《究極の捕食者 ~チート融合スキルで世界最強~》第10話 融合無雙

 聲のした方向へと振り返る。そこに立っていたのは綾辻里澄(あやつじ りずみ)さん。當たり前だがクラスメイト。デコ出しヘアーにちょっと太めの眉が個人的にはチャームポイントだと思う。クラスでも結構目立つ方だが(もちろん姫とその友人2人のトリオには負ける)、俺は一度も話したことはなかった。こんな狀況でも普段通りの強気な表は崩れておらず、大したものだと勝手に心してしまう。

「どうしたの綾辻さん。早く西広場に戻った方が良いよ?」

その俺の問いかけに対して、綾辻さんは「ハァ?」と、まるで馬鹿を見るような目で俺のことを睨んできた。え、ちょっと待って困る。

「戻るなんて冗談でしょう? アンタと姫のさっきの會話、聞かせて貰ったわ。私も殘って足止めする」

「それこそ冗談だろ? 足止めは俺一人で十分だよ」

「ふぅん一人で十分? で、融合しか取り得のないアンタが、一どうやって戦うのよ。奧の手があるって言ってたけど」

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「うっ」

実は、奧の手という奧の手は無い。正確に言えば、俺の考えていることは『賭け』と呼ばれるものだ。

相手の陣の中央のモンスターを強制的に融合させ、新しいモンスターを生み出す。知能が低いモンスター同士を使えば、例え生きていたとしても融合できるのは先程照明済みだ。

あとはそのモンスターが混して、周囲に攻撃を開始してくれれば萬々歳だ。それか、周りの奴等が融合を敵と認識してくれるか。どちらにしても同士討ちで混を作り、時間を稼ぐ。

俺はそのことを綾辻さんに話した。

「甘い見通しね。今の計畫の中に何個『希的観測』が出てきたのかしら」

「けど……そうするくらいしか無いじゃないか。俺の融合は……」

俺の融合は萬能じゃない。これでも、かなり考えたんだけど。

「いや、別にアンタのスキルを馬鹿にしたいわけじゃないのよ。さっきの戦いぶりも見てたけど、かなり上手く使ってたわ」

「そ、それはどうも」

突然譽められると戸う。これがデレって奴か! 違うか。

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「敵の武裝を解除したり、融合することで敵の攻撃を無効化したり、かなり上手く使っていた。でもやっぱりアンタのその融合の真骨頂はモンスター同士の合強化にあると思うのよ」

 それは俺も思った。普通に考えて、あの雑魚のブラックファング同士を二消費するだけでケルベロスを呼び出せるのだ。後でジャックさんに聞いた話だが、あのケルベロスは、もしあの場に姫がいなければ、全滅していたレベルの魔だと言うのだ。當然だよな。俺前足で軽く払われただけで意識失ったし。

それだけ強力なモンスターを生み出せる魅力的な融合。しかし、問題は融合で生み出したモンスターがアンコントローラブルな點だ。それは全く意味がない。

「仮にだけど、モンスターをることの出來るスキルがあったとしたら、どう思う?」

不意にそんなことを綾辻さんが尋ねてきた。

「本當にあるんだとしたら、から手が出るほどしいね」

「それを私が持っていると言ったら?」

「マジで!?」

「はぁ……やっぱり知らなかったのね。まぁいいわ、とにかくそうなの。アンタのスキルと私のスキル、コンボで行けば、足止めどころじゃない。本當に敵を倒してしまったぜ狀態よ」

「いいね……楽しくなってきた」

俺は嬉々として門だった場所の外を振り返る。既に西広場からの無差別攻撃は止み、機能しなくなった堀の向こう側で、再びモンスター達が集い始めている。生きているモンスターを使うのもいいが……。

