《S級冒険者パーティから追放された幸運な僕、神と出會い最強になる 〜勇者である妹より先に魔王討伐を目指す〜》第53話 『見上げる青い空の彼方』
「おお!  よくぞ來てくれたぞ我の親友たちよ!」
切り替わりが早いのか、目を見開くユーリスを目にトレースは自を信頼してくれている友人達に対してだけ何故か口調が変化していた。
まるで紳士のようだ。
「遅れて申し訳ないッス、トレースさん。途中、八つ裂きにされていた黒竜を発見して戸ってしまって……そしたらそこで」
空中から地上へと著地したガレル達。
顔見知りの援護が來てくれたことに二人は安堵を覚えるが、その中でレヴィアだけ異様だ。
何度も述べようが彼だけ異様で恐怖、他に表せられる言葉が思いつかない。
「黒竜の殘骸の側でレヴィアさんと遭遇したんスよ」
一度ガレルは暴走するネロを見つめるレヴィアを確認してから、トレースに顔を近づけこっそり耳打ちする。
(かなりの恐怖でした……なんか片の上に立っているだけで彼、震いするほど怖いッスね)
「ああ、うん……なんとなーく、そんなじが、するね」
ボロボロの人形を次々と服の中や、に巻きつけた包帯から取りだしていくレヴィアを橫目でチラ見しながら苦笑いでトレースは言う。
「おい貴様ら。戦闘中に會話とは恥を知らぬようだな。新米からもう一度この俺が叩きなおしてやろうか?」
そこで冗談っぽい冗談じゃないシリアスな言葉をユーリスは吐き捨てた。
彼の言葉によって現狀を思いだされる。
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ユーリスが剣を向ける先には、暴走によって顔面を全力で木の幹に叩きつけているネロがいた。
大木がネロの頭突きだけで々になるのを目撃した一団は會話を中斷して、武をその手に握りしめた。
一方、先頭でなんからの作業中のレヴィア。
なにやら明な糸のようなものを、取り出した人形に結んでいるようだ。
「ちっ、いちいち何をやっているのかも分からない気持ちの悪いだな。ふん、まあいい……俺らだけでもネロ・ダンタを食い止めてみせるぞ」
地を踏みしめて、最初にネロへとむかったのはユーリスである。虹と金の混ざったが、彼の意思に応えて剣を包みこんだ。
応戦するようにネロの咆哮に反応し、周囲に撒き散らされた黒い魔力が空気を震えさせる。
黒い魔力が一つの形を作るように集い始め、僅かな時間だけで巨大な大剣へとその姿をり立たせた。
「ガァァァァァア!!」
黒い魔力の塊で形をした忌とも言える大剣の柄をネロは、躊躇いもなくけれるように握りしめた。
そして微かに振り下ろされただけの大剣に、ユーリスは死という警戒を余儀なくされた。
援護に來てくれたガレル達も同様だ。
「ちょっちょっ、と待ってくださいトレース先輩!  あれがネロちゃんだなんて私、これっぽっちも信じられないんだけど……!  一全どういう経緯でこうなったのか、私たちにも教えてちょうだい」
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「いや、俺に言われても……困るんだけどなぁ」
戸うトレースの橫で、誰かの興するような聲が聞こえた。
聲の主を確かめてみると、眼鏡に手を當てながら嬉しそうに頰を赤らめているマーラがそこにいた。
「ウホホッ……あれはもしや!   ネロの短剣が未知の黒魔力の源となっているのではないでしょうか!?  以前ネロに聞いた話ですが、どうやらあの短剣には魔力を吸収してしまうような能力が付いているらしんですよ。まだ指摘されている段階の困難な技だと耳にした事がありますけど、対魔族の為に研究を続けていた人族の方では、どうやらもうそろそろ実現可能の武だとか。まさかここまで膨大なのを抑えられるだなんて!  人に大きな負擔がかかる筈なのでは!?」
興味津々に早口で説明するマーラに、苦笑いしながらトレースは聞いた。
「えっと、それってつまり……どういう事なんだい?」
「これはあくまで私の推測なんですけど、あの短剣のせいでネロが暴走しているのではないでしょうか?」
