《究極の捕食者 ~チート融合スキルで世界最強~》第23話 奧義―EXスキル
いつの間にか、この研究室とも教會の祈り場ともわからない部屋で、俺達はエッシャーの部下と思われる男達に囲まれていた。その男達はエッシャーの紋章と同じデザインの刻まれた鎧を著込み、剣やら盾やらを持っている。
「そういえば、イデア……さまを襲ったのは魔とマッドネス隊の混部隊だったっけ」
「ああ、やはりマルケニスとエッシャーは繋がっていた。つまりはガルムも。一國の王子が魔と深い関わりを持つ人と繋がっている。これは由々しき事態だ。この事実があれば、ガルム兄を失腳させられる」
「そうだな。しかも、先日の都市襲撃事件もあのの差し金だ。恐らく全て計畫通りだったんだろうぜ」
大方、俺達の力を試す為の茶番ってところか。だとすると、エッシャーのフレンドリーファイヤーに納得がいかないが。
「さぁ殺っちまえお前達! イデアは殺すな、だがスカルドラゴンとゴリラは殺して構わん!!」
エッシャーの掛け聲で一斉に俺達に突っ込んでくる兵士達。
「フッ、マッドネス隊ごときが、私に勝てると思っているのか?」
不敵に笑いながら、自慢のジークセイバーⅡを構えるイデアを、俺は手で制した。
「なんだすぞら!?」
「君に味方殺しはさせられない。ここは俺達に任せてくれ」
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「むっ……わかった。ここは騎士に守られる姫の立場を楽しませて貰おう」
……姫。それはよろしくない。しかし、良かった。大人しく引き下がってくれた。ゴネなくてよかったと思うと同時に、本當は人を殺したくはないのだろうというのをじた。 イデアはそれでいい。汚いことは俺がやる。今の俺なら、心もも人間ではなくなった俺ならば、大丈夫。
「コンボイ!」
「おう、わかったぞい」
俺の考えを察したらしく、コンボイは右手を機関銃に変化させ、天井に向かって円を書くような軌道でぶっ放した。恐らく予想していなかっただろうコンボイの行に、兵士達の突撃する足が止まる。降り注ぐシャンデリアや天井の破片。だが、それらの落下でダメージを與えようなんて思ってはいない。なら自分で攻撃した方がよっぽど強力だ。俺の狙いは敵の周りに適當なを置くこと。
ヒレの化石の様な両手を天に掲げ、俺は融合を発する。
その瞬間、兵士達がにつけているものが輝きだす。鎧が、兜が、剣が、周囲に散らばった瓦礫や殘骸とじり合い、そしてゴミとなる。俺の融合のやさしい使い方、広範囲武裝解除だ。
「下著を殘してやったのは俺の優しさだと思ってくれていい」
そう告げた。だが、それがエッシャーの臆病風を吹き飛ばし、怒りに火を燈したらしい。兵士達と同じく下著姿となったエッシャーは、憤怒の形相で俺を睨む。
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「父上から頂いた俺の槌が屑になっちまった……貴様、許さん、許さんぞぉぉぉ!!」
「そんなに大事なら、持ち歩かずにトイレにでも飾って置けよ」
「ほざけぇえええ!!」
その聲に反応して、武裝解除された兵士達が俺目掛け突っ込んでくる。さて、丸腰で俺の様な魔獣に突っ込んでくるのはどんな気持ちなのだろう。
そんなことを考えながら、俺は近づいてきた一人の兵士に向かって尾を叩き付ける。目の前を橫切るハエを払うような覚で、人間の命を奪った。