「あそこまで遠いと私の『魔獣使役』は屆かないわね。こっち側の死使えない?」

「オッケー。んじゃあ、もう一回ケルベロスを作りますか」

「あ、あと最初に言っておくけど、私がれるのは1だけ、頭が弱い奴よ。だから飛び切り強くて馬鹿な奴をお願いね」

「まかせとけ!」

俺は転がっているブラックファングを見つめる。

「その呪われし首を一つに束ねよ――融合!!」

その辺に転がっていた死を大量に消費、それらが集まって、り輝く。やがては新たな魔のシルエットを形作り、そして収束する。

現れたのは5メートルにもなろうかという巨を持つ犬。異質なのは首を5つ持つところか。

「クインテット・Bファングってところかな。魔力は……うひょー! 2800だってさ!」

「やるじゃない七瀬君! 姫並みの戦力だわ……私も負けてられない――魔獣使役

Bファングの首に、幾何學的な魔法陣が浮かび上がる。やがてその魔法陣は首のようにBファングの首を締め上げる。赤い瞳が、穏やかな緑になる。

「はぁはぁ……やったわ、てこずったけど、魔力のパスを繋いだ。これで私の思い通り! さぁ、反撃よBファング!!」

グルルゥゥアアアアアアア!! と、奇怪な雄たけびをあげながら、五本首の魔獣は敵の群れに突っ込んでいく。

堀を土魔法で埋めていた鎧騎士がすぐさま立ち上がり盾を構えるが、5メートルの巨による突進を食い止められるわけもなく。敢え無く砕け散る。

その様子に、何事かと他の魔達もBファングに注目する。元となった同種族の敵ブラックファング達の中には、逃亡する者までいた。だが、殘ったラプターやピクシー、デスデビル達は逃げることなく、警戒態勢を取る。

「決めてやれ綾辻さん!」

「當たり前よ! 行けBファング!――クインティプル・ディザスターキャノンよっ!!」

綾辻さんがなかなかにノリの良い必殺技名をぶと、それに呼応するように、五つの口から黒いビームを吐き出すBファング。そのビームを吐き続けながら、様々な方向へ首を回転させ、敵をなぎ払う。本當に跡形も無く敵を消し去っていったので、景が若干広くなった気さえする。

「行ける……行けるわ七瀬君」

「ああ、初めからこうしておけば良かったとさえ思うけどね」

「それは言わないでよ。今まではスライムでしか練習してなかったの。アタシのスキルが本當に融合合された超強力モンスターに通用するかなんてわからなかった」

「言いたいことはわかるよ。もしかしたらみんなを危険に曬していたかもしれない」

「そうよ。もし私のスキルが通用しなかったら、あのBファングが敵に回っていた」

それは……考えたくないほどに恐ろしい。姫がいるからまだわからないが、姫が突破されたら間違いなくBファングだけでこの王國は沈む。

「そして、そうなった時に責められるのは七瀬君になってしまう。そうでしょう」

「綾辻さん……」

あれ、なんだろう、キツい格をしている子だなぁと思っていたけれど、結構優しい子だぞ? ヤバイ、ときめく。

「けれど、こんなに上手く行くなんてね。魔力消費も殆どないわ。こんなことなら、本當にもっと早く……そしたら」

「それは言わないでよ。君の言うとおり、あの戦の中じゃどうなるかなんて解らなかった。今、こうしていることが正解だ」

「七瀬君……アンタって意外といい奴なのね」

「はは、初めて言われたよ……おっと、またぞろぞろと敵が集まってきたぞ」

見回せば、また新たなる敵が現れた。

「雑魚がワラワラと……行けBファング、もう一度必殺技よ」

その指示で、再びBファングによる躙が始まる。それから先は、まるで無雙ゲーのようであった。5つの首の視界はまるで全方位を見回すレーダーの様に敵を逃さない。5つの首の稼範囲を組み合わせれば、攻撃できない箇所はないのではないかという程の稼域。

「どうしよう七瀬くん、そろそろ魔力切れみたい……」

気持ち良く夢想をしている最中、「ヤバッ」っていうじで綾辻さんが呟いた。

「え……綾辻さんの魔力が」

「いえ……一度パスを繋げば、るのに魔力消費はほぼないのよ。私のじゃなくて、Bファングの魔力が……」

「そうか……なら、俺も試したいことがあるんだけど……」

「この際いいわよ、やってみて」

「ありがとう……」

俺はBファングを見據える。そして、橫に転がる死を。

「クインテット・Bファングとさらに二のブラックファングを融合させる――融合!!」

再び融合の輝きがBファングを包み込む。そして誕生したのは、5つの首、そして尾がある部分と首の付けの辺りに新たな首を増設された、7本首の黒犬だった。心なしか、もマッシブになっている気がする。

俺はすかさずスマホで魔力測定。魔力數値は3400……!?

