時空聖竜ルミナスドラゴン。このモンスターを融合したことで、名実共に俺はドラゴンへと進化した。

ドラゴン。モンスターの王。

しかし、その代償として、これまでの冒険で得たほぼ全てのスキルを失った。その事実に関して、多思うところが無いわけではないけれど。だが、それ以上に強力なスキルを數多く手にれた。今までランダムにバラバラに得ていたスキルとは違う。

一つの生命として、ようやく完された狀態に戻る事が出來たのだ。人間のときよりも遙かに大きく、圧倒的に強い。

「ぐ……ぐぐ……一何をしたっす。卑怯っす。何故自分の《変》が使えないっす！？」

魔竜姿のミュートランスがそんな事を言う。自分も散々俺の事をコピーしまくったくせに。

「《神聖》ってスキルのせいだな。どうやら自分に益の無い下位スキルを不発にさせる効果があるらしい。どうやらお前の自慢の《変》は、この《神聖》を超えられない下位スキルだったって訳だ」

「神聖……まさか、そうか、アンタ……あの竜を融合したんすか？」

魔竜の姿のままのミュートランスは、しずつ後ずさっていく。その距離を詰めるように、俺も一歩前へ。

「く……ああああああああああああ」

焦ったのか、ミュートランスは魔力を増大させた。恐らく、何か魔法を使おうとしたのだろう。

だが。

「跪いて」

「ぐあっ……」

大きな音を立てて、ミュートランスは地面にひれ伏した。いや、ひれ伏したというよりは倒れたというべきか。

「かはっ……今度は！？」

「今使ったのは《竜の王・極》というスキルだよ。これがあれば、ほぼ全ての竜種は俺に逆らえなくなる」

「極……ってことは、上位スキルってことっすか！？」

上位スキル。以前姫川に聞いた話では、スキルを使いまくっていると、たまにそんな風に変化したりするらしい。度や燃費が上がるほか、狀況によっては通常では効かなかった相手にも効力を及ぼせるようになるらしい。

まぁ、ミュートランスがこのスキルの餌食になったのは、魔竜の姿をとっているからなのだが。自業自得だろう。

恐るべきは新しいスキルの制圧力。このスキルさえあれば、なくとも竜種に負ける事はないだろう。

「ちゃんと歯を食いしばっておいてくれよ」

そんなひれ伏した狀態のミュートランスの頬を、思いっきりぶん毆った。途端、敵のは宙を浮き、そのまま壁まで飛んでいった。それを目だけで追って、改めて今の自分の強さを自覚する。

「ああ、悪いね。まだ本調子じゃないから、手加減が出來なかったぜ」

「……」

のっそりと、ミュートランスはを引き摺るように起き上がる。凄い反抗的な目でこちらを威嚇するように睨んでいる。ま、今はもう怖くも無いのだが。

「かない的を一方的に毆るってのは好みじゃなくてね。《竜の王・極》による拘束は解除している。悪いけどもうちょっとウォーミングアップに付き合ってくれよ」

「……力を得た途端にそのデカい態度。気に食わないっす。気にらないっす。

所詮そんなモノは他人から奪っただけの付け焼刃っす。借りの力で、棚から牡丹餅で調子に乗られては困るっす」

「お前が言うなよ」

「ほざけっ！　――《変》！！　――《変》！！　――《変》！！　――《変》！！　――《変》！！」

「おいおい。功率が低い訳じゃなくて、完全に俺をコピー対象に出來ないんだぜ？　それとも、それしか能が無いのか？　それが出來なくなったら終わりか？」

「お、お前えええええええええええええ！」

激昂したミュートランスが襲い掛かってくる。存外、キレやすいヤツだ。

「《変》のスキルは自分の全てっす！　解けぇ！　今すぐそのスキルを解いて自分に変させるっす！！！」

敵の腕による攻撃を全てけ止める。俺の今の長は３メートルくらい。対して敵は１０メートルはある巨だ。

拳の大きさだけで俺のと同じだけの大きさ。そんな巨大な拳でもって毆られているのに、俺のはダメージをけない。

ただに防用の魔力を通しているだけなのに。それだけなのに、まるで扇風機にでも當たっているかのよう。

やがて疲れを見せ始めたミュートランスがし下がって、肩で息をし始めた。

「はぁはぁ……糞、糞……」

「おいおい。まだ一発だぜ？　もっと楽しませてくれよ」

「調子に乗るなっす。自分にはまだ切り札があるっす――」

突如、大きく息を吸い込んだミュートランス。ああ、なるほど。確かにそっちなら……ひとたまりも無いだろうな。

《終末の轟咆ハルマゲドンハウル》。じられた必殺技。俺がとうとう使うことすら出來なかったＥＸスキル。込めた魔力の分だけ拡散し、聞いた者を絶命させる死の咆哮。コイツのご主人様が上で活中のはずだが。どうやらそれを忘れるくらい頭にが上っているらしい。さっきの俺と同じだ。いや、違うか。さっきの俺は、そこまだ頭にが上っても尚、踏みとどまった。いつの間にか出來ていた、大切でかけがえの無いものが。已の所で引き止めてくれたのだ。

