《FANTASY WAR ONLINE》プロローグ
「これからみんなに報告することがある」
今日の夕食時、俺の父である龍勝純は威厳を込めて、食事をとろうと集まった俺たち家族全員に向かってそう言葉を投げかけた。え? 俺の名字が『龍』なんてすごい苗字だって? ご先祖様に言ってくれ。
で、父親の投げかけに戻るわけだが。この時、俺たち兄弟四人はおそらく全員が同じことに思い至っていただろう。そして、答え合わせをするかのように俺たち四人は口を開く。
「「「三人目でも作ったの?」」」
「弟と妹のどっち?」
どうやら、末の弟である學人だけは違うことを考えていたらしい。どうやら弟か妹がほしいらしい。自分より下の人間がいないからこそ出てくるなのだろうな。ただし、今の技でも妊娠期間の半分もいっていない赤ん坊の別はわからないと思うけど。
どうやら、學人は自分の思っていたことが仲間外れであったことをじ、自分の下の兄弟が出來ないと思ったらしい。顔はわずかにしか歪まなかったが落ち込んでいるような気がする。小學生みたいなをしているな。中學二年生なのに。
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「安心しろ學人。三人目がお前の弟を産んでくれるよ」
「あ、そっか。なるほどな。そういえば母さんたちはどっちも腹が膨れてないしな」
俺は學人にどっちでも希が葉うということを教えてあげる。どうやら、納得がいったらしい。だが、妊娠が発覚してすぐはそんなに腹が膨れることはないと思うけどな。
「いや、君たち。おれがそんなに遊びに夢中だとどこで勘違いしたんだい? あと、昴流は何を安心させたいのかわからないからね」
父さんの報告はどうやら違うらしかった。父さんはいつも通りの笑顔で訂正している。
「今回はこれだよ」
そう言って、食卓の上に取り出したのは、とあるパッケージだった。
「お父さん。これって……」
「そう、世界初のVRMMOである、『FANTASY WAR ONLINE』略して『FWО』のパッケージだよ」
俺の妹である華が反応し、父さんが説明した通り、俺たちの目の前に現れたのは世界初のVRMMOのソフトであった。世界初のVRゲームではない。その座はシミュレーション(広義的な解釈による)に奪われている。
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「ほう、新しいゲームのカセットじゃな」
祖父ちゃんの剣信がそれに反応するが、祖父ちゃん……その言い方は古いよ。俺もたまにそう言っちゃうけど。
「いやいや、でもさ。それ一つだけだったら報告されても一人しか遊べないよね。それじゃあ報告損ってやつだよ」
俺の一つ下の弟である優斗の発言。確かに、一つだけなら俺たち全員が遊べない。だったら、父さんが一人で隠れて遊んでいたほうがましである。もしばれた場合は家族総出で祭りにあげられるだろうけど。
「ふふん、そんな間抜けなミスをおれの友人がするわけなかろう。ちゃんとここにいる全員分もらってきているぞ」
「さすが父さん。権力を用するのは大得意だね」
「用して何が悪い。VRの技を開発したのはおれの研究チームだぞ」
そう、俺の父親である龍勝純が責任者を務める開発チームがVR技を生み出した。最初は不眠癥治療の研究をしていたはずだったんだけど、なんでこうなったんだろうね。だから、この家には一家全員分のVRギアがある。正式に発売する前の最終チェックをよく行ったものである。
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で、話を戻す。ここにいる全員分のソフトがあるらしいから、全員というと……祖父ちゃんと祖母ちゃん。父さんに母さん二人、俺たち四人兄弟と、俺の許嫁の……
「十人分ちゃんとあるんだろうな」
俺はし目を細めて父さんを見返す。もし九人分しかなかった場合、父さんの友人をお話しなくちゃあならない。薫を俺の家族として見ていないという証明に他ならないからな。
「ああもちろんだ。當然さ。あいついわく『10000人も10010人も大して変わらない』からだそうだ」
