《Creation World Online》103話

「誰か來たみたいだな」

瓦礫を片付けていた俺は、來客を告げるチャイムの音に顔を上げる。

「アンリ、一旦休憩だ」

「了解です〜…。疲れた〜…」

地下通路の中に設置していた丸椅子に腰掛けると、アンリは壁にそのを預ける。

俺はそんなアンリに冷たい水のったボトルを放り投げると、玄関へと向かうことにする。背後から何かがぶつかった音と「痛ァ!?」という聲が聞こえたような気がしたが、疲れからくる幻聴だろう。

魔法陣に乗って二階の書斎に転移すると、まだチャイムが鳴り続けていた。まったく…こっちは忙しいってのに…。

「はいはい、今開けるよ」

扉を開くとそこには、揃いの鎧を裝備した5人の男プレイヤー達が立っていた。

「貴殿がこの屋敷の所有者か?」

真ん中に立っていた男が偉そうな態度でそう尋ねる。

「ああ、そうだけど。どちら様?牛の勧なら他所を當たってくれ、朝は緑茶派なんだ」

「違う違う。私達は新興國家『シャガル剣王國』の軍の者だ。稅の徴収に來た。さあ、稅を払ってもらおうか」

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突然のことに俺は言葉を失う。稅?こいつは何を言っているんだ?

確かに稅金システムというものは存在しているし、大國に限らず全ての國家が自分の領地で稅を徴収している。

しかし、當然ながら稅を納めたくないプレイヤーや、納めることが出來ないくらいの金銭でその日暮らしをしているプレイヤーも存在している。そんなプレイヤー達の為に、ここ3界層を含む下位界層、つまり1〜5界までは國の領域としないというルールが4大國家によって定められていたはずだ。

「…この界層は國が所有できないはずだが?」

「知らないな、マップを確認してみろ、現に我らの國領となっているだろう?」

確かにマップにはそのように表示されているが…。

納得がいかずに黙っていると、鎧を著た男の1人が俺のぐらを摑む。

「払うのか払わないのかハッキリしろ!払わないと言うのであれば実力行使もやぶさかではないぞ?」

「いや、払わないぞ」

「そうそう大人しく…って今なんて言った?」

「払わないと言ったんだよ、その安そうな兜のせいで音が聞こえないんじゃないのか」

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俺が挑発を乗せて放った一言にぐらを摑んでいた男が肩を震わせる。どうやら怒っているらしい。

「どうやら痛い目に合わなければわからないらしいな、ついてこい」

「【バーストエア】」

俺のぐらから手を離し、後ろを振り向いて歩き始めた男達の無防備な背中、正確には足元に風魔法の初級スキルを放つ。

風の衝撃によって不意を突かれた男達は、ガシャガシャと音を立てて倒れ、鎧の重さで起き上がれないのかまるでダンゴムシのように手足をかしていた。

「貴様ァ!何をする!?」

「無防備だったからつい、魔法打ち込みたくなって…」

「そんな理由で打ち込んだのか!?なんて非常識な…!お前に常識というものはないのか!?」

む、不當に稅を徴収しようとしてるやつにそんなことを言われるなんて心外だな。

なんとか起き上がった男達は、腰に帯びていた剣を引き抜く。見たところアイテムレアリティはCランク、店売りの鉄剣といったところだろうか。

「許さんぞ…!我々に楯突いたことを後悔させてやる!」

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リーダー風の男がそう言うと、背後にいた男達も俺を囲むように展開する。

俺はエアディスプレイを作して、最新の作品を裝備する。

暗赤の皮をベースに手の甲や指を保護している艶やかな沢を浮かべる紫の金屬のようなもので構された籠手型の裝備だ。これは、昔作した魔として使用できるグローブの改良版で、以前使用した上位悪魔の皮よりも遙かに強度の高い古代悪魔の皮を使用し、部には魔力との親和も高く、度がミスリルよりも高いアズリウス鉱とミスリルとの合金繊維を張り巡らせ、最大の難點であった防力を補うために魔龍の鱗を加工したものを取り付けている。

