今回の依頼対象のミミをなんとか保護するのに功したボクらパーティは、野営場へと戻った。

「にゃぁ……」

疲れで大人しくなった獣人のミミは、リンカとフィオラに任せてボクはテントの外へと退出。

テントのすぐそばの丸太に座ってボクは、目の前いっぱいに広がっている湖の方を大人しく眺める。

「……珍しいこともあるんだなぁ」

リンカがミミの検査を立候補した時は驚いた。

の痣や傷を確認、その後に手當を行うらしい。

そのため男は退散しろって指示されて、現に至る。

追い出される時、気の毒そうな目をリンカに向けられたが無論、ボクは変態などではない。

し誤解されているようだが(特にリンカから)のを拝んで興するような趣味などない。

ボクはいたって平常である。

「にゃ！？ にゃ！ 痛っ！  痛いにゃーー！！」

背後のテントから暴れ貓が泣きんでいる。

あの様子じゃ、やはりリンカが手當しているのだろうか。

リンカの手荒な景が頭に浮かんだ。

「もう、だけはデカイ癖にまともに抑えられないじゃないか盜っ人！  回復の息を吹きかけられないじゃないか！」

「う、うっさいわね！ 

この貓が大人しくしてくれないんだから仕方ないでじゃない？  それよりアンタも早くこいつの服をがせてよ！」

「にゃー！！ やだー！ その子の息は嫌にゃ！  

なんだか冷たくて嫌！ おっぱいも摑んでくる手の力が強いから痛いにゃーー！！ 服も剝がないでーー！！」

テントの中にいる陣らのび聲が騒がしい。

テントが大きく揺れたり弾けたり、まさに外から見たらカオスな景である。

凄く心配だ。

「にゃー！ どうせならにゃ！ あの優男のお兄ちゃんに手當てしてもらいたいにゃっ！  あの可い顔の男の人にゃら、を見られたっていいから離してぇ！」

え、と唖然しながらテント凝視している自分がいた。

(え、いいの？)

それを拒否するように割り込む陣。

「なっ、ダメダメダメダメダメ！！ 神である私が許さないよっ！ 私でさえネロ様に見られたことないのに、抜け駆けは許しません！」

「ふんっ！ わたっ……私は別に構わないけど、ミミさん？」

「ミミでいいにゃ」

「アンタはあの優男を知らないから仕方ないけど、本を目にしたら震いするわよ？  アイツ、実は超悪い変態野郎なのよ？」

(一、なにを言いだすんだ！)

