《最強家族のまったりライフ》42話 弾遊び

「………なんかお前ら、やけに仲良くなってないか?いや、悪いことじゃないしむしろ良いことなんだが」

アマリエの部屋でアマリエと蛇談義で盛り上がったあと、父さんの仕事部屋に戻ると父さんから怪訝そうな顔でそう聞かれた。蛇について語り合ったことで、ここまで一緒に手を繋いで歩いてくるくらいには仲良くなっていた。だがアマリエはまだ俺に遠慮があるのかおずおずといったじで手を繋いでいたが。父さんの仕事部屋には父さんと母さん達家族と父さんの側近の人だけがいた。メイドや執事は仕事に戻ったのか既にこの場にはいなかった。

「うん!父さんがああ言って送り出してくれたおかげだよ!ありがとう。………それで、何で父さんはそんなにボロボロなの?」

父さんのを改めて見ると服は、所々焼け焦げていたり切り裂かれたりしており、顔に至っては元々の父さんの顔より二周りほど大きく腫れ上がっていた。

「あ、ああちょっとな………」

俺の質問に父さんは苦笑を浮かべて誤魔化そうとしたが、父さんの視線が一瞬後ろの母さん達に向いたのを俺は見逃さなかった。

「父さん、母さん達に何かしたの?」

ここまでされるということは相當酷いことを母さん達にしたのだろう。俺は父さんを非難めいた目で見上げた。

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「おい!どう見ても俺が被害者だろ!なんで俺が何かしたことになる!」

父さんはそんな俺の反応が予想外だったのか目を見開いて抗議してくる。

「だって、母さん達が意味もなく父さんを攻撃するなんてあり得ないもん。だから、それだけの理由を父さんが作ったと思うのは當然でしょ?」

「ふふふ、クルスはよくわかってるじゃない」

俺がそう父さんに言うと、今まで父さんの後ろで話を聞いていた母さんが嬉しそうに近づいてきて俺の頭をでた。

「カレイドはね、皆の不興を買うような、とっても自分勝手なことをしたからあんな風になってるのよ」 

「セーラ!事実を腳するな!余計俺の印象が悪くなるだろ!」

母さんが俺の頭をでながら父さんのしたことについて説明してくれたが、それを父さんが咎めた。

「ん?父さん、腳ってことは自分勝手なことをしたのは事実なの?」

「えっ、いや事実というわけではなくてだな………」

俺が父さんの言ったことの中で気になったことを聞くと、父さんはあからさまに挙不審になった。

「………父さん?」

「お、俺は悪くない!悪くないんだーー!」

責めるような口調で父さんに確認するように聞くと、父さんがいきなりびだし、勢いのままに扉に向かって走ると、そのまま扉を開けてもの凄いスピードで出ていってしまった。

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「ど、どうしたの父さん………」

「あの人のことは気にしないでいいのよ。どうせ夕食の頃になれば忘れてるから」

母さん達の反応を見るに、父さんのあの行はよく見る景らしい。

「それよりクルスよ。初めての遠出だが大丈夫か?」

兄さんは父さんのことよりも俺が遠出をすることの方が大事なのか心配そうに聞いてきた。

「うん!アマリエがいるからね!」

俺はアマリエの方を見ながら自信満々に答えた。

本當は自分だけで困難とか危ないことを乗り越えないもいけないのかもだけど、生憎俺はそんな殊勝な心は持ち合わせていないからね。ちゃんと守ってもらうんだ。他力本願とでも何でも言うがいい!

