《S級冒険者パーティから追放された幸運な僕、神と出會い最強になる 〜勇者である妹より先に魔王討伐を目指す〜》侵食されたその後の話

「………」

一人で青く広がる空を見上げながら僕は思った。

不思議な覚だ。

自分がまるで自分では無いなにかの手によって、思考が作されるようなじだった。

もし、あのまま抵抗もせずずっと見守っていたら、きっと永遠に常闇の奈落へと這い上がれなかっただろう。

まともに意識が制できない、なにもかも破壊したいという衝の中、そんな僕に救いの手を差しべてくれた者がいたような気がした。

ばした手を、しっかり包んでくれた何かが。

ふと、僕は右腕に巻いた包帯に目を止めた。

「呪縛」

僕はこれをそう呼んでいる。

正式にそんな名前ではない。

だけど本當の名を口にするだけで、自分ですら耐えられないぐらい発狂してしまうので極力は口に出したりはしない。

そんな包帯の下には、運命を定められた刻印が刻まれている。

決して僕以外が見てはいけないもの、と言ってももう五年は自でも目にしていない。

 いや、したくないのだ。

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おかげか、ずっと隠す羽目になっている。

面倒だと時々、思うことがある。

けど、おそらくその時がくるまでには……。

「どうやら、もう明日のようだな」

ジュリエットの眠らされている部屋にると、先に誰かが彼の元に訪れていた。

部屋にると、背中姿だけで誰なのかが真っ先に分かった。

「ローラさん、ご無沙汰……とまではいかいけど、お久しぶりです」

相変わらず剣をぶらさけたローラは、眠りについているジュリエットの橫の椅子に座っていた。

呼びかける僕の聲に気がつくと、あまり驚いた様子のない表で振り返ってきた。

無言で僕を見つめる。

ローラは尖った耳を垂らしながら沈黙の末、口を開いて聲をかけてきた。

「ああ。なかなか顔を出してあげられなくて、すまないな。で、の調子はどうなんだ?」

どこか嬉しそうに微笑みながら、ローラは僕の顔を覗き込んできた。

「あ、コレですか?」

首筋から頰までに侵食した赤黒い痣のような跡に指を差しながら、僕はどこかのない聲でローラに返事をする。

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すると彼から微笑みが消え、心配そうな瞳を向けてきた。

「……聞いたところ、どうやらこの跡は永遠に消える事はないけど、特に何があるわけではないから放置していても問題ないらしいです」

「そ、そうか……それは、なんだ。良かったな」

なにか言いたげなのか、ローラは言葉に詰まっていた。

それを見た僕は、苦笑いをしつつ彼の隣に空いていた椅子に座る。

深い眠り、その間に見舞う苦痛に聲を荒げるジュリエットを目にしながら、彼の冷たい手に自の手を重ねた。

それをローラはなにも言わず、ずっと見つめる。

気を遣ってくれているのか、僕がジュリエットの手を握りしめている間にローラから聲をかけてくる事はなかった。

し前なら、ローラから毒舌の嵐が飛びっているはず。

なんせ彼は人族が死ぬほど大っ嫌いで、言葉では表せられないほどまで恨んでいるらしい。 

その理由をトレースから一度、聞いてみた事がある。

ローラには昔、い弟がいたらしい。

相當可がっていたらしく、周りから見れば過剰なまでのお節介とも言えるほどローラは弟の事になると非常にしつこかったらしい、とトレースは語る。

そうな格をしたあの剣士が?  と驚きを隠せなかった自分がいたけど、肝心な部分はそこではなかった。

人族をナゼ恨んだのか、単純だ。

『ローラの弟は気の毒にも、人族の卑劣な手によって殺されてしまったんだ……』

思い出に耽るような眼差しから一変。

トレースは飲んでいた酒をテーブルにゆっくり置き、真剣な眼差しを僕の方に向けながら打ち明けるように言った。

エルフは高く売れる、ローラの弟も例外ではない。

ある日、目を離した隙に彼の弟は、大陸に侵してきた盜賊に攫われてしまったらしい。

それを聞いた途端、なぜかリンカの姿が頭をよぎった。

も盜賊で『薄氷のリンカ』と呼ばれていた時期があったが、他とは違ってリンカは無闇に人を殺したりはしない。そんな人間ではないのは保証できる。

無論、時代が全く違うため、リンカはそのことに関しては一切関係ない。 

なにも出來ずに鉄格子に囲まれながら震えていた時、リンカは僕を解放してくれた。

『気まぐれよ……』と澄ました表でそう吐き捨ててきたけど、彼の瞳の奧に隠された溫かな優しさがしっかりと伝わっていた。

は他の盜賊とは違う、そうじれたのだ。

その後、ローラの弟はどうなってしまったのか?  とトレースに恐る恐る尋ねると、

『…………ある裕福な貴族に売られたけど、隙をみて逃亡を図った時に殺されてしまったんだ。ローラはそれを、目の前で直面してたんだ』

エルフは元々そこいらの亜人より貴重で高値になる種族のためか、攫うのを目的としてこの大陸に侵を試みようとする人族は數しれない。

攫われたエルフの大半は奴隷にされるか、それとも見せしめの為に殺されたりする。

長きに渡って互いを絶しようとする種族同士だった、それを決して忘れてはならないと記憶の隅に定著させようとする輩もいた。

ローラの弟もその一人になりかねない、そう思ったローラは武を手にして弟を攫った人族らをすぐさま追跡。

最も人族の人口が多い大陸『ファンブル』に彼は、奴隷売買の報を収集をしながら弟を追い続けて半年後、ローラは東部のミリス公國北辺境に位置する城塞都市『アルゲインド』という場所に足を運ぶことになった。