困するボクは、徐々にテントへと接近していた。

失禮な、ボクは変態ではなくフェミ……。

とりあえずボクにはそんな趣味など微塵もない、はずだ。

「にゃ？ 変態？」

「そうそう、変態よ。もしアンタが彼に無防備な狀態でなんて見せたら迷わず理を失って襲うような奴よ。変態、まさに最低。外道よ外道」

「このデカアマーーー！！！  ネロ様をバカにするなああ！！」

激怒したのか、フィオラは怒りまかせにリンカに摑み掛かった……ような気がした。

一方のボクは、リンカに罵られて湧いたは怒りではなく悲しみだった。

「そ、そうかにゃ。その、変態なのはよく分からないけど……とりあえず助けてにゃーー！！」

何度も繰り返される連鎖に耳を傾けながら、涙を抑えきれないけない自分がいた。

※※※※※※

ミミ・クリヴァ。１４歳、、種族「獣人の貓族」

服の下に隠れている痣が特徴的。

日々の暴力によるものだと見えるが、理由は不明。

貓族なのに耳が生えていない。

一旦、靜まりかえったテントの外でミミに食料を與えながら詳しい話を々と聞いてみた。

彼の最初の言葉が「帰りたくない」だった。

自が暴走してしまい誰かを傷付けてしまうことに対しての不安なのか、それとも……。

「どうしてなんだい？ 君の親さんたちひどく心配していたよ？」

すでに々と悪い方向に推測している自分がいたが、ミミから直接な答えが出ない限り確信が持てない。

「それは噓にゃの」

無表のリンカに貓耳をられながら優しくモフモフされているミミの方は、深刻そうに俯きながら答えた。

というか、いつのまにかミミに耳が生えていた。

炎のようにメラメラと揺れていて、とにかく赤い。

平然とリンカが耳をでているので、熱くはないだろう。

それよりもミミから発せられた聲は、先ほどの活発な威勢を掻き消す程に悲しいものだった。

「噓？  それは、どういうことなの？」

「言いたくなければいいんだよ」とは、とても言えない狀況だ。

しっかり詳細を把握しなければこちら側としてはミミを村に返していいのか、それともギルドに経由を説明して彼を預けるかが検討できない。

「ネロ、彼の腕と首筋だけじゃなくのあらゆるところに人の手による切り傷や毆られたかような痣が無數もあったわ」

モフモフをやめると、腕を組みながらリンカは検査の結果を細かに報告してくれた。

なんていうか……うん、モフモフの事はツッコまないであげよう。

「実はにゃ、赤の他人には言いにくい話なんだけど……お父にゃんとお母にゃんが毆って出來た傷なの……」

やっぱりそうか。

修道院に預けられた子供たちも同様に、親たちの暴力によって出來てしまった痣を、いまでも覚えている。

「原因は何よ？」

やはり魔力による暴走が原因なのか、それとも……ミミの頭上に視線を移させる。

そこには先ほどまで生えていたはずの燃えるような貓耳が、消えていた。

「耳がにゃくて……けないから」

耳のない頭に手を置きながら、弱気な聲でミミはションボリとした。

「耳がにゃい、異端者だと、村の住民たちに恐れられて……両親はボクが生まれちゃったことを酷く後悔しちゃったらしいのにゃ。

だけど村長のをひいているボクに石を投げつけたり、毆ったりする人はいなかったのにゃ……。けど、やっぱりあの目で見られるのが辛かったにゃ」

ミミは悲痛な表で産まれた頃から今に至るまで、育てられた思い出を巡らせていた。

自分を否定する村の人々、耳が無いことにより無能や欠落だと罵り暴力を振るう両親。

父の強引な手よりまぬ程の量の魔力を暴走させられ、制できないほどに理を失ってしまった狀態で傷付けてしまった人たちへの罪悪。

今に至るまで長い年月、ミミのと心はズタボロになっていた。

「やめて、やめて」と訴えても決して止まらない暴力の連鎖。

結果、逃げだしたミミはボクらと出會った。

だけど、理を失ったことによってボクらに攻撃を仕掛けた事に対してミミは涙をこぼした。

その瞳と雫に反して映るボクらの姿は、心なしか歪んでいた。

「ごめんにゃっ……ごめんなさいにゃっ」

なにもない頭上から突然生えた真紅に燃える耳、あれはきっと彼の魔力により現化したリミッター解除の合図だろう。

昔、エリーシャの師匠である神剣士レインから聞いたことがある。

かつてこの世界に強で卑劣な神が君臨した神話。

ボクらの知っているこの世界の景はかつて、數千年前までは全て漆黒に染められていて、生命も大地も存在していなかったらしい。

そんな世界に降り立った神は膨大な魔力を使用して、自分のむ世界を創造した。

この大陸も、その神によって生まれた創造の一部だ。

魔力は時に者の想いに応えてようと、その人の最もむような姿へと現化することが稀にあるらしい。

このも、獣人でありながら耳がないことによる不便さに嫌気が差したのか、魔力を膨大に放出させると同時に、耳が生えてくれるとんだかもしれない。

その想いが現化して、生まれたのがあの獣人の耳だろう。

けど、當人の想像を遙かに絶するほどの代価がこの現実である。

「…………辛い……わね」

泣き崩れるミミを見ながら、銀の髪を風で靡かせながらリンカは気の毒そうに手を差しべる。

微かだが、リンカから珍しい優しい雰囲気がじとれた。

フィオラも嗚咽をらすミミを見て何かを想ったのか、ミミのそばまで近づくとフィオラは優しくを寄り添い抱きついた。

「ーーーー ネロ様」

フィオラの困したような眼差しがまっすぐ、ボクに向けられていた。

とっさに目を逸らして悩む。

立場上、冒険者としての任を果たすべきなのか、それとも人としてミミに手を差しべて救ってやるべきなのか。

葛藤が湧いてこない、モヤモヤとした悩みさえすぐに振り払うことが出來た。

よく考えなくとも、答えなんて単純で簡単だ。

ボクも同様に、ミミのそばまで近づいた。

ミミの溫かい頰に手を當てて、涙で溢れてしまった彼の目元を拭う。

そして、真剣な表で告げた。

「夜が明けたら、キミを村まで連れていく」

「ーーーーっ！？」

ボクを見上げるミミの目から焦りと揺、大きな絶がじ取れた。平気だ……ミミの思っているような結果にする気は頭ない。