（チクショウッ）

と、フィルリアは裏で毒を吐く。

リュウイチロウというこの世界にとって、重要な駒を亡くしたかもしれない。

（私にとっても、亡くしたくない青年であった

と、下を噛みしめた。

彼をセリヌイアにやったのはフィルリアだ。意図していなかったとしても、を出すように促したのもフィルリアだ。

自責の念があった。

「おい、まだ到著しないのか？」

「もうすぐです」

「そうか」

焦燥がフィルリアの奧でうずまいていた。一刻もはやくリュウイチロウの捜索に取り掛かりたかった。

１人の青年の安否に揺していることを気どられまいと、泰然としているつもりだ。が、どうしても護衛の騎士を急かしてしまう。

「見えてきましたよ」

街道を真っ直ぐ行くと、セリヌイア跡地が見えてきた。できるだけ接近してから《車》を止めさせた。

「これは酷い……」

フィルリアはつぶやき、《車》から出た。

セリヌイアはまるで巨人に踏み荒らされたような景観になっていた。都市は浮かび上がり、その部分はボッカリとが開いている。

周囲の貧民街があったはずの場所は、木材や木端が散していた。

その貧民街跡地には、まだ多くの人が殘されていた。

「グランドリオンに応援を要請して來い。私は救助にあたる」

「はい」

グランドリオンを拝領した新しい領主は、フィルリアのイヌみたいな男だ。フィルリアの頼みなら、なんでも言うことをきくはずだ。

貧民街跡地に踏み込んだ。

足元の木端を踏み分けて進む。

カラダの一部が黒くなっている者がなからずいた。暗黒病。フィルリアは自分のを飲ませて治癒していった。

これがフィルリアののチカラだ。

治癒していくと同時に、リュウイチロウの話をうかがった。幸いとでも言うべきか、リュウイチロウの目撃証言は多かった。

リュウイチロウは貧民街を守るために、《影銃》でクロエイを迎撃していたということだ。

その雄姿をマブタの裏に、ありありと描くことができた。しかしその後、リュウイチロウがどうなったのか知る者はいなかった。

浮かぶ都市の足元に近づいてみた。

朝日をけて大きな影を落としていた。角の違いで落ちる影の場所が変わってくるのだろう。影は都市の真下というより、すこしズレた位置にできていた。

（やはり、そんなに高くは飛んでいないか……）

クロエイに襲われないだけの高さを保てれば良い――というわけだ。雨宿りでもするかのように、を避けるクロエイたちが、都市の下に集っていた。日中は心配ないだろうが、日が暮れると出てくることだろう。

都市の痕は酷いものだ。

巨大なが開き、あちこちに亀裂がっている。もはや大地が裂けてしまっている。奈落をのぞいてフィルリアは膽を冷やした。

落ちたら、助かりそうにない。

（それにしても――）

と、フィルリアは空を見上げた。

しずつセリヌイアは移しているように見える。

いったいどこへ向かっているのだろうか？

小一時間もしないうちにグランドリオンから、応援がやって來た。まだ生き殘っている者たちを《車》に乗せて、グランドリオンまで運送することにした。

ケガ人の中にリュウイチロウの姿を探した。

殘念ながら、見當たらなかった。

セリヌイアが、ユックリと、だが著実に、グランドリオンへ向かっているような気がした。

伝書鳥は、ちゃんとエムールのもとに帰っただろうか――と、フィルリアは空を見上げた。