ファンブル大陸西側に反して、魔や魔族が最も生息しない地だ。

そのせいか、魔族を一目見たい買いたい人々らの為に奴隷市場が盛んな街である。

子供ですら奴隷が購できてしまう場所。魔族となった奴隷は飼い主によって殺すも生かすも、道にするのも自由である。

尖った耳をフードに隠したローラはそれを聞いた途端に息苦しくなった。

まさか、自分らという気高くしい一族がこうも卑劣な奴らに支配されているだなんて思いもしなかったのだ。

そんな事を思いながらローラはなにふりかまわず、奴隷市場を絶やしにしながら更なる報を商人から聞き出す。

そして最後に辿り著いた先は、弟を奴隷として購したとされる名門貴族の館。

遂にローラは自の弟と再會できる、そう思った矢先に悲劇が起きてしまったのだ。

外側から見た門の反対側から、小さな人影が駆け寄ってくるのが見えた。

警戒しつつローラはその影にむかって目を凝らしてみせると、それが自の最の弟であることを認識できた。

一年は経過してしまったが面影は殘っている、しはゲッソリしているようだが目立った外傷がない事を確認してローラは安堵する。

だけど肝心なのはそこではなかった、彼の弟は必死そうな形相で慌てていたのだ。

それも、自分の姉が門を超えた先にいるのを視野に納められないぐらい、まるで何かから逃げるような。

愚かにも立ち盡くしてしまったはローラは弟にめがけてられる矢に気づくことができなく、そのまま………。

そこでトレースは語るのを中斷した、苦の表で俯き『想像通りさ』と言わんばかりに彼はそれ以上の事を喋ることはなかった。

大切な人を失って初めて抱く、心の傷。

その傷を癒すために生まれてくる憎悪と復讐心。

ローラの抱いた人族への恨みを考えてみせると、分かるような気がした。

心に負ってしまった傷はどのような事をしようと、一生殘り続けてしまう不憫なものだ。

僕とエリーシャも同様、『七大使徒』ビリー率いる魔王軍によって故郷を滅ぼされ、その時に抱いた恨みと復讐心は底知れなかった。

今でも、その時に負ってしまった深い傷は癒えていない。

トレス達に対してもそうだ。

彼らにけた日々の屈辱と苦悩をどのような形で晴らしたところで、その一瞬でじるのは優越と傲慢な想いだけ。

それでも心の傷は治ることはなかった。

すなわち、どのような行いをしたところで一生この傷は、背負っていくことになるだろう。

ジュリエットの冷えてしまった手にれながら、口には到底できない想いをに、僕は顔を上げるのだった。

「時間だ……そろそろ行くぞネロ」

右側からローラは真剣な表で窓の外を見ながら言った、どうやら霊大陸の中央都市『ルヴニール』への馬車がエルロンドの館前に到著したらしい。

霊願の日、開催される時間までわずか。

馬車には顔見知りの人たちがすでに乗っていて、僕とローラを待っていた。

「………ジュリエットちゃん、待っていてね。必ず勝ってみせるから」

重ねた手を離し、ジュリエットの額に小さくキスしてから僕はローラと一緒に部屋から退出した。

運営する側のエルロンドはもうルヴニールには到著している頃だろう、おかげか館には使用人だけしかいなくて靜かだ。

「………」

使用人に出迎えられ館に出ると、門前に止まる數臺もの馬車から參加者であるトレースたちが顔を見せてきた。

ガレルとエリナ、マーラやロインズも乗っている。

全員が參加者で、幸運にも僕の協力者だ。

ジュリエットの過酷な現狀を知る彼らは、もし代わりに優勝してくれたらジュリエットをなんとかしてくれるという願いをミアに頼んでくれるらしい。

あわよくば元の時代に帰れる方法も聞いてくれると言う。

協力してくれるだけでも十分なのに、と遠慮したら頰をエリナに毆られてしまった。

せっかくのチャンスを無駄にするものではない、本當にジュリエットを救いたいなら手段を選ぶな。そう説教されてしまった。

エリナだけではない、友人のガレル達やトレース。

彼らの溫かな優しさにれ合うことで僕は、あまりの嬉しさで涙を流してしまった。

あくまで自分らの願で參加するのではなく、僕やジュリエットの為に勝ってくれるのだ。

もしもの事があれば僕は彼らの想いに応えなければならない、そう思った。

「ネロ、エルロンド様からだ。け取れ」

門を出る前にローラは指のようなものを手渡ししてきた。

寶石のない、ただの銀の指だ。

「えっと、これは……?」

一応ローラに尋ねてみると、彼は指に目を當てながら言った。

「言っておくが、霊願の日に行われる『試練』は魔族でしか參加できない」

衝撃的な告白を口にするローラにむかってキョトンとしながら首を傾げ、僕は彼に再び聞いてみせた。

「と、言いますと?」

「………人族では參加できんと言っているんだ」

はぁ、と溜息をらしてからローラは當然と言わんばかりの表で僕を見ながら答えた。

人族は參加できない、と何度も。

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