「さあ、死なない程度に叩きのめしてやるよ」

手を開閉して、俺は男達にそう言った。

「死ねえ!」

斬りかかってきた男の剣を摑み、反対の手を押し付け風魔法【エアインパクト】を発すると、男のが吹き飛び數バウンドして、地面に倒れる。

「ど、同時にかかれ!やれ!」

次々と繰り出される斬撃を奪った剣で弾き、拳でいなす。

ふむ…連攜は悪くないな。だが…

「火力不足だな」

「クソがァ!」

び聲と共に振るわれた剣を奪った剣で弾くと、そのまま蹴りを繰り出し、また1人ダウンさせる。

「まだ続けるのか?」

「くそ…!覚えていろ!全員撤収!」

倒れている男の肩を支えながら男達は去って行った。

「また來るんだろうなあ…。」

去って行く男達の背中を見ながら俺はそう呟くと、小さく溜息を吐いた。

「はあ!?戻ってこれない!?」

屋敷に戻った俺は、天和之國のレノンに対し先程の集団をなんとかしてしいと連絡したのだが、結果はNO。

理由は現在62界層で発生しているボス侵略クエストの進捗があまり良くないらしく、そちらに人員を回すので手一杯とのことだった。

「そうか…。わかった。それじゃあな」

そう言ってフレンドコールを切ると、ソファに背を預ける。

そう言えばナクがしばらく帰れないって言ってたな…。どんだけ強いんだよ。

その時、メッセージの信を知らせる通知が目の前に表示される。

送信者は以前、第1界層で戦闘方法を軽くレクチャーした雙子のの一人、リックだった。

「…なるほどな。し出掛けるか」

アイテムの在庫や、武の消耗などを確認していると、部屋の扉がノックされる。

『失禮します。マスターお飲を…おや?お出掛けですか?』

「ん?ああ、ウィルか。ちょっとな」

部屋にってきたのは俺の配下の一人、悪魔候デモンズロードという悪魔族の青年。ウィルだった。本名は長いので割する。

「街で人に會う約束があるんだ」

『なるほど。でしたら街までご一緒させていただけませんか?丁度食材を買いに行こうと思っていたところでして』

「ああ、いいぞ。なんなら一緒に見て回るか?」

ウィルには我が家の家事全般を任せており、生活能力が絶的な俺達のパーティーにおいて、重要な役割なのだ。俺も料理は出來ないことはないのだが、レパートリーもないし、自分が食べる程度の腕前でしかない。それなら、ある程度のことはなんでもこなせるウィルに任せた方がいいというものだ。

『では、是非一緒に見て回りましょう。何を食べたいか決めておいてください』

「わかった。それじゃ、行くか」

第1界層『始まりの街』

第1界層、ここに來るのも久しぶりだな。それにしても─

「鎧のやつらが多いな…。」

街の中を見渡せば、至る所に俺達の屋敷にやってきた鎧姿の男達と同じ裝備をに纏ったプレイヤー達が歩いていた。

その原因は間違いなく、昔は無かったアレのせいだ。

俺の視線の先には、以前は街の中心部にあたる教會が建っていた場所に堂々と建っている長細い形狀の城があった。

とはいえ、鎧達も襲ってくる様子はないし、今は放置しておけばいいだろう。もし、大群で襲ってくるなら全員纏めて吹き飛ばせばいいのだから。

俺は、城から視線を外すと、目的の店へと足を進める。

大通りを進み、途中り組んだ路地にれば、そこには『エーテル武店』と書かれた看板が掲げられた店が建っていた。

扉を引くと、カランカランとドアベルが鳴り、コーヒーの匂いが…。コーヒーの匂い?

バッと外に掲げられた看板を見る。うん、剣と盾のエンブレム、下には『武店』と書かれている。いや、意味がわからない。

『いらっしゃいませ〜』

店主のエーテルはそう挨拶をし、混する俺を見た瞬間に嫌そうな顔をする。コイツ…。

『なんですか〜?もうこんな低層の零細武店に用事なんてないんじゃないんですか〜?』

拗ねたように下を向いて地面を蹴るようなきをしながら、エーテルがそう言う。

「呼ばれたんだよ。リックがここに來てないか?」

「あっ!師匠、お待ちしていました!」

ヒョコッとリックが剣や槍が立て掛けられた商品棚の橫から顔を覗かせる。

商品棚の橫を曲がったその時、俺は目を見開いた。

昔は在庫の剣などの山で埋まっていたスペースが解放され、壁をぶち抜いて設置されたのであろう窓ガラスからは向かいの民家の壁が見えていた。

落ち著いた雰囲気のテーブルに、多分予算が足りなかったのだろう。それでもなんとか逆剝けなどが無いように、丁寧に磨かれた木箱が椅子のように設置され、カフェスペースの様なものになっていた。