結果大敗した訳だが。悪くはない。後悔は無い。だが。

「悪いが俺にも死なせたくない奴等が出來たんでね。止めさせてもらう」

俺は空を切るように手刀を振り下ろした。いつか姫川が見せたように、魔力を見えない刃として、敵の首に向かって放ったのだ。

途端、ミュートランスの首がはじけ飛び、中から赤黒いがあふれ出す。

當然、を潰されては《終末の轟咆ハルマゲドンハウル》は発できない。なんだ、以外と弱點の多いスキルじゃないか。

そう思ってしばらくミュートランスを眺めていると、なんと傷口が塞がっていく。

「ゼェ……はぁ、はぁ」

ああそうか。流によって回復するスキル《竜》を使っているのか。

「こうなったら、最後の手段っす。お前の《融合》を使ってやるっす！」

そう言い放ったミュートランスはきょろきょろと周囲を見回した後、にやりと笑う。

「一何を……ああ」

そこに転がっていたのはバラバラになって放置されていたかつての俺の。魔竜の尾と羽が転がっていた。だが。

「お前ごときに融合が出來るかな」

「舐めるなっす。お前に出來て自分に出來ない事なんてないっす。アレを融合すれば自分にもチャンスが……ッ！？　が、が、が」

俺はそれを邪魔することなく見守った。敵が強くなることに得に抵抗は無かったのだが。ミュートランスは明らかに青ざめた顔で《捕食融合》の発を中斷した。

「お、お前は何者っす？」

「俺は七瀬素空だよ」

「そういうことじゃないっす。なんで、自分と魔を融合なんてできるっす！？」

自分自の肩を抱き、そして涙を流して震えながら、ミュートランスは言った。

「融合のスキルを発しようとした瞬間、自分の意識が融合対象に塗りつぶされそうになったっす。

自分が自分で無くなる覚がしたっす……。自分の中の理が、本能が、直が、危機が……強制的に融合を停止したっす。アンタは毎回あんな思いをしてたんすか！？　自分が崩壊して、異とじり合うような覚を……どうして耐えられるんすか！？」

俺は一度ため息をついた。俺は不敵に簡単だよと呟く。そして、言い放つ。

「他者を。異を。異形を。変革を。進化を。退化を。混沌を。変化をけれることさ」

「ひぃ……」

「そういえば、君のご主人はなんて言っていたっけ？　は戦闘を行う者にとっての武……とか、戦いに慣れていない俺とだったら、勝てるとかなんとか？」

「そ……っす」

「今気が付いたんだけれど、俺にとっては戦いは食材の見極めなんだよ。食べるか食べないか。俺にとって有用かどうかをずっと考えているのさ」

「い……命だけは……俺は命は奪うつもりは無かったっす」

「君のコピー能力は凄い便利だと思う。でも君の人格も戦い方も人とりも聲も格も戦い方も何もかもが気にらないから殺すよ」

「た、助けて……」

「斷る」

「そ、そうだ……大場のを全て話すっす……だから」

「もう遅い」

俺は新しく得たＥＸスキルを発する。それはルミナスドラゴンの必殺技だったスキルが、 《終末の轟咆ハルマゲドンハウル》によって歪められて誕生したスキル。

最高出力に必要な魔力は１００萬。もちろん、ここで全力を出す事は出來ない。１％で十分だ。

「じゃあな。――永遠をドミネ・超える竜の星クォ・ヴァディス」

最高出力ののたった１％。しれでも、のから溢れ出るどうしようもないくらい膨大な魔力。赤と黒の螺旋がミュートランスのを飲み込み、そして破壊する。ミュートランスは、まるで始めから世界に存在しなかったかのように、圧倒的な破壊でもって死んだ。

……ようやく、勝利した。だが、油斷は出來ない。まだ戦いは終わってはいないのだ。

「さて、隨分時間が掛かってしまったけれど、上は大丈夫だろうか」

足に魔力を込めて跳躍する。

すぐに戻るからな、耐えていてくれよ。イデア……コンボイ……。