「うぅ…」

「むぅ…」

頭を抑えて2人の、アンリとナクが涙目になってく。

レアアイテムを消費してまで俺を眠らせたナクと、目覚めた瞬間に「下も子供サイズ！」などといい笑顔でほざいたアンリに対して鉄拳制裁を下したのだ。

「お前達は張ってもんは無いのか！」

威厳など無いことは承知の上で、俺は腕を組んで怒鳴る。しかし、流石に反省しているのか2人は茶化すことなく素直に謝罪するのであった。

「たく…行くぞ」

「あ、待ってくださいよ！」

☆

「ここか…」

そう呟いた俺の目の前には、巨大な神殿のようなものが建っていた。中にると、そこには古い石碑と下に降りる階段があり、室は薄青の鉱石から放たれる淡いで照らされていた。

石碑はどうやらこの神殿で祀られている霊について書かれているらしいが、【鑑定】のスキルレベルが足りないため詳しくはわからない。なにやら臺座に指を掲げているようだ。

だが、今はそんなことよりもクエストの進行だ。

地下へ続く階段を降りるとそこには、そこそこ広い空間があり最奧に金の裝飾が施された巨大な緑の水晶が祀られており、その下に何かを置くのであろう臺座が設置されていた。あれが、上の石碑に描かれていたものだろう。

そして、その手前、ちょうど部屋の中央に位置する場所に目的の神は立っていた。

『おや、貴方は…。ああ、私が時を奪った人の子ですか』

「ああ、元に戻してもらうぞ」

『戻さぬ、と言ったら？』

「それはあり得ない。あんたは直ぐに戻したくなるさ」

『…神に対してその言葉…。あまりに傲慢ではありませんか？』

そんな神の言葉にアンリとナクが一歩前に出る。

「うるさいです。いいから黙って戻しなさい」

「神だからなんでも許されるなんて、それこそ傲慢」

『良いでしょう…。ならば今度は時を奪ってあげましょう。永遠にね！』

神がそう言うと、暴風が吹き荒れる。

咄嗟に風魔法【ハイネス・ウィンド・ウォール】を発し、神から放たれた風を相殺する。

『ふふふ…！さあ、絶しなさい！』

もはや習慣となったステータスの閲覧、一部制限されているため、不明であるもののそこには神のステータスが表示されていた。

◇◇◇◇◇◇

名稱:シルキス

種族:下位風霊レッサー・シルフ

HP:9000000/9000000

特:自回復3%/分

◇◇◇◇◇◇

霊、この世界において2番目に強い種族であり、界層支配者として2、クエストで3が確認されている。

発見されたのは、火の霊サラマンダー、土の霊ノームの四大霊の2と、闇、空間の霊。

これらの霊が関わるクエストはまとめて霊クエストと呼ばれ、クエスト最中に手にれた報から、霊の種類は四大霊に加えて、、闇、時、空間、星の8種が存在することがわかっており、それら全てが討伐された時に特殊なアイテムが手にるかもしれないと、まことしやかに囁かれている。