《ご主人様開き直りましたね~》

『ここまで自信満々だとクルスが正しいのかと思えてきてしまうな』

『………というか、マスターのステータスなら一人でもそうそう危ない目には遭わないと思いますけどね』

ノイント達の言っていることはスルーする。萬難を排してこそ、遠出を楽しめるのだ。

「ふむ、この短い間にクルスから隨分な信頼を得たようだな、アマリエ」

「は、はいいっ、恐です!」

俺の答えに兄さんは心したようにアマリエを見て言うと、アマリエはそれに対し慌てたように返事をした。やはりアマリエは蛇のことになると饒舌になるが、それ以外は大抵おどおどとしているようだ。

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「二人共、例の國に行くのは3日後になるからちゃんと準備しておくのよ」

レスティアお母さんが兄さんとアマリエの會話が終わると俺達に偵察の詳細な日程を教えてくれた。

「うん、わかった!」

「畏まりましたっ!」

「いい返事ね。頑張るのよ」

レスティアお母さんは俺達の返事に満足したのかそう応援してくれた。

「お母さん、もういい?」

「ごめんなさい、待たせちゃったわね。もういいわよ」

「じゃあクルス、早く外へ遊びに行きましょう………」

姉さん達は話が退屈だったのか話が終わったのを確認すると、即座に俺の両脇を摑み連行するようにして俺をズルズルと屋敷の外まで連れ出そうとした。

「わかったから!自分で歩けるから離してっ!」

姉さん達は俺が離すように言うと部屋を出たあたりで素直に離してくれたので、姉さん達と並んで屋敷の外へと歩いていった。

「さあクルス、今日は弾ボール遊びをしましょう!」

外に出るとレレナ姉さんがそう切り出した。

「賛………」

「うん、いいよ。でも、ボールなんてどこにあるの?」

俺はてっきりボールを使うのかと思い、レレナ姉さんに聞き返すが、どうやら俺が思っているものとは違ったようで、レレナ姉さんは心底不思議そうに首を傾げた。

「ん?何言ってるのクルス。弾ボール遊びよ。どこにって自分で作れるじゃない」

 

作る?ボールを?どういうこと?

「とりあえず、クルスがわかるようにルーナと一回やってみるわね!」

俺がレレナ姉さんの言っていることがわからず、悩んでいるのを見て姉さん達が実踐してくれることになった。

「じゃあ私が撃つ方ね」

「わかったわ………」

姉さん達は何か役割を決めるとお互いに30メートル程離れた場所で対峙した。ルーナ姉さんはレレナ姉さんと対峙したのを確認すると、いきなり自分の手首を爪で切り裂いた。そんなことをすればが流れるのは當然のことで、ルーナ姉さんの手首からはがどくどくと流れ出していた。

「ルーナ姉さんっ!?」

俺はルーナ姉さんの突然の行に驚いて駆け寄るが、そんな俺をルーナ姉さんは手で制した。

「大丈夫よクルス………」

ルーナ姉さんの切り裂いた方の手首を見ていると、流れ出たは、重力に従って下に落ちることはなく、すべてルーナ姉さんの掌へと集まっているのがわかった。ある程度のが集まると、ルーナ姉さんは徐にその手を握りしめた。すると、掌に集まっていたがルーナ姉さんの手から飛び出し、大鎌のような形狀へと変化した。ルーナ姉さんはその変化を確認すると片手でブンッと大鎌を振り抜いた。大鎌を振るとが飛び散り、によって覆われていた大鎌の姿が顕になった。

その大鎌は柄も刃も全て白で統一され、刃の腹部分には藍の寶石が埋め込まれており、その寶石から管のように輝く青の線が全に這い回っていた。

「"月下の饗宴きょうえん"………。このの名前よ………」

俺が驚きのあまり口をポカーンと開けて固まっていると、ルーナ姉さんがその大鎌の名前を誇らしげに教えてくれた。

………確かヴァンピルフの種族特だっけ?