悲鳴すら聞こえずに々に砕け散った仲間を見て、他の兵士達は戦意を喪失したようだった。ゆっくりと、俺を刺激しないように後ずさる。
「この中にいるよな? あの時、大砲を撃っていた奴が。弾を詰めた奴が。點火をした奴が。あの砲撃の混で、姫川が傷ついた。も、心も。俺の大切な人の大切なものが傷ついた。まだ回復してない奴だっているんだ」
別に仲良くはなかったけれど。親しかった訳でも、もちろんなかったけれど。それでも、知らない仲ではなかった。そして、責任をじて、自分を責めているの子がいた。
「悪いけど、これはその仕返しだと思ってくれ」
やられたらやり返す。八つ當たりだ。俺は骨部分の羽、そして腕を本から分離させる。パーツ単位で分解された骨は、40近くの部品となり、空中に浮遊する。やがて、それらは意思を持ったように空中を飛び回り、そして無抵抗な兵士達目掛けて襲い掛かる。
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さっきのフェザービットの応用。ボーンビットといったところか。膨大な魔力によってとんでもない強度を得た俺の骨達は、あられもない姿となった兵士達を潰し、串刺し、切り裂いていく。
そんな阿鼻喚の地獄絵図となった慘狀を、エッシャーは歯軋りをしながら見ていた。恨みがましい視線を、けれども俺は気にしない。まぁ、気にしたところで、この骨の姿では申し訳無さそうな表を作ることすら出來ないのだが。
「どうした? 部下たちは全員死んだぞ?」
代わりに俺の口から飛び出したのは嘲笑だった。部下を失って尚、パンツ一丁、けずに、しかし憎らしいものでも見ているかのような顔で、コチラを睨んでいるだけなのだ。まるで子供だ。これではお前の命令で死んだ部下達が浮かばれない。いや、殺した本人が言うのが一番浮かばれないか。
「お前……許さねぇ……絶対に許さねぇぞ七瀬素空!!」
「はっ……?」
許さない、か。それはこっちの臺詞だとでも言ってやりたいが。生憎、そこまでの怒りを、憎悪をぶつけられて、ようやく俺は気が付いたのだ。このエッシャーという男を、それほど憎んでも恨んでもいないということに。
だが敢えて言うのなら「どうでもいい」というのが正直な想だ。どうでもいい。それこそ道端に落ちている石の様に。
だが、そんな道端の石でも、放置すれば、躓いて転んでしまう人がでるかもしれない。それこそ、このエッシャーという男は自ら人の足を摑んで転ばせようとしてくる人間なのだ。そこいらの石よりも質が悪い。
「イデア……構わないかな? 君のお兄さんを殺すことになるけれど」
「フッ、構わん。私は障害となるものを全て倒すと誓った。だが、素空に任せてしまっても良いのか?」
「良いさ。今の俺は魔でも人間でもない。どんな勢力ですらない。今後に禍を殘すことなく、殺せる」
「おいおい、さっきから聞いていれば、俺を殺してもいいか? だとぉ? 大概にしろよ! テメェの戦い方を見ていれば解る。七瀬素空、テメェは戦いに関しちゃてんで素人だ! いくら膨大な魔力を持っていようが、所詮只の木偶の坊よ!」
「けれど、お前だって大事な武を失ったはずだぜ?」
仕事を終え戻ってきた骨のパーツを組みなおしながら俺は敵を挑発する。あのハンマーは既にゴミ屑となって消えた。もしかしたらイデアのジークセイバーⅡのように、何か由緒正しい、貴重なのかもしれなかった武。勿無いと思いつつも、あれが貴重であれば貴重であるほどエッシャーの心にダメージを與えることが出來るだろうと、心を鬼にして瓦礫と融合させたのだ。
