《《完結》待されてる奴隷を救った、異世界最強の龍騎士》125話「貧民街を抜けて」

グランドリオンに行かなければいけない理由を話した。ケルゥは神妙な顔でそれを聞いていた。

「そういうことなら、拒否する理由はない」

と、ケルゥは《車》をグランドリオンへ向けて走らせてくれた。

グランドリオンの貧民街。

マチス侯爵が管理していたときとは違って、貧民街にもかなり強い明かりが用意されていた。

だが、それでもクロエイたちを追い払うことはできなかったようだ。貧民街には、都市の城門棟へと続く石畳のストリートがびている。そのストリートの左右には木造家屋が建ち並んでいる。その家屋と家屋の細道や、屋の上にクロエイたちが群がっていた。

ケルゥの運転する《車》はストリートを真っ直ぐ走り抜けた。

ときおり跳びかかってくるクロエイには、龍一郎が《影銃》で迎撃した。

「これだけの明かりでもクロエイがり込んでくるとはな」

「これも日食の影響でしょうか」

「だろうな」

「ひと気がないですね」

どこを見てもクロエイばかりだ。

まさか、みんなクロエイに食われてしまったのだろうか。

ここの人たちとも龍一郎は顔見知りだ。襲われたとなると良い気分はしない。

「いや。案ずることはない。ここの領主はフィルリア姫の息がかかっているから、庶民を見捨てるようなことはしない」

「都市の中に避難してるってことですか?」

「おそらく――な。私ならクロエイをおびきよせる、質値の低い者たちはむしろ外に放り出すがね」

「でしょうね」

龍一郎はため息を吐いた。

貴族たちを守るために、民衆を捨てるという選択肢もあるのだ。

この人は相変わらずだなと思ってのため息だった。

「城門棟が見えてきたが、なかなかの慘狀だ」

ケルゥは《車》を止めた。

龍一郎も目をみはった。

城門棟の口はピッタリと閉じられていた。そしてクロエイたちが城壁をよじ上ろうとしているのだ。城壁の上には騎士たちがいた。《影銃》や《吸剣》をもって、クロエイの侵攻を止めようとしている。

「これじゃあ中にれませんね」

門を開けたら、クロエイの侵を許してしまう。

「ここはムリだな。小城塞シャトレのほうに回ってみよう。もしかするとる余裕があるかもしれない」

「お願いします」

都市を迂回するようにして、《車》を走らせてくれた。

「しかし、私の言った通りだっただろう」

ケルゥは誇らしげに言った。

「なにがです?」

「龍神族というのは、なにかしら使命を帯びているのだ――と言っただろう」

「そうでしたか」

そんなことを言っていた気もする。

「覚悟はできているのかね?」

「ケルゥさんにを採られたときも、なんの問題もありませんでしたからね。案外、たいしたことないかもしれません」

「それでも、萬が一ということはあろう。あの時とは規模が違う」

「怖いですけどね」

でも、逃げるわけにもいかない。

「また、フられてヤケクソになってるんじゃないだろうね?」

ケルゥは茶化すように言った。

顔は笑っていたが、目は真剣に龍一郎のことを見據えていた。

「今度は逆なんですよ」

「逆?」

「ベルにキスしてもらいました。頬でしたけど」

龍一郎はうれしくて、キスされた右頬を指でナでた。このキスのことを思い出せば、恐怖など消え去ってくれる。

なんでも出來るという萬能が、腹の底からこみあげてくるのだ。

「はーはははッ」

とケルゥはのけぞって笑った。

「わ、笑うことないじゃないですか。訊いてきたのは、そっちでしょう」

そうあからさまに笑われると、照れ臭くなる。

「いやいや。申し訳ない。若いというのは良いことだ」

ケルゥはアクセルをさらに強く踏み込んだ。

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