そして、目の前にいるこいつは下位とはいえ未発見である風の霊なのだ。つまり、俺がけているこのクエストは霊クエストの１つということなのだろう。

「アンリ、ナク。悪いが俺は後方支援しか出來ない。2人でやれるか？」

「見くびってもらっちゃ困りますよ」

「ん、下位霊なんて敵じゃない」

自信満々にそう答える2人。どうやら愚問だったらしい。本當に頼りになるやつらだ。

『ごちゃごちゃと…【スロウネス・ウインド】』

シルキスの放った風魔法が俺達にまとわりつくと、全がズンと重くなる覚に襲われる。ステータスを確認すると、SPDの値が3割ほど減していた。

「なんだ、速度低下なんてチンケな魔法だな【アクセラレート】」

速度上昇魔法のエフェクトが俺達を包む、しかし何故かにまとわりついたシルキスの風魔法が消えないのだ。

『ふははは！無駄無駄！これは神の奇跡！人間に解けるはずがない！【プレス・オブ・エアランス】」

暴風が吹き荒れると、一箇所に収束し、巨大な風の槍を形。シルキスが、グッと掌を握り込めば巨大な風の槍は人間の腕の長さ程度まで圧される。

『死ねッ！』

シルキスのびとともに投げつけられた風の槍、直撃すれば重大なダメージをけるだろう、いや下手をすれば死ぬかもしれない。そう、直撃すれば。

俺はアイテムボックスからあるアイテムを取り出したと同時に風の槍が著弾する。しかし、風の槍は一切の被害を與えることなく消え去った。

『な、なにが…？』

俺の手に握られていたそれは、2年前メラドーラの巣で発見した裝飾が施されたツボだった。

このツボ、最初は使い道がわからなかったのだがツボの癖に何故か錬システムに反応したのだ。

そこで、錬を繰り返していくと次第に名稱や効果が表示され、最終的に【満ち知らずの壺】というアイテムに変化したのだ。

効果は一定魔力以下の魔法攻撃の無限吸収。

『くっ…！妙な道を！』

「今度はこっちの番ですよ！【ラヴァ・ドール】」

「止まれ【絶】」

アンリの杖の先に展開された魔法陣からドロリと赤々とした溶巖が流れ落ちる。すると、流れ落ちた溶巖がゆっくりと立ち上がり、人の形に変化する。

「さあ！行ってください！」

アンリの號令をけ、溶巖の巨人は緩慢なきでシルキス目掛けて移を開始する。

『そんなきで私を捉えられるとでも─！？けない！？』

「無駄。逃がさない」

ぺろっと小さく舌を出したナクの固有技能【固定魔】の上位スキルの効果により、シルキスはくことが葉わない。

そうこうしているうちに、溶巖の巨人がシルキスの前に立つと、その巨大な腕を振り下ろした。

『アァアアアア！？』

熱風とシルキスのびが響き渡る。

「これで終わりではありませんよ『自スーサイド！』」

アンリの言葉を引き金に溶巖の巨人のが膨れ上がり、発する。

炎が視界を橙に染め上げる。

「流石に終わっただろ─！？」

俺がそう呟いた瞬間、炎を切り裂いて緑の手が飛び出すと、俺の腕を切り落とし腹を貫く。

「シュウ君！」

「シュウ！」

「ぐッ─！」

無造作に振るわれた手によって、俺は地面を數バウンドして停止する。

今の攻撃のせいで俺のHPは殘り2割を切っていた。アイテムボックスからポーションを取り出して飲もうにも、腕がかない。どうやら【骨折】の狀態異常に掛かってしまったようだ。

『この─下等生共がぁあああああ！』

「「黙れ」」

腰部から緑の手を生やしたシルキスのびに対し、目を見開いた2人がそう言うと、業火が荒れ狂い、吹雪が吹き荒れる。

「殺してやります。ええ、凄慘に殺してあげます【ハイネス・フレア・クラスター】」

「後悔しながら死ね【ハイネス・アイシクルワールド】」

無數の魔法陣から放たれた炎が収束し、一つの巨大な火柱となると、シルキスを包み込む。

次の瞬間には、水の魔法陣から放たれた白い霧が火柱ごとシルキスを包むと瞬間的に凍結させる。だが─

『そんな攻撃！』

あまり効果は無いようで、氷が砕け散りシルキスは地面に著地する。

「フフッ、その程度で死なれちゃ困りますからね。さあ、ナクさんアレを試しましょう」

「ん、やろう」

そう呟いたナクがアイテムボックスから取り出した、白い錠剤を飲み込むと、耳までの長さしかなかった髪が腰までび、茶髪が儚げな銀髪へと変化し、頭から小さなツノが生える。

「【セーブ】さあ、ナクさん始めますよ」

「ん【擬似龍人化】、【ドラゴンブレス】」

ナクの口から放たれた白いブレスがシルキス目掛けて放たれる。しかし、シルキスは空中に浮くことでその軌道上から逃れてしまう。

『ふははは！なんてことないわ！』

「甘いですね【ロード】」

アンリがそう呟くと、シルキスのが消えブレスの目の前へと転移させられ、ブレスはシルキスに直撃する。

『な、何を…』

「さあ？知らなくていいと思いますよ。さ、ナクさん」

「【スパーク・オブ・エクスプロード】」

『クソッ！』

シルキスが逃げるが、無慈悲にもアンリの【ロード】によって元の場所に引き戻される。

『ぐ…はぁ…貴様ら…悪魔か…？』

「いいえ、ただの鬼畜の仲間ですよ」

「トドメ【ディケイズ・ハート】」

ナクがシルキスのに掌をつけ、スキルを発させると、心臓のエフェクトが現れ、それをナクが握りつぶす。

それと同時に、シルキスが悶えるが直ぐに生き絶え、の粒子へと変化した。

すると、粒子が俺のに吸い込まれると俺のが発する。

が収まったそこにはいつもと変わらない大きさの俺が居た。どうやらクエストクリアらしい。

力も回復しており、骨折も治っている。イベントクリアのちょっとした優しさなのだろうか。

「シュウ君！」

「シュウ！」

「うおっ！？」

突然に飛び込んできたアンリとナクの重を支えきれずに、俺は仰向けに倒れる。

「生きてて良かったですぅ！」

「ん、生きてて良かった」

「いや、死んだらわかるだろ。それにしても…」

ナクの頭を見る。

不思議そうに首をかしげるナクの頭の上には相変わらず小さなツノが生えていた。

「それはどうなってるんだ？」

「これは、私の作った薬。一時的に他の人のスキルを使える。効果は7割くらい？」

「なるほどな。なんて言うか…ナクは銀髪が似合うな」

俺がそう言うと、ナクはし照れたような表を浮かべる。

「ま、とりあえずクエストクリアだな。あと、重いので早く退いてくれないか」

「まあまあ、良いじゃありませんか。小さいシュウ君も良いですが、やっぱりこのサイズが落ち著きますね」

「ん、同」

「いや、あの。腕が痺れて…」

結局2人が退いたのはそれから30分後のことだった。

ちくしょう、腕の覚が無い。