というのは、その名の通り己のを糧にして現化させる武のことです。の種類は個人によって違い、変更することは出來ません。そして、の特徴として自長に合わせての大きさも変化していきます。また、ごとにそれぞれ特殊能力を持っているのも特徴です。ちなみに、このは何もヴァンピルフだけのものではありません。ヴァンピルフの種族特であるはヴァンパイアからけ継いだ特ですので、ヴァンパイアも使うことができます。ですが、ヴァンパイアの場合は高位の者にならないと使えないようです』

説明ありがとうティオ。そっか、ルーナ姉さんがやったことはただ武を呼び出すためだったんだね。良かった~。

「凄いかっこいいよルーナ姉さん!」

「ふふん………」

俺がルーナ姉さんを褒めるとルーナ姉さんは嬉しそうに(ない)を張った。

「あっそうだ!ルーナ姉さん、手首大丈夫?」

俺はルーナ姉さんが切った手首が心配になり、ルーナ姉さんの手首を見てみると傷など最初からなかったかのように白の綺麗ながあるだけだった。

「私とお姉ちゃんはヴァンパイアのも引いてるから、あんな傷はすぐに治るわよ………」

「そういえばそうだったね。でも、いきなりなんか出したら心配になるよ」

「ん、ごめんなさい。気を付けるわ………」

いくら治るといってもを出されれば見ている側としてはあまり気持ちの良いものではない。そんなじのことを伝えるとルーナ姉さんはうつむきながら頷いた。

「クルスー!私も出すわねー!」

レレナ姉さんは今の俺達の會話を聞いていたのか、俺を心配させないように俺に聲を掛けてきた。レレナ姉さんは俺が頷いたのを見ると、ルーナ姉さんと同じように爪で手首を切ってを流した。掌にが集まると手を握りしめてを掌から飛び出させた。飛び出したはルーナ姉さんのと同じ大鎌の形へと変化した。それを確認するとレレナ姉さんは大鎌のを振り払った。レレナ姉さんの大鎌はルーナ姉さんとは対照的に全を漆黒に染め、所々にしい黒薔薇の裝飾が施されていた。

「私の、"薔薇の幽契ゆうけい"よ!」

レレナ姉さんはが出現すると、俺に向かって誇らしげに名前を言った。

"月下の饗宴"といい"薔薇の幽契"といい、ってなんでこんなにかっこいい名前が多いの!?俺もヴァンパイアになれば良かったかも………。

「レレナ姉さんのもかっこいいね!」

「でしょ!」

しばかりの後悔をじながらレレナ姉さんのを褒めると、レレナ姉さんは嬉しそうに笑った。

「それじゃあ、始めるからクルスは離れてて………」

「うん、わかった」

俺がルーナ姉さんから離れると二人は改めて対峙した。

「いくよールーナ!」

「いつでもいいわよ………」

レレナ姉さんがルーナ姉さんに一言掛け聲を掛けると、レレナ姉さんは自の頭上に無數の氷の弾を出現させた。氷の弾はレレナ姉さんが手を振るうと次々にルーナ姉さんに向かって撃ち出された。ルーナ姉さんはそれに対し、目にも止まらぬ速さで月下の饗宴を振るい、迫ってくる無數の氷の弾をレレナ姉さんの方へ打ち返していく。レレナ姉さんは打ち返されてくる氷の弾を薔薇の幽契を振るってことごとく切り裂いていった。撃ち出された無數の氷の弾をルーナ姉さんが打ち返し、レレナ姉さんが切り裂く。そんな人間離れした技の応酬は、やがて出現していた氷の弾が全てなくなると漸く終わりを迎えた。

「むう、引き分けかー」

今の技の応酬は勝負だったようで、レレナ姉さんはその勝負の結果に不満をらしていた。レレナ姉さんもルーナ姉さんもあんな激しくいたというのに全く疲れていないようで息切れの一つもしていなかった。

「クルス、これが弾ボール遊びよ。わかった?」

え!?いやいやいや!無理でしょあんなの!というかボール遊びのボールって"火球ファイアーボール"とかの魔法弾のことだったんだ!どうりで噛み合わなかったわけだよ!