どうやらちゃんと十人分あるらしい。これで一安心である。もしなかったら、涙をのんで、俺も薫と一緒にゲームをやらなかったことだろう。
ちなみに、父さんの言うあいつとは、FWOの開発総責任者である高畑浩二氏のことである。父さんが個人的に友をもっており、VRゲーム開発におけるアドバイザーをしていたらしい。VR技のアドバイスだからな。シナリオとかには口出しは一切していないそうだ。そもそもシナリオがあるのかどうかはわからない。
「大丈夫よ、昴流。別にそんな程度、私は気にしないから」
「そうか? だったら、俺の気にしすぎか」
俺はしそういうところがあるからな。反省しなければ。
「で、そのゲームはどんなゲームなのじゃ?」
ナイス祖父ちゃん。いい話題転換だ。
「ああ、それはね。公式サイトを見たほうが早いかな。もうすぐサービス開始だからサーバーが重くなっているかもしれないけど」
FWOのサービス開始は三月の終業式が終わった次の日、つまり明後日なわけだが、ソフトの販売は一週間前から行っている。限定一萬枚である。予約なし、店頭に並んだもの勝ちの戦爭であったといえよう。その日は學校を休んだ奴が多かった。先生も休んでいた。校長まで來ていなかったらしい。バカだろ。父さんは「學校を休んだら今日の稽古はきつめにするから」などという脅しを俺たちにしていたため、全員律儀に學校へ行ったものである。ただし、臨時休校になったけどな。ちなみに、俺と仲のいい友人二人は何とか買えたらしく、翌日にめちゃくちゃ自慢してきた。
ちなみに、βテストなどといったものでテストプレイヤーの募集などは一切行っていないため一般の人の中でゲームを実際にプレイした人はいない。それなのにこの盛況の様子から、どれほど期待されているのかというのかはうかがいしれない。
「ふむふむ……よくあるファンタジーの作品ね」
「そうね……エルフにドワーフ、フェアリーもいるわ」
母さん二人、波母さんと月子母さんがそう呟く。俺の生みの親は波母さんだ。
俺たちは、FWOの購を止させられていたため、公式サイトを見ることを自主的に止していたため、正直どんなゲームか知らない。ただ、異世界ファンタジーと聞かされていたくらいである。で、大想像しているような作品であることは母さんたちの反応を見ればよくわかるものである。だが、それでもVRでそういった世界を歩き回れるのだからテンプレートな作品でも印象が大きく変わることだろう。
え? 母さんが二人いる理由? 俺の曽祖父ちゃんの努力により日本で一夫多妻が認められたからだよ。なお、そんな法律が存在する前からうちの一族は堂々と複數のを妻にしていたが。うちの家系図を見ると笑って何も言えなくなるのでこれ以上の発言は控えておく。
そんなわけで、うちには母さんが二人いる。他の家にもいるのかって? 俺が聞いた限りでは存在しない。
ちなみに、『妻を複數迎えることが出來る法律』であって、『浮気しても許される法律』ではない。この意味がわかるよね。
「でもね、この作品は人族の陣営と魔族の陣営に分かれて一定期間ごとにある戦爭イベントを行うんだ」
父さんは公式サイトの先ほど説明した項目の畫面を映す。そこには確かに、人族と魔族の二つの陣営に分かれて定期的に戦うということが書かれている。しかし、お互いに嫌悪しあっているわけではなく、創造神に自らの種族の武勇を見せつけるための儀禮的な意味としての戦爭であるということも書かれている。そこにはNPCも參加する旨も書かれており、そのイベント時のみにおいてはNPCも死に戻りの処理が行われるのだそうだ。
「お祭りみたいなもんじゃのう」
祖父ちゃんの言う通り、神社で行うお祭りと同じような意味がそのイベントには存在するのだろう。
さらに読み進めていくと、人族にはヒト種、つまりヒューマンしか存在しない。エルフやドワーフ、獣人なんかも全て魔族の陣営になるらしい。それなら、魔族陣営に人が集まりすぎるということにならないのだろうか。などと思うが、どうやら、魔族陣営は自分の種族が完全ランダムで選ばれるらしい。完全ランダムと言っても三つの種族が選ばれて、その中の一つを選択するらしい。これじゃあ、自分の気にらない種族しか出なかった場合は人族陣営になるのだろうか。こうやってバランスを取ろうとしているつもりらしい。