ドヤ顔に似た表で笑うマーラに薄く恐怖を覚えるトレースだが、彼の口にした推測を改めて整理してみる。
「あっ」
トレースの目線はネロの腰に収められた短剣に向けられる。確かに、ネロの周りを渦巻いている魔力より若干高濃度な魔力をじられた。
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「やっぱりこの覚……數年前、まだ俺が新米だった時と同じだ。確かあれは、龍人族の領地がある北東の辺境で遠征訓練していた時、一度だけ遭遇した事があるんだ」
數年前の記憶、自が騎士団の未な新米の一人としてユーリスやその他の友人達と自給自足の訓練をしていた時だ。
友人の一人が悪ふざけで立ちり止とされていた窟に侵してしまい、大目玉を食いたくないが為ユーリスとトレースは彼を探しに窟へとっていった。
アリの巣のように複雑な窟を進むにつれ、迷子になるが怖くなった友人の一人が弱音を吐いて戻りたいと言いだした。
真面目なユーリスは弱音を吐いたその友人に激怒して「帰りたければ帰れ、玉無しが……!」と言い殘し一人で暗闇の中に進んでいってしまった。
無論、彼を置いていけないのでトレースは窟から出たいという友人に迷わない為の目印としてロープを持たせる。
引き返した友人にロープをばさせながら、トレースはそれを手にしてそのままユーリスを追いかけるために先を一人だけで進んだ。
それから數分後、腐ったような臭いがトレースの鼻を襲った。
嫌な予が脳をよぎり急ぎ足で進んでみると、男の悲鳴が窟に轟いた。それも知っている聲である。
悲鳴のした方向へと急いでいると彼は目の當たりにしたのだ、悪ふざけで窟に侵した友人が『赤い竜』に食われていたのを。
息を押し殺し、なるべく音を発しないようにトレースはその場を退散しようとしたが、うっかり地面の石を蹴ってしまう。
瞬間、膨大で悍ましくて殺気の混ざった魔力がトレースのいる場所へと注がれる。
(あの時、じた魔力と雰囲気とまったく一緒のようだけど……まさかネロ)
「黒竜の魔力を吸収してしまったと言うのか……!」
察した彼にマーラは頷いた。
現在、ユーリスとガレルとエリナが前線でネロの重々しい攻撃を凌いでいる。
一方、後ろでロインズは弓を構えて前線の仲間達のフォローに回っていた。
流石がは有名なパーティだけあって、指示なしでの連攜を華麗に繋げていっている。
「ネロちゃん!  目を覚ましてよ!  私よエリナよ!」
だけど、どれだけ隙が空いてもネロへの直接的な攻撃をガレル達は躊躇ってしまっていた。
特にエリナは危ういも至近で理を失ったネロの説得を試みようとしている。
だけどそれも意味がなく、ネロの暴走は治ろうとしない。あんなに木々で生い茂っていたこの場所も、ネロが大剣を振るうたび更地になりかけようとしている。
「ぐは!」
ネロの攻撃を剣でふさげようとしたガレルが遠い距離まで吹き飛ばされ、容赦なく地面にそのを叩きつけてしまった。
「ギャ!?」
続いてエリナも同様に大剣を振るったネロの、発生させた強い衝撃波に耐えきれずに巨大な巖の側面に、を衝突させてしまう。
殘ったユーリスは反神経を生かしながら攻撃や追撃、ネロの得意な風魔法をわしていくがいつまで持つか。
「悪んですけどトレースさん、私もそろそろ戦闘に加わらなきゃ!」
「マーラ!  ちょっと待って!」
走っていくマーラをトレースは呼び止め、なるべく早めの口調で聞いた。
「ネロの暴走の原因はあの短剣のせい、だよね?  つまりあの短剣を彼から奪い取れば……!」
「可能はなくも無いですけど、すぐには暴走は止まらないでしょう。なんせ黒竜の魔力をすでにに摂取してしまいましたからね。ある程度ならば弱化するかもです」
マーラも同様に早口で答えながら、その手に杖をとった。それを聞いた途端トレースには勝算でもあるのか、薄く微笑んでいた。
「なら、その役目を俺に任せたまえ……その間マーラ達はネロの足止めをお願いするよ」
「了解しました、他のみんなにも伝えます!」