「う、うん。わかったけど、俺にはできないよ」

「大丈夫よ!最初はもっと簡単にするから!」

俺が自信無さげにそう言うと、レレナ姉さんはどうしてもやらせたいようで食い下がってきた。

「一回やってみて、ダメだったらそのときまた考えましょう………」

ルーナ姉さんにも言われ、完全に逃げ道を塞がれた俺はただ頷くことしかできなかった。

「決まりね!じゃあクルスは最初は打ち返す方ね!」

レレナ姉さんはそう言うと、を翻して俺と距離をとった。

「そうだクルス……。武は持ってるかしら……?」

レレナ姉さんが離れていくとルーナ姉さんがふと思い出したように聞いてきた。

ルーナ姉さんに聞かれて気付いたのだが、俺は戦闘のとき、魔力を腕に纏わせて闘っていたので自分の武というものを持っていなかったのだ。

「いや、持ってないよ」

「別に武が無くてもできないことはないけど、どうしましょうか………」

ルーナ姉さんは俺が武を持っていないことがわかると悩んでしまった。ルーナ姉さんの反応からしてこの遊びは武が必要なのだろう。

「でも、魔と闘うときは魔力を刃の狀態にして腕に纏わせて闘っているから、今回はそれでやるよ」

「そう………。ならいいわ………」

ルーナ姉さんは俺がそう言うと納得し、離れていった。

かー。そういえば転生するときにイリス様から剣のスキルをもらったような………。それなら武は剣がいいよね。今度、父さんにでも武のことを聞いてみよ。

「いくわよークルスー!」

そんなことを考えているとレレナ姉さんが氷の弾を浮かべ始めたので、慌てて腕に魔力を纏わせる。俺の役割は氷の弾を打ち返すことなので、切り裂かないように魔力を薄くするのではなく、魔力の度を上げて強度を上げた。

「いいよー!」

俺が頷くと、レレナ姉さんが手を振り氷の弾を撃ち出した。

うわ!速っ!ええと………右っ!

キィーン!

先ほどよりは遅いものの、レレナ姉さんが撃ちだした氷の弾は俺が驚くには十分な速さがあった。俺は迫ってくる氷の弾を勘を頼りに右腕を振ってなんとか打ち返した。だが、打ち返した弾は目標のレレナ姉さんから大きく外れて、明後日の方向へ飛んでいってしまった。

ってもう次が來てるっ!

最初の氷の弾の行方を追っていると、次の弾が迫ってきていることに気付いたので咄嗟に左腕を使って打ち返した。今度は打ち返す方向を意識しながら打ったのでレレナ姉さんのいる方向にし近くなった。

それ以降も次々に迫りくる氷の弾を両腕で打ち返していると、目が弾の速さに慣れてきたのか、だんだん余裕を持って打ち返すことができるようになってきた。そのおかげで打ち返す方向に意識を割くことができるようになり、しずつレレナ姉さんの方向に修正していくことができた。時間が経つにつれ浮かんでいる氷の弾の數は減っていき、やがて最後の氷の弾が撃ち出された。俺はそれをレレナ姉さんに向かって右腕で打ち返した。氷の弾は一直線にレレナ姉さんに向かっていき、そして、切り裂かれた。

「できた!」

「おめでとうクルス!初めてで空振りしないで、しかももう狙い打つこともできるようになったのね!凄いわ!」

レレナ姉さんにちゃんと打ち返すことが嬉しくて喜んでいると、レレナ姉さんも一緒に喜びながら褒めてくれた。

この遊び、結構難しいけど爽快がある。それに視力の修行にもなる。

「次は私がクルスとやるわ………」

その後も相手を変えて遊んでいると、あっという間に時間が経ってしまったようで、晝食の呼び出しが掛かった。俺は姉さん達と一緒に食堂へと向かうことにした。

「クルス、どう?楽しかった?」

食堂に行く途中レレナ姉さんが弾ボール遊びの想を聞いてきた。

「まだ難しいけど、楽しかったよ!」

「そう!なら良かったわ!またやりましょうね!」

「うん!」

その日は、姉さん達と晝食を食べた後は夕食まで姉さん達の部屋でお喋りをし、夕食を食べて自分の部屋に戻るとすぐに眠ってしまった。

そんな日から二日が経ち、遂に軍事國家ダンコーツへ向けての出発の日となった。

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