《S級冒険者パーティから追放された幸運な僕、神と出會い最強になる 〜勇者である妹より先に魔王討伐を目指す〜》第32話 『我が家』
宙を舞った石はなんの役割も果たさずに、森の奧へと消えていってしまった。
一方、ネロはずっと投げた狀態のポーズを保ったままである。
そんなことよりも、ししたドヤ顔を見せていた。
それを見た私は絶的な聲をらしながら、頭を抱えてこまってしまった。
(もうお終いだ……私、本當に人生オワタ)
「は、驚かせやがって!  んな事してどうなるんだよ?  まあいい、やっちまいな野郎ども!」
本當に終わりだ。
そう思った矢先に盜賊らは、鋭くに塗れた牙を剝いたのだった。
それをけて立つかのように、ネロは短剣をシャキッと構えて立ち塞がる。
「キャアアア!!」
誰かがんだ。
私ではない、余裕そうに盜賊らをけて立とうとしているネロでもない。
あ、馬車の者さんか。
あまりに高い聲だったからの人かと思ってしまったじゃない、まったくもう。
……ていうかアレ?
こんなにもふざけた場面にも関わらず、何故だか恐怖が薄れていくようなじがする。
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「す、すみませんお客様!!」
者が涙目で私を見ながら、頭を下げて謝罪してきた。
「いや、謝られたって……」
呆れながら私は言う。
「勝ったよ」
馬車の外で構えるネロが馬車の中にいる私たちにむけて、勝算でもあるかのような顔で振り向いてきた。
まだ何も起きていない。
足がかやり遅い盜賊らもまだ馬車に迫り來ようとしている途中だった。
「ゼェ……ゼェ……あ、兄貴」
「ああん!  どうしたってんだい!?」
「いや、それがよ……ゼェ……ゼェ、さっき襲った貴族の馬車で奪った荷がよ、重くて力が急激に削られていくんだよ……ゼェ」
「だからなんだ?」
「置いていこうぜ……」
「バカ野郎!  食料がっているんだぞ!?  置いていってみろ、森にいる共らが気づかずのウチに持っていっちまうぞ!   考えろ!!」
盜賊らがなんか、言い爭いを発し始めた。
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荷がなんとか……なんちゃら置いていくなバカ者!!  とか。
なにも起きないじゃない!  
ネロの方を見てみると、彼はすでに戦う姿勢を中斷させていた。
短剣を鞘におさめて、腕を組みながらだ。
「ちょ、ちょっとネロさん!  なにしているの!?」
「しっ、頭を下げて大人しくしていて……」
ドオォォォンンンンッ!!!
ネロの忠告を聞くも、すでに遅かった。
目の前で森が割れたのだ。
割れたというより、木々が何かに吹っ飛ばされてしまい更地になったのだ。
私は目を疑いながらも更地の方へと目を向ける。
盜賊らの集団も足を止めて、音のした森の方へと振り返った。
そこには、ヤツがいたのだ。
森のヌシ『フォレスドラゴン』。
緑の鱗を持った、地を這う巨大な竜。
日差しを避ける為に木々が沢山生えている場所を好み、主に大森林に生息している竜だ。
普段は大人しい格をしているが理的に刺激をしたりすれば、滅多にないが逆欄にれ兇暴化してしまうらしい。
竜の頭上を見上げるとそこには、小さなたんこぶができていた。
こちらの方を睨みつけていた。
私はネロの方を見て、察したのだった。
「うぉおおおおおお!!!?」
「ギャァァァ!!!」
驚きのあまりに、び聲を上げながら撤収していく盜賊らの集団。
聲に反応した竜は馬車方面の私たちから目線を離し、盜賊らの方へと見た。
「じゅるり」
竜からヨダレをすする音が聞こえた。
盜賊らの荷にっている食料の匂いだろうか、それとも彼ら自だろうか……いや、不味そうだけど。
それでも竜は私たちに目もくれず、逃げていく盜賊らを追っていってしまった。
逃げう集団。
荷を捨てるも追いかけられ続けていた。
「くるなぁぁあああ!?  あああ!!」
