《スキルを使い続けたら変異したんだが?》第十一話 継承者

「さて、行きましょうか」

すっかり見渡しの良くなった大地を、意気揚々とレナが進んでいく。

の悪い植群は丸焦げになって煙を上げていた。

気分的にはとても助かった。助かったのだが。

「レナ。気持ちはわかるんだけどさ、もうちょっとMPに気を配った方がいいんじゃないか?」

俺のHPとMPゲージの下に表示させておいたPTメンバーのゲージ。つまり、レナのMPゲージがどう多めに見積もっても一割はない。原因は明確で、例の裝備スキルを五発もぶっ放したせいだ。

「大丈夫大丈夫。どうせ、今の私たちより強い敵なんていないんだから。

それよりも、元々イーグルたちが居たっていう果の木ふっ飛ばしてないよね?」

ですよね。そんなことを気にしているようには見えなかったもんね。

俺は嘆息をつき、周囲を観察する。

焼き焦げた匂いはするが、果の甘い香りはじない。どうやら、この慘狀に巻き込まれてはいないようだ。

というか、遠くを見ればそれらしき赤や緑の果実を実らせた木々が見える。

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よくあの破壊の嵐に巻き込まれなかったものだ。

偶然とは思えないので、やはりレナが調整したのだろう。

「大丈夫だ、ちゃんと向こうに殘ってる。それにしても、ユニーク裝備のスキルだけあって凄いな。あれだけの範囲魔法で安地の指定もできるのか」

俺がらした言葉に、しかしレナは首を傾げた。

「え? そんなのできないし、した覚えもないけど」

「いや、そんなはずないだろ。果林の両サイドは真っ黒焦げじゃないか」

そう、それはまるで。何かの障壁で守られたかのように。

俺が指差した方を見て、レナはしばし黙考し、

「イベントに関係する場所は破壊できないんじゃない?」

……ああ。そう考えれば納得できる。

今までのことからしても、そういう気配りぐらいしそうな運営だ。

「……なるほどな。

じゃあ、さっさと異変を解決して帰るか。そろそろ日も暮れて來たしな」

「うん。ついでに何個かフルーツをもらってこうっと」

俺とレナはそれぞれの得に手を置き、目的地へ向かって歩き出した。

「何もいないな」

「何もいないね」

十分ほど木々の間を進んでいた俺たちは拍子抜けしていた。

異変どころかモンスターの一匹も見えない。

草原エリアの小屋と同じくモンスターの侵不可なエリアなのだろうか。

だが、それだとゼオンというNPCの話と食い違う。元々イーグルたちはこの場所に居たはずなのだから。

そうして歩を進めていくうち、開けた場所へ出た。

飛び込んできた景に、俺たちは思わず息をのんだ。

空は一日の終わりのに赤く染まり、草原も、その先にそびえる大樹も、燃えるように輝いている。

そんな太いが絡まり合った大樹の元。そこへ“彼”は座っていた。

夕日よりも紅い、艶やかな長髪。

人形という表現がぴったりな、くも整った顔立ち。

裾の広がった白いドレスを纏う華奢な軀。

中學生、もしくは小學生にも見えるは真っ赤な果実を頬張り、スカートからびた足を可らしく前後に揺らしている。

「……あの子、なんでこんな場所に」

レナがポツリと呟く。

俺も言葉を返そうとして、

「――もうっ、待ちくたびれたよ」

目の前に現れた紅髪のの姿に、それを失う。

さっきまで彼がいた場所にはその痕跡すら見えない。まるで元々ここへ存在していたかのように。

「君は……?」

掠れた聲で、俺はに問いかけた。

がやけに乾く。皮がチリチリと痛む。こんな覚は生まれて初めてだった。

「私? 私はリアナ」

年相応に明るく微笑むリアナという

プレイヤー……では、ないはずだ。こんな場所に一人で來れるような実力者には見えない。

だが、NPCかと言われるとそれも違う気がした。

どちらにせよタブレットを開き、彼のステータスを覗けばわかることだ。

それが、できなかった。

きが取れない。まるで蛇に睨まれた蛙のように。

隣のレナも同様だった。

リアナは一転して、冷たい表で彼を見た。

「あなたね? リアナのお気にりの場所をふっ飛ばそうとしたのは」

ビリっと空気が震えた。

リアナが華奢な腕をレナへ向けた。

「――あなたも、消えちゃえ」

直後、警告音が脳裏に響いた。

戦闘の始まりの合図が。

「――ッ‼ クリムゾンブレイズッ!」

咄嗟に。

俺は、自の唯一にして最強のスキルを発させていた。

リアナの細腕から、緋が刃となってびるのが見えた。レナのを貫くよりも速く、俺の真紅の剣がそれを跳ね上げる。

「おおっ」

リアナが目を見開く。その瞳に浮かぶのは驚きではなく、喜び。

刃を返し、真上から振り下ろす。彼の剣でける。ゴーレムすら切り裂いた刀が、ぶつかり合う。

數秒の拮抗のあと、リアナは後ろへ跳んだ。

俺も続いて地面を蹴って迫り、剣を真橫へ振り抜いた。それを彼は緋の輝きでけ、切れずに後方へ吹っ飛ぶ。

そうして彼が降り立ったのは、最初に座っていた大樹の元。

そこへ。俺は剣を腰だめにしてを捻って飛び込み、一気に突き出した。

切っ先が、紅の軌跡を描いてリアナへ向かう。

はあろうことか、それを緋が殘る手のひらでけ切る。

クリムゾンブレイズの四連撃を、年端もいかぬはしのぎ切った。

こいつは一何なんだ……!?

冷や汗を流す俺を見て、リアナは妖艶に笑った。

「うん、良い判斷だったよ。

――流石、リアナのスキルの継承者だね」

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