《《完結》待されてる奴隷を救った、異世界最強の龍騎士》第83話「フィルリア・フィルデルン Ⅰ」

フィルリア・フィルデルンは、《車》に乗っていた。

セリヌイアの地下に1500人以上もの人間が、収容されているという事態を手紙で知った。それをけて、セリヌイアへ行こうとしていた。

さすがに夜半の移ははばかられたので、早暁――空が白むやいなや、すぐに出立ということになった。

出立する直前に、エムールからの伝書鳥がもう一通の手紙を持ってきた。その手紙の容は、1500人分のを、リュウイチロウが肩代わりするので問題ないということだった。

(そうか。リュウイチロウが……)

彼ならば、大丈夫だろうと安堵すると同時に、申し訳ない思いが立ち込めた。

よもや私が肩代わりすると言ったことで、彼の背中を押すようなカッコウになったのではないか――と案じたのだ。

リュウイチロウにムリをさせたくはなかったし、なにより、嫌われたくなかった。

「ふん」

と、思わず笑みがこぼれる。

たった1人の男子の心を気遣う自分がオカシかったのだ。

リュウイチロウが出してくれるのであれば、別にフィルリアが行く必要はない。

それでも、ケルゥ侯爵に意見を申したい思いもあったし、リュウイチロウとも顔を合わせておきたかった。

で――。

こうして今、《車》に乗っている。

前と後ろに1臺ずつ《車》が走っている。

護衛の騎士の分だ。それから、運転にも護衛の騎士がついている。

どこに行くにも國王が心配して、護衛の騎士をつける。ウットウシイと心で思うのだが、仕方がないと諦めてもいる。

「おや?」

と、《車》を運転している護衛の騎士が怪訝な聲を発した。

「どうした?」

「いえ。前方に、なにやら妙な影が……」

「クロエイか?」

「いえ。空に……」

フィルリアはフロントガラスの目をやった。

己が目を疑った。

「な、なんだ、あれは?」

まだ薄闇の殘る仄青い空を背景に、ただよう巨大な浮遊があった。よく目を凝らすと、それが巨大な都市だとわかった。

「都市が――浮いてるだと?」

「はぁ……へぇ……。どうやら、そのようですね」

もっと気の利いたことは言えんのか――と怒鳴りそうになった。都市が浮くなど聞いたこともない。

「あのあたりは、セリヌイアか。もしや……」

フィルリアは思考をめぐらせた。

仕組みはわからない。だが、都市が浮上するとなると、それはもう多大なるエネルギーが必要になるはずだ。何十萬――いや、何百萬分のが必要になる。

1500人分のを肩代わりする、というリュウイチロウの話を思い出した。ケルゥ侯爵は必要以上のを、リュウイチロウから吸い上げたのではないか?

セリヌイアが浮いているとなると、その考に間違いないだろう。

「ケルゥ侯爵め。大膽なことをやってくれる!」

白い歯を見せて笑う爽やかな笑顔を思い出した。

貴族の會議などで〝純派〟と〝龍の派〟は、たびたび論爭になる。互いに顔を真っ赤にして怒鳴り合うなか、ケルゥ侯爵は優雅にそれを見分していた。腹の底の見えぬ男だとは思っていたが、まさか、こんなことを企んでいるとは思ってもいなかった。

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