《FANTASY WAR ONLINE》第五六話
さて、再び草原へとやってきた。相変わらずこちらにはプレイヤーの影も形もいない。寂しいものである。が、考えようによってはこのフィールドの玉は全て俺たちが狩ってもいいということになる。ま、食連鎖とか、個數の減とか、そういった頭のおかしい仕様を運営が搭載していなければだが。
まあ、そんなものを搭載してあろうと、草原は果てしなく広い。そう簡単にウサギを絶滅するまで殺の限りを盡くせるとは思えないが。
「えー、こっちだな」
俺は街道を外れて草むらの中へとっていく。三人もそれに続く。草むらとはいっても一番丈の高い草ですら俺の膝までしかない。だが、小さな個はそれに隠れられると、し探すのが苦労する。
俺の索敵能力はまだまだ大の場所がわかるといった程度で、正確な位置までは割り出せない。それでも何とかなるのだから問題はないがな。
「きゅっ!」
突然のことだった。
俺たちが目的のウサギまでの道のりを歩いていると脇から一匹のウサギが飛び出してきたのだ。標的は俺。俺に向かって角を突き出して飛び掛かってきた。
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「――っ!」
警戒が緩んでいたとはいえ、ウサギに攻撃を當てられるようじゃだめだ。だから、この攻撃回避は今までにない程神経をすり減らしながら行ったことだろう。不意を突かれたから必要以上に力がってしまったかもしれない。普段ならこんな不意を突かれることはないのだが。
これは、索敵を信頼しすぎていたのかもしれない。
「ふう」
一呼吸。心を落ち著かせる。れた心では全てにおいて後に回る。それではいけない。後であり先を打つ。それが大事。
「スバル!」
「大丈夫!」
かおるの聲はわずかに震えていたが、心配させまいと俺はしゃんとした聲を出す。筋の通った聲だ。かおるもわかってくれたようである。
「助太刀は?」
「いらん。これは俺とこいつの戦いだ」
俺はウッドからのいを斷る。むしろ、邪魔をしたらウッドも斬り倒す覚悟である。
俺は改めてウサギを見やる。ウサギは今までの真っ白なではなく、全が抹茶になっている。いうなれば土だろうか。いや、これは土だ。中に土がついている。泥かもしれない。地面と同化しているかのように見づらい格好である。なるほど、泥をつけて匂いを消していたのか。かなければ音は最小限。それも利用していただろう。俺の【心眼】を回避したのは……いや、これは俺の練度が足りないだけだな。意識の外にある存在の格を見ることが出來ないんだ。
「お前、頭いいな」
俺は素直に心した。今までのウサギはのんきに草を食っているやつらばかりであった。しかし、こいつは違う。何が違うのだ。知能か? でもどうして? なにがあった? そして、俺を襲った理由は? 草食が別の生を自分から襲い掛かる理由は? 魔だからではないだろう。わざわざ、敵に姿を見せるのだ。何か理由があるだろうさ。
「きゅっ!」
ウサギは俺の言葉に反応したかのように鳴き聲を上げる。
俺の右手はいつでも抜刀できるようにしてある。腰を落とし、すぐさま次の作に移行できるように勢を変える。そして、すり足でじりじりとウサギへと寄っていく。まだ、間合いまでは遠いのだ。
「…………」
「…………」
靜かな時間が流れている。俺とウサギがこの時間に同一となり融け合っている。自分たちも時間の一部であり、それでありそのつながりは弱い。すぐさま切れてしまう。呼気はゆっくりとなり、びていく。大気を超えてお互いの神が同調しているのがじ取れるのだ。
もっと……もっとこのままでいたい。
俺はついそう考えてしまった。それほどまでに心地がいいのである。
お互いの糸がピンと張られており、それに一切の振がないのだ。しでも緩めたら自分の首が飛ぶ。だから気を抜かない。気を抜けない。ただひたすらに、時間と空間の外の場所で睨みを利かせている。
しかし、そういう時間はいずれ終わる。たいていは第三者の介によって起こってしまうのが常なのだ。
今回は……風であった。
ヒュウと吹いていた風がピタリとやんだ。風も含めて完していた時が崩れる。その直後に二つの生きは駆け出す。
「きゅっ!」
ウサギが地面を蹴る。あの角度ではおそらく俺のを狙っているだろう。それでは他のウサギと変わらない。いつもの対処である。俺の木刀はウサギの軌道を予測してそこへと振られる。
しかし當たらなかった。ウサギは途中で腕を広げてわずかな空気抵抗を生み、その差が俺の軌道を狂わせることとなった。ウサギの突撃の威力も弱まっただろうが、それ以上に仕留められなかったということのほうが大きい。
俺は諦めてを半にずらし、ウサギの攻撃を避ける。
「ヒュッ!」
息がれる。空気が鳴る。俺の勢はウサギの背中を攻撃できるようになっているのだ。俺は木刀を振り上げる。このままならば、ウサギのの間を抜けて顎にることだろう。
しかし、ウサギは足裏でけ止める。しぶとい。
「きゅっ!」
だが、ウサギの聲は余裕のある聲ではない。苦痛を抑えるかのような気迫のこもった聲であった。
「くふっ」
ウサギよ。先ほどの一撃をけ止めたのは誇るべきだろう。だがな、片足では戦えんよ。このままではなすすべもなくやられてしまうだろう。
俺は、ウサギに対する敬意として一撃で葬れるよう、木刀を脳天に向けて振り下ろした。
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