《《完結》待されてる奴隷を救った、異世界最強の龍騎士》第82話「落下と浮上」

「ベルッ」

浮き立つ都市に駆け寄った。

都市の口はすでに、龍一郎の手の屆かないところにまで浮上していた。

都市の口となる城門棟からは、多くの人間が投げ落とされていた。みんなだ。土砂のように人間がこぼれ落ちてくる。

「な、なんだ? 何が起きてるんだ……」

「あんたか」

落ちてきた人の中に、見知った顔があった。インクだ。

「何がどうなってる?」

「あんたが助けた1500人のヤツらが、都市から追い出されてんだよ」

「そうか。そういうことか」

ケルゥ侯爵は質値の高いものだけを連れて、空に上がろうとしているのだ。質値の低い者たちは邪魔だということだ。

ならば、ベルも落とされてくるかもしれない。龍一郎はそう思って落ちてくる人たちを、手當たり次第に探した。

「おい、さっさと逃げるぞ。クロエイが迫ってきてる」

インクが止めようとしてきた。

「ウルサイ。邪魔だ」

龍一郎はインクのことを突き飛ばした。

ベルのことしか頭になかった。他のことを考えている余裕がない。人間濁流とでも言うべき、人の流れが止まった。

落ちてきた人たちの顔を確認していったが、ベルの姿はなかった。龍一郎の目が、ベルの姿を見逃すはずがなかった。あの白い髪も、斑雪が積もったようなも、見逃すはずがなかった。

「いないのか……」

「おい。さっさと逃げるぞ」

インクが龍一郎の腕をつかんだ。

闇の中でインクのポニーテールがゆらゆらと揺れていた。

ようやく龍一郎は平靜を取り戻した。

「ゴメン。それで、なんだ? 何かオレに用事か?」

「私はあんたに助けてもらったんだ。謝りたいこともあるし、禮も言ってない」

「……ああ」

お禮なんか、後でかまわない。

とにかく、ベルを探さなくてはならない。

しかし、さらに最悪なことが起こった。

今、セリヌイアの周囲からはクロエイの巨大種が押し寄せてきている。それから逃げるかのように都市が浮かび上がっているという構図になる。

が、さらにもう1ヵ所――新たな場所からクロエイが生まれていた。

「ま、まさかッ」

都市が空へ浮かぶことで、足元に暗澹あんたんたる影を落としていた。その濃厚な闇が次から次へとクロエイを出産しているのだ。

貧民街は、クロエイの挾撃をくらう形になる。

「ん?」

足元が割れた。

地面に大きな亀裂がった。

都市が浮上したことで大地のバランスが崩れたのかもしれない。大地はまるで左右に引っ張られるかのように、大きな裂け目をつくった。

その裂け目ができたのがチョウド龍一郎の足元だった。龍一郎はバランスを崩した。

インクが抱き著いてきた。

大量に散した人間たちと、龍一郎は谷底へと落ちていくことになった。

「うわぁぁぁぁ――ッ」

落下してゆく龍一郎の瞳には、浮上していく都市セリヌイアが見えていた。

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