「甘い、甘いぜ七瀬素空。俺達王子王は國民の最前線に立って戦うため、生まれてきてから徹底的に戦闘技を叩き込まれる。そして、自らが持つ紋章の力と合わせ、徹底的に魔を殺すを磨き上げるのさ。七瀬素空。これから験するのは、テメェの様な魔力が高いだけの魔じゃ到底敵わない、奧義とも呼ばれるべき技だ」
「前置きが長いよ」
ってか、それこそあの槌とセットなのではないのか? イデアは武と紋章の能力と戦闘スタイルがセットになっていたが。
「見よ……我奧義!」
見たこと無い、見ようによっては面白い構えをとるエッシャー。途中で邪魔したい求に駆られたが、必死で我慢する。ここまで勿つけて、そして喋ったのだ。それを瞬殺の前フリのようにしてしまっては、死に行くエッシャーに対して余りに失禮だ。
「まずいな。まさかエッシャーのヤツ、あれを使うつもりか」
イデアが呟いた。それに答えたのは、コンボイ。
「ムッ、まさかアレか? いや、しかしアレを使うという事は、相當の覚悟じゃぞ?」
「アレって何!? 気になるんだけど」
いざけ止めてやろうと思っていたが、そんな反応をされると不安になってくるじゃないか。
「EXスキルには二種類あってのう。お主の《捕食融合》の様に、単純にスキルを極めた先に発生する超強力スキルもあれば、複數のスキルが複合し、一つの《奧義》として立するものも存在するのじゃ」
「フッ、つまり……必殺技という事だ」
「必殺技!?」
姫川が使っていたアレか! なるほど……ってこの狀況ヤバいんじゃないですかね。
「フッ、大丈夫だすぞら。エッシャーのくそ奧義なぞ、お前なら楽勝だ」
ニッコリと微笑むイデア。その安心しきった表には、俺が負ける姿なんてこれっぽっちも想像していない、安心と信頼がある。だが、正直ちょっと怖くなってきた。今からでも前言撤回して敵の妨害を――
「もう遅いぜ! 死に曬せぇEXスキル――《人喰い筋マッスルカーニバル》発おおおおお」
エッシャーの額に浮かび上がる紋章。その剎那、まるで分したかのように殘像を生み出しながら俺に迫ってくるエッシャー。俺はガードすることも出來ずに、それを見ていた。
やがて、飛び上がり、俺の上の口の高さまで上昇すると、そこに正拳突きを叩き込んだ。そのエッシャーの攻撃の衝撃で、上の口……いや、ドラゴンの頭部が首から外れる。そして、外れた頭部は々に、砂の様になってしまった。
「どうだ!」
エッシャーのドヤ顔ならぬドヤ聲が聞こえて來たが、生憎俺の視界は真っ暗になり、その顔を拝むことが出來ない。なんてことしやがる! たかがメインカメラをやられただけだ、とはならんぞ。サブカメラもないしな。だが、憎たらしい敵の気配だけは伝わってきた。俺も若干ニュータイプに目覚めているのかな……いや、多分違う。覚が獣のそれに近づいているのだろう。
俺はじ取った気配を頼りに敵を尾で巻き取る。
「ぐおっ!?」
意外と素早くけたようで、敵は何の抵抗もなく俺に絡め採られた。あるいは、奧義とやらを使った反があったのかもしれない。俺は尾の締め付けを徐々に強くしていく。
そうしているに、徐々に再生していた上の口、頭部のドラゴンヘッドが元に戻った。改めて尾で巻き取っているエッシャーを見てみる。蟹の様に泡を吹き、白目を向いている。あれ、強くしすぎたかな?