「なんということでしょう…」

『いや〜、つい先日剣を大量に購していってくれたお客様が居てですね。在庫処分ができたので、これを機に新たな商売を始めようと思って』

某大改裝番組の真似をしていると、エーテルから席に座るように促されたため、リックが座っている席に向かい合うように座ると、スッとメニューが差し出される。ふむ、意外と品數があるな。

『マスター、ここはコーヒーがよろしいかと。見たところ本格的な機械も置いてある様です』

「それじゃあ、コーヒーを頼もうか」

『かしこまりました!』

そう言ってエーテルはカウンターの奧へと消えて行く。

れてお湯をれて3回・転!』

「インスタントかよ!」

いや、味の違いなんてわからないけどさ。何のための機械なんだよ…。

隣でウィルも首を振っている。

『おまたせしました〜!』

「おまたせしましたじゃねえよ。インスタントかよ!何のために機械置いてるんだ!」

『カッコいいからです!』

コイツはあれだ、形からって満足するタイプだ。

「てことは、このメニューは全部インスタントとか市販品なのか?それは店としてどうなんだ?」

『失禮な!クッキーやケーキはちゃんとこの店オリジナルですよ!』

メニュー表を叩きながらエーテルがそう言う。そこまで言うのなら食べてみようじゃないか。

「それならこの【武屋さんのクッキー】とやらを貰おうか」

『かしこまりました!』

エーテルはカウンター裏をゴソゴソと漁ると、紙に包まれた丸い形狀のものを取り出した。

それを俺の目の前に持ってくると、一緒に持ってきた皿の上に乗せ、開封する。

『お待たせしました!』

「…なあ、なんかこれ変な匂いがするんだが?」

なんと言うか、鉄のような匂いがする。

俺の問いかけにエーテルは無いを張ってこう言った。

『まあ、インゴットを加工する時の釜で焼いてますから!これが後釜ってやつですかね!』

スパァン!という音がなり、エーテルのが消える。

音の正は俺から放たれた平手打ちがエーテルの頭に直撃した音で、消えたエーテルは床に倒れ伏していた。

『なんてことをするんですか!レディに優しくしてくださいよ!』

「それなら俺のにも優しくしろよ!変な病気にでもなったらどうしてくれんだ!」

『別に本當のじゃないんですから良いでしょう!?』

そう言ってエーテルは頭をさすりながらカウンターの奧へと引っ込んで行った。

「まったく…それで、今日はどうしたんだ?」

「えっと…あ、はい。師匠もご存知だとは思いますが、最近この街を拠點にある集団が國を作ってしまったんです。」

「ああ、あの鎧の奴らか」

「はい。それ自は別に良かったんです。ただ、問題なのがあいつらこの街にあるエクストラダンジョンに挑むために兵士や金銭を集めているらしくて、馬鹿高い稅を払えない人は戦うつもりのない人や子供達まで徴兵しているんです」

なんと、そんなことをしていたのか。

話をしているリックも怒りからか手が震えていた。

「そう言えばリーンはどうしたんだ?」

「リーンは目の前で子供が連れ去られそうになった時に、鎧連中を斬って今はアンダータウンに潛伏しています」

「なるほどね」

アンダータウンとは、4層にあるならず者達が集まる街で、部はり組んでおり、珍しくプレイヤーに非協力的なNPCが住んでいる為、犯罪者プレイヤーや事があって隠れたい者達にとっては理想的な潛伏場所だ。

ふと隣を見ると、顔が完全にヤギと化したウィルがいて、その肩は震えていた。

『子供だと…?守るべき民、それも小さな子供まで兵士として使おうなどと…!許せん、上に立つ資格などない。滅ぼしてくれる!』

「落ち著け。滅ぼすのはダメだ」

そんなことをすればそれを理由にレノンからどんな面倒ごとを押し付けられるかわかったもんじゃない。

「それで、俺はリーンに會ってくればいいんだっけか?」

「はい。僕はリーンの仲間ということでマークされているみたいですから…。」

そう言ってペコリと頭を下げるリックに軽く手を振った俺は、そのまま店を出た。

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