トレースはそれだけ指示すると手に持っていた剣を両手で握りしめ、右足を前へと突き出す。
両目を閉じながら、視界が消滅した暗闇の中でトレースは大きくため息を吐いた。
構えていた剣は彼の行に意味を與えるように、徐々に大きく點滅を繰り返しながらそのを、虹の結晶へと姿を変えた。
※※※※※※
寶石のような輝かしい翠の瞳を持った青年は、暗黙の世界を孤獨で彷徨っていた。
広がるような地平線もない、空もない常闇がただひたすら続いている。
思い返してみればこのような狀況には何度も遭遇しているである、けど慣れてしまうほど心は強靭ではない。
悔やんでは悔やんでは、最終的に囚われてしまえば結果は皆同じだ。
ふと、長年も右腕に巻いていた包帯に青年は目を當てて思った。
『定められたこの呪縛から目をそらして逃げようと、やはり運命を変えようなんて不可能な行いだ』
愚かな自分に対して、世界は嘆いている。
自分の本當の役割を全うしろと、何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も。
ーー逃げるな、けれるのだ。
瞬間、耳元に訴えかけるように、誰かが囁いていた。
己に呼びかけている存在がいま、背後にいる事に気がついた青年は恐怖心を抱く。冷えた汗を流しながら、溜まった唾をゆっくり飲み込む。
振り向くのが怖い。眼球だけを橫にかすと、微かに見える靄の本を目の當たりにするのも怖かった。
だけどネロは、その存在を拒んだ。
けれてしまう、すなわち何もかも失ってしまうきっかけになりかねないソレにネロは、覚悟しながら振り払ってみせた。
「僕は……僕なんだ。誰にどう言われようともその座席にはまだ……座ったりはしない」
包帯のある腕が靄を大きく散させ、同時にネロの意志というものがこの作られた暗闇の世界を、打ち砕いていた。
ネロを中心に小さな亀裂がり、それが次第に大きく広がっていくと見渡す限りの漆黒が崩壊を開始させる。
そうしてネロは、振った勢いで緩んでしまった腕の包帯をもう一度、きつく縛ってみせた。
こうでもしなければ誰も救えたりは出來ない。この世に生まれ落ちた日から、自分はそうやって誰かの幸せばかりを優先させて運命に抗い続けていた。
苦しみや痛み、後悔をそのにめながらネロは、
ーー何処まで続くかも分からない青く広がった空を、また見渡すのだった。
※※※※※※
「オラァ!」
「これで!   どうだぁあ!!」
重傷を負いながらもユーリスとガレルはネロの死角を狙い定めて、互いに息が合うよう同時に強力な剣撃を放つ。
「ガァァァア!!!」
渾の攻撃が屆き、ネロのを守護していた黒が斬り裂かれる。
一方、ロインズはありったけの魔力で強化された矢を弓につがえネロの握る大剣に標準を定めた。
「いいよ!  ぶっ放してください!」
マーラはあらゆる能力を上昇させる強化魔法をロインズに付與させ、合図を口にする。
ロインズは彼の言うとおり矢を放ち、矢は鈍く重々しい風切り音を発しながらネロへと接近。
大剣を握りめる手に吸い込まれるように命中、ネロは手だけならず腕まで吹っ飛ばされていた。
「ガァァァア!!」
荒々しく狂った表を浮かべるネロ。
あらゆる防態勢を崩す事に功した今、ユーリス達は短剣を引き離す目的へときを切り替える。
だが問題が一つ、ネロには接近する事が出來ないのだ。無意識なのかは分からないが、ネロにれた木々の葉や地面、あらゆるが焦げたように黒く変してしまっていた。
迂闊に近づけば二の舞になるかもしれない、それに黒竜の魔力を吸収した短剣にれたらどうなるのかも分からない。
「くっ……どうすればいいんだ。このままでは全滅してしまう」
苛立ちを口にしながらネロの攻撃を回避するユーリス。やはり彼の反神経は伊達じゃない、だけどダメージをけている事に変わりない。
力もあとししか持たないだろう。
それはユーリスだけ限定ではなかった。
誰もが歯を噛み締め絶的に思う中、突如と周囲の大気が大きく震えた。
「悪い皆、待たせたてしまった……!!」
 
「「!」」
(あれは、トレースの最大の技……!)