こんな漫畫の様な狀態で、生きているのか死んでいるのか、その判斷がつかなかった。
「何々? もしかして迷っているのかしら? そんな骨だけの姿になっても、人間としての倫理観は殘っているのかしら。ねぇ七瀬素空君?」
この激しい戦闘の中、未だソファに腰掛けているマスマテラこと大場は、挑発するようにそう言葉を掛けてきた。
「いや、死んでるのか、気絶しているだけなのかわからなかっただけ」
「そう……なら教えてあげるわ。それ、気絶しているだけでまだ生きてるわよ。『汚い顔してるだろ。噓みたいだろ。生きてるんだぜ?』って奴よ」
タッチネタとか古いっ! しかも生死が逆だし。だが、今ので確信した。このはやっぱり。
「ねぇ、殺さないの?」
「……そう言われると、殺す気が失せてくるね」
俺は今後害がありそうだから殺そうとしただけで、別に積極的に殺したいわけではない。殺せコールなんて貰ったって嬉しくない。なんだか、萎えてくる。だが、それが敵の作戦の様な気もしたので、エッシャーのを天井に思いっきり叩き付けた。彼のは天井を突き破り、三階を超え屋すらつきぬけ、空へと消えていった。
「お見事」
パチパチパチと、大場は三回だけ乾いた拍手をした。
「さて、聞きたいことは山ほどあるんだけど」
「でしょうね、そんな顔をしているわ」
適當なことを言う。俺の表なんて読める訳が無いのに。
「いやぁでも、本當に謝するわ。さっきまでは仲間の様なじを出していたけれど、実際あの男をうっとおしく思っていたのよ。倒してくれて、満足」
「そもそも、アンタとエッシャーはどういう関係なんだ?」
「アンタなんて、年上に対して失禮よ七瀬素空君? 私の事は大場さんと呼びなさい。で、エッシャーと私の関係が聞きたいのね? いいわ、それなら教えてあげる。『関係』なんて言葉を使うと、なんだか大人でらなことを想像させてしまうかしら? 殘念ながら七瀬素空君が考えるようなアダルティックな関係ではないのよ」
話が長い上に、なんだか文が面倒くさい。変なだ。俺が思春期全快な、それこそ些細な言葉からすぐにエロいことを連想してしまうような人間だと思われていることに不満を覚えないでもなかったが、余計な突っ込みをれるといつまでも本題にらなそうだったので、スルーする。
「普通に仕事の関係よ。私はこの屋敷、及びの管理をガルム様から任された。けれど、私が管理しているかどうかをチェックしにくるのはエッシャーだった」
しだけ寂しそうに目を伏せながら、けれども口元の笑みを絶やさずに大場は続けた。
「以前から、ここはガルム様の大いなる目的の最重要拠點だった。けどガルム様は既にこの屋敷には興味を失っているみたい。でも、いつかここでの研究果がガルム様の役に立つときが來るかもしれない。だから私は研究を続けている。エッシャーは、私が開発した魔だったりを、々連れまわして実験してくれていたわ。あれで暴れるのが大好きだったから、助かっていた。けれど、最近私を口説くようになってきてね。うっとおしかったのよ」
そんなに人という訳ではない大場だったが、エッシャー的には魅力だったようだ。まぁ確かに、大人の余裕的なものはじる。
「一応確認なんだけど、アンタがマスマテラ・マルケニスでいいんだよな?」
「大場さん……でしょう? まぁそうよ。元々マスマテラ・マルケニスというのは、この場所を管理していた一族が代々け継いできた名よ。ここの名前はヘルズゲート。魔が集まる森の奧。かつて《英雄》や《勇者》と呼ばれた存在がこの地下に多くの強大な魔を封印してきた。そんな化けたちが復活しないように管理するのが代々のマスマテラ・マルケニスの名を持つ者達なのよ。それこそリアンデシア誕生から數千年に渡って。けど、今は私がその名をけ継いだ。いや奪った。それからはガルム様の為にたくさんの魔を収集していたわ。研究の為」
あのコレクターやオタクと周囲の魔達から呼ばれていたマスマテラ・マルケニス。モンスターを集めるのが趣味なのではなく、研究材料として、レアモンスターをしていたのか。どんな魔かと思っていたが、それが人間のだったなんて。しかも。
「アンタ日本人だよな?」
「もう、大場さんでしょう? 言葉遣いは良くした方が、年上の好度は高くなるわよ。そう、お察しの通り、私は地球の日本から10年前にやって來た。それじゃあそこから話しましょうか」
あ、これ長くなる奴や。そんな悪寒が、背筋を通り抜けたような気がした。背中無いけどね。
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