「お助けぇぇえ!」
そのび聲が、彼らのそれっきりだった。
しして、ネロが馬車に乗ってきた。
私と目が合うとニコリと笑いながら、隣でまだ怯えている者に聲を掛ける。
「今のうちに馬車をかさなければ、あの竜また戻ってきてしまいますよ?」
「いや、でも車が……!」
「修復しておいたので、ご安心を」
ネロの言う通り、車を確かめに外に出ていった者は驚いた顔をみせる。
すぐさま馬車を猛スピードで走らせ、瞬く間に森を抜けたのだった。
※※※※※※
危機が過ぎ去ってから、靜けさは相変わらずのものだった。
あれから私たちの乗る馬車に、災難は訪れたりはしなかった。
「あ、そういえばグレンダさん。泊まっている宿屋とかあるの?」
「いえ、まだ予約とかしていなくて。これからチェックインしようと、ね」
「じゃあボクの家に一泊泊まる?  部屋がかなり余っているんだけど……」
アラなにおい?  可い笑顔で言われても私はを売ったりはしませんよ。
お金にはあまり困っていない。
だけど節約の為にこの男の家に泊まってみるのも良いかもね。
そう思いながら私は上目でネロを見つめながら、甘い聲で了承した。
「ありがとぉ、是非とも泊めさせてもらうわね。けど夜の方は……ちょっと勘弁ね。違う形でいつか借りは返すからね」
「……夜の方?   ああ、うん。借りだなんていいよ、コレもなにかの縁だし」
命の恩人ってこともあるし、おいは斷れない。
特別にこの、人気アイドルが家に泊まってあげてやるわ。
もし貧相な場所なら話は別だけど。
※※※※※※
無事に王都に到著して気が抜けた瞬間、ある屋敷の前に馬車が止められた。
戸いながらも降ろされ、私の分までネロは代わりに代金を支払ってくれた。
ますます使える男、と言いたいところだったけど、どうやら私はトンデモない男に命を救われたようだった。
「著いたよ」
馬車を下ろされた場所からすぐ近くに、ネロは高い丘の上にそびえ立つ館の方に指を差していた。
驚きのあまりに呆気に取られていると、ネロは館の門の方へと近づき、門番であろう男に頭を下げて名乗った。
「どうも、この館を所有している現當主のネロ・ダンタです。門を開けてもらってもよろしいでしょうか?」
「ハッ!  ただちに!」
ネロに一禮してから、門番は首にかけていた金の鍵を使って門を開けた。
ギギギッ!!   と鈍い金屬音で開かれた門を見上げながら、ネロに導されて通過する。
その際、ネロは門番に聲をかけた。
「あ、遅い時間ですし仕事はもういいですよ。また明日のためにも今日はもう休んでください」
「い、いえ、しかし。仕事終わりまでの時間帯とはまだ程遠い……」
「いいよ。ボクも無事に帰れたことだし、中にいる彼らだって平気ですよ。お疲れさま」
「ハッ!」
そう言うと門番は、ネロに鍵を渡してから上機嫌そうにここから立ち去っていってしまった。
それを見屆けると、ネロは開いた門を閉じた。
「待たせてゴメンね。行こう」
ネロは顎で館の方を示すと、私の歩くペースに合わせるように進みだした。
「……」
屋敷のり口へと辿りつくと、ある紋章が目にった。
錆びてもなお誇らしく扉に刻まれた定紋、私はそれを知っていた。
かつて、権力爭いによって沒落した名高い大貴族『グリモワール家』の家紋だ。
信じ難く思いながら、先ほど門番に自が當主だと名乗ったネロを見つめる。
ちょうど鍵を取り出して、扉を開けようとしている真っ最中である。
鍵にも同様、扉に刻まれた家紋が彫られていた。
それを不思議に思いながら、私は震えた聲で彼に恐る恐ると聞いた。
「あの、もしかして貴方の家名って、グリモワールだったりして?  そうじゃなきゃ、なんでこんな館なんかに……」
「あっ」
反応したようにネロが肩をビクリと震わせた。
振り向きざまに彼は手を上げ、その瞬間……私は強い恐怖に襲われてしまう。
もうダメだ、運が悪かったと、このままだと殺されると。
さまざまな考えが頭をよぎる。
がかない、今度こそお終いだ……!