誰しもが注目した先には、き通るような虹に輝いた明な剣を手に戦士がそこにいた。
雰囲気もが先程とは段違いに変化していることに、ユーリスはなにかを察する。
「我の前に立ち塞がる厄災よ、問おう!  貴様は一何者なのだ!」
剣を天高くまで掲げると、その衝撃が森一帯にまで伝わる。
平常にその形を直視できる者なんて居ない。
トレースの眼差しには、まぬ狂気を帯びて心までもが支配されてしまった友である者が映っていた。
全てを抱え込む純粋な子供のように涙しているあの面影が、剣を掲げるトレースの瞳だけがそれを捉えていた。
『僕は……………ネロ・ダンタだ』
「……そうか」
問いに答えたのか否かは明確ではない。
だだその想いに応えてようと、トレースは空をも斬り裂かんばかりの威力を誇った剣にありったけの魔力を集中させ、その力が分散しないように必死に制する。
(これは、龍人族である師に教わった最大の技だ!)
「ばかな……あそこまで魔力を放出させる事が、できるだなんて」
トレースが剣を振り下ろす直前、明な剣を包みこんだ虹の魔力を目の當たりにしたユーリスは絶句した。騎士として鍛錬を積み重ねようと、自分では到底踏みることの不可能な領域が今まさに、目の前で披されている。
ゴォォォォォォォォォォォォ!!!!
「剣に力を與え集いし萬の煌ひかりよ!! 我に降り注ぐ厄災を払い闇を斬り拓くのだ!!! 【晶剣流、煇輝斬(ききこうざ)ん】!!!」
今まさに、ここで終止符を打つために振り下ろされた剣は闇をも切り拓くような神々しい輝きを放ちながら薄暗いこの森を照らす。
瞬間、その先にいるネロにめがけて放たれるのであった。
暴走ネロは回避を試みようとしたがけなかった。よく見ると気味の悪い人形のようながのあらゆる所にいて、自のきを抑えていた。
その持ち主であるレヴィアが、遠目で薄く笑っていた。
「ガァァァァァァァァァァ!!!」
「ああああああああああああああ!!!!」
取り巻いた狂気と殺意や憎悪を祓いながら、決して止むことのないトレースの渾の一撃がネロに命中したのだった。
闇がを包み込み、が闇を祓う。
また闇がを包み込み、もまた闇を祓ってみせた。
繰り返されるこの連鎖の行き先には、なにがあるのかは分からない。
だけど、黒竜の魔力によっての支配でを滅ぼしてしまったネロはこの瞬間、確かにじとったのだ。
「……………………ああ」
ーー永く待ちわびていた悪夢からの『解放』された、という覚を。
   完
乙女ゲームのヒロインで最強サバイバル 【書籍化&コミカライズ】
【TOブックス様より第4巻発売中】【コミカライズ2巻9月発売】 【本編全260話――完結しました】【番外編連載】 ――これは乙女ゲームというシナリオを歪ませる物語です―― 孤児の少女アーリシアは、自分の身體を奪って“ヒロイン”に成り代わろうとする女に襲われ、その時に得た斷片的な知識から、この世界が『剣と魔法の世界』の『乙女ゲーム』の舞臺であることを知る。 得られた知識で真実を知った幼いアーリシアは、乙女ゲームを『くだらない』と切り捨て、“ヒロイン”の運命から逃れるために孤児院を逃げ出した。 自分の命を狙う悪役令嬢。現れる偽のヒロイン。アーリシアは生き抜くために得られた斷片的な知識を基に自己を鍛え上げ、盜賊ギルドや暗殺者ギルドからも恐れられる『最強の暗殺者』へと成長していく。 ※Q:チートはありますか? ※A:主人公にチートはありません。ある意味知識チートとも言えますが、一般的な戦闘能力を駆使して戦います。戦闘に手段は問いません。 ※Q:戀愛要素はありますか? ※A:多少の戀愛要素はございます。攻略対象と関わることもありますが、相手は彼らとは限りません。 ※Q:サバイバルでほのぼの要素はありますか? ※A:人跡未踏の地を開拓して生活向上のようなものではなく、生き殘りの意味でのサバイバルです。かなり殺伐としています。 ※注:主人公の倫理観はかなり薄めです。
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