出すことにした。

「なんでしょうか？」

「オレはベルにたいして、好意を抱いてる。その……という意味において」

「……」

ベルはジッと、龍一郎の顔を見ていた。

もうもうと吹き上がる白い湯気をはさんで、見つめ合った。

「もし良ければ、オレと付き合ってしいんだ」

「付き合うというのは、男の関係という意味でしょうか？」

「う、うん」

張の一瞬だった。

どういう返答があるか――龍一郎はベルの口元に集中していた。

「申し訳ありません」

「ダメか？」

「私は主さまの奴隷として置いてもらえるだけで、それだけで満足です」

「そ、そうか」

やんわりと斷られた。

手ごたえをじていただけに、斷られたのがショックだった。泣きそうになって、あわててお湯で顔を洗った。

「このまま主人と奴隷という関係でありましょう。きっとそれがお互いのためです」

「そうだな」

ベルのことを何でも知っていたかのような覚になっていた。斷られてはじめて、ベルが龍一郎の得のしれない、、という生きになった気がした。

意気消沈どころの騒ぎではない。

意気轟沈だ。