そう覚悟した瞬間、上げられた手はネロ自の頭の上に置かれた。
し困ったように笑いながら、ネロは私を見つめる。
私に何も手を出してきたりはしない、そういう様子だ。
「ここではその家名は不謹慎だからさ、あまり口にしない方がいいと思うよ?   確かにここはね」
ネロは館の方を悲し気に見上げながら言葉を続けた。
「かつて、名を馳せる名門貴族の屋敷だった。だけどキミも存知ている通り、この結果だよ。
おかげで、この屋敷を所有していた元當主とその一家は逃げ出す羽目になってね、新たな當主が決まるまでは一時使用人だったメイド長に屋敷が明け渡されたんだ。
だけどその後に、かつて此処に住んでいたボクの知り合いが『行き場がなかったら、妹と住むようにしろ』って所有権を譲ってもらったんだ」
かつて此処に住んでいた?  もしかして、グリモワール一家の誰かがこの青年ネロと面識があるっていうの。
気になって仕方ないけど、聞いてもいいのだろうか。
いや、ここまで來たら聞く選択肢しかないでしょうが私。
目を泳がして揺しながら聞いてみせた。
「え、ちなみにその知り合いって、どちら様なのかしら……?」
「ああ。妹のエリーシャとボクの師匠だった人『神剣士レイン・グリモワール』だよ」
それを耳にした途端に私は驚かずにはいられなかった。
大貴族の當主の娘であり、気高いお嬢様だと有名なあの『レイン・グリモワール』。
しかも、あの勇者エリーシャが妹なの?
この男は……一何者。
※※※※※※
「ぷぇっくしょん……うむ?  まさか、風邪を引いてしまったのだろうか?」
「グルルッ」
雪降る國のとある山頂に、黒髪のが1人純白な鱗を持つ白い竜にまたがりながら、顔を手で押さえていた。
彼の視線の先には、山頂に辿りつかなければ堪能できないしいぐらいの絶景が広がっていた。
は真っ白い吐息を吹きながら立ち上がると、竜を優しくでながら山頂から麓を見下ろした。
「……時間のようだなミゾレ。私が戻るまでに、お前はここで待っていてくれ。ここから先の村には絶対に誰も通したりするなよ、いいな?」
「グルルッ……」
にむけて竜は悲しそうな視線をむけたが、の命令は絶対だ。
竜は小さく頷いてから、に頰をズリズリとこすらせた。
「はは、お前は本當に可い奴だよ。待っていろよ、必ず戻ってくるからな……」
そういうとはれていた竜から離れる。
鞘におさめられている剣に手を當て、山頂の崖にむけて歩き出した。
「神剣士レイン・グリモワール。この神剣の名にかけて………いざ參る!」
レインはなんの躊躇いもみせずに崖から自ら飛び下りた。
竜は慌てて崖の下を見下ろすが、彼の姿はもう既にそこから消滅していた。
だがそこには、斜面を砕いたよう足跡だけがしっかりと殘っていた。
※※※※※※
『神剣士(しんけんし)』というのは『剣(つるぎ)の勇者』より偉大な稱號である。
他にも『神魔道士(しんまどうし)』や『神拳闘士(しんけんとうし)』、『神騎士(しんきし)』などが存在している。
そこは、常人では決して辿り著くことが不可能な領域だ。
それでも尚、いつか勇者をも超える稱號を持つ者が現れると、誰もがじていた。
ーーーそれもまた、別の話である。
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