「じゃあ、みんなはどうするの? 家族全員同じ陣営にするの?」
「そうね……家族全員同じ陣営の方が楽しいじゃない。ゲームの中でも家族一緒に過ごせるし。みんなもそれでいいわよね?」
華の疑問に波母さんが答える。全員異論はないらしく異議を唱える者はいない。
「じゃあ、どっちにしようかしらね……。人族は知略によって戦略を立て、戦によって敵を倒す種族で、將軍などの指揮に値する地位にいる人が評価される傾向にあるらしいわ。それでも、武功を立てれば大きく評価もされるらしいけど。で、逆に魔族は…………個人での武勇を重んじる傾向があり、戦略など何もなくただ真正面から敵を倒してその數の多さで評価されるらしいわ。」
月子母さんがサイトを見ながら陣営ごとの説明の要約を行ってくれた。ふむふむ……こんなの一つしか選択肢がないじゃないか。
「「「「「「「「「「魔族だな(ね)」」」」」」」」」」
この時ほど家族全員の意見が一致したことはないだろう。
「ところで……夕飯はどうするのかい?」
と、俺の祖母ちゃんである鶴がそう口を開いた。俺たちは夕飯のことをすっかり忘れていた。今日の夕飯は冷や飯だったが、母さんたちの料理はそこら辺の料理人なんかに負けはしないので、おいしくいただくことは出來たが。
○ ○ ○
翌日、俺は教室の自分の席に座っている。今日は終業式であるため、午前中で終わりである。帰った後は、FWOをVRギアにインストールする作業が殘っている。今は全ての行程が終わっているために、後はどうぞご自由に下校してくださいという狀態である。
「FWO楽しみだぜ! あ、昴流は持ってなかったんだったな。いやあすまんすまん、先に始めさせてもらいますわ!」
と、俺の顔を見ながら楽しそうにあおってくる奴は、俺の友人でもある市川達樹である。いつもなら、俺も達樹に対して煽り返したりするのだが、今回の俺は強者の余裕にあふれている。なので、余裕しゃくしゃくと言った様子で達樹の言葉を聞いていた。
「なあ、どうした? 何かいいことあったか?」
達樹は疑問に思ったらしく、俺に質問する。
「あ! 結婚式の予定が決まったとか!」
と、大聲でとんちんかんな答えを発表するのは達樹の雙子の姉の市川生である。ちなみに、生も、FWOのソフトを手にれた一人である。
「違うよ、生。私たちもFWOを手にれることが出來たの」
と訂正する薫。今日も綺麗である。
「…………え?」
達樹はこの世の終わりのような顔を見せる。何があったのだろうか?
「お前らどっち?」
「何がだ?」
「陣営だよ! お前らの陣営!」
「それを聞いて何になると?」
「オレもそっちに行くんだから、聞いてんの!」
俺は達樹の肩に手を置いて子たちからキリストの微笑み、男子たちからは極卒の嘲笑と言われた俺のとっておきの笑顔を見せる。
「達樹。俺はお前とも戦いたい」
「オレは戦いたくない……」
「あたしも昴流くんたちと戦いたくないなあ。死んじゃうし」
「いやいや、ゲームだから死なないって、な?」
「つまり永遠に死の恐怖を味わい続けるわけですねわかりたくありません」
達樹の姿は死地から帰ってきた敗殘兵であった。彼の目には何が寫っているのだろうか。まあ俺なんだろうけどさ。俺はそんなに恐ろしいかね。
「まあ、その時はその時だな。戦場で會おう」
「え、まじ? マジで教えてくれないの? このゲーム、今のところは別陣営のプレイヤーとは一緒に冒険できないんだけど」
「別にいいんじゃね。お前とゲームで會えなきゃ死ぬわけじゃないし。半分の確率で、お前と同じ陣営になるし。問題ないな」
「え? あたしは? かわいい生ちゃんと戦えないでしょ? でしょ?」
「俺はかわいい生と戦える」
「あっ……」
「姉さん、何顔赤らめてんの! かっこいいこと言ってないよ!」
俺としては、敵になってくれたほうが楽しいと思う。友人と本気で殺したり殺されたりし合おう。とっても楽しいことだろう。
俺たちは達樹の絶に沈んだ顔を見ながら家に帰ることにした。雙子の悲痛の聲が背後から聞こえていた。
ドーナツ穴から蟲食い穴を通って魔人はやってくる
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