「凄いわ七瀬君! 魔力がアップしてるし、満タンまで回復しているわ。しかも、私とパス繋がったままよ!?」

功だね、大丈夫? まだれそう?」

「當たり前よ! 寧ろ、あと3つくらい首あってもいいくらいよ」

その言葉に、七つ首のBファングも気合十分に唸る。その様子に、敵はビビッたように後ずさりする。

「よし、お前の名前はザ・セブンスBファング! 決めてやれ!」

見た目はグロくなったが、より巨大になったを使い、再び敵の躙を始める。

「凄い、凄いわ七瀬君! 私達二人だったら、世界だって支配出來るんじゃないかしら?」

あまりの無雙っぷりに、笑いが止まらないぜといった合で綾辻さんが言った。かなりテンションが高い。

「奇遇だね。俺もそう思ってたところだよ。今すぐ引き返して、エッシャーにやり返したいくらい」

本當にそうだ。このBファングを今すぐ王國まで戻せば、直ぐに王宮の制圧は完了するだろう。そうしたら、俺と綾辻さんが王だ。いや、モンスターをれる分、彼の方が権威が上になるのか。

「それ素敵。王宮乗っ取ったら、素空君が王様で私が王妃よ! なんて楽しそうなんだろう!」

マジでテンションが上がりまくっているようで、俺を下の名前で呼び始めた。しかも、若干笑い方が悪役ぽい。

「王様は綾辻さんでいいんじゃない?」

俺は王ってじじゃないし。

「里澄(りずみ)でいいわよ。いいえ、やっぱり王様は男がやってよ」

そう言いながら、新たなBファングの必殺技セプタウル・ディザスターで最後の敵軍を焼き払う。

「はぁはぁ、ちょっと変なテンションだったね、あたし達」

そう顔を赤くしながら、それでも嬉しそうに言う里澄。

「そんなこと無いって。スゲー楽しかったし、それに、この世界に來てから溜まってたストレス、一気に解消出來たじ」

「私もよ。と、ところでさ、素空君。さっきのことなんだけど」

「ん? どうしたの?」

急に赤くなってモジモジし始める里澄。正直し前までとのテンションの違いが怖い。

「王様と王妃様って話……ほら、私達のスキルの相って、最高で最強じゃない? それに、私もこんな世界に來て、ずっと不安だったし。頼れる人……が側にいてくれたらなって思ってたんだよね。あの、あのね……素空さえ良かったら、なんだけど」

な、なんだこの甘い雰囲気は。油斷してた。さっきまで、本當にさっきまで殺伐とした戦場の空気だったというのに、一瞬にしてこの甘さ。これがティーンの乙の力なのか! キツくて怖いと思っていた里澄がメチャ可く見える。

俺は戦場よりも慣れないこの甘い空気にどきどきしながら、彼の言葉の続きを待つ。

「アンタ達ィ……なんてことをしてくれるのよぉおお!!」

決意したように何かを言いかけた里澄の聲を、さらにデカイ怒聲がかき消した。

俺達は一瞬で戦闘モードに切り替え、怒聲のした方向を見つめる。そこには、一の白い「異形」が立っていた。

ベースは人間のようだが、その長は2メートル半ほどはある。は枯れ木のように細い。そして、地面に屆かんとする異様に長い手と巨大な爪。顔立ちは人間の様ではあるが、真っ赤な目が四つついている。憎々しげに歯軋りをしながら、ゆっくりとこちらに歩いてくる。

どうやら、あれが今回の襲撃のボスのようだった。俺達は構える。

姫川達は、まだ來ない。

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